わたしは、宇宙海賊アルサ・ミエル。
軍艦でしか国境を越えられないと思っている。
皮被り野郎には、用はない。
「やはり、コアチタンが、目的で」 島艦長
「ふっ 遠い未来に対する投資だろうな」 古代提督
「加工技術もないのに・・・」
「加工できれば、艦の機動力は大幅に向上する」
「低出力の波動エンジンでも波動震を抑え」
「列強の戦艦並みの機動力が得られるかもしれないな」 古代提督
第04話 『チャウフアン』
チャウフアン恒星系、第3惑星カイ・ドル
須郷ナオキ、五十嵐ミユキ、仁科マイ、佐々木セイイチは、須郷の邸宅に入る。
十数人がモニターを前になにやら操作している。
「こ、これは・・・」
佐々木中尉が絶句。五十嵐と仁科も同様。何も言えない。
「ここは、ハイパーリレーで、それぞれの拠点とつないでいるコントロールルームだ」
「商売の中央作戦室みたいなものだな。ヤマトにもあるだろう」
「でも、これは・・・よくこんなものを・・・ヤマトの中央コントロールルームより大きい」 五十嵐ミユキ
「地上の施設は、宇宙船と違って空間に制限がないからね」
「・・・これは、転移ミラーシステムですね」
「統括システムは、他にあって」
「そこから常にデータのやり取りをしているだけです」
「システム自体は、イスカンダル製と地球製とガミラス製を複合しているようです」
「たぶん、リンクが上手くいってない・・・」 仁科マイ
「お、その通り、さすが作戦課のオペレーターをしているだけある」
「一応、外地だからね。万が一のことを前提にしている」
「それぞれの国のハードとOSが違うから、それをリンクさせている」
「上手く行ってなくて、時々フリーズする」
「それでも、この国の人間には、使いこなせないものだ」
「地球でも、各国のハードやOSとリンクさせています」
「でも、それほど上手くいってませんから」 仁科マイ
「そして、中継器やリンクプログラムそのものが各国の最高機密、ブラックボックス」
「仕方がないから独自に作るしかない」
「民間で、ここまで、できるなんて・・・」
「リンクプログラムが独自なら解読は困難ね」 仁科マイ、呆れる
「軍隊はトップダウン。民間はボトムアップへだよ。簡単なものから取り掛かるんだ」
須郷は自分のコントロールパネルにつくと、いくつかの処理をする。
アンドロイドメイドが、近付いてくる
「3人ともしばらく、屋上で、休んでくれないか」
「一時間で終わらせられる」
アンドロイドメイドに案内されて三人は、コントロールルームを出る。
屋上からチャウフアン恒星系、第三惑星カイ・ドルの風景が広がっていた。
テーブルに料理が並べられている。
「・・・参ったな。須郷という男。地球人の感覚と違う」 佐々木中尉
「売れるものは何でも売っているみたいね」
「定期船だけでなく。密輸船や海賊船まで使って・・・・」
「今回の主要国会議で麻薬に関しての協定が結ばれた」
「でも、海賊船に関しては、最後まで、もめていたって・・・そういうこと・・・」 仁科マイ准尉
「でも、あれだけ大掛かりな仕事やってたら、コントロールルームから離れられないんじゃない」 五十嵐少尉
「あそこで働いている人たちは決められたことをやっているだけ」
「売値と買値の制限内で採算が取れる品物を動かしている」
「情報にも、値段が付いていた・・・」
「ルートさえ作れば、決まりごとを守るだけね」 仁科マイ
「たいしたものだ」 佐々木
「いえ、違うわ」 仁科マイ、顔色が悪い。
「えっ! どうして?」 五十嵐ミユキ
「彼は、南銀河ナンバーワンの貿易商じぁないの・・・」
「ナンバーワンは、ボラーの商人よ」 仁科マイ
「なんか、問題?」 五十嵐
「スゴシュ貿易商の10倍以上の勢力を誇っている貿易商は少なくない」
「情報収集能力の高さから判断して」
「わたしたちの行動も動きも、他の勢力に知られている可能性は、大きい・・・」
「私設恒星間宇宙艦隊を持っている貿易商もいるって、聞いたことがあるもの」 仁科マイ
「・・うそ」 五十嵐
「その勢力が、本国と友好関係か、わからないけどね」
「そういう貿易商もあると思う」 仁科マイ
「なんか、どんよりして来たな」 佐々木
空は快晴だったが、気分はどんより。
ヤマト艦橋
警報音が鳴り響く。
「ちっ! 見つかったのか。アムルヌードでは、ないのか?」 古代提督
「いえ、転移スペクトル波長が、まったく違います」
「それに通常の転移走査や転移通信ではなく、強行転移走査です」 芹菜少尉
「この程度の星間物質では、隠れられませんね」 島艦長
「・・・どこの国だ。通商航路から外れているはずだ」 古代提督
「転移戦だ。近くに転移させるな」
「ドラゴンタイガーA小隊、B小隊発艦!」
「どこの国ですかね」
島艦長の命令で、ヤマトから転移線が広がっていく。
そして、ヤマトを中心に置いた天球儀で、いくつもの光点が光っては、消えていく。
「・・・海賊船かも知れんな・・・」
「こっちが、軍艦であるとわかれば、引き上げるだろうか」 古代提督
「通商航路を離れた場所にいる」
「宇宙船を索敵しているとすれば、その可能性が、一番高いでしょう」 島艦長
ドラゴンタイガー8機が出撃して警戒に当たる。
「こちらも強行転移走査をかけますか?」 島艦長
「任せる。相手が、わからないのであれば、話し合いにもならんな」
「できれば穏便に済ませたい」 古代提督
「芹菜少尉。全天球で、星間物質の多い場所から転移走査をかけろ」 島艦長
「転移走査を開始します」
芹菜中尉、転移戦用ドームが、微妙な低周波音を上げる。
「飛龍が抜けているのが辛いな」
「あの艦があれば、走査能力が向上するのに」 古代提督
「位置を変える。6時−30度へ、12光速。チタームモードでダミーカプセル射出」
「ドラゴンタイガーB小隊は、欺瞞行動を開始」 島艦長
ヤマトが機動を開始、ダミーカプセルが射出。
ドラゴンタイガー4機が、ダミーカプセルの宙域へ滞空。
ヤマトの上空をドラゴンタイガー4機が従う。
チャウフアン恒星系、第三惑星カイ・ドル
須郷の邸宅。
須郷、佐々木、五十嵐、仁科は、くつろいで、コーヒーを飲んでいた。
「ご心配の件は、理解していますよ」
「スゴシュ貿易商は、昇り上がりの中堅でしょうから」
「貿易商も、本国と険悪なグループもあれば友好的な関係を保っているグループもありますから」
「我々も彼等と取引することがあります」
「大丈夫でしょうか?」 五十嵐
須郷は肩をすくめた。
「信用をなくして、空中分解を起こした貿易商は少なくないです」
「本国と不仲になる貿易商が多いのも本国側の契約違反が多いからでしてね」
「もう、海賊以下ですよ」
「普通、一度裏切ったら、その階層で信用されなくなります」
「仮に仲の良い貿易商がいたとしても」
「商業的な道議違反を繰り返せば相手にされなくなり、海賊になるしかありませんね」
「もちろん。海賊仲間同士でも信用を失えば警備艦にすら位置を通報される」
「信用できないライバルなど、有害でしかないですからね」
「そういうものですか」 仁科マイ
「安心できるだけの保障にはなりませんか・・・」
「地球連邦が約束を守る間は、わたしも約束を守りますよ」
「可能な限り、その関係を続けたいですね」 仁科マイ
ヤマト艦橋
ヤマトの転移線が全天球の一部を集中的に走査した後、別の宙域を走査することを繰り返す。
「反応! 8時+56度。0.345光年」 芹菜少尉
「転移走査! 強! 連中の転移線を押し破れ!」 島艦長
「了解!」
「白色彗星、メダルーザー型です」
「周囲500kmに艦影はありません」
「・・・何でこんなところに」
「南銀河のアトラス帝国が崩壊した時、ガトランティス帝国が枝分かれしたんだ」
「系統的にもガトランティス人と南銀河域の人種は近い」
「白色彗星の艦艇がいても不思議じゃないがメダルーザー型戦艦とは・・・」 古代提督
「転移点をメタルーザーに集中。転移させるな」
「火炎直撃砲を受けないように転移走査を増大」
「ダミーカプセルの転移防御に穴を開けろ」
「B小隊は散開」
「ダミーカプセルが火炎直撃砲の直撃を食らうぞ」 島艦長
ダミーカプセルからコスモドラゴンが離れていく。
「・・・ダミーカプセルにハイパーリレー通信です」 相原シンジ
「ダミーカプセルを経由しろ」 古代提督
「通信回線を開きます」 相原
大パネルに軍人崩れとわかる服装の男が映る。
「地球人か・・・」
「失礼した。わたしは、ドラク・ミタナだ・・・」
「所属は、互いに言わない方が良いようだな・・・」
「大型輸送船が通商航路を離れていたので気になってな」 ドラク・ミタナ
「わたしは、加古アスダイだ」 古代提督
「では、失礼するよ」
「加古アスダイ。できれば転移点を弱めて欲しいな」
「ここから引き揚げたいと思っている」 ドラク・ミタナ
「3分の1に落とせ」
「3分の1に落とします」芹菜
「では、ごきげんよう。加古アスダイ」 ドラク・ミタナ
「メダルーザー型・・・・転移・・・・カナル星雲域へ向けて、転移しました・・」 芹菜少尉
艦橋から緊張感が、ゆっくりと抜けていく
「はぁ〜 まだ先は長いというのに疲れたな」 古代提督
「B小隊は、ダミーカプセルを回収。帰還せよ」
「A小隊も帰還だ」 島艦長
「フィリア人の乗った単艦のメダルーザー型戦艦か、海賊だろうな」 古代提督
「加古提督。このまま、ここに留まりますか」 島艦長
「いや、移動してくれ・・・」
「ふっ わたしのペンネームだ。古代アスカのペンネーム。加古アスダイ」
「チャウフアン側へ120光秒移動・・・」
「知ってますよ。ホームページ上に公開されていますね」
「冒険活劇小説は、面白いですね」
「わたしも、書き込みしたことがありますから」
「あ、本当に。気が付かなかった」
「わたしも、ペンネームで書き込みましたからね」
「何で、わたしと気付いたんだ」
「文書を読んで、なんとなく・・・」
「たぶん、ほとんどの乗員が気付いてますよ。ペンネームも安直ですから」
「もう一捻りしないと」
「・・・迂闊だった」
「ところで、ヤマトの存在。ばれたでしょうか」
「ダミーカプセルに強行転移走査がかけられたとしても地球製とわかる程度だ」
「しかし、本当に輸送船だったら襲撃されていただろうな」
「火炎直撃砲は、受けたくありませんね」
「・・・まさか、海賊が獲物を燃やすわけが無かろう」
「あれは、護身用だ」
「燃料消費を考えれば、海賊狩りをされてもいないのに使うわけが無い」
「たぶん、こちらが、貨物船を気取っている軍艦か、同業者と思って退いたんだろう」
古代提督がニヤニヤと笑う
「嬉しそうですね。提督」
「なかなか刺激的で良いところじゃないか。気に入ったよ。南銀河」
地球連邦、月基地
月基地は、静止軌道上にリング衛星と軌道エレベータが建設されていた。
リング衛星は、二重構造で一方を逆回転させることで発電。
そして、月全体を覆うようにグラフェンが広がろうとしている。
月世界は、ドームか、地下施設での生活が続いていた。
しかし、月全体を覆うカーボンナノグリットが完成すると、
地下施設内の植物層から生み出される気体が月の地表に排出。
人工的に大気圏を作って地球と同じように気圧を高め、テラフォーミングが完成する。
ドームのラウンジからぼんやりと空を見上げる人影が二つ。
「補佐官。月に大気圏・・・・どうしても必要なんでしょうか」
「真田所長。広大な地下施設を有しても、人間は、地表を憩いの場にしたいのでしょう」
「真空の方が、何かと、やりやすいこともあるんですがね」
「リング衛星でもできますよ」
「元々、無重力で均一な品質を作れる隕石帯で部品を生産」
「月基地で組み立てていたのですから」
「補佐官。今後、予算配分が減るのは、やはり、近隣恒星系への投資増加が原因ですか?」
「地球連邦の国力増加は、急務ですよ」
「一時的に防衛拠点が増えて、公共投資が低下することになってもね」
「納得できない勢力も、多いと思いますが」
「強行するよ」
「話してわかるような連中ではないからね」
「ハイパー転移リレーシステムですか」
「転移点を連続的に発生させて恒星間をハイパー転移リレーで結び」
「物体を超光速で引っ張る方式は、経済性で安上がりだよ」
「規格では直径20メートル程度に制限される」
「しかし、波動エンジンが使い難い今は、有用だ」
「昔懐かしい、銀河鉄道ですか・・・アニメにありましたね」
「地球連邦は、半径200光年に及ぶ」
「恒星や矮星も10000を超える」
「まともに開発されているのは、タウ・セチだけ」
「あと40の恒星系に拠点があるだけで、開発の余地は残されている」
「空間転移より、遅いが、それでも経済的に安上がりなら使うべきだろうな」
「主力艦の改装は遅れますね」
「少しな。少しだけだ」
「・・・・恥ずかしくないですか。主翼が生えた戦艦に空母」 真田
「誰が考えたんだね。誰が?」 補佐官
「わたしですがね。艦内を放射能まみれにする可能性を避けようとした結果ですよ」
「少し恥ずかしいな。少しだけだ」
室内に主翼と次元断層サイクロンエンジンを二基装備した。
アンドロメダ型戦艦、オリオン型空母が投影されていた。
チャウフアン恒星系
チターム戦艦アムヌードは、第3惑星カイ・ドルで補給を終えて離脱する。
少し時間を空けて飛龍がアムヌードを追って出航していく。
そして、アムルヌードと合流したヤマトは、さらに南銀河の奥へと向かう
戦艦アムルヌード迎賓室
ザナリッツ艦長。古代提督。須郷ナオキ。
テーブルに食材が並んでアンドロイドメイドが働いていた。
「・・・古代提督。少しばかり、歓迎を受けたようですな」
「ええ、ザナリッツ艦長。相手はメダルーザー型戦艦でした。良い経験になりましたよ」
「軍艦に乗っていれば海賊に襲われることはありませんね」
「大型武装商船でも、あきらめる場合が多いです」
「問題は、あまり目に付きたくないことでしょう」
「こういうことは、よくあるので?」
「南銀河の名物は、密輸船と海賊船ですからね」 須郷ナオキ
「二つの違いは?」 古代提督
「荷物を満載していたら密輸船」
「荷物が無ければ海賊船」 須郷ナオキ
「ふ、ふふ、ふははは」 古代提督
「まあ、当たっていなくもないが雰囲気は伝わるな」
「行きは海賊船で帰りが密輸船」
「その逆も良く云われている」 ザナリッツ
「99パーセント以上は、ただの貿易船ですよ」
「積荷の分類にこだわらなければ銀河は、これら貿易船の経済で潤っているんです」
「わたしに言わせれば、国境線そのものが銀河経済の弊害なんですがね」
「細胞核同士にエネルギーや情報の授受が必要だ」
「だからと言って、細胞壁が悪いとは、思えんな・・・・・」
「その細胞壁は、自然なもので十分ですよ」
「それが、このアムルヌードに輸送船並みに荷物を積み込まされた理由かね」
ザナリッツは、迎賓室にまで運び込まれた資材を恨めしそうに見る。
「新しいルートを作るにはね。いろいろ入用なんですよ」
「だいたい、軍艦というのは、大きい割りに容積が少なすぎる」
「特に地球やガミラスの戦艦はコンパクトにまとまりすぎて話しにならない」
「ボラー、ガトランティス、暗黒星雲の艦艇は積載能力に余裕のあること」
「少しは、物流を考えたらどうです。古代提督」
「物流は、輸送艦か、徴用した輸送船にお願いしているのでね」
「マイナスばかりではありませんよ」
「地球に侵略性が少ないという点を評価したいですな」
「チタームは、そう判断しましたよ」
「低出力の波動エンジンだからでしょう」
「荷物を減らして少しでも機動力を得られるようにコンパクトに設計されています」
「燃料効率の悪い機関を使っている国は、燃料消費分も含め」
「軍艦が移動するとき、ついで荷物を運ばせて採算を取ろうとするんです」 須郷
「なるほど」
「小さい容積の高出力エンジンでありながら」
「大型艦が多いのは、そういう面も、あるわけですか」 古代提督
「あまり機動が急でも人間が耐えられませんからね」
「結局、消費燃料分を含めれば、どれが良いとは言いにくいですな」 ザナリッツ
「そういえば、チタームと白色彗星帝国と同系のハイパーディラックエンジン」
「もっとも出力の高い機関でしたね」
「ええ、南銀河は、アトラス帝国が残したハイパーディラックエンジン系の地域ですから」
「お互いに得るものは多いようですな」
「・・・そのようですな」
チターム連合国。惑星チターム
航空宇宙訓練学校
チターム弁務官アウトラッチと地球外交官ウィリアム・パース
「どうですかな、我が国の航空宇宙訓練学校は?」 アウトラッチ
「戦略戦術で、差異があるようですな」 地球外交官ウィリアム・パース
「ハイパーディラックエンジンと波動エンジン」
「そして、規格の違いでしょう」
二人は、教室の中を覗いていた。
教鞭に立っているのは、チタームの国防教官。
「・・・我が国のハイパーディラックエンジン」
「ガミラスの次元断層サイクロンエンジン」
「ボラー連邦の反陽子ダブルワスプ」
「そして、地球やイスカンダルの波動エンジン」
「どれも、そのエネルギーと、その機構に特性がある」
「共通としていえるのは、どの機関も機動性という形で反重力という属性に転換している・・・・」 教官
「それでありながら多くの国がロケット推進や制動ロケットを併用して使用している・・・」
「人工重力を発生させたとしても」
「純粋に移動という点で一方向に20G加速を加重していくことは、防衛上できない」
「仮に20Gという慣性重力を生み出せるとすれば、艦内に1G」
「そして、艦全体の防御に5Gを使用すると」
「推進力として14Gを推進方向の逆方向に向けることができる」
「しかし、緊急の場合、ロケット推進を利用した方が増速で早いということ」
「そして、空間転移に至る超光速でロケット推進が有利だからといえる」
「緊急避難や戦闘時の急加減速時の慣性重力は艦内の人工重力比率をシフトさせ」
「相殺させる技術も、その乗組員の平均的な資質に左右され・・・・・」
「・・・わがチタームが円盤型を採用している」
「それを建造、整備、補給でそれを可能にしているシステムを前提にしている」
「恒星間国家同士は、そのシステム構成において共通しているのは、熱力学の法則からの脱却である」
「それぞれ特性を持っているものの」
「他のシステムを理解できても、導入するのは予算の無駄になる」
「多くの場合。いまのシステムを向上させるのが常である・・・・」
「・・・では、三日以内に」
「今後の趨勢として、それぞれのエンジン機関やエネルギーの採掘、運用、保存なども含めた」
「戦略的な展開について、各国別にレポートを出すように・・・・」
訓練生から呻き声が上がる。
「以上!」
教官が出て行くと、訓練生が青ざめながら、それぞれに動き始める。
「教官と訓練生の関係は、酷似していますぞ。アウトラッチ弁務官」
地球外交官ウィリアム・パースが苦笑いする
「わたしも、どちらも経験がありますよ」
「良し悪しは、別にして、良い兵士を育てるというのは追い立てなければなりませんから」
「同感です」
「ところで、両国関係の進展。他国に知られているということは、ありませんか」
「地球とチタームの関係が接近していることは知られているかもしれません」
「問題は、両国の国民感情では?」
「チターム人の国民感情としては地球人に対する感情はいいですよ」
「少なくともガミラス本星を一度、滅ぼしたのですからね」
「できればガミラスと友好関係を維持していただきたいと思っていますよ」
「今回の計画は、そういった意味も含んでいることです」
「もちろん貴国を信頼してのことです」
「現在の地球連邦を巡る情勢は、あまりにも厳しいので・・・」
「今回の計画がチタームと地球にとっての飛躍に繋がればと思っています」
南銀河。
アムルヌード、ヤマト。
通商航路に戻るのは、戦艦アムルヌードが同行していたからで、
戦艦が同行している輸送船に手を出す船はない。
そして時折、軍艦がすれ違うがアムルヌードに敬意を払い、
簡単な社交辞令のみで行き交う。
しかし、ルート開拓という理由で、
一旦、通商航路から外れると、時折、怪しげな艦影がちらつく。
南銀河は、様々な理由で、恒星間国家になりきれず、
一つの恒星系で独立した惑星国家が多い。
その一つ、人体強化が失敗し、ミュータント化した惑星国家オリッサ。
特徴のない恒星系で戦略的に重要ではない。
旧アトラス帝国の自治州のひとつで歴史は古かった。
ヤマト展望台で島艦長とアムルヌード副長ヒエイーリッツがくつろぐ、
「ヒエイーリッツ副長。アトラス帝国の願っていた人体強化は、どういったものだったのです?」 島艦長
「・・・・趣向の問題だと思うね」
「お金を持っている・・・」
「ある者は、金を家に使う」
「ある者は、金を教育に使う」
「ある者は、お金を自動車に使う」
「ある者は、お金を装飾品に使う」
「ある者は、お金を事業や投資に使う・・・・・」
「ある者は、自分自身に使う」
「そして、アトラス帝国国民多くは、お金を自分自身に使った」
「選りすぐれた、生命体になろうと研究した」
「・・・・・・・」 島艦長
「そして、それは、成功した」
「もちろん、失敗も、積み重ねたが多くが成功」
「結果、50系統にも及ぶ各種の方法が生まれた」
「当然、生命体として、銀河系で優れている」
「しかし、各惑星ごとの特性に合わせてしまった」
「それまで、帝国のつながりだったアトラス人同士が、まったく別の種に分かれてしまった」
「互いに優位性を叫んで反目し合い、バラバラになっていく」
「そして、いくつかの成功した者が結合したとき悲劇が訪れた」
「プラスとプラスが結びつた時、もっと大きなプラスになると思ったが逆の結果になった」
「人工進化計画の成れの果てがミュータントだった」
「・・・・・・・」 島艦長
「もちろん、優れた固体も出現した」
「しかし、一代種がほとんど、標準的なアトラス人と、いえないものになってしまった」
「そして、いくつかの独立恒星系が星間国家を再建するまでになった」
「しかし、それは優良人種より、比較的、原形のアトラス人に近い地域だった」
「個体が優秀であるがゆえ、人間関係が気薄になって人口を回復し切れていない」
「そして、人口を回復するには、あまりにも個々が変わり過ぎてしまった」
「では、その優秀な彼らがハイパーディラックエンジンを?」
「ええ、アトラス帝国最後の輝きがハイパーディラックエンジン」
「白色彗星帝国も、その欠片みたいなものだ」
「遺憾に思いますよ」
「いや、こちらこそ、むかしの同胞が迷惑をかけた」
「ハイパーディラックエンジンの優れた機関の誕生した背景が聞けて参考になります」
「こちらも参考にしていただければ嬉しい」
「恒星間を超えての連帯は難しいですが、挑戦出来そうです」
「ええ、二大超大国でさえ、領土の開発率は小さい」
「地球が、主星のある恒星系以外を発達させてなお、強固な連帯をしている」
「・・・」
「羨ましいですな。多くの国が本星に基幹産業を集中させている統制国家だというのに・・・・」
「ある程度、軌道に乗れば規格だけ決めて勝手にやらせておく方が楽だと思っているからでしょう」
「中央が握っているのは、予算の一部と規格統合権、軍事力、外交権、教育の一部だけです」
「従星が主星を上回ったときは、どうするんです?」
「まず、従星同士が主星との関係より強固にならなければ難しいでしょう」
「それに侵略を受けてきた国ですから相互支援するのは当然ですし」
「二大超大国が睨んでいるので、利害が絡んでも分離主義は少数派ですね」
「新興国の地球連邦が急成長するわけですな・・・」
「戦後の人口爆発のおかげですかね」
「地球人の戦争による心身障害の反動」
「それが、生態に与えた影響が実に興味深い」
「アトラス帝国は、背伸びをさせようとして失敗」
「地球人は、存亡の危機という反発で種を維持しながら大きく心身機能を強化した」
「憧憬に値します」
「暗黒星雲帝国が地球人類を狙ったのもわかりますな」
「今後とも、お近づきになりたい」
「ええ、計画通りに」
タウ・セチ恒星系。
地球連邦の第二の太陽系として、大規模な投資が断続的に行われた結果。
地球と並ぶほどの科学技術と産業、
そして、人口を有する自治恒星系となりつつあった。
太陽系と似た太陽のタウ・セチ恒星系。
第一惑星イナバ(直径3000km)、
連星第二連惑星イザナキ(直径11000km)、イザナミ(直径10000km)、
第三惑星イズモ(14200km)と衛星スガ(1300km)。
第4惑星から木星型ホリデノ(145000km)。
第5惑星ホスセリ(63200km)。
第6惑星ホオリ(61400km)
イザナキ、イザナミ、イズモは、金星型だったのを無理やり、テラフォーミング。
地球圏より潜在性の高い恒星系になっていた。
ディンギル水雷母艦サクラ
アルサ・ミエルは、恒星間国家の主要都市に入り込む。
特技を使えば難しいことはない。
自分ひとりで生きていくのは、大変と思わなかったが海賊船の船長になると違う。
どうやって、海賊船と部下を養っていくか。
部下?
いつの間に海賊に・・・
いや、不運だったと諦めていた。
しかし、海賊だからといって海賊業をしなければならない、という法はないはず。
地球でも、やっていたことだが金を作る方法は心得ている。
わたしが、いなくなって地球の要人たちも寂しがっているはずだ。
この色香を・・・・
うそ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ホリデノ軌道リング衛星に大型加速器が追加されつつあった。
二人の男が、建設工事を見守っている。
「地球とタウ・セチを結ぶ銀河鉄道か、むかしの物語にあったな」 弁務官
「かなり強い転移点を連続的に地球まで持っていく」
「銀河鉄道をその転移点に対してリニア式に移動させる」
「地球の木星とタウ・セチのホリデノの重力収縮を利用したエネルギーと」
「二重リングの逆回転で得られる電力を利用するから、建設費だけで済む」
「機構上、転移点は小さなものになるから、どうしても細長くなってしまう」
「光速を越えた時点で抵抗値が大きくなるから細いほうが有利だ」 建設技師
「容積が限られるが波動エンジンに頼らないで、二つの恒星系を結ぶことができるのは助かる・・・・・」 弁務官
「不安ですか?」 建設技師
「新しい機構というのは、誰でも不安になるものだ」
「ボラーのワームホール転移システムは、固定させた転移空間を作るためのもの」
「ガミラスの転移リレーシステムは、宇宙船の転移点を誘導するもの」
「どちらも、宇宙船を移動させるエネルギーとして、利用していない」 弁務官
「ボラーのワームホール転移システムは、移動させるとき大量のエネルギーを消費します」
「ガミラスの転移リレーシステムは、艦船の転移を誘導するもので消極的です」
「地球連邦のハイパー転移リレーシステムは、より積極的で経済的ですよ」 建設技師
「地球とタウ・セチ。12光年がわずか12日で結ばれる」
「それも、庶民価格で」 弁務官
「艦船の通常転移なら、一日1000光年なんですがね」
「転移リレーシステムだと、一日1500光年」 建設技師
「よくよく考えれば、エネルギーの容量を別にして」
「イスカンダルが14万8000光年という距離で一年365日という設定から割り出せば一日810光年を超える」
「単純に地球連邦が半径200光年圏なら一日もかからないことになる」
「性能向上を上乗せして1日で、1000光年という単位自体が異常なんだが・・・・・・」 建設技師
「仕方がない。元々の設定に合わせたのだからね」 弁務官
「せめて、イスカンダルが、地球から1000光年あたりにあれば、1年365日で一日2.8光年」
「銀河鉄道を1日1光年でタウ・セチまで12日で設定に無理が無いが」 弁務官
「話しを大きくすれば、興味が惹かれて面白くなると錯覚したのでしょう。安直ですね」
「辻褄を合わせる方の苦労を考えていない」
「おかげで、上層階級と下層階級の差を10万倍にしても足りない」 建設技師
「とりあえず、庶民が、簡単にいける銀河鉄道の設置と転移戦で、転移の制限を作るしかないか」 弁務官
「やれやれ、ですか」 建設技師
「ガンダ○に負けるはずだ」 弁務官
第03話 『チタームへ』 |
第04話 『チャウフアン』 |
第05話 『オリッサ』 |
登場人物 | 恒星間国家群 | 独立恒星系群 | 銀河勢力図 |