わたしは、宇宙海賊アルサ・ミエル。
軍艦でしか国境を越えられないと思っている。
皮被り野郎には、用はない。
第07話 『独立恒星系サイラス』
暗礁地帯が多く、海賊が多い宙域。
独立恒星系サイラス自体が密貿易、海賊、貿易商で成り立っている。
まともな人間は近付かない。
当然。地球連邦と名のつく国家宇宙軍が表立って、彼らと交渉することはない。
そういうことで、貿易商人の須郷ナオキ社長の出番となる。
チタームから地球までのルート確保。
恒星から20光年も離れると宇宙航路帯が整備され、
勢力圏でも宇宙航行は支障はない。
もちろん、低度の低い恒星系や未開発恒星系であれば恒星系内の通過も可能になる。
しかし、宇宙を長距離で移動する場合。
補給・整備・休息も必要で施設を有する基地が必要になった。
数条の光が体に当たる。
いくら “気” が強く、増幅器があっても全方位から撃たれたら逸らしようもない。
危機一髪なのだが・・・・・・
ここは、密貿易商の溜まり場で悪党の巣窟。
場所は、秘密。
「よう、須郷じゃないか。久しぶりだな」
「やあ、ブルート。儲かっているかい?」
「ふっ 生憎。獲物が少なくてな。それより、貸しがあったかな」
「借りだろう。ブルート」
「ははは、そうだった。そうだった」
「借りを返してもらおうか」
「んん・・・内容にもよるな」
須郷が契約書を渡す。
ブルートが契約書に目を通す。
「・・・・・・」
ブルートがサインすると。それで契約が終わる。
体に当たっていた光線が消えていく。
「ふっ 相変わらずの錬金術師だぜ。おまえは、金を作りやがる」
「ブルート。おまえも、奪うことより」
「その辺に転がっているものを足したり、掛けたり、割ったり、引いたりすることを覚えろよ」
「ふっ 悪いな。おまえと違って、そういう才能は無いようだ」
「良い話しがあれば、また持ってきてくれ」
「ああ」
一度、契約すると、ほとんどの場合。
守られる。
契約を破ると密貿易商の仲間からも爪弾きで、海賊にまで落とされる。
時には採算を度外視で契約を守る。
そこには、国境も、人種も、偏見も無かった。
契約は、階層と生死を分かつ南銀河の掟。
南銀河、無法地帯ではない。
契約が法で契約が破られると下層に落とされる。
須郷は、外に出ると天球に被さる青紫の星雲を見上げる。
ちょっとしたプロジェクトだが、うまみが転がっている。
軍事的な戦線でなく。
地球側に立って対外契約をするのも一種の前線に違いない。
目に見えないが己の背後に地球連邦があることに違いない。
あとは、邪魔者をどうするか、でもある。
地球人系の密貿易商や海賊もいたりする。
そして、血は水よりも濃く、
地球人亜種のディンギル人と地球人が仲良かったりもする。
地球人系の海賊といえば、アルサ・ミエルだろう。
特に契約違反もしていない彼女がいきなり海賊というのも妙な話しで・・・・
彼女自身は、南銀河をネタに紀行文を書こうと旅行していた、らしい。
ところが海賊が開発途上惑星を襲撃。
彼女も捕まった。
しかし、海賊の船長が負傷で倒れると跡目を巡って反乱、バラバラ。
そこに恒星間国家ジャスタンの警備艦隊が現れ、追撃戦が始まる。
地球人の彼女が一番 “気” が強く、
アルサ・ミエルがならず者の海賊を纏め上げて操船。
そのまま、警備艦隊を撃退して、海賊船の船長になってしまう。
大人しく捕まっていたら良かったものを今では、賞金クビ。
女海賊は珍しいが歴史上、たまに出る。
しかし、巻き込まれで正当防衛だったとしても誤解を解くには遅過ぎたかもしれない。
暗礁地帯に警備艦隊を誘い込み、気の力を利用して反撃。
警備艦隊の3分の1を撃破してしまうのだから・・・
単身、南銀河の紀行本を書いて、印税生活をもくろむような女のはず・・・
喫茶店
しかし・・・目の前にいる金髪の小娘がアルサ・ミエルなら、
ジャスタン警備艦隊は、間抜けだろうか。
・・・肩の上のネコは、なんだ?
「君がアルサ・ミエルかね」
「ええ、そうよ。おじさんは?」
引きつる。
15、6の小娘にすれば、おじさんだろうが腹も立つ。
『・・・危ないことをしては駄目だよ』
と言いたくなりそうなのを押さえ込む。
「君の船は?」
「ディンギルの水雷母艦。海賊向きでしょ」
確かに開発惑星を襲撃したくなる。
「そいつで、良く暗礁宙域を抜けられたものだ」
機動性の良い軍艦ではない。
だから警備艦隊も追いかけたのだろうか。
「うん。勘だけは良いの・・・」
「そう・・・・・」
・・・・なんとも居心地が悪い。
客観的に、どう考えても援助交際の交渉をしているとしか思えない。
「んん・・・ご両親は?」
「あれぇ〜 調べていると思ったけど。見込み違いかな」
娘が海賊の船長になったとわかって、娘に帰ってくるな、と言ったらしい。
なんとも薄情な話しだが実際に帰っても、良い事はないだろう。
これがレイプなら “すぐに帰って来い” なのだが・・・
「・・・調べはついてても、一方的な言い分だけで判断するのは危険でね」
「商売柄、どちらの言い分も聞いている」
「まぁ〜 おじさん。素敵」
目で尊敬されて・・・
だんだん、心地が悪くなる・・・
「ねぇ〜 どんな仕事?」
「ちょっとした陽動と内紛工作だな」
思わず言いよどむ。契約書も出しずらい。
他の海賊を当たってもいいものの、
今、契約を抱えておらず、手が空いて、信用できそうなのは彼女だけらしい。
・・・・まあ、良いかと。契約書を出す。
南銀河の契約書は、年齢制限が無い。
彼女は契約書を覗き込む。
「・・・・・・・・・・」
しばらくすると
「・・・・・・・・・・」
契約書にサインする。
やれやれ、罪悪感を感じるのは久しぶりだ。
「ねぇ〜 おじさん。遊園地で遊ばない」
「・・・・・・・・・・・・」
実に子供らしい上目遣いの表情をする。
遊びたい盛りで、甘えたい盛りなのだろうか。
女海賊といっても年頃の娘に過ぎない。
地球を離れて寂しくなったのだろう。
ひょっとしたら・・・・
・・・いかん、いかん。評判が落ちる。
仲間内からどういう風に見られてしまうか、予想がつく。
まぁ〜
遊園地に行くだけならいいだろう。
ヤマトの乗員も誘うか・・・ガキのお守りには、丁度いい。
惑星サイラスの遊園地
「・・佐々木お兄ちゃん。五十嵐おねえちゃん」
「次ぎあれ!」
「次ぎあれ!」
とアルサ・ミエル(仮名サクラ)と、はしゃぐ。
「あ、サクラちゃん。アイスが、こぼれてる」
「あっ!」
佐々木セイイチ中尉(戦闘班長)
五十嵐ミユキ少佐(飛龍の艇長。しっかり者で美人)
2人の間にアルサ・ミエルがいて、手を引いてもらっている。
このまま、ジャスタンまで連行すると、護衛艦が1隻、買えそうな賞金になる。
ヤマトの乗員は
“宇宙戦艦が出てくる物語で遊園地はないだろう”
と不平を言いながら・・・・
ヤマトの乗員たちは少女と遊びに興じる
“地球人の娘と遊んでやってくれ”
としか言ってないが知らぬが仏。
あれで新進気鋭の女海賊なのだから事実を知れば退いてしまうだろう。
とはいえ、地球連邦から離れて5万光年の南銀河。
遊園地で遊ぶというのも一興かもしれない。
そして、貿易商人の競合関係にある勢力。
国境に庇護され、時折、出張ってくる企業体。
国益に対し、
利益7 不利益3の貿易商と
利益8 不利益2の企業体。
立場が違うものの、貿易商人と似たような一面がある。
ただし、契約違反でも国境の内側に逃げ込む裏ワザがあるため、信用できない。
「よう、須郷。新しい契約か?」
「珍しい場所を選んだな」
企業体らしく。ビジネス服を着た男。
「ちょっと野暮用でね」
須郷が契約書を男に渡すと。男も契約書を須郷に渡す。
どうやら向こうも外注があるらしい。
企業体がヤクザな貿易商に仕事を発注すると非合法が多くなる。
交換契約になると、信頼性が倍に以上に膨れ上がる。
空いている船を計算しながら、サインをする。
そして、互いに契約が完了する。
ヤマトの隠密航行が始まって、百数十枚の契約書が取り交わされていた。
まったくもって、世話の焼ける。デカ物だ。
どこにでもある。ゴク普通の暗黒星雲。星間物質の淀み場。
チターム戦艦アムヌードと戦艦ヤマトは、貿易商船から補給を受けていた。
そして、貿易商船が離れていく。
ヤマト艦橋
島艦長とヒエイリッツ副長
「ヒエイリッツ副長。この辺は、海賊が多いそうですが」
「ええ、ですが、アムヌードといれば襲撃される心配は、ありませんよ」
「採算上の問題ですがね」
「では、採算が合えば来る可能性があるということですか?」
「来るでしょうな」
「大きな貿易商人や企業の私設艦隊が本気になれば戦艦の1隻や2隻」
「どうにでも出来ますからね」
「南銀河。恐るべしだな」
「輸送船を護衛中の駆逐艦や巡洋艦は、ともかく」
「ここ100年、恒星間国家の戦艦が襲われるのは、聞いたことがありませんから」
「・・・・・」
「・・・島艦長。遊星一つ、4光年先に確認しました・・・」
恒星から外れてしまった天体が深宇宙を漂う。
珍しいわけではない。危ないだけだ。
「赤道面での直径 13746.3 km。表面積 5.40022×108 ku」
「質量 6.1742×1024 kg。平均密度 5.615 g/cm3」
「表面重力(赤道上) 9.88 m/s2。脱出速度 12.18 km/s」
「自転周期 24.13 時間・・・・・」
「・・・ん。どうした?」
「表面温度 最低184K 平均282K 最高333K」
「平均気温 15℃(-70℃〜+55℃)。大気圧 101.325 kPa」
「窒素 78%。酸素 21%。アルゴン 1%。二酸化炭素 微量・・・・」
「はあ〜・・・太陽は?」
「ありません」
書類を掠め取る。
「月の潮汐もなし・・・ち、地熱なのか?」
「この距離では測定不能です」
「ヒエイリッツ副長。どういうことですかな?」
「いえ、聞いたことがありません」
「このサイズの天体が重力収縮熱で形成できる大気ではありません」
「・・島艦長。アムヌードからです。同じ測定結果を確認したそうです」
「平均密度からすると地球とほぼ同じで重金属ではなさそうだ」
「開発惑星か?」
「発熱しやすい生態系が地中にあるのか?」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「古代提督を呼んでくれ、それとアムヌードの回線を開け」
遊園地から戻ったアルサ・ミエルは次第に海賊船の船長らしい表情と、
雰囲気に戻っていく。
ディンギル水雷母艦と水雷艇6隻。
乗員は、海賊と、人質だった者達。
そして、アンドロイド兵で構成されている。
開発惑星は、荒くれ者が多く、襲う側が10倍以上の強い武器を持っているだけ、
気質は変わらない。
人質の半分と海賊の3分の1が帰還。
残りは、この艦に見込みありと思ったのか、残留。
こういうのもありだろう。
それでも、艦内の風紀だけは、正した。
ジャスタン警備艦隊を翻弄して名を上げたのか、
契約違反さえなければ、仕事は舞い込みやすい。
「艦長。修理と補給は完了しました」 副長
「そう・・・仕事よ。2時間後に出る」
「はい」
頭二つ分も高いガミラス人が発進準備の作業を始める。
女が辺境の地に一人で、やってくるのだから、それなりの自衛をしている。
地球で、人一倍強い “気” と増幅器。
ほとんどの場合。こいつで相手の気力を挫くことが出来た。
海賊になってからは銃も所持するようになった。
あまり、当たらないが・・・
それでも最近は、上手くなったと自負する。
かなり血生臭いが海賊がてら紀行文を書いたりもする。
将来は、これで印税生活だ。
最近、明文化されたイスカンダル国際協定で言うと、
地球に戻っても捕まる可能性は、低い。
つまり、余生を遊んで暮らせるだけ儲けまくって、地球に逃げ込むが究極の目標。
惑星サイラスからディンギル水雷母艦(サクラ)が上昇する
むかし見ていたアニメからとって、改名した。
“皆殺し”号では、さすがに美意識が拒絶する。
地球連邦 第18特務艦隊
ガルマンガミラスの大型巡洋艦2隻、
中型巡洋艦2隻、高速空母1隻、
デストロイヤー12隻がモスボールを解いて出撃。
シュミレーションとの誤差範囲を調査し、
艦隊運動能力を揃えて行く。
藤堂少将は、旗艦(しおひがり)に搭乗していた。
寄せ集めの、どうでもいい艦隊なのか。
命名基準も、かなりいい加減で何でもあり。
残りの艦艇もモスボール解禁。乗員の9割がアンドロイド。
柔軟性とダメージコントロールに問題ありでもソコソコに使える。
艦載機だけは、稼働率の良いコスモタイガーXを30機装備する。
十字型空母は、厄介者だが艦隊防空で使えるだろう。
「捕獲した時期がバラバラで性能にばらつきがあるな」
「一番多いのが、2199年から2203年までの艦船ですからね」
「劣化しない装甲でも年代によって、防御力に差異が見られます」
「火力もだ」
「波動カートリッジ弾を装備したので、その点は、補えるかと思います」
「・・・付け焼刃の改造だが、まぁ〜 何とか、なりそうなレベルだな」
「警備用ならいいかもしれませんが・・・」
「同型艦の最大戦速が10パーセントも違うのは・・・・」
「残念だが警備だけでは終わらないかもしれないな」
「とりあえず、一番遅いやつに合わせるのが筋だろう」
「了解です」
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第07話 『独立恒星系サイラス』 |
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