月夜裏 野々香 小説の部屋

    

宇宙戦艦ヤマト 『南銀河物語』

   

   

 わたしは、宇宙海賊アルサ・ミエル。

 軍艦でしか国境を越えられないと思っている。

 皮被り野郎には、用はない。

 

 

第08話 『遊星ガイアス』

 宇宙戦艦ヤマトとアムヌードは、遊星の有視界まで達したところで停止する。

 あまりの異様さに近づけない。

 距離にして15億km。

 太陽と地球ほどの距離でも観測装置で拡大すれば、目と鼻の先にまで映像が広がる。

  

 ヤマト艦橋

 古代提督。島艦長

 「赤道面での直径 13746.3 km。表面積 5.40022×108 ku」

 「質量 6.1742×1024 kg。平均密度 5.615 g/cm3・・・」

 「・・・表面重力(赤道上) 9.88 m/s2。脱出速度 12.18 km/s。自転周期 24.13時間は、問題ない」

 太陽も無いのに青白く輝く大気層と海。

 そして、青々とした自然が不自然に存在する。

 「しかし、表面温度 最低184K 平均282K 最高333K。平均気温 15℃(-70℃〜+55℃)」

 「大気圧 101.325 kPa。窒素 78%。酸素 21%。アルゴン 1%。二酸化炭素 微量・・・・」

 「ありえんな。太陽もなしに、ご丁寧に昼側と夜側に分かれて自転か・・・・」

 「エネルギー換算で173000TWが昼側の大気層に放射され」

 「30%、52000TWが宇宙に向けて散乱、反射されています」

 「ふっ この深宇宙で何たる無駄なエネルギーだ。キチガイ沙汰だな」

 アムヌードから通信が入る。

 『・・・古代提督。どうするね?』 ザナリッツ艦長

 「あのエネルギーの量。例え作戦中でなくても近づきたくありませんな」

 「まして、作戦中ならなおさらです。ザナリッツ艦長」

 『同感だよ。古代提督。命令でもなければ近付きたくない遊星だ』

 『惹かれるのは、惹かれるが・・・』

 「ザナリッツ艦長。航路帯から外れているのは確かです」

 「これまでに発見されなかったのは、どういうことですか。何か心当たりが、ありませんか」

 『いや。まったくな・・・・』

 「・・・どうしました。ザナリッツ艦長」

 『ああ・・・アトラス帝国崩壊を前後して恒星系から軌道を離れて外宇宙に飛び出した』

 『惑星ガイアスというのがあるが・・・・』

 「・・・古代提督。遊星からエネルギー反応。こちらに向かってきてます」

 「・・・全艦戦闘配備! 第一級戦闘配備! 防御壁最大」

 「後退しながら、遊星に射線を合わせろ!」

 エネルギーの塊は、あっという間に近付き、

 ヤマトとアムヌードの重力バリアをすり抜けて、艦橋を切り裂いた。

 一瞬、空気が外に流出しかけたが重力バリアが機能しているのか、対流する。

  

  

 目の前にいる少年。

 状況は、ヤマトも、アムヌードも似ていた。

 瞬時に防御壁が突破。

 軍艦の中枢である艦橋に乗り込まれ、お手上げ、

 抵抗する気力も失せる。

 CICが残っていても、時間の問題。

 捨て身の攻撃でズオーダー大帝の大戦艦を対消滅させた反物質人間のテレサを思い出す。

 地球連邦は、いまだ、あの大戦艦を撃破できる軍艦を建造出来ないでいる。

 目の前で面白がっている少年は、かなりやばそうだ。

 “・・・随分、気が強い人間たちがいるな” 少年

 直接、頭に木霊する。

 「・・・な、なんの用かな」

 『我ながら、陳腐なセリフだ』

 死を覚悟する古代提督。

 “んん、目覚めたばかりでね。退屈していたところだったんだ”

 “もちろん退屈というのは儀礼的な例えだから、弱点でもない”

 “外界には、まったく依存していない”

 “君たちが我々に依存したがるかもしれないけどね”

 「も、目的は?」

 “・・・・目的?”

 “目的は、既に達成されているから無い・・・”

 “君たちが望めば取り込んであげてもいいけどね”

 “特にこの宇宙戦艦は質の良い乗員が揃っている”

 “来るなら全面的に受け入れてあげてもいいよ”

 「ど、どういう意味かな。我々には任務がある」

 少年が探るような目つきをする。

 そして、無防備に両手を頭の後ろで組む。

 “ふ〜ん・・・小賢しい計画だね・・・”

 “地球人か・・・しばらく眠っていたら、随分、新参者が現れたね”

 「・・・君は、何者かね」

 “・・・そうだ。暇潰しに一緒に旅をしても良いかな”

 “計画の邪魔はしない”

 “見るだけでどうかな?”

 “これなら、お互いの好奇心も満たされるだろう”

 「じ、邪魔をしないと約束するのなら構わないが・・・」

 もはや、手の施しようが無い状況だった。

 計画の邪魔をしないと言う確約が取れれば悪魔とだって契約する。

 「そう♪ 良かった」

 少年は、地球の言葉で言うと人差し指を立てる。

 破壊された艦橋の側壁が数秒で元に戻る。

 そして、少年は、空いている士官室へと案内されていく。

  

 「提督・・・」

 「島艦長・・・選択の余地は無かったよ」

 「・・・・・」

 「もっと離れていたら良かったな」

 「警笛は、鳴っていたのだ。近付くなと・・・音量を図り損ねたよ」

 「いえ、古代提督は、十分に用心しておられました」

 「・・・すまなかった。ザナリッツ艦長。わたしの落ち度だ」

 『・・・いえ、古代提督。警笛を図り損ねたのは、こちらも同じ』

 『むしろ、十分な距離が取れていたと自負しておりました・・・・残念です』

  

 ヤマト大食堂に現れた少年。

 年齢にすれば、14、5才というところだろうか。

 乗員は無視も出来ず。

 かといって、近付くこともできない。

 「これは、なんだい?」

 「餃子定食です」

 給仕アンドロイドが応える。

 「ふ〜ん」

 少年が食べ始める。

 「・・・・・・・」

 「・・・地球も悪くないねぇ〜 時々、遊びに行くことにするよ」

 なんとなく “ホッ” とする空気と “地球に来るのかよ” という空気が混ざり合う。

  

    

 ヤマト艦橋

 誰が恐るべき少年の専属になるかで美しく譲り合う。

 「・・・やはり、ヤマトの命運とも直結しているのですから由良副長が良いのでは?」

 「い、いや、アムヌードとの交換で出向く時がある」

 「専属というわけには、いかないだろう。ここは、生活班で」

 「そんな大任を生活班で任されても良いものでしょうか?」 生活班長 雪科カツミ

 「で、では、作戦オペレーターで・・・」

 「・・・で、ですが作戦といえる任務なのでしょうか?」 芹菜ユキ少尉

 「んん・・・諜報・・・作戦という事で処理しては、どうだろうか?」

 「うん、それが良いな」

 「航海日誌も、それらしく。体裁が保てる」

 「「「うんうん」」」

 『ゲッ!!』 芹菜ユキ少尉

 「じゃ そういうことで、芹菜少尉。よろしく頼むよ」

 「・・・・」

 「査定で色を付けるから。頼むよ」

 と古代提督は右手で拝む。

 芹菜少尉は憮然とする。

   

  

 というわけで、芹菜少尉は、食事中の少年の前に座る。

 「・・・ご一緒してもよろしいかしら」

 「・・・ええ、どうぞ」

 そこには、見紛うばかりの20代の美人が座っていた。

 芹菜少尉は、絶句し、

 そして、乗員たちの手からフォーク、ナイフ、箸が滑り落ちる

 集中する視線。

 目を逸らせないほどの美人はいるもので、まさにそれ。

 映像を見ていた由良副長が地団太を踏んだとか・・・・

 古代提督が、にやけ顔で撮った録画をコピーするように命じたとか・・・

 「・・・な、名前を教えてもらいたいわね」

 敗北感に打ちのめされながら芹菜少尉が呟く。

 「なまえ〜 なんにしよう・・・・」

 女性の小首を傾げる仕草はそそられる。

 男たちが前のめりに吸い寄せられ、

 女性隊員がムッとする。

 「・・・・・」

 「・・・あって、あるもの・・・かしら」

 「??? それ名前?」

 「んん・・・・事象」

 「??? 名前が無いと、呼ぶときに困るわ」

 「・・・んん・・・・そうね・・・何がいいかしら?」

 「はぁ〜 ・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・」

 「・・・決まるまで、モウブにしておくわね」

 「モウブって?」

 「群集のことよ。いっぱい化けられそうだから」

 「・・・良いねぇ〜 それにしよう」

 少年に戻る。

 どこにでもいそうな、凡庸で華奢な少年。

 「モウブ君。そのぅ 少年が気に入ってるの?」

 「んん・・・ちょっと思い入れがあってね・・・」

 中央コントロールシステムに案内される少年。

 ヤマトの最大防御壁を難なく擦り破ってくるような人間なのだから。

 隠してもムダといえる。

  
     

 ヤマト艦橋

 古代提督、島艦長が映像でザナリッツ艦長、ヒエイリッツ副長、由良副長と向かい合う

 「・・・群集の液体生命体?」 古代

 『アトラス帝国の人工進化の一つの形態です』

 『惑星ガイアスで研究されていたと記録がされていたのですが、詳細は不明です』

 「・・・・詳細が不明では、困りますね」

 『当時は、アトラス帝国全体がカタストロフィー。崩壊にあったのです』

 『ただ、物質的な困窮や争い。精神的な葛藤の両面を解決できると・・・・・』

 「確かに・・・モウブは、それらしいことを言ってましたね」 島艦長

 「それと・・・目覚めたばかりとも言ってたな」 古代提督

 「群集心理であれば個々に個性があるということに」

 「物事を決める上で我々よりタイムラグがあるのでは?」 ヒエイリッツ副長

 「それは、これから確認する事柄だな」 ザナリッツ艦長

 「個々に個性があるということは、あの少年自体に個性があるのか」

 「それともモウブ全体を代表しているのか?」 古代艦長

 「とにかく。邪魔をしないのであれば問題は無いのでは?」 ザナリッツ艦長

 「・・・だが互いの好奇心を満足させることが出来るなら」

 「こちらからもアプローチできると判断して良いのかな」 古代提督

 「個人的な見方ですが。モウブには、善意も、悪意も、感じませんでした」

 「珍客と受け取って良いのでしょうか?」 由良副長

 「・・・それに同感だな」 ザナリッツ艦長

 「では、珍客ということで、一致しても」 古代提督

 頷く上層部。

  

  

 天王星

 磁気嵐の少ない。

 静かな木星型ガス惑星だった。

 第18G艦隊

 ガルマンガミラスの大型巡洋艦2隻、中型巡洋艦2隻、デストロイヤー12隻がガス雲の中。

 標的艦に向けて砲撃していた。

 一糸乱れぬ動きは、旗艦(しおひがり)のシンクロデーターに合わせたものだ。

 「・・・藤堂少将。悪くないようです」

 「一番、旧式のデストロイヤーに合わせた機動だ。出来れば、もう少し、底上げしたいな」

 「そうですね」

 「次元断層サイクロンエンジンは小型高出力で良いのですが。せめて5G機動は、欲しいですね」

 「ああ、問題は、転移戦装置との割り振りだな」

 「小型のデストロイヤーでは割り振りのつけようがありませんが・・・」

 「ガルマンガミラスもデストロイヤーの数で勝負している」

 「生憎。数では、不安だが、波動カートリッジ弾と連携で補うしかないな」

 「そうですね」

 「・・・標的艦は、だいたい片付けたな」

 「ええ、次は、飛龍(航空戦指揮型)8隻、雲龍(次元潜航型)8隻、海龍(水雷艇型)12隻との模擬戦です」

 「では、先手を取るか」

 「このまま、南極側に向けて、降下。浮上して切込みをかけながら。背後に付こう」

 「水雷艇相手にですか?」

 「相手が水雷艇だからって、受身になることもあるまい」

 「ええ、確かに」

  

  

 女海賊アルサ・ミエル

 地球人は、雨を弾くぐらいの “気” が普通。

 そして、アルサ・ミエルは、地球人の中でも “気” が強い方で、

 人間でさえ、弾き飛ばせる。

 まして、増幅装置をつければ化物のカテゴリーに入れられてしまう。

 そして、スマートな性格だった。

 力で、ごり押しというのではなく。知能犯。

 海賊が狙うのは、普通、弱者。

 開発惑星や商船が一般的だった。

 しかし、彼女が狙ったのは・・・・・

 ・・・・大都市に潜入。

 部下とアンドロイド数人で、

 病院、警察、官庁銀、銀行、官庁、企業を漁り、

 物損と少しばかりの犠牲者。

 病院、警察、官庁銀、銀行、官庁、企業の金庫が抉じ開けられても、

 金目のものは、ポケットに入る程度。

 ほとんど。そのまま残される。

  

 水雷艇3隻が一仕事を終えると、軌道上の水雷母艦(サクラ)へ帰還する。

 アルサ・ミエルは、水雷艇から降りる。

 肩のネコは、どうということは無いのだが、

 こちらの意思を伝えることが出来て小さい場所に入り込め、

 便利なので一緒にいる。

 一番便利な手下ともいえる。何より餌だけで良いので安上がり。

 あと2、3匹扱えるかもしれない、

 もっとも、余剰能力は残しておくべきで、1匹だけ。

 使い捨てで現場のねずみを使う場合もある。

 しかし、気持ち悪いので危機に陥った時にしか使わない。

  

 そして、不正腐敗の証拠と、

 外国の口座番号を弱みを握った要人に送りつける。

 情報を強奪する小悪魔アルサ・ミエル。

 彼女によって失墜した南銀河の閣僚・要人は数十人に達していた。

 もちろん、強請り取られた腹いせで、

 さらに不正と腐敗を上澄みした閣僚・要人は、その十倍に達し、

 アルサ・ミエルは、潤う。

 少ない者からたくさんではなく。

 たくさんの人から少なくで、

 手に入れるのは金だけでなく、

 情報・・・

 おかげさまで海賊にしては、珍しく安定収入。

 南銀河諸国からガルマン・ガミラス、イスカンダルの銀行に、

 アルサ・ミエルの口座があり、彼女しか降ろせない。

 おかげで裸で寝ていても襲われないほど、地位は安泰。

 もっとも、ガキ娘を無理に漁らなくても他を・・・

 というところだろうか。

 さらに情報収集も楽で敵も少ない。

 自分が捕まると困る人間がたくさんいる。

 一仕事を終えて水雷母艦サクラは、惑星チタームの軌道を離れる

 「だいぶ、小金も、たまったわねぇ〜」

 アルサ・ミエルは流れてくる情報に目を配りながら呟く。

 最近は、情報に値札が見える。

 この辺の感覚は、須郷に近く。

 貿易商人と海賊は、倫理観の差だけで生活の手段の一つに過ぎない。

 「アルサ・ミエル!」

 「チタームの警備艦隊が接近しています。メグレ局長の艦隊のようです」

 「はぁ〜 しつこい〜 上と結んでいるのが、わかんないのかしら」

 「ですが予定ではもっと遅れてくるのでは?」

 「そうねぇ〜 補給基地に寄らせたはずなんだけどな」

 「メグレも勘が良くなったかな。出発よ。転移戦開始」

 巡洋艦4隻の警備艦隊がサクラの転移を妨害しようと転移点が集中。

 転移点の数で勝る警備艦隊の転移点がサクラに集中し、転移の妨害をする。

 アルサ・ミエルのマンパワーで走査される転移点を相殺。

 サクラが浮遊機雷をばら撒きながら転移。

 警備艦隊は、浮遊機雷を交わしながら転移して追撃。

 アルサ・ミエルは、警備艦隊の燃料の残量を知っているのか逃げ切ってしまう。

   

  

 警備艦隊 旗艦 警備巡洋艦(Sヤード) メグレ局長

 「くっそぉ〜 逃げられたか」

 「ディンギルの水雷母艦ごときに・・・」

 「軍は、何をしている!!」

 「そ、それが演習に出かけていて、留守艦隊の応援要請も手間取っているようです」

 「何ということだ」

 「海賊にチターム本星の軌道を周回させてどうする」

 「表向きは、ハイデラの交易船でしたから」

 「んんん・・・ハイデラもグルになっているのか」

 「まさか、ハイデラもアルサ・ミエルの被害にあっているはずです」

 「たいして、盗んでもいないコソドロですよね」

 「だが、未遂でも犯行は行われている」

 「それも開発惑星や商船ではない。足元の本星や従星だぞ」

 「あの娘のパワーは、化物じみていますからね。射線を狂わされては、どうにも・・・・」

 「くそぅ〜 地球人め。舐めた真似をしやがって」

 「その地球連邦と手を組むのでは?」

 「らしいな。上が決めたことだ。従うしかない・・・」

 「それで、ガルマンガミラスの脅威が減ればいいが・・・」

 「でかすぎますよ。ガルマンガミラス」

 「だがデスラーが、いなくなってから内向きだよ」

 「共和制になってからはバラバラにならないように精一杯だろうな」

 「ボラーがガルマンガミラスに攻め入ることは?」

 「ボラーがガルマンガミラスに攻め込めば英雄が現れ、ガルマンガミラスは、強化されてしまう」

 「ボラーも内政が安定しているとは言いがたいですがね」

 「両国ともバラバラにならないためには強力な指導力を持つ英雄を欲しているだろう」

 「しかし、元老は権力の集中を恐れて、戦争 を望んでいない」

 「しばしの平和ですか?」

 「チタームが成長するには、今をおいて他に無いな」

  

 

 

 

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第07話 『独立恒星系サイラス』
第08話 『遊星ガイアス』
第09話 『チターム』
登場人物 恒星間国家群 独立恒星系群 銀河勢力図