月夜裏 野々香 小説の部屋

    

宇宙戦艦ヤマト 『南銀河物語』

   

    

 わたしは、宇宙海賊アルサ・ミエル。

 軍艦でしか国境を越えられないと思っている。

 皮被り野郎には、用はない。

   

  

 『こちら。ラグナロク第1機動部隊アルト・モートン提督だ』

 『直ちにロス・メックリンガー元帥を捕縛せよ』

 ラグナロク第1機動部隊が主砲をラグナロク要塞へと向ける。

 そして、ラグナロク司令塔ではロス・メックリンガー元帥が捕縛される。

 『・・・アルサ・ミエル。君と少し、話し合わなければならないようだな』

 「そうのようね。アルト・モートン提督。地球人に証人になってもらいましょう」

 『・・・了解した』

 そして、水雷母艦サクラが、元の場所に転移。

 ラグナロク艦隊の入港に続き。

 水雷母艦サクラ。宇宙戦艦ヤマトがラグナロク要塞に向かっていく。

  さらば〜 地球よ〜 旅だ〜つ 船は〜 宇宙〜 戦艦〜 ヤ〜 マ〜 ト〜

  

  

第21話 『女海賊アルサ・ミエル』

 全宇宙が注目したラートゥルの反乱とラグナロク要塞の逃亡。

 そして、ラートゥルの反乱事件の解決。

 もっとも、発言力のあるのは、事件を解決した女海賊アルサ・ミエルになる。

 ラグナロク要塞の処遇がどうあれ、

 アルサ・ミエルの利権は大きく、利権闘争でいうと、それなりの相場になる。

 しかし、成り上がり海賊に宇宙第一級要塞の利権があっても宝の持ち腐れ・・・・・

   

   

 ラグナロク要塞の巨大な迎賓室

 席に着いたのは、アルサ・ミエルと副官ガードベルト。

 ラグナロク第1機動部隊のアルト・モートン提督ほか5人。

 地球代表の古代提督の三者。

 ラートゥルとの関係をどうするのか決まっていない。

 ラートゥルにも白色彗星級要塞があるが追撃するといった兆候はない。

 確実に勝とうと思えば白色彗星3つ。3対1で追撃させるべきだが、

 そんな、余力はないと考えられる。

     

 そして、古代提督も戦闘未満ではタダの証人に過ぎず。

 なんら発言力もなかった。

 『・・・くそぉ〜 こんなことなら、前哨戦でもしておくべきだった』 古代提督がぼやく。

 それで、物損があり。

 何人か死んでいれば、それが発言力になる。

  

 というわけで、いろんな思惑が絡んでくる。

 「・・・アルト・モートン提督。ラグナロク要塞をどうされるつもりでしょうか?」

 アルサ・ミエルは、とりあえず聞いてみる。

 混乱しているように見えたがラグナロク要塞の実権は、彼になりそうだ。

 「南銀河の深宇宙でミュータント主権国家として独立するつもりだ」

 白色彗星要塞は、恒久的な自給自足可能な要塞だった。

 その気になれば、適当な恒星系の軌道で独立できる。

 ラートゥルと袂を分かつということだ。

 トップの罪状が判明しても連帯責任は残る。帰還して良い事など何一つない。

 「アルサ・ミエル殿。今回の事件の真相解明への協力。感謝しなければならない」

 「しかし、この要塞も手狭であり」

 「今後の展望も立たない状態。満足な報酬ができるかどうか・・・」

 「アルト・モートン提督」

 「一国として独立するおつもりでしたら、相応の度量を見せるべきですわ」

 「列強各国にケチだと印象付けられては、今後、何かと支障があると思います」

 「・・・・」

 「それとも、盗賊要塞に成り下がるつもりで?」

 「い、いや、そういうわけでは・・・・」

 「要塞の運営に自信がないのでしたら身を退く事も考えられては?」

 「軍人に行政は、荷に勝ち過ぎるかもしれませんね」

 アルト・モートン提督は、バツをを悪そうに古代提督の方を見たりする。

 しかし、古代提督は、証人以上の口出しをする気はない。

 『被害さえあれば・・・』 で、ある。

 後釜を狙う指揮官が同席している中、

 荷に勝ち過ぎるといわれたアルト・モートン提督は、格好の悪い状況で面白くない。

 そして、この中で、一番強い気を放っているのはアルサ・ミエル。

 とはいえ、要塞運営する側も、どうして良いのか難儀している状態。

 ヤクザな軍人ならともかく。

 まじめな軍人に国家運営のイメージなど湧くはずもなく。

 ノウハウも試行錯誤。

 戦場で有能、勇猛な提督たちもラグナロク要塞の主任行政官ホルス・ミンクスをチラチラ見る。

 ごほん!

 主任行政官ホルス・ミンクスは、注目を浴びていることを知るとワザとらしく咳をする。

 「ああ・・・褒章の一つとして、どうでしょう」

 「アルサ・ミエル殿は犯罪履歴がおありのようです」

 「このラグナロクの勢力圏においては、全て抹消ということで・・・」

 「あら どのような犯罪ですの?」

 「ちっとも知りませんでしたわ」

 「重大な犯罪を成功させた事がない。ですか?」

 「・・・・」

 「ですが、海賊でありながら安定収入」

 「南銀河の隠し銀行口座の多くにあなた名義の資産が眠っているようです」

 「本当に失敗しているのでしょうか?」

 「まさか、隠し口座が、あるなど根も葉もない噂ですわ」

 「それに恒星間を越えて適応されてしまうよな、犯罪は一つもないはず」

 「・・・少なくとも、ここに一つありますよ」

 「・・・・」

 「あなたが仕掛けた。ウィルスプログラムです」

 「軍事関係は状況から不問にするとして。プライベートな個人情報にも侵入していますね」

 主任行政官ホルス・ミンクスが、それらしい。チップを見せる。

 「まぁ きっと、何かの拍子に紛れ込んでしまったものですわ」

 「わたしの船も何度もウィルスに狙われましたの」

 「本来、見る事ができない個人情報なのですが、おかげ様で不正がいくつも見つかりましたよ」

 「このラグナロク行政も風通しが良くなりそうですな」

 「こちらでも、御礼をしなければ、なりませんかな?」

 「おほほ、不本意ですわ」 苦笑い。

 「アルサ・ミエル殿。まず、そちらの望みを聞かせていただければ、こちらも対処しやすいのですが・・・」

 「そうですわね・・・・・黄緑金で100億ほど・・・・」

 参席者の目の色が変わる。

 因みに戦艦10隻分相当になる。

 個人の所得として認めると大変なことにもなる。

 「ああ・・・・どうでしょう」

 「このラグナロク要塞の所有名義として120億で」

 「配当金をアルサ・ミエル殿の口座に落とすというのは?」

 「・・・つまり・・・ラグナロク要塞の株主になれと?」

 「さすが、目端の利くお方だ。大株主でしたらいろいろ得点があるはずですよ」

 アルサ・ミエルは、舌打ちしたくなる。

 提督たちは良くわからないのか、わかるのか、顔を見合わせる。

 アルサ・ミエルは、この男がラグナロク要塞を株式公開するつもりなのだとわかる。

 非公開前の株の値打ちなど、経営者でもない限り、わかるわけもなく。

 実質、要塞運営の経営など、先行き不透明すぎる。

 単純に金で片をつけようと思っているアルサ・ミエルは、先行き不透明な債券株を掴まされる。

 買い気配がなければ大株主が売りに出した途端に目減りするだろう。

 どうやら、主任行政官ホルス・ミンクスは、要塞運営で自信があるらしい。

 ラグナロク要塞株式会社。

 実に怪しすぎる。

 たぶん、傭兵の如く、恒星間国家を渡り歩くつもりなのだろう。

 白色彗星一個と白色機動部隊が3個。

 普通の恒星間国家なら戦いたくない。

 しかし、諸刃の剣でもある。

 信用できるかどうか、一度でも裏切れば、この商売は成り立たない。

 一度の裏切りで恒星系一つ得られる。

 顧客が付くかどうか・・・・

 エウリアとインディアの傭兵として流れていく方法もある。

 少なくとも戦線の一つくらいは維持できる。

 収入が得られるかは、損失比にもよる・・・・・・

 どうも、採算が取れて安定収入になるか、主任行政官ホルス・ミンクス次第ということに・・・・・

 経営収支が不明では、この要塞の時価を株にした場合の金額も不明・・・

 「・・・こうしましょう。今回の事件解決に当たっての諸経費として、10億」

 「そして、この要塞の全株式の20分の1では?」

 これでも相当な儲けだった。

 「・・・まぁ いいでしょう。妥当な線です」

 つまり、そういう事になった。

  

  

 バナジ貿易商

 某恒星系の某惑星

 『・・・アシュモフ様。誠に残念な結果となってしまいました』

 「ふっ あの小娘。やりおるの〜」

 「こちらのシナリオを見事に取られてしまうとは」

 『申し訳ございません』

 「まあ、良い」

 「ホルス、妥当な線だ。一人勝ちは無理だったが落としどころは悪くない」

 「残りの公開株は、こっちで過半数を取れる」 

 『地球艦隊を殲滅。ラグナロク要塞とアマテラスごとバジル貿易商のものでしたのに・・・』

 「どの道、我々が儲かるようになっておるのだ」

 「あの小娘に小さい花を持たせてやるがいい」

 『はい』

 「あの地球のアマテラスも他の手段を考えるとしよう。余の手は長いからの・・・・」

 『御意にございます』

  

  

 よくある某大作スペースオペラ映画風のラスト

 赤いじゅうたんの両サイドを衛兵が守り。

 各国恒星間代表が集まる中。

 古代提督も見守っている。

 楽隊の音楽が流れ。

 赤じゅうたんを進む女海賊アルサ・ミエルとその一向。

 メグレ局長など、苦々しく見詰める者もいる。

 南銀河のミュータントを守った英雄として賞賛する者もいる。

 不貞の輩であるはずの女海賊アルサ・ミエルとその一向は、不適に微笑みながら、

 ラストを飾る。

  

  

 そして、白色彗星ラグナロク要塞は、地球連邦 アマテラス衛星の軌道を回って初仕事。

 結局、航路の安全を確実にするのならとラグナロク要塞株式会社に依頼され。

 ラグナロク要塞株式会社は、東銀河でミュータント回復のための研究もできる美味しい計画もある。

  

  

 アルサ・ミエルは、戦争を未然に防いだ稀代の英雄として地球の式典に呼ばれる。

 軍人たちは、戦わずにホッとしている者と、拍子抜けしている者がいる。

 アマテラスの展望ラウンジ

 アルミ・サエル、モアブ。

 「すべて世は、事もなし。か・・・・」

 モアブは、トマトジュースのストローを銜え、のんびりとラグナロクを見詰める。

 「モアブ君は退屈?」

 アルサ・ミエルは、紅茶を含む。

 「・・・少しね」

 好き好んで恐怖の対象のそばにいるのは、アルサ・ミエルぐらいだ。

 少なくとも殺されるかもしれない、という刺激がある。

 彼女にそういった刺激を与えてくれる者は少ない。

 一方、モアブを殺せる者は、この宇宙に存在するだろうか。

 モアブと比べればアマテラス軌道を周回している白色彗星ラグナロク要塞が玩具に思えて仕方がない。

 全知全能が服を着てトマトジュースを飲んで、くつろいでいるようにも見える。

 『・・・・暇潰しに地球を破壊しなければいいけど・・・・・・』

  

  

 白色彗星ラグナロクを傭兵で雇った地球連邦艦隊は、暇でしかなかった。

 
地球連邦第18機動部隊 + ヤマト
地球連邦 ガルマンガミラス帝国 白色彗星帝国 暗黒星雲帝国 ボラー連邦 ディンギル
ヤマト 1 中型空母 2 ゴルバ 1 大型戦艦 1 ディンギル戦艦 1
大型巡洋艦 2 戦艦 1 中型戦艦 1
ベガ型巡洋艦 12 中型巡洋艦 2 バルコム

航空戦艦

2
高速空母 1 巡洋艦 5 巡洋艦 3
デストロイヤー 12 駆逐艦 4 護衛艦 5 駆逐艦 4 駆逐艦 4
機動艦 40
コスモドラゴン 36 コスモタイガーX 36 コスモタイガーX 140 コスモドラゴン 200 コスモタイガーX 80

  

  

 12惑星連合シャイブル

 スゴシュ貿易商の宇宙貨物船ユリアス号から降りる一団。

 須郷ナオキと腕を組んでいるのは、アルサ・ミエル。

 『まあ・・・ガキの嫌がらせだろう・・・』

 好奇な目が集中していく。

 海賊の一団も後ろからゾロゾロ・・・・

 ミュータント系からの賞賛と歓声の嵐。

 日陰者の宇宙海賊が英雄で人気者。

 アルサ・ミエルは、今回の事件で戦艦一隻を建造できるほど、資本を持っている。

 身の丈が大きくなったアルサ・ミエルの買い物。

 脆弱なディンギル水雷母艦でなくても、いいことになる。

 「アルサ・ミエル。とりあえず。地球に向かう航路で、これといった船は、手を打っておいた」

 「なにを買うっかなあ〜」

 「ガルマンガミラスで購入しないのであれば、ここで買うのが一番だろうな」

 「そうねぇ〜♪」

 格納庫に並ぶ・・・・軍艦・・・貨客船・・・武装商船・・・・・

 南銀河の盾。

 ジャイブルだけあって、新旧揃って軍艦の品揃えもいい。

 費用対効果で一番良いのは、地球・イスカンダル艦の輸送艦。

 波動エンジン装備艦で、発見されやすい弱点がマイナス。

 費用対効果で怪しいのだが大型格納庫を持つボラー艦、ディンギル艦、黒色艦。海賊の船として優れている。

 しかし、アルサ・ミエルは物を奪うより情報を奪う。

 アトラス(白色)系の艦艇は、南銀河だとメンテナンスが良いが格納庫は小さい。

 ガミラス艦は、さらにコンパクトで放射能ばら撒き。

 本来、海賊業に向かないなのだがアルサ・ミエルにとって問題無し。

 「・・・きゃー! 素敵」

 「あれ、ガルマンウルフよ。ガルマンウルフ・・・よく流れてきたわね」

 「シャイブル機動部隊が以前、捕獲したもので修復したらしい」

 「しかし、少しばかり潜航に難があるので、こちらに降ろされたものだ」

 「役に立たないの?」

 「まぁ 蛇の道は蛇だから・・・改ざんして安く仕入れた」

 「ふ〜ん・・・ハイパー・ディラックエンジンに換装で・・・」

 「次元潜航レベル・・・80・・・悪くはないわね・・・」

 「いまさら、隠れて次元潜入ということもないだろうがね」

 「まあ。ただの貿易船でも十分に商売になりそうね・・・・」

 と乗ってきた貨物船を見る。

  

 アルサ・ミエルは不正腐敗を粗捜し、脅迫で生業を立てている。

 適度に社会が腐っていればよく。

 腐り過ぎてしまうと不正腐敗を暴いても金にならないのだから、その辺のサジ加減が微妙。

 軍艦の優劣にこだわる必要はなく、目立たない高速の武装商船でも十分といえる。

 もちろん、まっとうな貿易商人になる、という選択もある。

 今回のラグナロク事件の顛末は南銀河全域に知られており。

 その気になれば、海賊から通常の貿易商人としてもやっていけるだろう。

 元々、アルサ・ミエルの海賊扱いは巻き込まれ人生で情状酌量の余地があった。

 今回の事件で、賞金首リストから抹消されている。

 軍艦を撃沈した国を除けば自由に入出国ができる国は増えている。

 もっとも、不自由でも出入りするのが海賊アルサ・ミエルだが・・・

 つまり彼女を捕まえても報奨金が出ないことで安全性が高まる。

 南銀河は、安全な宙域ではないが同時に無駄なリスクを負う人間はいない。

 警戒される軍艦より。

 高速武装商船がいいような気もする。

 戦艦や巡洋艦クラスになれば襲撃される可能性は、ほとんどない。

 しかし、同時に維持費が高い。

 このクラスになると、輸送業だけでは採算がとれず。

 どこかの恒星系の傭兵艦か、海賊を兼業するしかない。

 もっとも、ラグナロク要塞の大株主であれば、配当金次第。

 戦艦で銀河系を遊弋することもできるだろう。

 しかし、それは、あくまでも配当金次第だった。

 「あれにするわ」

 「・・・・・・・」

  

  

 須郷ナオキは、ぼんやりとその軍艦を見上げる。

 暗黒星雲帝国が地球を占領した折。

 地球側で迎撃した無人艦隊があった。

 コントロールセンターが破壊。

 無力化された艦隊。

 その性質上、外宇宙での作戦は考慮されておらず。

 恒星系内での運用しか考えられていない重モニター艦。

 しかし、外宇宙戦艦と戦える機関は、外宇宙戦艦と同じ機関が必要で、

 紛れもない外宇宙航行用の波動エンジンが装備されている。

 無駄に見えて無駄でないのは、人間の居住空間が無いだけ。

 宇宙船にとって人間の居住空間は、それだけ贅沢なものだった。

 研究用として南銀河にまで流れてきたものの、

 結局、手におえないと、置き去りにされている。

 解体寸前の新中古品に近く。トン売りさせられる。

 コントロールシステムが存在し、

 地球人のアルサ・ミエルなら、面白い使い方も出来た。

 結果的に、かなり安く買い叩かれてしまう。

 発見されやすい波動エンジン装備の軍艦で何をするのだろうか。

 元々、機関製造に金のかかる波動エンジンは、維持費が安く済む。

 既にあるものなら。費用対効果で割安。

 しかし、格納庫が小さ過ぎて海賊業も、輸送業も。赤字間違いなし。

  

 そして、アルサ・ミエルは、地球の無人艦隊コントロールシステムを持っていた。

 どうして持っているかは聞かないでおこう。

 一世紀前の代物だが彼女は、安い買い物をし、眠れる獅子を起こしてしまう。

 ディンギル水雷母艦サクラは強力な用心棒を得た事になる。

 もっとも、無人艦のコントロールシステムを組み込むため水雷艇を降ろしていく。

 不便になるか、便利になるかは、使い方による。

 危機に陥った時は、この無人戦艦を盾にスタコラ逃げることもできた。

  

 全長300m×全幅40m 100000トン。

 艦首波動砲×2門

 衝撃砲(ショックカノン)三連装×2基6門

 衝撃砲(ショックカノン)連装固定式4基8門

 艦首ミサイル(魚雷)発射管8門

 連装パルスレーザー砲12、計24門

 100年前の新中古物で柔軟性が無いだけで、

 攻守とも、初代アンドロメダ型を凌ぐ重戦艦。

 こいつと正面から撃ち合う指揮官がいるとすれば、バカか、素人。

 「さすが、重武装無人艦ね」

 「年代的に性能が半分くらい目減りしているけど。カタログ通り凶暴ね」

 「少なくとも、まっとうな海賊は寄り付かないだろうね」

 「弱点は人が生活するスペースが無いだけだ」

 ロボット艦の自律制御機構は、ONにして、開き直って使えば使えるだろう。

 部品を取り替えて、今風に改良していく。

 さらに、地球製の蒼龍(強行偵察型)を艦橋兼居住空間代わりに取り付けてしまう。

 これだと、かなり柔軟な運用が可能になる。

 しかし、主砲一斉射撃の衝撃で破壊されないよう、

 撃つ前に離脱させた方が良いだろう。

 さらに、いくつかの買い物をして・・・

 まぁ いいけど・・・・

  

  

 サクラと護衛の無人戦艦 “ヤシマ” が、12惑星連合シャイブルから離脱していく。

 アルサ・ミエルは、ヤシマの自律システムの優先順位を決めていく。

 アルサ・ミエルの利益。

 次点をサクラの利益。

 次をヤシマの自衛プログラム。

 暗黒星雲帝国に攻撃されたとき、

 無人艦隊は、これに地球や他の惑星、施設、住民、艦隊運動など、

 パラメーターが増えて複雑化していた。

 それで自律コンピュータで稼動できず、

 センターで一括コントロールしていたのが仇になっただけ。

 これで強力な用心棒ヤシマを従えた水雷母艦サクラが出来上がり。

 もっとも、管制コントロールを離れた場合のパターンは、柔軟性に欠けるものの、

 当時より数十倍ましといえる。

  

  

 銀河系中央域は、光の宇宙、

 ガルマン・ガミラス帝国

 光の宇宙は、視界が悪いのが常識で加速も制限される。

 で、効率が良いのが小型艦や水雷艇の数に任せた波状攻撃。

 ガルマンガミラスで小型のデストロイヤー艦が主力なのも、

 光の宇宙で長距離砲撃が困難であるからといえる。

  

 デスラー総統後のガルマンガミラス帝国は、共和体制に移行して穏健政策が執られていた。

 アルサ・ミエルがガルマン・ガミラス勢力圏に入ったのは仕事。

 南銀河の一角に突然、現れた新勢力。ラグナロク要塞の売り込みも兼ねていた。

 対ボラー戦線向けに配備されれば安定収入でアルサ・ミエルの配当金も安定する。

 南銀河域のガミラス国境警備艦隊に航行目的と目的地を報告。

 サクラとヤシマが警備艦隊の脇をすり抜けていく。

 「久しぶりですね。ガルマン・ガミラスは・・・」 ガードベルト

 「懐かしい?」

 「・・・どうでしょう。父も母も南銀河出身ですから」

 「とりあえず。シュヴァルツヴァルトで一休みね」

 南銀河の暗礁域シュヴァルツヴァルトは、光の宇宙でも、さらに暗礁が多く。

 宇宙船にとっても高速の宇宙戦闘機にとっても、最悪の宙域。

 南銀河の暗礁域シュヴァルツヴァルトは、攻守とも、ガミラス艦。

 いや、適度な速度と適度な大きさで、打撃力のある水雷艇やドメラーズ2世が有利な宙域。

 旧時代のアトラス宇宙軍が、この宙域に入り込んでは、壊滅させられていた。

 柔軟性に乏しいヤシマが、あまり警戒されない。

 というより、カモにされかねない宙域。

  

  

 そして、ガルマン・ガミラス帝国でいう、不逞の輩の多い宙域。

 大帝国とはいえ、共産主義ではないのだから国民一人一人の生活を保障しているわけではない。

 勝手に生活させて最大公約数で税金を納めさせていた。

 不逞の輩は、公共福祉の癒着とか、設備投資の上澄みとか、

 かなり怪しい職業で生業を立てる。

 むろん、弱者から奪う者もいれば、アルサ・ミエルの様に体制側を脅迫し、

 利銭を稼いでいる者も混在している。

 どちらも悪党なのだがアルサ・ミエルの方が、より目の仇にされやすい。

 義賊と思われる節もある、

 結局、シワ寄せが弱者にいくので単に性格的なもの、得意不得意の違いだけ。

 とはいえ、扶養海賊を抱えた女海賊アルサ・ミエルの舞台は、宇宙より開発惑星にあった。

  

  

 ゼーブック恒星系 第3惑星

 ヤシマを暗礁域に待機させるとサクラを惑星に降下させる。

 開発惑星独特の荒々しさは全銀河共通で、ガルマンガミラス帝国も変わらない。

 一攫千金を狙ってアウトローが入り込む。

 アルサ・ミエル。ガードベルト。SPアンドロイド4体。

 星が密集しているせいか、夜も、それとなく明るい。

 「いいわねぇ〜 不正腐敗の臭いが、ぷんぷんするわ」

 惑星開発は、莫大な資金と資材が投入される。

 当然、利権にありつこうとする勢力が暗躍し、

 既得権益を守ろうとする勢力と衝突。

 アルサ・ミエルは、そのどちらともライバル関係になってしまう。

 「・・・・あまりのんびりしていたら、地球での歓迎式典に間に合いませんよ」

 「行きがけの駄賃よ。まだ、配当金がどうなるかわからないんだから」

 「紙切れにならなければいいんですがね」

 ガードベルトは、ラグナロク株式要塞の財務諸表を検分している。

 「・・・ヤシマに引っ掛かってくれたらいいけど」

 「最近の暗礁域シュヴァルツヴァルトは、世知辛くて損益収支で目聡いですから、トントンですよ」

 「まぁ 駄目元よ」

 「・・・そんな・・・投資しているんですから・・・」

 女海賊アルサ・ミエルが愉快そうに微笑む

 そして、シュヴァルツヴァルト宙域の悪徳を信じ、

 それとなく情報をリークしていく。

  

  

 有名人が現れたのを知ると、体制派も反体制派も動き出す。

 もちろん、自分から動き出すようなことはしない。

 無駄なお金を使わず。自らの手を汚さず。

 他の勢力に情報をリークして勝手にやらせると足が付かない。

 体制、反体制、どっちが煽ったか、けしかけさせたのか、十数人が追跡してくる。

 どうなろうと、知ったことじゃない連中。

 利用され使い捨てにされる無知なローカル山賊。

 人気のない開けた場所に来ると・・・・・・

 「はぁ〜 アルサ・ミエル。囲まれてしまいましたね」

 「馬鹿な連中・・・・」

 アルサ・ミエルとガードベルト。

 そして、アンドロイド4体に向け、

 四方八方からレーザーが集中する。

 オーラドライブで射線が狂わされ。

 遮蔽装置で頭上に滞空させていたスカイボートがビームを拡散、無力化させる。

 コアチタンの剣が一閃。レーザーを受け止める。

 「アルサ・ミエル。そういうこともできるんですか?」

 「なんか、映画みたいですよ」

 「ふっ 一度、やってみたかったのよね」

 気で射線を好きな場所にも向けられる。

 合図を送ると上空を滞空させていたSPスカイボートが機銃掃射を開始、

 誘い出されたローカル山賊は壊滅していく。

  

  

  

 シュヴァルツヴァルト宙域 シャルバート教支部

 シャルバート教も地域色があり、

 地域が違えば歴史も違い。教義も違いが出てくる。

 「・・・困ります」

 警備員の言葉にアルサ・ミエルは憮然とする。

 「・・・・・・・・」

 アルサ・ミエルだけが入り口で差し止められ。

 ガードベルトとアンドロイド1体は、晴ればれと手を振って奥殿に入っていく。

 この世には、女人禁制という場所がある。

 女は、不浄らしい。

 ヤシマの衝撃砲をお見舞いしてやろうかしら・・・・・・

  

  

 宗教関係は、一旦、内部に入るとセキュリティが甘く、

 それでいて重要な情報が転がっていたりする。

 有力者の会合するクラブも情報を集めていく。

 後は、集めたパスワードやら複製した物を使って、

 地方の官僚組織から中央の行政組織に入り込んでいく。

 不自然で作為的な金の流れを追い、利害関係から証拠を掴んで抑えていく。

 一度、生殺与奪を握れば、あとは流れを我田引水で都合のいいように運んでいく。

 重要なのは欲張らず、上澄み、上澄み。

    

 アルサ・ミエル雑居区画の土地を買う。

 後から圧力をかけ、工業区画に変更させ、

 幹線を通すプロジェクトに組み入れる。

 後は、叩き売るだけで、結構な金が流れ込む。

 そして、それが弱みになって、

 次の金儲けに繋がり、

 それを繰り返して、勢力を増殖していく。

 基本的に広く浅く儲ける。

 儲け過ぎると足が付いて利権構造。

 ネットワークを失ってしまう。

 アルサ・ミエルがパートナーで組んだのはカール=ハインツ財団だった。

 欲張りすぎてはいけない。

 ガルマンガミラス帝国に自分の人脈ネットワークを作り、

 地元に利益を配分しつつテリトリーを構築していく。

 味方が大きくなると利害関係も大きくなっていく。

 既存勢力と衝突が大きくなり、

 足の付かない傭兵から私兵が投入されるまで、抗争が大きくなっていく。

 組織同士が大きくなっていくと、

 中立の地元警察も巻き込んで抗争が拡大。

 歯止めが利かなくなり、次第に血生臭くなっていく。

 ゼーブック恒星系 開発第3惑星ベアハルデ大陸を二分する抗争に発展していく。

 勝った方がベアハルデ大陸の主導権を握れる。

 負けると淘汰されてしまうため本気になっていく。

 衝突で余計な支出が増えていくと、

 利権の上澄み分にまで目減りしてしまう。

 アルサ・ミエルは、少しばかり憂鬱に事の成り行きを見守る。

 「・・・どっちが有利かしら」

 「・・・相手側ですよ。ナイトハルト財団」

 「カール=ハインツ財団は危機的ね・・・・・・・動きは?」

 「動くとすれば・・・・・そろそろでしょう」

 アルサ・ミエルは、ニヤリと微笑む。

  

    

  

  

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香 です

 第2部は、第21話から始めます

 主役も、宇宙戦艦ヤマトから宇宙海賊アルサ・ミエルに変更です。

 女海賊アルサ・ミエルは、要塞ラグナロクの大株主になってしまいました。

 経常利益があるのかないのか・・・・・

 というわけで、地球の流れ者、アルサ・ミエルの海賊稼業は、続きます。

  

 

 

  

誤字脱字・感想があれば掲示板へ

第13話  『ライジングウェー』

第21話  『女海賊アルサ・ミエル』

第22話  『修羅の・・・・』

登場人物 恒星間国家群 独立恒星系群 銀河勢力図