『リアライズ』プレイ日記
リアライズ
PLAYM / 2004年04月23日発売 / Windows98・Me・2000・XP対応ゲーム / 18禁 [amazon購入ページ][ゲーム概要]
『雫』『痕』『To Heart』で美少女ゲームの世界に革新を齎した高橋龍也・水無月徹のコンビが久々に復活! 新規ソフトハウス、PLAYMを立ち上げての新作は、“エゴ”を実体化する能力を身につけてしまった若者たちの葛藤を描いた、ドラマティックなAVG。
- 2004/04/24
- 唐突かつ牽引力抜群のオープニングが良。ただ、幾ら視点人物が入れ替わると言っても、予告もなしに入れ替わるのはどうか。最近、わたしはこの手の安易な視点切り替えをどうにも受け入れられなくなってます。
画面半分にスモークをかけてそのうえに文章を表示させる半ビジュアル・ノベル風の様式に、一般的な立ち絵と一緒に会話に関係する人物の首から上を表示させるという画面構成がちょっと特異だが、その他はオーソドックスなAVGとなんら変わりなく、馴染みやすい。
始める前に薄々感じていたとおり、方向性としては『痕』以前の作品に近いが、文章の呼吸がこなれていて、まだほんとーに頭のほうだとは思うが、今のところ変に間延びしたところもなく、安心して遊べます。あとは、あの唐突な視点切り替えが少なければいいんだけど、と思いつつ、ほとんど何も起きていないところで本日は切り上げまちた。- 2004/04/25
- ……ほとんど進行せず。だって本当に眠くて眠くて。
その僅かな進展状況で、思いっきり意外な展開があった。なかなか「何をさせたいのか」が見えてこない代わりに、謎の鏤め方が巧く、当面は飽きそうにありません。- 2004/04/26
- 昨晩もあんまし進展ありませんでした。別に展開が遅いのではなく、わたしがちんたら遊んでいるだけです。いちおう、初めてメインキャラクターが戦闘に巻き込まれるところまで進みました。なかなかの迫力。“エゴ”というモチーフを軸とした物語が終盤どう展開するかは、なんとなく既に読めているような気がしますが、それはそれとして充分に面白い。
ただ、これはかなり最初の頃に気づきながら書かなかったことですが、BGMがちょっと騒々しい。曲のセンスは悪くないと思うのですが、BGMとしては少々、鳴りすぎている。台詞の読み上げがないからこのくらい大きくても許容範囲だろう、ぐらいの判断があったのかも知れませんが、それにしても時々鬱陶しくなります。あくまでわたしの感じ方ですが。気分を高揚させる必要のある戦闘シーンはさておき、日常や雰囲気のある場面では音数を減らす、音量を絞るなどの配慮があって然るべきでしょう。安手のドラマじゃないんだから。- 2004/04/28
- ……うあー、長い。そもそも答のない戦いを強いられているわけで、それだけで息苦しいものがあるのに、同じような状況を背負わされた主要人物何人もの心理描写をいちいち見せられるので余計に長いわしんどいわ。攻略チャートを作る、とかそういう理由があるのでもない限り、まともなプレイヤー(というか読者)ほどにしんどい思いを味わわされます。
設定がよく考えられていて、掘り下げ甲斐のある話だけに……こういうスタイルで提示するならもっと息抜きできる場所が欲しい。きつすぎます。昨晩からは別の、今のところギャグ飛ばし放題なゲームと並行しているので、まだわたしにとってはましかも知れませんが。
出来ればケとハレの区別はつけて欲しかったなー、ということだけ指摘して以下次回。- 2004/05/05
- 久々にちゃんと膝を突きあわせて話を進めてみた。ただ、もういい加減しんどくなってきたので、攻略ページを参照して先の長さを測りつつ。
で、どうにかふた廻りほどしてみたんだが……纏まりが悪い。特に結論が出ることもなく、どっちらけで話が終わっている。まさに漫画の週刊連載打ち切りのような格好で、何が原因でここで切られてしまうのか、そもそも話をどこに持って行きたいのかまるで解らずもやっと感だけが残る。色々と面白そうな伏線を撒き散らすだけ撒き散らして片づけずにさようなら、では物語としては当然ながらゲームとしては駄目すぎる部類だと思う。
ただ、世界観の提示がひととおり済み、メインキャラの松浦亮がエゴ同士の抗争に何らかの形で関わるようになってからの、エゴという現象の解釈や戦闘の雰囲気は面白くなってきた。そのお陰でどうにか楽しめるのだが、そう考えていくと戦闘場面などで選択肢がひとつ、良くても二つ三つ程度しかないのは、そうでなくてもプレイヤーの関与しづらいシナリオゆえ、あまりにも物足りない。同時期に発売した『CLANNAD』と比べてみると、傍観者気分が強すぎていまいち感情移入が出来ない。話の緊密さに置いても娯楽性においても、『CLANNAD』と比較してかなり劣っている印象。
これだけ遊んでみてようやく気づいたが、この作品、要は『雫』の世界観の拡大再構築らしい。普通の人間にとっては不可視の、だが絶大な力を備えた若者。それを伝達するための、常識の範疇から外れたコミュニケーション。なるほど、こういう形でやってみたかったのか、と頷けるものはあるのだが、だとすれば『雫』と比べて纏まりが悪すぎる。あちらはどのシナリオにおいてもいちおう決着はしているのに、こちらは結論も結果も出ないまま、というものが多い。エピローグ的に登場人物のモノローグをだらだらと並べられても、首を傾げるだけだ。半端に陽気なだけのエンディングテーマも不釣り合い。
何度か繰り返しているうちに、ひとまず何らかの終点には辿り着くようだし、前述の通りエゴのデザインや戦闘は面白くなってきたので、まだ遊ぶ気はありますが、作品としての評価はかなーり低めです。文章はこなれているしキャラクターは立っているしシステム・CGは良好、音楽も若干煩いが創意はある。悪いのはシナリオの構成とテーマの醸成だけ、なんですが、それがけっきょく致命的なんだなあ。- 2004/05/06
- 終わった……らしい。少なくとも、CGは確かに100%になった。結局、最後まで纏まりの悪いままだった。
作者のやりたかったことは何となく察せられる、昨日の日記で触れた『雫』の拡大再構築もそうだが、関わる人々をなるべくまんべんなく描いて、それぞれのエゴ(価値観、と言い換えてもいい)の立脚点とその対立、最後に戦うべき人物(ちなみに私の予測は外れてました)の信念そのものをプレイヤーに納得させ、その解決しない戦いを表現しようとしたのだろう。
そう考えていくと、決して失敗はしていない。寧ろ、場面ひとつひとつの構成やそれを描写する力はこの業界では最高レベルにある、と断じる。が、しかし。総体としては、物語としてもゲームとしても納得のいく水準ではない。
あまりに放り出した要素が多すぎる。いちばん顕著なのは、亮に最初に挑む男だ。猪突猛進型、対象の事情など考慮することなく破壊と収奪の限りを尽くす典型的に愚かな悪役だが、ある時点から彼の内面を描き、背景(特に、彼自身が恐らく壊されたくないと思っているもの)についても見せてしまっている。しかし、彼については何の決着も示されていない。
亮についての選択肢で正解を辿っていけば、基本的に同じ最後の対決に辿り着き、微妙に内容は異なるものの何らかの結末を迎える。だが、そのどこにも前述の男の姿はない。最後の対決の影響から彼が免れうる確率は低く、確かに必要はないと言えばそうなのだが、あそこまで描いておきながら放置するのはキャラクターにとっても、プレイヤーにとっても誠実とは言えない。あれなら描かない方がまだましだった。――或いは、私や各種の攻略サイトが、CGがないとして拾わなかった分岐のいずれかに、彼の顛末を描いたものがあったのかも知れないが、ならばその兆候ぐらいはプレイヤーに示すべきだし、それ以前に本筋に絡む形で締めることだって出来たはずだろう。
マニュアルによれば、選択如何でエゴ同士の強度を顕すマグニチュードにも影響を及ぼす、とあるが、少なくとも現れた分岐を眺める限り、総体でほとんど違いがあったとは思われない。あったとしても、それが新たなCGの発生やまったく位相の異なる展開に結びつくのでなければ、単位は概念としての意味しか備えない。つまり、ゲームの中ではほとんど影響しないものであり、マニュアルのその解説自体が不必要だ。
主要キャラのエピソード――特に本編を18禁のゲームとして成立させている部分の扱いについても疑問が残る。宮路沙耶についてはかなりの説得力があり、芦田 蛍にもそれなりの必然性があったが、あとの二つはどうか。あまりに取って付けたような感はないか。確かに、ああいう描写にもしうる場面であったし、それが独特の余韻に繋がっているのも事実なのだが、各キャラたったひとつのエッチシーンがこれだけというのは問題だろう。キャラクターの個性が揺らぐし、何よりそれぞれのキャラクターに対して失礼だと思う。特に、稲葉 倫のそれなど――ああいう立場にいられるのは間違いなく本編で彼女ひとりなのだけど――あまりに背徳感が強すぎる。しかもそれが最後の展開に大きく影響を及ぼすのだから、余計に、だ。
そもそもエゴの能力は物語を残酷にも醜悪にも淫靡にも作り替えうる素材である。実際、画面にグラフィックとして登場することもなくあっさりと消されてしまうキャラの中にはそれを仄めかすような言動も幾つかあった。どうせ18禁にするならそういうものを――それこそ主要キャラの目線と立場で描いたって良かったのだ。そうすれば更に物語を奥深く、混沌としたものにすることが出来たはず。
そうしなかったのは、これ以上のキャラクターの乱立で物語を破綻させたくなかったからとも考えられるが、破綻する以前に、選択肢のあるゲームにしては異様に分岐が少なく分岐の原因が解りにくい場面が多く、そもそもその数少ない大綱が明快な決着に至らないのでは、ゲームとしても物語としてもカタルシスをもたらせるはずがない。
個人的に、ゲームとはプレイヤーの行動(選択)に対する反応、或いは報償があって初めて成り立つものだという主張がある。最近は一歩下がって、ほとんど報償がなかったとしても、すべてが決着したあとに何らかの大きなカタルシスが齎されるなら、ゲームという表現様式として認めてもいいんじゃないか、という考えに傾きつつある。
だが本編は、どちらの観点からも満足な報償があったとは思えない。どこかで「続編を念頭に置いているような」といった趣旨の批評を目にしたが、私の考えは逆だ。そういう意味では、これ以上発展させられるような話ではない。だからこそ――プレイヤーが選ぶ余地のない、主要キャラクターひとりひとりに別の結末が提示されることのない本編を高く評価することは出来ないのだ。
文章、キャラクターの完成度、グラフィックについては文句がない。システムでは環境設定が特定の場所でしか行えず既読文章のスキップが面倒くさかった(キーボードにショートカットを用意するべきだった)など、音楽についてはやはり一部騒々しすぎるといった問題が見受けられたが、遊ぶ意欲を妨げるほどではなかった。だからこそ尚更に、キャラクターそれぞれのシナリオの薄さ、分岐の乏しさ、結末の少なさと曖昧さ――物語として、ゲームとしての存在意義を為す(と私は信じている)箇所のいい加減さが苛立たしかった。作品のコミカルな面を一身に請け負い気の毒だけど愛らしい役回りだった蛍、登場場面は多くないのに不思議なほど爽やかな印象を残す倫、間違いなく狡猾な悪党だが妙に憎めず、最後には無邪気とも言える変化を見せた麻生春秋――といった具合に、個々のキャラクターは非常に完成され、魅力的だった。だからこそ、彼らをもっと物語の中で活かして欲しかった。
物語のテーマもまた秀逸だと感じる。場面ひとつひとつの完成度も高く評価する。それだけに、この物語としての纏まりのなさは肯んじがたい。要素ひとつひとつの出来は認めた上で、高橋龍也氏が関係した作品のなかでは失敗作の部類に入る、と断じる。