cinema / 『閉ざされた森』

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閉ざされた森
原題:“BASIC” / 監督:ジョン・マクティアナン / 製作総指揮:モリッツ・ボーマン、ナイジェル・シンクラー、ベイジル・イワニック、ジョナサン・クレン / 製作:マイク・メダヴォイ、アーニー・メッサー、ジェームズ・ヴァンダービルト、マイケル・タッドロス / 脚本:ジェームズ・ヴァンダービルト / 製作総指揮補:ブラッドレイ・J・フィッシャー / 製作補:アンディー・ギヴン、ルイス・フィリップス / キャスティング:パット・マッコークル / 音楽:クラウス・バデルト / 編集:ジョージ・フォルシーJr.、A.C.E. / 衣装デザイン:ケイト・ハリントン / 美術:デニス・ブラッドフォード / 撮影:スティーヴ・メイソン、A.C.S.、A.S.C. / 出演:ジョン・トラヴォルタ、コニー・ニールセン、サミュエル・L・ジャクソン、ジョヴァンニ・リビシー、ブライアン・ヴァン・ホルト、テイ・ディッグス、クリスチャン・デ・ラ・フエンテ、ダッシュ・ミホック、ティム・デイリー、ロゼリン・サンチェス、ハリー・コニックJr. / 配給:Sony Pictures
2003年アメリカ作品 / 上映時間:1時間38分 / 字幕:戸田奈津子
2003年09月13日日本公開
公式サイト : http://www.tozasareta.com/
丸の内東映にて初見(2003/09/20)

[粗筋]
 ハリケーンの訪れた夜、パナマ奥地にある森林へと演習に向かったレンジャー部隊が姿を消した。最後の連絡から七時間後、探索に訪れたヘリが発見したのはわずかに三人、しかも一人は気を失って担がれ、残るふたりは味方同士での撃ち合いを演じていた……
 この不可解な事件の調査を命じられたのは、尋問官として基地に赴任していたジュリー・オズボーン大尉(コニー・ニールセン)。彼女は傷付いたひとりを担ぎ、残る一人と撃ち合いを演じて生き残った兵士に事情聴取を行うが、その男は「他のレンジャーになら話す」と口を閉ざし続ける。業を煮やした基地の責任者スタイルズ大佐(ティム・デイリー)は、かつてレンジャー部隊に所属し、いまは麻薬取締官=DEAだが収賄の疑いから謹慎中だったトム・ハーディ(ジョン・トラヴォルタ)を呼び寄せる。
 オズボーンは不快を露わにするが、ハーディの手管は本物だった。オズボーンさえ利用する巧みな弁舌で、兵士の口を開かせる。男が語りだしたのは、ハーディ自身かつてしごかれたことのある鬼教官ネイサン・ウエスト軍曹(サミュエル・L・ジャクソン)と、彼の配下との確執だった――
 食い違う供述、嵐のなか遅々として進まない捜索。果たして、パナマの森のなかでいったい何が起きたのか……?

[感想]
 これ以上細かくは書けません。
 まさにミステリ愛読者に捧げる映画といった趣である。現場はハリケーンに巻きこまれた森のなか、捜査する側は現場の状況を確認することの出来ない状況で、基地と病院を往復して数少ない関係者の証言を元に推理を積み重ねねばならない。先に公開されたブライアン・デ・パルマ監督の『ファム・ファタール』と異なり、登場人物があからさまに推理小説への造詣をひけらかしたりはしないが、その舞台設定といい繰り返されるどんでん返しといい、近年記憶にないほど徹底した推理ゲームが展開する。
 推理ゲーム、というよりは、新事実を提示する順序に工夫を凝らし、ひたすら観客の意表を突くことに腐心した作品と言うべきだろう。どのくらい徹底しているかというと、やりすぎて動機の所在と手段の全貌がよく解らなくなってしまっている。きちんと理解するためには二度・三度と見返さねばならないが、反面そのことを踏まえて、一度目でも充分な衝撃を与えられる結末の作り方をしている点は評価できる。
 プロットが強烈なぶん、奇を衒った演出がないのも好感触。供述に基づいた回想シーンを織り込みながら、関係者の人間像をじわじわと浮き彫りにしていく。ハリケーンという気象状況が形成した特殊な閉鎖環境が、物語の焦燥感を強めていることも指摘しておこう。
 強いて欠点を述べるなら、物語として感情移入する対象がはっきりしない――小説であれば間違いなくコニー・ニールセン演じるオズボーン大尉が視点人物になるはずだが、序盤から参戦するジョン・トラボルタの大仰だが確実な演技が印象的すぎて、やや焦点が散漫になってしまった。また、記憶だけでひとつひとつを検証するのは困難だが、かなり取り漏らした伏線があるようにも感じた。再構成すると、動機にも結構な無理が見つかりそうに思う。
 が、全編に漲る緊張感と、繰り返されるどんでん返し、そして意外にも爽快極まる結末まで含めて、見応えのあるミステリに仕上がっている。一般人にとって馴染みやすいかどうかは微妙だが、ミステリ愛好家ならば見ておいて損はない。少なくとも、同好の士との話題には打ってつけとなるはずである。前作『ローラーボール』のあんまりな出来から不安を抱いていたが、やるではないかジョン・マクティアナン。
 原題の「Basic」は「本能」の意。作中である人物の言葉に織り込まれて登場する。あのタイミングでこの単語が出てくるあたりもまた絶妙。

(2003/09/22)


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