cinema / 『七人のマッハ!!!!!!!』

『cinema』トップページに戻る
『light as a feather』トップページに戻る


七人のマッハ!!!!!!!
英題:“Born To Fight” / 監督・原作・アクション監督:パンナー・リットグライ / 製作総指揮:ソムサック・テーチャラタナプラスート / 製作:プラッチャヤー・ピンゲーオ、スカンヤー・ウォンサターバット / 撮影監督:スラチェート・トーミー / 音楽:アトミック・クラビング・スタジオ / 出演:ダン・チューポン、ゲーサリン・エータワッタクン、ピヤポン・ピウオン、アモーンテープ・ウェウセーン、ラッタナポーン・ケムトーン、ナンタワット・ウォンワニットシン、スーブサック・パンスーブ、ソムラック・カムシン、サシサ・ジンダーマニー、ノッポン・ゴーマラチューン、サンティスック・プロムシリ、シニー・ナームウォンプロム / 配給:GAGA Communications
2004年タイ作品 / 上映時間:1時間35分 / 日本語字幕:風間綾平
2005年12月03日日本公開
公式サイト : http://www.7mach.jp/
シアターN渋谷にて初見(2005/12/03)

[粗筋]
 国家特殊部隊に所属する若き刑事・デュー(ダン・チューポン)は、先輩・サージとともに囮捜査官として麻薬組織の内偵に従事していた。だがある日、取引先に潜伏していた麻薬組織のボス・ヤン将軍(ノッポン・ゴーマラチューン)の注意を引いてしまったために、想定外の激しい戦闘になる。トラック二台で逃走したヤン将軍を辛うじて捕縛するが、ヤン将軍が最後の悪あがきに起爆させた爆弾のために、サージが犠牲となってしまう。
 失意のなかにあったデューは気晴らしのために、妹でテコンドーの達人であるニュイ(ゲーサリン・エータワッタクン)に便乗して、国のスポーツ省が企画した慰問旅行に同行する。伝説的なサッカー選手・トゥック(ピヤポン・ピウオン)、器械体操のモー(アモーンテープ・ウェウセーン)にトゥクタ(ラッタナポーン・ケムトーン)、ラグビー選手のナイト(ナンタワット・ウォンワニットシン)、警察学校に所属するセパタクロー選手のジョー(スーブサック・パンスーブ)といった、国を代表するスポーツのエリートたちが赴いたのは、タイの国境近くにあるファトンという村である。生活は貧しく、学校の修繕も寄付に頼らねばままならないような有様だったが、人々はスポーツ省の選手たちを暖かく迎え入れる。
 デューもその素朴な空気に触れ、どうにか心和ませていたが、村の女性と話をしていたところを、村長の息子であるタブ(ソムラック・カムシン)に難癖をつけられ、しばし一触即発の状況に陥る。村長の取りなしでその場は事なきを得たが、収まりのつかないタブの仲間たちは、日が暮れてからデューを痛い目に遭わせようと相談を始める。
 だがそのとき、一発の銃弾が、タブの仲間を撃ち抜いた。続いて銃弾の雨が降り注ぎ、村人たちは次から次へと打ち殺され、生き残った人々は一箇所に寄せ集められていく。
 間もなく、タイの国会の席に用意されたパソコンに、その一部始終が流された。襲撃者たちを指揮する男・ローファイ(サンティスック・プロムシリ)の要求は、ヤン将軍を釈放し、明日の正午までに村に送り届けること。首相はまず軍による奪還作戦を遂行させるが、すぐさま察知したローファイはそのたび無慈悲に村人を殺害していく。要求を呑まざるを得なかった。
 その頃デューは、辛うじて組織の目を免れ、倉庫の中に身を潜めていた。脱出して救援を求めるつもりだったが不首尾に終わり、日がすっかり暮れたあとでふたたび行動を開始したデューは、大変な光景を目にしてしまう。ローファイはヤン将軍を奪還したのち、秘かに準備していた核ミサイルをバンコクに放つ計画を立てていたのだ。今後何者も、組織に口出しできぬようにするために。
 敵に発見され、交戦するも打ち倒されてしまったデューは他の村人と共に監視下に置かれるが、核ミサイルを発見したことで正義感を燃え立たせた彼は村人や、彼らと共に囚われの身となったスポーツ省の選手たちを説得する。このままでは村の人間だけでなく、更に沢山の人々が犠牲になってしまう。自分たちの手で何とかしなければならない――折しもラジオから流れはじめたタイの国家が、デューの言葉と相俟って、囚人たちの心を鼓舞した。
 ローファイら組織の幹部たちがヤン将軍の回収に動いた隙に、デューたちは決起する。武装した麻薬組織を相手に、スポーツ・武術の達人たちの奮闘がいま始まる――!

[感想]
 昨年夏に日本で公開された『マッハ!!!!!!!!』の衝撃は未だ記憶に新しい。ストーリーや主演のトニー・ジャーの演技は荒削りながら、スタントやCG、ワイヤー・アクションといった現在のアクション映画で主流となっている手法を拒み、生身で危険な撮影に挑んだその迫力は、アクション映画の愛好家たちを熱狂させた。この作品は日本のみならず世界各国で賞賛を浴び、ちょっとしたムーブメントを齎している。
 本編はそれに続いて発表されたCGなし(実際にはVFXのスタッフもクレジットに表記されていたが、爆発や表現上の加工程度だと思われる)、フルコンタクトによるアクション映画である。監督・原案を務めているのは『マッハ!!!!!!!!』でアクション監督を担当したパンナー・リットグライ、同作で監督だったプラッチャヤー・ピンゲーオも製作として名前を連ねており、実は主演のダン・チューポンも脇役のひとりとして出演していたそうだから、基本精神もそのまま踏襲していると考えていいだろう。
 だがそう聞くと、二匹目のドジョウ狙いではないのか、と穿った見方をしてしまう向きも多いだろう。実際タイトルも広告の仕方も『マッハ!!!!!!!!』を強く意識させるものになっている。おまけに登場人物は武闘家ばかりではなく、サッカーにセパタクローなんてのが混ざっていて、キーヴィジュアルに映っている器械体操選手はレオタードである。どうしたって二番煎じの色物を思い浮かべてしまう人も少なくあるまい。
 しかしこの作品は、まったく二番煎じなどではない。そもそも『マッハ!!!!!!!!』より遡ること約18年に本編の監督が私財をなげうって撮影し、『マッハ!!!!!!!!』の主役トニー・ジャーや本編のダン・チューポンをアクション俳優の道に入るきっかけを作った同題作品を下敷きにしている、というのだからこの表現自体誤解なのだが、『マッハ!!!!!!!!』で示した生身の格闘やスタントの迫力を更に追求し、そのうえ単独のヒーローに縋らない、総当たりの格闘を描くことで、あちらとは趣の異なる興奮を演出している。
 まず出だしからかなり雰囲気が違う。麻薬組織の内偵として時間をかけて接触していた主人公デューとその先輩が、潜伏していたヤン将軍に疑惑を抱かれ殺害されそうになり、突然交戦状態に陥る。18輪トラックを追跡し、その上に飛び乗りながらの銃撃戦や肉弾戦に、住宅街に突っこんでいくトラックやその爆発の強烈さ。迫力はあっても血は流さず、どちらかというと朴訥とした雰囲気を演出していた『マッハ!!!!!!!!』とはまるで印象が違う。
 続く国境付近にある村の慰問では、少しくどい、と感じられるほどその貧しさとのどかさ、そしてアスリートたちやデューとの交流をゆったりと、暖かく描いていく。しかし、そのなかにちゃんとのちのアクションや、物語を動かすためのモチベーションとなる伏線が多数仕込まれており、描写に無駄がないことにあとあとで気づかされる。セパタクローのボールのように見え見えの伏線もあれば、まさかこういう使い方をするとは、という意外性もあって、後半の見応えを醸成する下地ともなっている。
 そして、本編終盤におけるカタルシスで最も重要な役割を果たしているのは、悪役がとことん悪逆非道である点だ。問答無用で村に押し込み、まず多くの人を殺した上でその場面を政府首脳陣に披露し交換条件を突きつける。抵抗の素振りを見せたら即刻人質を容赦なく殺害、そのなかには序盤で心温まる場面を演じた人物も当然含まれている。背景や行動理念が支離滅裂に感じられる部分も多いが、それははなから説明しようとせず、あくまで主人公たちの正義感に火を点ける理由付けに用いているためだろう。
 かくしてお膳立てが終わると、主人公デューの説得によって遂にトップ・アスリートたちによる肉弾戦が演じられるわけだ。凄惨な場面をこれでもか、と見せつけられたあとだけに、観客の感情移入も格別であり、敵を打ち倒していくたびのカタルシスは並大抵ではない。
 主に活躍する登場人物たち――タイトルにある“七人”に数えられているのはいずれも本物のエキスパートたちであるだけに、動きのキレは素晴らしく、フルコンタクトの打撃は本当に痛そうだ。しかしそれ故に、技巧や演出では表現しきれない迫力が映像に刻み込まれている。本来格闘とは関係のないサッカー、セパタクロー、器械体操の選手たちが戦いの場でそれぞれの個性を活かす方法もよく考えられている。無理矢理にねじこんだ、という不自然さはなく、きちんと効果のある攻撃を行っているのだ。特に男子器械体操の選手モーの、建物の屋根から助走をつけて、地上にいる兵士の頭めがけて繰り出す両脚の踵落としなど、受けた人本当に死んでるんじゃないかとさえ思うほどだ。
 中盤から終わり近くまでは果たして誰が主役なのか、と解らないほど多くの登場人物に活躍の場が設けられている。まさかこの人までが、という人物までが素晴らしい格闘を披露しており、その意外性においても見せ場に欠かない。だがやはり出色は、アクション監督でもあるパンナー・リットグライの秘蔵っ子であったという主役ダン・チューポンである。トニー・ジャーのように肉体だけではなく二丁拳銃もライフルも扱い、終盤ではバイクまで駆使してみせる。滞空したまま三人連続で蹴り倒し、ナイフ投げや銃弾一発でふたりを仕留める、という超人技まで披露するさまは、純朴さを売りにしていたようなトニー・ジャーとはまた少し異なった本格派アクション俳優の登場を感じさせる。台詞はあまり多くないが、表情の作り方も悪くなく、仲間たちに決起を促す場面での説得力も充分だった。
 悪漢たちの行動理念にしてもそうだし、最大の危機である核兵器の処理についても僥倖に頼りすぎている、という感は否めない。組織の襲撃以降はあまりに多すぎる見せ場のために、高い位置で展開がフラットになってしまっているのも気に掛かる。しかしギリギリまで緊迫感を保ち、弛むところがないのは見事と言うほかない。
 そしてもうひとつ評価したいのが、エピローグ部分である。ジャッキー・チェンらに敬意を表したプロローグのシークエンスからも察せられる通り、最後は大団円となるわけだが、その過程で多くの死者を出したことを物語は忘れていない。家を失い大切な人を奪われ、そして共に戦った人々との別れも迎えねばならない姿を情感たっぷりに描き、ただ“めでたしめでたし”で終わらせていないのだ。
 徹底的に心理的な伏線を張ったうえでクライマックスに昇華させ、最後には涙腺にまで訴えかけてくる。こんなに心底から“燃える”映画は久し振りである。話の纏まりの悪さという欠点を差し引いても、アクションの満足度という点では『香港国際警察』をも凌駕して今年度屈指の一本と断じる。すげえぜパンナー・リットグライ、すげえぜタイ映画!

(2005/12/03)


『cinema』トップページに戻る
『light as a feather』トップページに戻る