cinema / 『香港国際警察 NEW POLICE STORY』

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香港国際警察 NEW POLICE STORY
原題:“新警察故事” / 監督:ベニー・チャン / 製作:ベニー・チャン、ソロン・ソー、バービー・タン / 製作総指揮:ジャッキー・チェン、アルバート・ヤン、ウィーリー・チャン、ヤン・ブー・チン / 脚本:アラン・ユン / プロダクション・マネージャー:ウェンディ・ウォン、チュー・マン / 美術:ウォン・チンチン、チョー・スンポン、オリバー・ウォン / イメージ・コンサルタント:ブルース・ユー / 撮影監督:アンソニー・プン,H.K.S.C. / 編集:ヤウ・チー・ワイ,H.K.S.E. / アクション監督:ジャッキー・チェン / アクション設計:リー・チュンチー、ジャッキー・チェン・スタント・チーム / 音楽:トミー・ワイ / 出演:ジャッキー・チェン、ニコラス・ツェー、ダニエル・ウー、チャーリー・ヤン、シャーリーン・チョイ、デイヴ・ウォン、アンディ・オン、テレンス・イン、ヒロ・ハヤマ、ココ・チャン、ディープ・ン、ユー・ロングァン、ウー・バイ、リウ・カイチー、Boy'z(ケニー・クァン、スティーヴン・チョン) / JCEムービーズ=中国電影集団製作 / Universal Pictures Japan×東宝東和提供 / 配給:東宝東和
2004年香港・中国合作 / 上映時間:2時間4分 / 日本語字幕:岡田壯平
2005年03月05日日本公開
公式サイト : http://www.hongkong-police.com/
有楽町スバル座にて初見(2005/03/22)

[粗筋]
 香港警察の名物警部・チャン(ジャッキー・チェン)が休職、酒浸りとなった背景には、一年前の大失態があった。
 婚約者であるホーイー(チャーリー・ヤン)誕生日の夜、アジア銀行が襲撃を受けた。ジョー(ダニエル・ウー)を筆頭とする犯行グループは金庫を開けさせるために人質とした銀行員に、自ら指示して警察を呼ばせる。彼らの目的は金品ではなかった――それぞれに何らかの理由で警察に怨みを抱くジョーたちは、現場に殺到する警察官を狙い撃ち、仕留めることを楽しむために犯行に出たのだ。遅れて駆けつけたチャン率いるチームは、先行したサム(デイヴ・ウォン)ともう一名が負傷しただけで済んだものの、警察側の被害は甚大だった。捜査班の指揮を執ることになったチャンは犯行グループを挑発するように敢えて三時間で逮捕する、とマスコミに明言する。
 既に割り出し済だったアジトに突入したチャンとその部下たちだったが、アジトには彼らの到来を待っていたかのように無数の罠が仕掛けられていた。犯人グループたちはチャンを弄ぶように、ホーイーの弟ロッキー(ディープ・ン)を含む九人の部下を彼の眼前で殺害、アジトを爆弾で吹き飛ばし、せめて遺体のみでも救い出そうとしたチャンを残して瞬く間に脱出していった……
 一年を経て、未だに心の傷が癒えないチャンの前に、一人の若者が姿を現した。新任刑事シウホン(ニコラス・ツェー)と名乗った彼は、タイ署長(リウ・カイチー)がチャンの休職を解き、自分を相棒に三ヶ月前に発生した銀行強盗の捜査に就くよう命じたと話す。それでもいっかなやる気を出そうとしないチャンを、シウホンは無理矢理ホーイーのもとに連れ出して誕生日を祝わせ過去を取り戻させようとするが、うまくいかない。
 成り行きで警察署には顔を出したチャンだったが、そんな彼を迎えたのはクワン警部(ユー・ロングァン)をはじめとする同僚たちの冷たい眼差しだった。しかし、シウホンの熱心な説得にとうとう重い腰を上げて、ひとまず自分たちなりの捜査に乗り出す。
 情報処理専門の婦人警官ササ(シャーリーン・チョイ)の協力を仰いで一年前の事件を再検証したチャンたちは、犯行グループのひとりがサムたちと接触する直前、路地裏に侵入する映像ではリュックを担いでいたのに、出てくるときには何も持っていなかったことに気づく。或いはこのとき、サムが何かを目撃していたかも知れない――そう考えたチャンたちはサムとの接触を試みる。
 あの事件ののちに警察を辞し、裏社会に身を投じていたサムは、友人としてなら歓迎するが事件のことはもう思い出したくない、とチャンを拒む。だがチャンは、死んでいった仲間たちのため、これ以上犠牲者を出さないために、と必死に説得する。根負けしたサムは、何故か必死に隠し持っていた物証をチャンに手渡す。それは一風変わったデザインの腕時計だった。
 ササの鑑定で腕時計がXゲーム――極限に挑むスポーツを愛好するグループが身につけているものだと判明、チャンたちはXゲームの集まりが開催されていたビルの屋上に赴く。どうやら犯行グループの一員らしき男を確認したとき、屋上にクワン警部に指揮された警察隊と、彼らに連れられたサムが姿を現す。密かにチャンたちのあとを追っていたクワンは、サム自らに検分を行わせたのだ。サムがひとりの女と目を合わせた――次の瞬間、銃弾がサムを貫いた。

[感想]
 今年やっと、観たかった“アクション映画”に巡り会えた気がする。
 今年一本目に観た『カンフーハッスル』も、久々の重量級『ボーン・スプレマシー』も名作だったが、いずれも望んでいたものとはズレがあった。前者はいわば自己模倣の極致にあるもので、肉弾戦の迫力も素晴らしかったが魅力の核はCGをも駆使した荒唐無稽なアクションである。後者はアクション映画と位置づけはされるがいわゆる人間対人間ではなく、主人公の戦略の巧みさやクライマックスでの写実性を窮めるが如きカーチェイスが見所となっている。いずれもひとつの頂点に達したものだが、私が求めていたものとはちょっと異なるのだ。
 本編はその空白感の、まさにど真ん中を衝いた一本である。のっけから爆発込みの激しいアクションがあり、続いて強盗団による酸鼻を極める銃撃戦。犯人によって翻弄された挙句絶望の淵に突き落とされる刑事、一年後に重い腰を上げるなりいきなり始まる大格闘……見せ場があとからあとから押し寄せてくる、実の詰まった構成がアクション好きの渇を癒ささずにおかない。
 現代アクション映画の礎を築いた香港産の作品だけあって、そのアクションの組み立ては絶妙だ。動きの構成という意味でもそうだが、それぞれのシークエンスへの導入が実に巧いのだ。息を吐く間もなく、と形容したくなるぐらいに勢いはあるのだが、その実観客が一瞬肩の力を抜けるような場面を挟んできちんと和ませ、しかしだれる前に次のシークエンスへと物語を引っ張っていく。適度に休ませながらも見せるところはしっかりと見せる、だから全篇大迫力のアクションばかりだというのに、ただ疲れるだけ、という感想を抱かせないのだ。
 従来のジャッキー作品ではその“間”を支えていたのは“笑い”が多かったようだが(あまり観た作品数は多くないので断言はしません、がとりあえず私の観た範囲では間違いない)、本編ではギャグ以上にドラマが多く挿入され、ストーリー全体は無論のことアクション場面をも引き締めている。チャン刑事のトラウマとなる一年前の事件を残酷な悪夢として徹底的に描いたことが、後半におけるチャン刑事の行動と、前半以上に派手さを増すアクションに説得力を齎している。
 まるっきり難がないわけではない。登場人物が多いわりに性格や表情の描き分けがあまり為されていないので、しばしば混乱する。あまり顔を見せないベテランもさることながら、犯行グループの若手とチャン警部の相棒となるシウホンあたりはキャラクターの肉付けにも似通ったものが感じられるために、もともといかにも若者らしい染めた髪や気障っぽい表情の作り方などに共通点が見られるため尚更に見分けが付きにくくなる。もう少し所作に個性をつけるなりして色分けをして欲しいところだった。
 また、アクション映画にありがちな無理矢理過ぎる辻褄合わせがない代わりに、一部だが事情が込み入っていてしばし把握しにくい場面があったことも指摘しておきたい。いずれも見ているうちに解決するのだが、それに困惑するあまり、勃発した格闘劇に集中するのが一瞬遅れる場面もあった。
 しかし、この場合は乱暴な辻褄合わせがないこと自体を評価するべきだろう。いささか飛躍している箇所がなきにしもあらずだが、一年後の捜査に不自然な成り行きはなく、うまくチャンたちとジョーら犯人グループを接近させている。ジョーたちの目的を金品ではなく、警察を弄ぶことに集中させたために自然と両者のあいだに戦いが生まれるので、アクションシーンへの流れも実に自然で速やかだ。アクションシーンのためのエピソード、と感じさせることが少ないだけでもアクション映画の説得力は格段に増すのだから。事実、本編においても暴走するバスの上での七転八倒ぶりや終盤での見せ場は先にその構想があったと思われるのだが、少なくとも観ているあいだにそう感じさせることはない。
 これだけド派手なアクションを繰り広げながら、ラストは状況こそ緊迫しているものの決して大掛かりではない描写になっている。それなのに物足りなさを感じさせないのは、冒頭でまず一年後の堕落しきったチャン刑事の姿を描き、必要に応じて丁寧にジョーや一部の関係者の心境を窺わせていたからだ。序盤の出来事を踏まえた、哀しくも美しい幕引きである。そして、そのあとにもうひとつ用意されるエピローグのまた秀逸なこと。途中で感じる謎に実に綺麗な決着をつけ、事件そのものの後味の悪さを完璧に払拭し爽やかな余韻を残す。
 徹頭徹尾アクション映画であることに誇りを唱えるかたわら、現代的なドラマによって飾ることにも成功した、正統的かつ重量感のある作品。今年はどうもしっくり来るものがない、と感じているアクション映画好きはとりあえず劇場に足を運ぶべし。映像ソフトを待ってもいいが、あの打突の重みと銃撃・爆発の迫力はやはりいちどは劇場で味わって欲しいところ。

(2005/03/23)


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