cinema / 『カンフーハッスル』

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カンフーハッスル
原題:“KUNG FU HUSTLE「攻夫」” / 監督・製作・脚本・主演:チャウ・シンチー / 製作:チュイ・ポーチュウ、ジェフ・ラウ / 製作総指揮:ビル・ボーデン、ジャオ・ハイチェン、デヴィッド・ハン / 脚本:ツァン・カンチョン、ローラ・フオ、チャン・マンキョン / メイン・アクション・コレオグラファー:ユエン・ウーピン / アクション・コレオグラファー:サモ・ハン・キンポー / 撮影監督:プーン・ハンサン / 美術監督:オリバー・ウォン / 編集:アンジー・ラム / 視覚効果スーパーヴァイザー:フランキー・チャン / 衣装デザイナー:シャーリー・チャン / 音楽:レイモンド・ウォン / CG:セントロ・デジタル・ピクチャーズ / 出演:ユン・ワー、ユン・チウ、ブルース・リャン、ドン・ジーホワ、チウ・チーリン、シン・ユー、チャン・クォックワン、ラム・シュー、ティン・カイマン、ラム・ジーチョン、ジア・カンシー、フォン・ハックオン、フェン・シャオガン、ホアン・シェンイー / コロンビア・ピクチャーズ・フィルム・プロダクション・アジア、北京フィルム・スタジオ・グループ・コーポレーション提供 / ザ・スターズ・オーヴァーシー製作 / 配給:Sony Pictures Entertainment
2004年中国・アメリカ合作 / 上映時間:1時間39分 / 日本語字幕:風間綾平 / 吹替版翻訳:松崎広幸
日本語吹替版・声の出演:山寺宏一、樋浦 勉、磯辺万沙子、屋良有作、坂東尚樹、岩崎ひろし、楠 大典、矢尾一樹 / 日本版テーマソング:Nobody Knows+“シアワセナラテヲタタコウ”
2005年01月01日日本公開
公式サイト : http://www.sonypictures.jp/movies/kungfuhustle/
丸の内ルーブルにて初見(2005/01/01)※日本語吹替版

[粗筋] ※()内の表記は俳優/吹替声優の順
 警察でさえヤクザの顔色を窺い、住人たちが怯えて暮らす街。鰐革会の組長(フェン・シャオガン)が警察にちょっかいをかけているあいだに多数の組員が対抗組織・斧頭会に寝返り、瞬く間に一帯は斧頭会組長・サム(チャン・クォックワン/矢尾一樹)によって牛耳られた。組員全員が斧を愛用し、気に入らない人間を悉く鱠にしていく冷酷な所業で、街は平穏に暮らせる場所でなくなっていた。
 ――が、そんな彼らも本当の貧乏人にまではなかなか手出しする気にはなれないらしく、豚小屋砦と呼ばれる、住人全員が顔見知りで表も裏も知り尽くしているような集合住宅のなかは至って平和なものだった。人当たりの良く女好きな家主(ユン・ワー/樋浦 勉)に対して、家主の奥さん(ユン・チウ)は金にがめつく住人に対して毎日文句を垂れていたけれど、とりあえず波乱などなかったのだ――あの馬鹿が来るまでは。
 その馬鹿ことシン(チャウ・シンチー/山寺宏一)は相方(ラム・ジーチョン)の髪を切らせた豚小屋砦の散髪屋の仕事ぶりに難癖をつけ、この人は斧頭会の組長だと偽って金を脅し取ろうとするが、野良仕事の主婦を筆頭にいいようにあしらわれて手も足も出ない。ついには家主の奥さんに追い立てられ、斧頭会特有の仲間を呼び出すための狼煙のように見せかけて爆竹を放ったが――何ということでしょう、その爆竹は偶然その近くを通りかかった斧頭会副組長(ラム・シュー)に当たってしまったのです!
 組の人間だと言い張るシンの言葉を真に受けて、副組長は配下と共に豚小屋砦の面々に圧力をかける。遂に副組長が斧を掲げたとき――次の瞬間、宙を舞っていたのは副組長のほうだった。
 配下が挙げた狼煙によって増援を引き連れた組長が到着、すぐさま豚小屋砦を物量で制圧し、副組長を地獄送りにした人間を炙り出す。現れたのは、砦のなかでは怪力で知られた人足(シン・ユー/楠 大典)。すぐさま組員たちが斧を手に次々と襲いかかるが、人足は十二路譚腿なる足技を中心とした武術で対抗する。数に押されながらも奮戦する人足の姿に、続いて立ち上がったのはお姉風な言動が不気味な仕立屋(チウ・チーリン/岩崎ひろし)。彼が駆使するのは、仕立て服を通す輪を腕に複数嵌めて武装し、攻守一体となった戦闘を得意とする洪家鐡線拳。更に気弱な麺打職人(ドン・ジーホワ/坂東尚樹)が麺棒を手に五郎八卦棍で参戦し、斧頭会を返り討ちに遭わせた――何ということでしょう、この吹きだまりのような豚小屋砦には、三人もの武術の達人がいたのです!
 シンと相方は騒動の元凶として斧頭会に拉致され、始末されそうになったが、長年のチンピラ生活で身につけた錠前外しの技術が買われて九死に一生を得る。斧頭会に加わりたい、と訴えるシンに組長はひとりでも人間を殺してこい、と言い放つ。意趣返しの意味も含めて、シンはふたたび豚小屋砦へと赴き、家主の奥さんに狙いを定める――が、間抜けな失敗続きで結局相方ともども逃げ去る羽目になるのだった。
 当の豚小屋砦では、集落を守り抜いた三人の英雄に対して奥さんが「住人たちに被害が及ぶ」と追い出しを命じていた。三人とも血で血を洗うような日々に嫌気が差し武術の世界を去った身だったが、それだけにふたたび拳を使ってしまったいま、奥さんの危惧することも理解できる。三人とも商売を畳んでこの安息の地を離れる意を固めた。
 だが、顔に泥を塗られた格好の斧頭会が彼らを見逃すはずもない。組長はふたりの刺客を雇い、豚小屋砦へと送りこんだ――!

[感想]
 もう二年ほど前になろうか、韓国で製作された『マトリックス』ばりのスーパーアクション映画『火山高』という作品が日本で公開され話題となった。ああいう現実ではあり得ないアクションが大好きな当方としては見逃すわけにはいかない、と劇場で鑑賞した。のちにDVDで買ってしまったぐらいで、ある意味では好きな作品なのだが、人に薦められるかというと躊躇うものがある。生徒と教師の抗争が長年に亘って繰り広げられている高校というアイディアと、随所の人間離れしたアクションだけに気を取られて、登場人物の心理の綾や細部の辻褄を合わせることをすっきり忘れているうえ、そもそもどうしてこういう争いが発生したのか、という根っこをきっちり作っていないので、話はだれているし結末でのカタルシスもあまり得られない。私が気に入ったのはその週刊少年ジャンプ連載漫画を思わせる大袈裟ぶりと馬鹿らしさであり、完成度は大したことがない、と承知のうえなのである。
 本編は予告や宣伝から受けた印象がこの『火山高』に近かった。『火山高』に半年ほど先んじて公開されたチャウ・シンチー監督の前作『少林サッカー』がやはりかなりトンデモない発想と異常なヴィジュアルに支えられた作品だったため、期待と不安とを半々に抱いて鑑賞したのだが――杞憂だったらしい。
 何せ役者もスタッフも、『火山高』とは申し訳ないが格が違う。豚小屋砦の家主夫婦を演じたユン・ワー&ユン・チウを筆頭にアクションを演じるのはいずれもブルース・リーらを輩出した1970年代から80年代に活躍したスタントマンやアクション俳優たち、武術指導には『マトリックス』シリーズによってハリウッドにも名を馳せたユエン・ウーピン、ジャッキー・チェンとの共同作業でも知られるサモ・ハン・キンポーを招聘しているのだ。凄まじい視覚効果に幻惑されがちだが、躰の動きに打突の力強さは若手の、数本程度アクション映画に出ただけの役者とは比較にならないくらい完成されている。
 物語の構成の面においても、『火山高』より格段に洗練されている――と書くと意外に思われるかも知れない。ジャンプ連載漫画的、という言葉で一括りに出来るのは間違いないのだが、同じそれでもただそういうものをやってみたかった、というだけの雰囲気があり推敲を重ねていない『火山高』と異なり、本編は実は筋が通っているのだ。警察さえ影響下に置いた闇社会のなかで勢力を拡大している犯罪組織、それとは無関係に平穏な閉鎖社会を構築している貧民街、過去の苦い記憶から「悪にならなきゃ負け犬だ」と悪党を志すも徹しきれない男、という三者の絡みから抗争が始まり、達人が現れるとそれを凌駕する才能が現れ、クライマックスの文字通り人知を絶したアクションへと到達する。その流れが実に綺麗だし、ちゃんと随所に伏線を張ってもいる。終盤はある意味、この手のアクション映画の常道を破壊するような展開に至るのだが、ちゃんとかなり序盤からこの展開を匂わせる描写を含んでおり、決して唐突ではない。
 そうして物語がわりと丁寧に整理されてしまったために、前作『少林サッカー』にあった破天荒な破壊力といった印象は大幅に薄れてしまい、かなり大人しく感じられるのは否めない。キャラクターを弄りまくることもせず、『少林サッカー』ではひたすら弾けさせられたヒロインも本編ではひとつの彩りとして凛とした愛らしさを添えるだけだ。
 だが、作品の出来として劣っているかと問われれば、否、だろう。B級映画の傑作となった前作に惹きつけられた向きにとって若干のも物足りなさを覚えることは確かだろうが、作品は限りなく洗練されているし、自らの望むスタイルに近づけるために最大限の熱意をもってあたる姿勢においても本編の志は極めて高い。生憎と造詣のない私にはよく解らなかったのだが、アクション俳優の起用の仕方からネーミングにシチュエーションまで、往年の香港産アクション映画へのオマージュやパロディが随所に盛り込まれており、ファンには無数の笑いどころがあるようだ。
 つまり、本格的に楽しむためにはブルース・リーを筆頭とする70年代から80年代にかけての香港産アクション映画に通じていたほうがいいようなのだが、そうしたものは知らなくともチャウ・シンチー監督のカンフー映画に対する造詣と愛情は切々と伝わってくるし、その情熱に裏打ちされたアクション場面の完成度は素晴らしく、整理されたストーリー展開は親しみやすい。マニア性と娯楽性を真摯な態度で共存させた、好感度の高いアクション映画。個人的には『少林サッカー』よりもこちらのほうを高く買います。

 ……でもけっきょく『ドラゴンボール』なんだけどね。

(2005/01/01)


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