cinema / 『着信アリ Final』

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着信アリ Final
監督:麻生学 / 企画・原作:秋元康 / 脚本:大良美波子、真二郎 / 製作:黒井和男 / プロデューサー:有重陽一、山本章 / アソシエイトプロデューサー:門屋大輔 / 撮影:田中一成 / 美術:磯田典宏 / 照明:岡野清 / 録音:滝澤修 / 編集:川島章正 / 装飾:西淵浩祐 / CGIプロデューサー:坂美佐子 / 音響効果:柴崎憲治 / 音楽:遠藤浩二 / 主題歌:中孝介『思い出のすぐそばで』(Epic Records) / 製作プロダクション:角川ヘラルド映画 / 出演:堀北真希、黒木メイサ、ジャン・グンソク、板尾創路、野田よし子、大島かれん、吉永毎莉奈 / 配給:東宝
2006年日本・韓国合作 / 上映時間:1時間45分
2006年06月24日公開
公式サイト : http://www.chakuari.jp/
有楽座にて初見(2006/06/24)

[粗筋]
 安城高校二年生の修学旅行先は韓国。船での旅路を生徒たちが満喫するなか、ただひとり草間えみり(黒木メイサ)の心は晴れなかった。イジメが原因で修学旅行を欠席した松田明日香(堀北真希)のことが頭を離れないのだ。聾唖学校の日韓交流会で知り合ったアン・ジヌ(ジャン・グンソク)との久々の再会に微かに胸を弾ませながら、えみりは明日香の様子を気にかける。
 ある船室で数人の生徒たちがお決まりの怪談に興じていたとき、最初の異変は起きた。楠木あずさ(天川美穂)の携帯電話に、聞き覚えのない着信音と共に彼女自身からの電話がかかってきたのである。出てみると、聞こえてくるのは妙な物音。同時に着信したメールには、
「転送スレバ死ナナイ」
 という不可解な件名が添えてあった。最初こそ訝しんだものの、生徒たちは特に気を留めなかった。
 翌朝、無事韓国に到着した生徒たちは班ごとに分かれ、指定されたポイントを携帯電話のカメラ機能で撮影してまわるオリエンテーリングに臨んだ。だがその最中、あずさが忽然と行方をくらました。木部(板尾創路)ら教員たちが現地ガイドの協力で捜しているあいだ、生徒たちは集合場所に向かうはずだったが、気づけば輝也(山根和馬)がいなくなり、あずさと同じころに惨たらしい姿で発見された。輝也にも、あずさと同じような着信があったのだ。しかも二人とも、表示された着信時刻に死んでいる……
 当然のようにオリエンテーリングは中止となり、生徒たちはホテルでの待機を余儀なくされる。度重なる謎の電話と、その予告通りに奪われる友人の命――生徒たちのあいだに、“死の着信”の噂が瞬く間に拡がっていく。そんななか、えみりの電話に明日香からの電話がかかってきた。知るはずのないあずさと輝也の死を口にする彼女に、えみりは疑問を抱く。この異様な出来事は、明日香が仕掛けているというのか……?

[感想]
 あまり詳しく書くと、ちょっとしたネタが簡単に割れてしまうため、粗筋はこの程度に抑えさせていただく。
 柴咲コウ主演で大ヒットした第一作、台湾まで舞台を拡げた第二作、そしてTVシリーズを受け、いちおうはこれが大トリとなることが謳われている『着信アリ』シリーズ最新作が本編である。そのつもりもなく一作目、二作目と律儀に鑑賞したが、いずれも良さは多々あれど全体のまとまり、物語としての整合性はあまり保たれていなかった印象があり、それらを受け継ぐ格好の本編にも、正直なところあまり期待は寄せていなかった。
 だが蓋を開けてみれば、なかなかどうして、少なくとも中盤まではなかなか悪くない出来になっている。間を用いて緊張感、恐怖を盛り上げるという技術をほとんど欠いているために怪奇描写、恐怖表現の迫力には乏しいのだが、船を利用しての修学旅行に浮かれている学生達と、ひとり部屋に籠もる明日香との対比でメリハリをつけながら不穏なムードを掻き立て、スピーディな展開によって早いうちに観るものを引き込んでいく手際が巧い。
 特筆すべきは、本編で採用された“呪いの着信”の新たなヴァリエーション――着信を転送すれば、自分は死の呪いを免れることが出来るという条件だ。これによって、ただ理不尽な“呪い”の余波に怯えるだけでなく、自衛のために親しい人物を犠牲に出来るかという葛藤と、それに付随する醜悪な争いを描き、シリーズの旧作とは異なる恐怖を演出することに成功している。
 この要素はそのままドラマの構築にも役立っている。通常、ホラー映画では犠牲者同士の連関が、彼らの死によってその都度断たれてしまうため、死者は多いけれどその繋がりが見えにくいという欠点を生じがちで、事実映画版の旧2作でも、あとになると途中の死者やその状況が思い出しにくいぐらいなのだが、本編では死の前後の状況が生徒たちの人間関係と結びついているので、感情的な軋轢や惨劇によって生じる厭な感覚がきちんと記憶に残り、あとを引く。ほぼひとクラスぶん、生徒が用意されているのだが、彼らが狂ったように争うさまは、なまじの怪奇描写などよりも遥かに怖い。
 だが、終盤にかけては話運びも恐怖描写も崩れてしまっている。謎解きの段で旧作の“呪い”が絡んでくるのだが、この絡め方が少々強引で不自然なのだ。それによって考案される対抗手段も場当たり的でいまいち説得力に乏しい。あの“呪い”の性質を考えれば、簡単に回避できるように思うし、そもそも登場人物が意図した通りにああした協力者が現れるとは考え難い。人の善意に縋る作戦であるのだが、中盤まででまざまざと見せつけられた人間の醜さとは不釣り合いであるし、拮抗しきれてもいない。もうひとひねり欲しかったところである。
 これは旧2作にも共通することだが、終盤に来て派手で脈絡のない怪奇現象が多発するのも問題である。素直な観客ならば遊園地のアトラクションのように恐怖を楽しむことが出来るだろうが、一歩引いた目線から眺めてしまうと途端に滑稽に感じられる現象ばかりであるのはさすがにいけない。製作者はシリーズの特徴と捉えていたのかも知れないが、実はこの点こそ『着信アリ』最大の弱点であることを認識して、もう少し丁寧に処理して欲しかったと思う。
 と、終盤に来て大幅に乱れた本編だが、ドラマの締め括り方は悪くなかった。着眼である“転送による呪いの回避”を応用したクライマックスを重ねて用意しており、話運びとしてはベタだがその丁寧さには好感が持て、決してめでたしめでたしではないのに快い余韻を残す結末にしているのがいい。伏線となる事物はもう少し早い段階から、より明確に提示したほうがカタルシスは強まったように思うが、決して印象を損ねるほどの不満ではない。
 怪奇現象がしばしば怖さよりも滑稽さに繋がっているため、心霊ホラーとしては弱さがあるものの、ドラマ性と混乱が齎す恐怖を描いて旧作とは異なる雰囲気を構築し、話としても比較的綺麗に纏めた本編は、シリーズではいちばんよく纏まった出来になっていると言えよう。
 とりわけ評価したいのは、イジメに遭う姿、普通に友達と交流している姿、そして遥か離れた場所から呪いを発信する姿と実に幅の広い表現を要求される役柄を見事に演じきった堀北真希である。このサイトを御覧の方なら私が彼女に入れ込んでいることは承知のとおりだが、そうした贔屓目を省いても、本編での演技は素晴らしかった。

(2006/06/24)


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