cinema / 『「超」怖い話A 闇の鴉』

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「超」怖い話A 闇の鴉
原作:平山夢明・加藤 一(竹書房文庫・刊) / 監督:星野義弘 / 製作:高橋一平、伊藤明博 / プロデューサー:加藤威史、松村 傑、今川千佳夫 / 脚本:小林弘利、星野義弘 / 撮影監督:須賀 隆 / 撮影:谷合正弘 / 録音:甲斐 匡 / 美術:佐藤 希 / 音楽:諸橋邦宏 / 音響効果:粕谷浩之 / VFXプロデューサー:豊嶋勇作 / VFXディレクター:土井 淳 / 制作協力:デジタル・フロンティア / 出演:佐藤寛子、穐葉恭子、岩尾隆明、高橋 修、三谷悦代、寺島 進、平山夢明 / 配給:竹書房
2004年日本作品 / 上映時間:1時間20分
2004年05月29日公開
公式サイト : http://www.takeshobo.co.jp/movie/chokowaA/
渋谷シネ・ラ・セットにて初見(2004/06/05)

[粗筋]
 第一印象から不穏な気配を感じていた。大手コンビニチェーンの営業担当として、交通事故に遭い両足首切断の重傷を負った手嶋(寺島 進)に代わって各務涼子(穐葉恭子)が派遣された三津屋という小さなコンビニは、遠目にも陰気で近寄りがたいオーラを漂わせていた。オーナー夫妻(高橋 修、三谷悦代)も不気味で無愛想、フランチャイズ参入のために棚卸しを、という涼子に「それはあんたたちがやるって話だっただろ」と横柄な態度を貫く。憤りを押し隠して、涼子は薄暗い倉庫でひとり作業を始めた。
 唯一の救いは、バイトの奈緒(佐藤寛子)の明るさだった。涼子同様、オーナー夫妻に好意を抱いていないし、店の佇まいに厭なものを感じてもいたが、一緒に頑張りましょう、と励まし合う。
 店も奇妙なら、訪れる客もまた奇妙だった。フードで顔を覆い隠し、じっと雑誌を立ち読みするだけの客がいるかと思えば、流行っていないのを見越してレアな食玩を買い求めに来る客もいる。涼子も奈緒も気づいていないが、999円、666円など、不吉な数字の並んだ買い物をしていった客が、みな奇怪な事態に見舞われていることに。やがてその魔手は、奈緒を何くれとなく気遣っていた夜勤のアルバイト青年小森(岩尾隆明)にまで延びていった……

[感想]
『新耳袋』とともに、実話怪談を支える『「超」怖い話』シリーズ初の映像化である。蒐集者の個性が反映されたものか、血やバラバラ死体といったグロテスクな要素が列挙される原作同様、本編も『新耳袋』の映像化作品と比べるとかなりえぐい映像が続出する。冒頭いきなり女子高生がえらいことになり、コンビニの窓ガラスには鴉が突っ込む。ハンマーを引きずる謎の人物は吠える犬を叩き潰し(直接は撮さないが)、その後発生する怪奇現象でもやたらと血しぶきが飛ぶ。
 ただ、単純に怖がっていられるのは序盤くらいで、小森青年が襲われるあたりから急激に様子がおかしくなる――はっきり言ってしまうと、笑える。そもそも小森青年の襲われ方がヴィジュアルとしてかなり滑稽だし、凶手はその後奈緒にまで延びるが、このとき彼女を含む三人同時に起きる怪奇現象を並行して追う様は、あまりに異常すぎて怖いよりも笑いが先に立ってしまう。女性が初めて具体的な形で目撃する怪奇現象は(新耳袋のなかでも似たようなエピソードが綴られたことのある、実話怪談のパターンのひとつではあるのだが)ギャグと紙一重で、やたらと寒がっていた男の死に様などあまりに意表を衝きすぎていて不条理コメディのようにさえ見える。ある程度は確信を持ってやっているのだろうが、さすがにちょっと行き過ぎているように感じた。
 加えて、怪奇現象の発生の仕方が次第に恣意的になっていくのが、長篇としての纏まりを奪ってしまったように感じる。原因も現象そのものもバラバラで、どうしてこれが同じ文脈で語られなければいけないのか最後まで不明なままなので、いまいちカタルシスに乏しい。特に、客については不吉な金額で買い物をしたときに呪いが発動する、という法則性があるのに、従業員側にはそうした拘束がなく、理由もなく唐突に発生しているので、怖いよりも戸惑いのほうが勝る場合が多かった。
ぼのぼの クモモの木のこと』や『APPLESEED』などを手がけたスタッフによる視覚効果を用いた怪奇現象の描写はかなり完成されている。終盤で涼子が語る心得は、この世ならぬものを視てしまう人々の心構えとして説得力がある。そうした部分部分は洗練されているのだけれど、コンビニを軸に一続きの怪談として語るには少々ムリがあるように感じた。原作同様、ひとつひとつの出来事を味わうくらいの気分で鑑賞することをお勧めする。
 なお、本編最大の笑いどころは、原作者である平山夢明氏登場のシーンです。

 今回プログラムは販売されてない、公式サイトにも最低限の情報しか掲載されていない、ためにネットで出演者の顔と名前を照らし合わせて粗筋を執筆しました。三津屋のオーナー夫妻を演じていたのがSETの役者さんと解って……若干笑った。道理で、妙に息が合っているように感じたわけだ。

(2004/06/07)


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