cinema / 『ウェス・クレイヴン's カースド』

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ウェス・クレイヴン's カースド
原題:“Cursed” / 監督:ウェス・クレイヴン / 脚本:ケヴィン・ウィリアムソン / 製作総指揮:ボブ&ハーヴェイ・ウェインスタイン、アンドリュー・ロナ、ブラッド・ウェストン / 製作:ケヴィン・ウィリアムソン、マリアンヌ・マッダレーナ / 撮影:ロバート・マクラクラン / 美術:ブルース・アラン・ミラー、クリス・コーンウェル / 編集:パトリック・ラッシャー、リサ・ロマーニュ / 特殊メイク:リック・ベイカー / 視覚効果スーパーヴァイザー:リチャード・R・フーパー / 衣装:アリックス・フライドバーグ / 音楽:マルコ・ベルトラミ / 出演:クリスティーナ・リッチ、ジョシュア・ジャクソン、ジェシー・アイゼンバーグ、ジュディ・グリア、スコット・バイオ、マイロ・ヴェンティミリア、クリスティナ・アナポー、シャノン・エリザベス、マイア、マイケル・ローゼンバウム / アウトバンクス・エンタテインメント製作 / ディメンジョン・フィルムズ提供 / 配給:GAGA Communications / 配給協力:Libero
2005年アメリカ作品 / 上映時間:1時間37分 / 日本語字幕:アンゼたかし
2006年03月18日日本公開
公式サイト : http://www.cursed-movie.jp/
シネマメディアージュにて初見(2006/03/25)

[粗筋]
 ベッキー(マイア)とジェニー(シャノン・エリザベス)は、ベッキーの恋の相談のために訪ねた占い師に、「危険が近づいている」という忠告をされる。不愉快になり相手にもしなかったふたりだったが、彼女たちは知らなかった――占い師がまさに、これから始まる惨劇を予見していたことを。
 テレビ局でプロデューサーの仕事をしているエリー(クリスティーナ・リッチ)は、高校生の弟ジミー(ジェシー・アイゼンバーグ)を拾っての帰り道、突如フロントガラスに衝突した野生動物のために車のコントロールを失い、対向車とぶつかってしまう。崖下に転落した相手をジミーとともに助け出そうとするが、忽然と現れた狼のような生き物によって相手は連れ去られ、間もなく見るも無惨な姿で発見された。ジミーはどう見てもあれは狼だった、とレスキューに説明するがまったく信用されず、事件は熊の類が原因と判断される。
 自宅に戻ってもなお納得の出来ないジミーはインターネットで検索し、発見した狼人間の情報に飛びついた。早速姉に、あれが狼人間の仕業であった可能性を訴えるが、当然エリーは耳を貸さない。
 しかし、その晩からエリーの身に変化が生じていた。付き合いはじめたばかりだが、昔の女性関係が原因でぎこちなくなっているジェイク(ジョシュア・ジャクソン)の喉元に噛みつく夢を見、妙に性的魅力が高まって今までは単なる同僚であったはずのカイル(マイケル・ローゼンバウム)の関心を惹きジョアニー(ジュディ・グリア)の嫉妬を買い、更には人の血の匂いが敏感に嗅ぎ取れるようになった。自らの身に起きた異変に動揺しながら、しかし多忙さゆえにエリーは敢えて意識しないように心懸ける。
 一方のジミーは図書室で狼人間に関する文献を漁り、我が身を襲った異変を積極的に調査する。幾つかの文献の記述と照らし合わせ、どうやら本当に自分が狼人間の牙を受けて、自らも狼人間になる“呪い”を被ったことを確信したジミーは、エミーとは異なり奇妙な自信をつけてしまう。気弱でオタクの傾向があったジミーは、たまたま同級生であるブルック(クリスティナ・アナポー)と彼女のバイト先で遭遇したことから、ブルックの意地の悪いボーイフレンド・ボー(マイロ・ヴェンティミリア)に目をつけられ、ことあるごとに揶揄われるようになっていたが、身体能力の変化を確信したジミーはボーの所属するレスリング部に乗り込み、彼を叩きのめしてしまう。
 だが、姉弟それぞれの“変化”をよそに、彼らの暮らすハリウッドでは異様な事件が相次いでいた。エリーたちの交通事故の相手に続いて、またしても野生動物の襲撃と思しい被害者が出る。殺害されたのはベッキーと、ジェニー――奇しくもふたりとも、ジェイクに好意を抱いていた女性達だったのだ……

[感想]
 一種、教科書的とも形容できるほどに様式的な、ショッキング・ホラーである。
 素材としているのは狼人間(ライカンスロープ)、怪奇映画の定番ではあるが、吸血鬼におけるドラキュラのような突出したキャラクターが存在しないためか、いささか地味な印象があるとともに、基本となる解釈が定着していないぶん冒険もしにくい、つまり却って扱いにくい素材でもある。最近では『アンダーワールド』や『ヴァン・ヘルシング』で採りあげられているが、いずれもやはり吸血鬼を含む定番と抱き合わせで再構築されている。
 その点、本編は基本をよく学んだうえで簡略化し、物語の核にうまく取り込んでいる点にまず好感を抱いた。ジミーがあまりに安直に、事件の根本を狼人間というオカルトに求めてしまうのが気に掛かるが、オタク的な人物造型であることがまずその極端さを保証しているし、物語の流れから言っても、早いうちに全篇を貫くルールを提唱している点で巧妙だ。
 序盤で説明的なものをすっきりと掲げてしまったぶん、以降の展開は滑らかで実に早く、観ていて飽きる暇さえない。ちかごろ主流となった心理的緊張感をふんだんに利用した恐怖演出ではなく、虚仮威しや脅かしに徹して観客に悲鳴を挙げさせることに特化した点も、こういう組み立てならば素直に評価できる。
 また、物語としての約束を早めに提唱したおかげで、後半では畳みかけるようなアクションに交えて、きちんと捻りを設けることにも成功している。実際のところ見え見えではあるのだが、それでも終盤ギリギリまで事態の首謀者が誰なのか判断に迷うように話を転がしていくのでなかなか気を逸らさないし、きちんと驚きも演出している。
 もうひとつ評価できるのは、そうしてショッキングな描写を連発する一方で、随所にちょっとした擽りや笑いの要素も盛り込んで、緊張を解すことにも配慮している点だ。エリーのほうは自らの身に生じた異変に困惑し恐怖する役回りを演じているが、弟ジミーは基本的に自然体のままで笑いを誘う反応を見せる。事故直後の夜、姉が悪夢で魘されているのに対してジミーは思わぬトラブルに見舞われ、呪いによって得た力を如何にも若者らしい無邪気な受け入れ方をしており、妙に微笑ましい場面を設けている。彼の存在が物語の緩急を大きくし、より娯楽としての完成度を高めているのである。
 突出したインパクトのある場面や演出こそ見られないものの、トータルでは実によく基本を押さえて、丁寧に作りあげられた娯楽作品と言っていい。観終わったあと何も残らないが、スッキリと無心に楽しめるこういう作品もまた貴重だと思う。重厚な作品ばかりでは疲れるではありませんか。

 しかし、個人的に本編最大の見所は、ジミーを虐めるグループの先頭に立つ男・ボーであると言い切ろう。以下、未見の方の興を削がぬため、背景色にて記す。

 この青年、序盤は実にステレオタイプ極まりないいじめっ子として、有り体ながらも基本に忠実な“活躍”を披露してくれる。その点でも作品にとって欠かざるべき存在なのだが、しかしある場面を境に、彼の存在意義はがらっと変わる。
 ライカンスロープの力を得て逞しくなったジミーは、レスリングの部活にかこつけてボーをたたきのめすのだが、その日の夜、あろうことかボーはジミーの家にやって来て、「実は自分は本当にゲイなんだ」と告白する。ライカンはセックス・アピールも強まるため、そのためにジミーに急激に惹かれた、という設定のように見せかけてはいるのだが――本当にそうだろうか?
 ブルックという親しいガールフレンドを作っていたことからして、彼が隠れゲイであるのは間違いないだろう。そんな彼が、ジミーに対してはずっとゲイの疑いをかけて嘲笑っていたのだ、というのは不自然ではないか? 自分のことを棚に上げて、あそこまで執拗に人のことをゲイだゲイだと罵っていたのは、翻ってはじめから関心を抱いていたことを証明しているようにも見える。
 そう解釈すると、実はこのボー青年、単に性格が悪い・相性が悪いという理由で虐めていたのではなく、むしろ好きだったからジミーをからかっていた、と判断できる。そういう前提で眺めると、それ以前の行動にしてもその後の行動にしても、実に可笑しいのである。詰まるところ、好きな女の子を狙って虐める男の子と同じ心理であり、見かけるたびにちょっかいをかけようとするのは接近したい意識の露見に他ならない。
 そして、本心を打ち明けたあとの行動も実にある意味健気である。とんでもないものを見せられたあととはいえジミーに言われるがまま車を運転してある場所に向かわせ、クライマックスの戦いに巻き込まれてしまう。その上、事態が収拾したあと、訳あってジミーの家を訪ねるところだったガールフレンドを、夜だからとはいえわざわざ送り届けているのだ。
 目の前で想いを通わせるふたりを羨ましげに見つめ、ジミーがブルックの背中に手を添え「送るよ」と言って促したあと、自分に向かって「早く来いよ」と言われると、嬉しそうにほいほいついていく姿は何というかいじましくさえある。

 ――そんなわけで、本編の裏の主役はボーである、と言っても過言ではあるまい。ホラーとしてはいまいちだった、とお考えの方も、そうした観点からもういちどご覧になっていただきたい。絶対楽しめますから。

(2006/03/25)


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