/ 『ダブリン上等!』
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『light as a feather』トップページに戻るダブリン上等!
原題:“interMission” / 監督:ジョン・クローリー / 脚本:マーク・オロー / 製作:ニール・ジョーダン、スティーブン・ウーリー、アラン・モロニー / 撮影監督:リシャルト・レンチェウスキ / 編集:ルチア・ザケッティ / 衣装デザイン:ローナ・マリー・メイガン / 音楽:ジョン・マーフィ / 出演:コリン・ファレル、キリアン・マーフィ、ケリー・マクドナルド、シャーリー・ヘンダーソン、デヴィッド・ウィルモット、コルム・ミーニイ、ブライアン・F・オバーン、マイケル・マケルハットン、デイドラ・オケイン、トマス・オサリバン、オーウェン・ロー / カンパニー・オブ・ウルヴス製作 / 配給:アット エンタテインメント
2003年イギリス=アイルランド作品 / 上映時間:1時間42分 / 日本語字幕:栗原とみ子
2005年02月19日日本公開
公式サイト : http://www.at-e.co.jp/dublin/
シブヤ・シネマ・ソサエティにて初見(2005/03/12)[粗筋]
カフェでウェイトレスを口説いているかと思えば、他の客が消えた一瞬の隙にウェイトレスを殴り飛ばしレジの金を奪っていったのはレイフ(コリン・ファレル)――警察にも常に目をつけられている札付きの悪党だ。が、そのくせ平穏な暮らしに憧れていて、その資金集めに汲々としている。一攫千金を目論むレイフの計画は――銀行強盗だった。
スーパー店員のジョン(キリアン・マーフィ)は親友のオスカー(デヴィッド・ウィルモット)から罵倒されていた。分不相応なくらいに可愛い彼女デイドラ(ケリー・マクドナルド)の気持ちを確かめたい、ただそれだけの理由で六週間前、自分から別れを告げたというのである。しかもデイドラはあっという間に年上の、ハゲだけど社会的地位は確立した男と出来てしまったらしい、と聞くと途端に彼女の家に押し込み罵倒する始末。思いつきで行動するこの男に、親友ながら呆れるオスカーであった。
で、そのデイドラが交際を始めた男サム(マイケル・マケルハットン)だが、実は既婚者。君に非はない、と言いながら自分を置いて出て行くサムに、妻ノーリーン(デイドラ・オケイン)はただただ悲嘆に暮れる。
サムはデイドラの家を訪ね、彼女の家族に同棲する旨を伝えた。かなりオープンな母親は娘とはかなり年の離れた恋人をあっさりと受け入れたが、妹のサリー(シャーリー・ヘンダーソン)はあからさまな拒否反応を示す。彼女はかつて我を忘れるほどにのめり込んだ恋人がいたが、騙された挙句に手ひどい仕打ちを受けて別れるという出来事があって、以来男性不信に陥っているのだった。あの心の傷を癒すのは並大抵のことではない――身繕いにも構わなくなったサリーの口許には、うっすらとヒゲが伸びていた。
ご近所の退屈な話題ばかりを撮らされているTVプロデューサーのベン(トマス・オサリバン)は、現状打破のためにストリートの暗部を抉り取るドキュメンタリーの企画を立てた。強面で街の悪党たちに睨みを利かせ、あのレイフに対しても怖じることのない刑事ジェリー(コルム・ミーニイ)を案内役にストリートの現在を描き“伝説”を作ろうという野心を抱くベンだったが、その趣旨の暗さに上からノーが突きつけられる。けっきょくベンが向かわされるのは、ダブリン市内でのちょっとした英雄譚の取材。数日前、よそ見運転のバスが横転するという大事故に際して、直前の停留所で降りた母子が活躍する、という出来事があり、その二人に対してインタビューを行う、というものだった。娘のほうの口ひげがどうもTVに映えないのでいちど退いてもらったが、悪戯小僧が撮影中の母親に向かって生卵を投げつけたために、けっきょく主役は口ひげの娘――サリーに変更された。この出来事が、あとあと波紋を起こすことになる……
問題の事故を起こしたバスの運転手ミック(ブライアン・F・オバーン)はそれが原因で会社を解雇されてしまった。直前に自転車で近づいてきた子供が投石したのがそもそもの理由だ、と説明したのだけど誰も信用してくれない。パブで腐っていたミックに近づいてきたレイフは、車で逃走中にやはり投石をされて痛々しいアザを顔に作っていた。似たような境遇(?)に共感したミックは、家でキッチンの改装を楽しみにしている妻のために、レイフの計画に乗ることに……[感想]
このスタイルの代表格はガイ・リッチー監督と言っていいだろう。一躍その名を知らしめた『Lock, Stock & Two Smoking Burrels』『snatch』という二作で試みた、複数のエピソードが絡まることによってひとつの作品世界を構築していく、というスタイルである。実際にはもっと以前からあったはずだが、この二作を契機に急増していったのは間違いないと思う。本編もまた、その流れに組み込まれるものである。
だが、正直に言って最初の印象は物足りなかった。このスタイルは個々の出来事がよほど派手である、コミカルである、或いは深遠であるなどの明確な位置づけがないと、絡んでいく楽しさがやや薄れてしまうものなのだが、まさに本編はその典型と感じたのだ。冒頭、コリン・ファレル演じるレイフが未来像を語りながらカフェの女の子を口説いているかと思いきや、いきなりグーで顔面を殴打しレジから金を抜き取るという真似をしでかしたのにはさすがに吃驚したものの、あとは個々のエピソードがテンポよく繋がれていくだけで、エピソードそのものは特に深甚な会話があるわけでもなく派手な立ち回りがあるわけでもなく、比較的淡々と進んでいく。キャラクターの変さが際立っているだけに、爆笑まではいかなくとも随所でくすくすぐらいは笑わせてくれるかと期待していたのだが、そういう場面は少なめだった。
その代わり、キャラクターの生々しさはちょっとしたものがある。どの登場人物も、いささか特殊な境遇に置かれているが、言動に不自然さが一切ない。彼女の想いを確かめたいために別れを告げて六週間もほったらかし、そのあいだに新しい恋人を作った彼女を「あばずれ」と罵り、復讐を誓いながら本人は傷つかないように配慮する、というジョンの言動はなかなか矛盾に満ちているが、妙に筋が通っている。そういう流されやすい男に辟易した元彼女が新たに選んだのが、頭はちょっと心細いが年上で社会的地位もある男だったというのも理に適っている。その他その他、いずれも「筋のために作られました」と感じさせるキャラクターはひとりもおらず、自在に行動しているという印象があるのがお見事だ。あとでプログラムを読んだところ、一部は実在の人物をモデルにしているそうだが、さもありなん、という気がする。ほぼ全身麻痺の状態にも拘わらずパブに入り浸り、人に呑ませてもらうか床に車椅子を倒してストローで呑む、なんて普通ではちょっと考えつかない――ギネスをストローで呑むとかなり悪酔いすると思うんだが大丈夫だろうかあの爺さん。
そうして登場人物が好き勝手に動いているのに対して、エピソード同士の絡みは随所で丁寧に行われている。例えば、冒頭で殴られたウェイトレスはある場面で鼻を絆創膏で覆いムスッとした表情で現れ、ジェリーのケルト音楽好きという設定は意外な形で物語をリンクさせる。サムに捨てられた妻ノーリーンは後半、意外な形で(間接的にだが)ジョンをレイフの強盗計画に荷担させるきっかけを作る。このあたりの絡め方が実に緊密であり、そのくせ御都合主義と感じさせない――それはやはり登場人物のリアリティと存在感に助けられるところ大だろう。
また、適当に動き回っているように見せかけて、基本的な役割分担は出来ていることも絶妙だ。悪い部分はほとんどレイフが請け負っているし、優柔不断なジョンは結果的に話をいちばん大きく転がしている。ほぼ全部のエピソードで一瞬ずつ登場しながら、ある意味最も絶大な影響を齎したキャラクターもいる。それぞれ立ち位置が明確なので、無数にキャラクターがいるにも関わらず見分けがつくし、話が進むにつれて流れが見えてきて、なおかつそれが意外なところから――しかし合理的にひっくり返されるのが楽しい。
つまるところ、最初に感じた物足りなさは、後半のドタバタを演出するための布石だったと言えるかも知れない。実際、最後は思わぬところから伏兵が現れ、予想外の人物が事態を解決していたり、すったもんだの挙句に意外なカップルが誕生したり、と読めないながらも納得の結末が待っている。
序盤こそ少々退屈に感じられるが、終わってみての印象はなかなか悪くない。登場人物の生々しさに「ああ、解る解る」と共感したり苦笑いしたりしつつ、絡みあった挙句の顛末を楽しむ作品であり、そうと解っていれば最初から不満を覚えることはあるまい。ちなみに登場人物の結末としていちばん可笑しいのは、エンドロールの途中に描かれる彼らである――敢えて名前は挙げないので、実物で確かめてください。(2005/03/12)