cinema / 『カンガルージャック』

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カンガルージャック
原題:“Kangaroo Jack” / 監督:デイヴィッド・マクナリー / 製作:ジェリー・ブラッカイマー / 原案:スティーヴ・ビング&バリー・オブライアン / 脚本:スティーヴ・ビング&スコット・ローゼンバーグ / 撮影:ピーター・メンジス、JR.A.C.S. / 美術:ジョージ・リドル / 編集:ジョン・マーレー、ウィリアム・ゴールデンバーグ,A.C.E.、ジム・メイ / 衣装:ダニエル・オーランディー、ジョージ・リドル / 音楽監修:キャシー・ネルソン、ボブ・バダーミ / 音楽:トレヴァー・レビン / 視覚効果監修:ホイト・イートマン、A.S.C. / 出演:ジェリー・オーコネル、アンソニー・アンダーソン、エステラ・ウォーレン、クリストファー・ウォーケン、マートン・ソーカス、ダイアン・キャノン、マイケル・シャノン、ビル・ハンター、デイヴィッド・ナグーンブージャーラ / 日本語吹替:落合弘治、桜井敏治、浅野まゆみ、佐々木勝彦、谷口 節、佐東夏江、三宅健太、渡辺 猛、斉藤志郎、小森創介 / 配給:Warner Bros.
2003年アメリカ作品 / 上映時間:1時間29分 / 日本語吹替翻訳:さいたまんま〜ん
2003年09月27日日本公開
公式サイト : なし
シネマメディアージュにて初見(2003/10/04)※日本語吹替版

[粗筋] (役者/日本語版吹き替え)
 事件の発端はたぶん20年前。チャーリー・カーボーン少年の母親が、暗黒街で幅をきかせ始めた伊達男のサル・マッジオ(クリストファー・ウォーケン/佐々木勝彦)と再婚を決めたあたりだ。母ともども彼に連れられてビーチに出かけたチャーリーは、サルの腹心フランキー・ロンバルド(マイケル・シャノン/三宅健太)の投げたラグビーボールを拾おうとして溺れてしまった。そんな彼を助けたのが、ルイス・ブッカーだった。
 話を現在に戻そう。成長したチャーリー(ジェリー・オーコネル/落合弘治)は美容師として独り立ちしたものの、開店資金は義父であり今やブルックリンの顔役となったサルの全額負担だったため、売り上げの八割は彼に持って行かれてしまう。海での出来事が縁で親友になったルイス(アンソニー・アンダーソン/桜井敏治)は色々な仕事に手を出してはチャーリーを巻き込む。今日も今日とてテレビを調達する怪しげな仕事の手伝いをチャーリーに持ちかけてきた。渋々同行したチャーリーだったが、案の定というかルイスにあてがわれた軽トラックが盗難車だったため警察に追われる羽目になり、どうにか配達先に辿り着いてみればそこはサルの管理している倉庫。チャーリーとルイスは辛うじて難を逃れたが、倉庫にいたサルの部下はまとめて摘発されてしまった。
 汚名を返上しろ、と言ってサルが二人にあてがった新たな仕事は、明日の正午までにオーストラリアにいるミスター・スミス(マートン・ソーカス)のもとへ封筒をひとつ届ける、というもの。断り切れずに出発したふたりは、移動中に興味本位で封筒の中身を見てしまう。そこには、大枚五万ドルが収まっていた。
 あまりのプレッシャーに緊張するチャーリーに対して、ルイスは始終はしゃぎっぱなし。現地に着くなり、借りた車でカンガルーをはねてしまったが、弔うつもりで車を降りたチャーリーに、ルイスは記念写真を撮ろうと言い出した。最初こそ窘めていたチャーリーだったが次第にノりはじめ、サングラスをかけさせルイス愛用のジャンパーを着せるところまでエスカレートする。だがそのとき、死んだとばかり思っていたカンガルーが突然目を醒まし、チャーリーを蹴倒して逃走してしまう。ルイスが大事なことに気づくのに、しばし時間がかかった――五万ドルを収めた封筒は、ジャンパーのポケットに入れてあった。
 やけに頭のいいカンガルー“ジャッキー・レッグス”から金を取り戻すため、オーストラリアの大自然を舞台にチャーリーとルイスのお間抜けコンビが駆け回る――!

[感想]
 小さなお子様のいる家族に優しい映画です。
 出だしはいかにも最近のハリウッド作品で、いきなりトラブルに巻き込まれ市街地を舞台にとってつけたような派手なカーチェイスが始まる。終始この調子だと逆に退屈だな、などと思っていたら、オーストラリアに移動するあたりから本格的なコメディタッチに変わり、そこから俄然楽しくなった。
 全体がコントのような趣で、あちこちに張りめぐらせた伏線を利用しつつ小気味のよいテンポで笑いを挟んでくる。爆笑はしないが、ピンチに陥っても深刻さがなく、気楽に眺めていられる。冒険アクションとしては拙いだろうと思う一方で、いちいち間抜けで軽妙な主人公ふたりのやりとりを見ていると、これはこれでいいんじゃないかと納得させられてしまう。
 何より、人死にや出血、無闇に人を殴りつけるといった暴力描写がないのがいい。頭からしまいまで軽妙なタッチのまま話が進み、1時間半でサクッと予定調和ながら爽やかな結末に至る。製作そのものは娯楽として様々な配慮と苦労を重ねているが、そうしたことを伺わせず、万人が肩の力を抜いて楽しめるように仕立て上げた姿勢は評価したい。
 テーマ性が希薄だとか、わざわざオーストラリアまで向かわせた必然的動機がないとか、救いの女神であるジェシー(エステラ・ウォーレン/浅野まゆみ)の登場があまりにもご都合主義的過ぎるとか、ツッコミどころも少なからず存在するが、大した問題ではない。というか、それが気になって批判するぐらいならはじめから避けて通った方がいいでしょう。
 私の調べた範囲では、日本での公開に際して、字幕版はかけていない。上映館の大半が吹き替え版を採用している。とことん「子供から楽しめる」娯楽作品を作る、という姿勢を貫いたという意味での良作。私自身、非常に楽しませていただいたので、文句はつけたくありません。

 しかし相変わらずクリストファー・ウォーケンは素晴らしい。そんなに姿を見せていないのに、強烈な印象が残る。「お前らといると言葉まで変になる」という台詞のあと、しばらくのちの登場でテープ相手に文法のおさらいをやっているあたりの妙な可愛らしさといったら、もう。

 普段、私は洋画を字幕版でのみ鑑賞するようにしている。本来の製作者の態度を音や台詞回しから感じ取りたいのと、翻ってあまり雰囲気にそぐわない吹替で聞かされるのがどうも厭だったからだ。が、今回は日本語吹き替え版のみの上映らしい、と解っても抵抗を感じなかった。粗筋やわずかに伝え聞く情報からファミリー向けだと察し、ならその方が受け入れやすいだろうと思ったのと――アンソニー・アンダーソンの吹き替えが、最高の適役である桜井敏治氏の担当となっていたことが理由だ。
 他の出演作をDVDで所持している方ならご存じでしょうが、このふたりの声の似方は他人とは思えない。そこをきっちり押さえた配役だからこそ、いきなりの吹き替えでも信頼できる、と感じたわけで。このそっくりぶりを未経験の方は、『ふたりの男とひとりの女』、『ロミオ・マスト・ダイ』、『電撃』『ブラック・ダイヤモンド』いずれかのDVDで比較しつつご確認ください。

(2003/10/04)


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