cinema / 『ネバー・ダイ・アローン』

『cinema』トップページに戻る
『light as a feather』トップページに戻る


ネバー・ダイ・アローン
原題:“Never Die Alone” / 監督:アーネスト・ディッカーソン / 原作:ドナルド・ゴインズ / 脚本:ジェームス・ギブソン / 製作:アレサンドロ・キャモン、アール・シモンズ(DMX) / 撮影:マシュー・リバティーク / 編集:ステファン・ラヴジョイ / プロダクション・デザイン:クリスティアン・ワジナー / 音楽:デイモン・“グリース”・ブラックマン、DMX、ジョージ・ルーク / 出演:DMX、デイヴィッド・アークエット、マイケル・イーリー、ドリュー・シドラ、アントウォン・タナー、ルーネル・キャンベル、クリフトン・パウエル、トム・タイニー・リスター、ジェニファー・スカイ、リーガン・ゴメス=プレストン / ブラッドライン・フィルムズ製作 / 配給:20世紀FOX
2004年アメリカ作品 / 上映時間:1時間28分 / 日本語字幕:アンゼたかし
2004年09月25日日本公開
公式サイト : http://www.foxjapan.com/movies/neverdiealone/
お台場シネマメディアージュにて初見(2004/10/01)

[粗筋]
 十年振りに、キング・デヴィッド(DMX)が帰ってきた。
 デヴィッドはかつて馴染みだったバーに立ち寄り、マスターであるジャスパー(ルーネル・キャンベル)を介してかつてのボス・ムーン(クリフトン・パウエル)に連絡を取る。残したままの借金を支払うことで過去に決着をつけたい――ムーンは不承不承ながらその提案を受け入れ、午後六時、バーの前で待つデヴィッドのもとにふたりの若い手下を使者として送った。
 デヴィッドを殺すな、というムーンの命令に、使者として寄越されたマイク(マイケル・イーリー)は納得がいかなかった。らしからず激昂する彼に、相棒であるブルー(アントウォン・タナー)はマイクを車に残して単独で交渉に赴く。金は無事に回収したが、デヴィッドの不遜な態度に、ブルーもまた怒りを覚えた。ブルーは立ち去ろうとしたデヴィッドを、マイクの妹・エラ(ドリュー・シドラ)を囮に車から引きずり出す。しかしなおも不遜な態度を崩そうとしないデヴィッドの言動は、ついにマイクの触れて欲しくなかった顔の傷に及んだ。次の瞬間、デヴィッドの腹部にナイフが突き立てられていた……
 一方、プルーもデヴィッドの反逆に遭い、顔に深手を負った。騒ぎを恐れてマイクはブルーと妹とを乗せて現場を逃走する。苦悶するデヴィッドのもとにただ一人、歩み寄っていったのは、デヴィッドが訪れたジャスパーのバーに偶然居合わせたポール(デヴィッド・アークエット)だった。ポールはデヴィッドに請われるまま「KING D」のナンバーをつけた彼の車を運転し、病院まで送り届ける。道中、デヴィッドは最後の力を振り絞って、ぽつぽつと自らの胸中をポールに語った。
 マイクから、デヴィッドを刺してしまったという連絡を受けたムーンは、マイクたちにとある地下駐車場に赴くよう指示したあと、数人の部下を差し向けた。この苦境で頼れるのはムーンしかいない、と信じていたマイクの目の前で、瀕死のブルーがまず撃たれ、続いてエラまでもが射殺される。ムーンの刺客をすべて葬ったマイクだったが、生き残ったのは彼一人だった。妹の亡骸を抱え、マイクは慟哭する。
 その頃、デヴィッドもまた病院で息を引き取った。ポールにその報を告げた医師は続けて思いがけないことを口にする。いまわの際にデヴィッドは、車を含む所持品のすべてをポールに託す、と言い残したというのだ。困惑しながらもそれらを受け取り帰宅したポールは、遺品のなかに奇妙なものを発見する。本を刳り抜いて収められた、数本のカセット・テープ。何気なく再生したそのなかには、デヴィッドが自らの犯罪歴を口述した記録が残されていた……

[感想]
 DMXというと『電撃』、『ブラック・ダイヤモンド』でのイメージが個人的に強く、役者としてはアクション・エンタテインメント志向の濃厚なタイプだという認識があった。そのために、初めて彼が製作を手がけた映画と聞いて咄嗟にいま掲げた二本と同傾向の作品を思い浮かべたのだが、予測に反してアクションはほとんど登場しない。暴力はあるがアクションと呼べるほどのものではないし、大きなものは銃であっという間に決着がつく。
 しかし、たとえ格闘やドンパチが少なくとも、本編はれっきとしたエンタテインメントだと思う。冒頭でいきなり主人公格が殺され、偶然その場に居合わせたポールが彼に多くの遺品とともにテープを託されたところから、現代の物語にデヴィッドの回想が重ねられていく。一方で、唯一の家族である妹と相棒を奪われたマイクが、自らの所属していた組織に牙を向けていく様が同時に描かれ、三つのエピソードが折り重なりながら物語に独特のリズムを齎し、観客を引っ張っていく。そしてクライマックスには、思わぬ形で彼らの行動の真意が明らかになっていく。謎解きなどはないが、その手捌きはどこかミステリに近いと言えるだろう。
 いちばんの屋台骨となるテーマはしかし決して目新しいものではない。過去に幾たびも綴られた類の、運命の悪戯と呼ばれるものだ。だが、本編はその見せ方に趣向を凝らし、スピーディにスタイリッシュに表現することで、やみくもに重々しいものと感じさせず、しかし印象に残る物語と結末に仕上げている。
 スタイリッシュながら派手な要素や目新しさはなく、尺も短めなので観ているあいだは妙にあっさりした印象を受ける。しかし、悪党が悪党としてのし上がろうとする過程のリアリティと、クライマックスでの衝撃の描き方はなかなか巧みで、観終わったあとしばらくは沈痛ながらどこか快い余韻を残す。
 どうもこぢんまりと纏まってしまった印象は否めないが、低予算と少ない見せ場を、カメラワークと構成の巧みさで補った佳作である。往年の軽さも孕んだハードボイルドに愛着のある向きなどは好感を抱くのではないでしょうか。どーも劇場からはあっという間に引き上げてしまうようだが、たぶんDVDでの発売も早いと思われるので、チェックするならそちらでどうぞ。

(2004/10/02)


『cinema』トップページに戻る
『light as a feather』トップページに戻る