cinema / 『REC(レック)』

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REC(レック)
監督:キム・ギフン / 製作総指揮:パク・イルセオ / 製作:キ・セオク / 出演:カン・ソンミン、パク・ウネ、ハン・チェヨン、ジュン・ミン、リー・ヤンホー、ウン・ジオン / 提供:フルメディア / 配給:バイオタイド
2000年韓国作品 / 上映時間:1時間33分 / 日本語字幕:永嶺涼子
2004年01月31日日本公開
公式サイト : http://www.fullmedia.co.jp/rec/
池袋シネマ・ロサにて初見(2004/02/07)

[粗筋]
 ヒジョン(パク・ウネ)たちの通う高校は、いささか荒れていた。担任教師はからかいの種にしているし、ヒジョンの彼氏ヒョンジュン(カン・ソンミン)は養護教諭にこっそりアプローチをかけている。とりわけ、ソンウクは最大の被害者だった。同級生から集中的にいじめに遭っていて、話をするのは比較的気のいいヒョンジュンたちぐらい。
 そんなソンウクに夏休み前、最後の登校日に、クラス一の美人ウンミ(ハン・チェヨン)が話しかけてきた。アレルギーを抱えている彼を、ヒジョンとともに別荘に誘ってくれたのだ。級友から誘われたことがないソンウクは最初こそ半信半疑だったが、結局同意した。
 当初ヒョンジュンも一緒に来るという話だったのに、ギリギリでヒジョンの携帯電話にキャンセルの連絡を入れてきた。女の子ばかりと一つ屋根の下で過ごす、という状況に悶々としているソンウクの部屋に、何を考えたのかウンミがやって来て、彼を誘惑しようとする。その時、階下で物音がして――覆面姿の男達が武器を手に押し入ってきた。
 ヒジョンとウンミを縛り付け、ソンウクを足蹴にして、逃げ回った彼をベッドに括り付けたかと思うとチェーンソーで脅しつけ、最後にはナイフを突き立てて――誰かが、「カット」と叫んだ。覆面の男達の正体は、ヒョンジュンたち級友三人だった。ヒジョンとソンウクには内緒で悪戯を働き、その一部始終をビデオカメラで収めて映画にするつもりだったという。だが――いったい誰がすり替えたのか、ソンウクを刺したナイフは、玩具ではなく本物だった。彼はもうとうに息をしていなかった……
 対応に窮したヒジョンたちはルーレット方式で屍体の処理を決定した。ビデオテープもろとも焼き払う。ソンウクのポケットにビデオテープを入れて火を点けた次の瞬間、ソンウクは悲鳴と共に起きあがって、崖下の川へと転落していった。
 夏休みが明けたあと、学校をソンウクの姉が訪れた。未だ行方不明の弟について何か知らないか、と訊ねる彼女に、「友達じゃなかった」としらばっくれるヒョンジュンたちだったが、そんな彼らをソンウクの姉は冷たい眼差しで見つめていた。
 それから一年が経過した。去年のことなど忘れ、それぞれに受験などで忙しいヒジョンたちの元に、怪しい影が現れた……!

[感想]
 ……『ラストサマー』の劣化コピーじゃん。
 細かいところはまるで異なっているが、骨子がまるで同じなのだ。夏休みに人を死なせてしまい、当事者たちは発覚する恐怖に怯える。そして事件を忘れかかった一年後、突如としてその事実を知っているような何者かの襲撃を受け、ひとり、またひとりと仲間たちが殺されていく。どうにかそれに対抗しようとする一同。最後にいったん事態が収束したかに見えるものの、まだもう一波乱残っている……といったアウトラインはほとんどそのままだ。発表時期からして、あの映画をなぞる意図で製作されたことは自明と言っていいだろう。
 が、問題は細部が支離滅裂になっていることだ。まず事件のあと、何の断りもなく突然に一年が経過しており、当事者たちはあの惨事をなかったことのように普通に暮らしているのはかなり不自然な印象を受ける。少なくとも『ラストサマー』ではこの点に自覚的であり、ヒロインがそのトラウマを抱えて暗い学生生活を送っている、というディテールを用意することで不吉な空気を漂わせているのに、本編ではそうした経過が認められず、いきなり一年が経ちいきなり復讐が始まる、という不自然な展開になっている。
 そのあとの出来事も、いちいち挙げるのが面倒なくらいに無茶苦茶だ。映画のなかで最初に襲撃されるのはヒジョンだが、何故彼女からなのかがいまいち不明だし、襲い方も中途半端。ただ今後の伏線として恐怖を与えたいなら、あとあと重要な道具となるナイフを振りかざす必要はない。ついで犯人はまずインターネット経由でソンウク殺害の場面を収めたビデオテープを流し、続けてヒジョンの仲間のひとりを拉致した場所の映像を流して「見つけられるか?」と挑発する。まあ、この展開自体はいいのだけど、このとき拉致された当人ではなく、助けに来た少年ふたりが二手に分かれて(これも謎。相手が復讐に燃えていることが解っているなら、二手に分かれるとは思えないのだが)探したところを狙って捕まえ、先にそちらを血祭りに上げて、最初に拉致した男は傷つけただけで見逃している。犯人は、追跡するほうが総出でやって来たら、とは考えなかったのか? その場合、あのやり方は目撃者や自分の痕跡をいたずらに残すだけで、百害あって一利なしとは思わなかったのだろうか?
 まだある。この状況ならあの人物は犯人ではあり得ないと解るはずなのにそのことをまるで検証しようとしない当事者たち、そのくせ犯人のいまさらなミスを論って「頭が悪い」と言うヒロイン。どう考えてもソンウクの一件とは関わりのない人物を敢えて襲って殺す。如何にホラーのお約束とは言え、それまで随分と学習したはずなのに、あからさまに危険な血のあとを追っていく登場人物……などなど。
 最も重要な謎のひとつ、(以下伏せ字)どうしてナイフが偽物から本物にすり替えられていたのか?(ここまで)に何の説明も付けていないことも致命的。(伏せ字)ああした悪戯をすることは彼らのうち四人しか知らなかったはずで、だとすれば誰かが意図的に入れ替えたはずであり、それには理由が必要だろう。いちおう事件当時に「強く刺しすぎた」という言い訳は入っているのだが、たぶん血糊の仕込まれていた玩具のナイフで刀身に本物を使うはずはない。(ここまで)もっと合理的な説明があるべきこの点が無視されている。幾らでも欠点が挙げられるあたり、プロット段階での杜撰さを窺わせてしまう。
 とは言え、ちゃんと独自のアイディアらしきものも見られることは見られる。犯行の一部始終がビデオテープに録画されていた、という事実がいちおう主人公たちの行動原理にもなっているし、その後の幾つかの出来事に合理性を多少齎している。理解不能の結末に陥っていくオリジナルに対して、本編では比較的理に適ったサプライズが用意されており、ラストはそれなりに劇的に仕上がっている。
 だが、その悪くないアイディアをシナリオがまったく活かしておらず、意外性はおろかホラーとしての怖さまで打ち消して、残るのは前編に漂うチープさと滑稽さしかない。部分的にショッキングな演出は存在しているし、全編ビデオテープと限られたロケ場所で撮影し、それなりにインパクトを与えるところまで作り上げた熱意は買うが、もっとプロットを練り込まないことには、ただの二番煎じの誹りを免れまい。
 以上、それを承知のうえでツッコミながら観るぶんには楽しめること請け合いである。ホラーとして観た場合、正直褒められる出来にはほど遠い。『ボイス』といい本編といい、どうも韓国で作られて日本に入ってくるホラー作品は、いまいちの出来ばかりという気がする。私が観た範囲で最も出来が良かったのが、いちばん古い『少女たちの遺言』というのが何とも……。

 今回プログラムは作られていませんでした。故に、チラシと日本の公式ホームページを参考にして本稿を執筆したのですが、役者と役名の関連が調べられないばかりか、登場人物の名前がちゃんと出揃っておらず、キャラクターの見分けもつかなければ当然名前を覚えきれなかった役名と役者とを正確に並べることは不可能でした。あしからずご了承ください。ああ、やっぱりハングル語の勉強しようかな。

(2004/02/08)


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