cinema / 『トランスポーター2』

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トランスポーター2
原題:“Le Transporteur II” / 英題:“Transporter 2” / 監督:ルイ・レテリエ / 脚本:リュック・ベッソン、ロバート・マーク・ケイメン / 製作:リュック・ベッソン、スティーヴン・チャスマン / 製作総指揮:テリー・ミラー / 撮影監督:ミッチェル・アムンゼン / 美術:ジョン・マーク・ハリントン / 編集:クリスティーヌ・ルーカス=ナヴァロ、ヴァンサン・タバイヨン / 衣装:ボビー・リード / 武術指導:コーリー・ユン / カースタント・コーディネーター:ミシェル・ジュリエンヌ / 音楽:アレクサンドル・アザリア、RZA / 出演:ジェイソン・ステイサム、アレッサンドロ・ガスマン、アンバー・ヴァレッタ、ケイト・ノタ、マシュー・モディーン、ジェイソン・フレミング、キース・デヴィッド、ハンター・クラリー、シャノン・ブリッグズ、フランソワ・ベルレアン / 配給:Asmik Ace
2005年フランス・アメリカ合作 / 上映時間:1時間28分 / 日本語字幕:林完治
2006年06月03日日本公開
公式サイト : http://tp2.jp/
丸の内TOEI2にて初見(2006/06/03)

[粗筋]
 厳密なルールを自らに課し、表沙汰に出来ない荷物を速やかに運ぶことを生業とする男フランク・マーティン(ジェイソン・ステイサム)――だがこの頃の彼は、いささか勝手の違う仕事を引き受けていた。
 ジェファーソン・ビリングス(マシュー・モディーン)の息子ジャック(ハンター・クラリー)が下校する時刻に学校に向かい、彼を家まで運ぶ――要は、学童の送迎である。だが、それでもフランクは手を抜かなかった。ジャックとのあいだに信頼関係を築き、彼にもルールを守らせる代わりに、快適な移動と安全とを保証する。契約はジャック本来の運転手が復帰するまでの僅か一ヶ月であったが、最後には決してジャックにとって心地好いとは言えない、彼の両親の関係にも気懸かりを覚えるほど、フランクはこの仕事に馴染んでいた。
 事件は、土曜日に起きた。ジャックの母オードリー(アンバー・ヴァレッタ)の頼みで、誕生日会の準備を密かに進める彼女に代わって、ジャックの定期検診の送迎をしてほしい、と請われたのだ。快く引き受けたフランクであったが、長年の経験はその病院の異常をすぐさま彼に認識させた。ジャックを狙う何者かが、病院を占領していたのである。
 何らかの注射をジャックが打たれる寸前に辛うじて彼を奪還、ビリングス家に辿り着いたが、そこには既に敵の手が回っていた。門を潜ったところで、警官に偽装した女ローラ(ケイト・ノタ)たちの襲撃に遭い、フランクはやむなくジャックとローラとを乗せたままビリングス家を離れる。
 警官隊とのカーチェイスの末、どうにかフランクは指定された港まで辿り着くが、首魁であるジャンニ(アレッサンドロ・ガスマン)らの銃器で包囲された状況では手の打ちようがなく、敢えなくジャックを奪われる。だがフランクは、ここで大人しく引き下がるような男ではなかった。車の下に仕掛けられた爆弾をギリギリで外し、ジャンニらに自分を死んだように思わせる一方で、行動を開始する。
 ジャンニによって身代金を請求されたジェファーソンは、フランクが一ヶ月を費やして計画した誘拐事件であると判断するが、じかに接してきたオードリーは信じられない。そんな彼女の携帯電話にフランクが連絡してきた。自分が事件とは無関係であること、必ずジャックを救い出すことを約束すると、フランクは電話を切る。
 続いてフランクは別の人間に電話をかける。彼がフランスで生活していたときに友情を結んだタルコーニ警部(フランソワ・ベルレアン)が休暇を利用して遊びに来ていたのだ。既にフランクの自宅に上がり込んでいたタルコーニに警告する目的だったが、時既に遅し、急襲した警察隊によってタルコーニは捕縛されてしまう。
 一連の状況から事件が単純な誘拐事件でないことを見抜いたフランクは、警察の捜査が入った病院に潜入し、手懸かりを収拾する。身分が証明されたために処分が宙に浮き、事実上警察内部に潜入しているかたちになったタルコーニの協力を得て、事件にロシア人のウイルス学者ディミトリ(ジェイソン・フレミング)が関わっていることを嗅ぎつける。
 果たして、ジャンニたちの真の目的は何なのか。フランクはジャックとの約束を守り、彼を救うことが出来るのか……?

[感想]
 娯楽映画の王道はやはりアクションであろう。ハリウッドであれば『ダイ・ハード』や『リーサル・ウェポン』『ターミネーター』といったシリーズものが牽引し、ブルース・リーやジャッキー・チェンといったカリスマ的な存在が支えていたものだが、近年は安定したシリーズといえば『ワイルドスピード』ぐらいのもので、単発であっても振るわない作品が大半だ。
 そんななかで気を吐いたのが『トランスポーター』である。『TAXi』シリーズなどで、荒唐無稽だがインパクトの強い娯楽アクションを構築することに長けたリュック・ベッソンの脚本と製作のもと、ヴィジュアル感覚とアクション演出のセンスに優れた新人監督ルイ・レテリエに、ハリウッドにおけるマーシャル・アーツ演出の第一人者であるコーリー・ユンが、元スポーツ選手というキャリアの持ち主である主演ジェイソン・ステイサムの身体能力と存在感とを存分に活かして爽快感たっぷりのアクションを構築、興収的にも成功を収める結果となった。
 本編はその『トランスポーター』のメイン・スタッフが再結集して作りあげた作品であり、前作を鑑賞して劇場に足を運ぶような観客の期待を裏切らない、見事に正統的な続編に仕上がっている。
 舞台こそフランスはニースからアメリカはマイアミに移しているが、基本的なスタイルに変化はない。ジェイソン・ステイサム演じる主人公フランク・マーティンは黒のスーツに身を包み、暗証番号によるロックを採用した高級車に乗って、特殊な品を運搬する“運び屋”稼業を続けている。発端では少年の運転手を務めているが、特例であることはあとに具体的な台詞でも説明されるし、何より冒頭からの言動や佇まいの不動ぶりが、場所を変えても仕事やポリシーを変えていないことを伝えている。
 それにしても本当にこの監督は“掴み”が巧い。『トランスポーター』では僅かな重量違反をよしとせず、依頼人である銀行強盗に余剰人員を手ずから排除するよう促し、『ダニー・ザ・ドッグ』では従来のジェット・リー像を逸脱した衝撃的な戦闘ぶりを見せて、いきなり観客の目を惹きつけたが、本編でもその巧みさは健在だ。前作のオープニングを再現するかのような展開かと思えば、いきなりカージャックに遭い、圧倒的な戦闘力で一掃する。それだけなら普通だが、フランクは拳を交える前に「クリーニングしたてだ」と言って上着を畳み終わるまで敵を待たせるのである。攻撃力以前に、まるっきり人を食った態度で観る側の心を掴んでしまう。
 前作を彷彿とさせるオープニング、と記したが、続く目的地の描写がまた前作をきちんと踏まえている点も憎い。前作の銀行に似たエントランスの様子を、やはり前作と似たカメラの動きで追うが、扉を開けて現れたのは覆面姿の男達ではなく、歓声を上げる大勢の子供達。明確なコントラストで、これがフランク・マーティンの物語であっても前作と同じでないことを明示してくる。こうした前作を踏まえた描写は他にも細部に鏤められており、その擽りの巧さは娯楽作品の組み立てに長けたリュック・ベッソンの脚本と、観る側の歓心を掴む技に優れたルイ・レテリエ監督ならではのものだろう。
 そして、肝心であるアクションのアイディアと迫力についてはもはや言うまでもない。道路規制を無視し空でさえ飛び回る奔放ぶり、果てには走行したまま車体下の爆弾を取り外す神業を披露する。肉体的にも銃弾をステップで避けてみせたり、『ロミオ・マスト・ダイ』でジェット・リーが演じたものを更に膨らませたようなホースによるアクションを採り入れるなど、工夫は多彩だ。カメラの動きやカットにも配慮した演出が、そのスピード感と迫力とを更に盛り上げる。
 ただひとつ欠点を挙げると、あまりにもトータルで質が高く、それを90分にも満たない手頃な尺にぴっちり詰め込んでいるために、全体がフラットになりアクションひとつひとつの印象が薄れていることだ。実際には繰り返し吟味するほどにその荒唐無稽ぶりと相反するかのような細工の豊かさが解るので、二度三度と観ていくほどに評価は上がっていきそうに思うのだが、そういう見方をする人ばかりでないことを考えれば、やはり全体が平板に見えてしまうのはプラスに評価はしづらい。
 だが、これは寧ろ娯楽としてよく仕上がっているからこそ出てくる厭味だろう。こういう要求をしたくなるくらいに、アクション・エンタテインメント・ムービーとしての本編の質は高い。観終わった瞬間に爽快感を覚え、厭な余韻は一切なく、フランクという男の魅力にいったん捕らえられたが最後、繰り返し鑑賞したくなる作品。スタッフも主演のジェイソン・ステイサムも前作のヒットを契機に多忙さが増し、招集することが困難となっているようだが、いつかまた新たな活躍に巡り逢えることを期待したい。

(2006/06/04)


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