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24.スケッチの効用 

  遠く深山幽谷を尋ねるまでもなく、われわれの日常の生活圏にも、素晴らしい、絵にしたくなる風景が沢山あります。しかしそれをカメラに収めてあとでプリントを眺めてみると、そのときの感動がなかなか蘇って来ないし、また絵にするに値しなかったという経験をよくします。想像しますに、現場のシーンは固定されたものではなく、日差しと気候の変化や人の関わりにより、微妙に変化し常に動いていること。また現場での感動は、その変化の中でシーンをある程度理想化し、美化して見ているからだと思います。 
 また身近で親しみのある風景、とくにおらが山やおらが故郷なら、無意識のうちにも理想化や美化をしたくなるものだと思います。  だからキャンバスの上で現場の感動を再現するには、実景に対して、それなりの手入れをする必要があります。そして油彩画はそのような手入れを可能にしてくれるのです。
 たとえば、現場をまず素描で、感性の赴くままにスケッチしてみましょう。つまり、できるだけ短時間で書き下ろしてみることです。こうした素描はある意味で、現場の感動を正直に伝えるものです。デッサンの正確さはこの際あまり問題としません。次にこれを同じ現場の写真と比べます。そこでいろいろな違いがきっと目に付きます。まず素描で強調された部分があると思います。しかしこれは現場の感動を支える要の部分かもしれません。だからそれなりに重視すべきだと思います。
 逆に写真との比較で、素描では描き足りていない部分もいろいろ目に付きます。しかしこれらは多くの場合、写真が描き過ぎ、あるいは説明のし過ぎだと思わなければなりません。説明のし過ぎは絵を充実させるどころか、画面全体を騒々しいものにし、屡絵の焦点をそらしてしまうマイナスの効果があります。
 前記はほんの一例ですが、本制作の前の一枚の素描が屡油彩画ならではの良い作品を造る際の水先案内人になってくれるのです。素描(スケッチ)が重要だとよく言われる理由がここにあります。
     2009/12