JVCのテストレコードTRS-1007の詳細

上の画像だけでは分かりにくいので基準信号の内容をテーブル化しました。ステレオカートリッジで確認したところリファレンス信号間で出力の違いは認められませんでした。Sweep信号中の1kHzは若干基準レベルより低くなっていますが上の説明にあるように4kHz以上は完全な定速度振幅35.4mm/sになっています。RIAA録音特性から高域の時定数を除いた録音特性になっています。Sweep信号に先立つ各Pilot Signal 1kHzの録音レベルはそれぞれの基準信号のレベルより1dB低い理由はSweep中の1kHz信号と同じレベルに合わせたためと説明されています。

1kHz REFERENCE LEVELS OF TRS-1007
Band Modulations  effective velocity cm/s (rms) peak velocity cm/s
5 Left (L) 2.5 3.54
6 Right (R) 2.5 3.54
7 Lateral(L+R) 3.54 5
8 Vertical(L-R) 3.54 5

TRS-1007において基準周波数1kHzでのレベルと周波数特性を測る時の1kHz録音レベルが同じなのかどうか疑問がありましたのでネットで探し購入しました(結論としては前述のごとく1dB程の差に過ぎないことが分かりました)。結構高い買い物でしたー物好きには困ったものだと自嘲しております。Sony XL-55mono(モノラル用4端子カートリッジ)には以下の特性表が付いており感度表示で(1kHz 5cm/sec, 45°において)とありますが、TRS-1007は1kHz peak 3.54cm/sec 45°のはずなのです。ステレオ用のPICKUP DATA票を転用したのでH(水平)に訂正し忘れたようです。

以下はTRS-1007を使ったDynavector DV-50Aの特性表です。45度方向peak 3.54cm/sを水平方向peak 5cm/sに換算して表示しています(あるいは素直に水平方向peak 5cm/sのバンドを使ったと見るべきか)。Rectifier:RMSの記述から出力レベルは実効値で示されていることが分かります。このステレオカートリッジの感度はIECの表記法では0.2*1.4142/3.54=0.08mV/cm/sになります。ステレオ用XL-55の感度は1kHz peak 5cm/sec, 45°において0.2*1.4142/5=0.057mV/cm/s。同じ出力表示0.2mVでも実際にはこれだけ違います。

よほど自信作だったのかJVCは1978年4月AESのConventionでこのTRS-1007の技術的な特性について以下のように解説しています。interferometry(光の干渉)という見慣れない言葉がありますが、Buchmann-Meyer(1930)によって開発された光の干渉を使って音溝の速度振幅を測定する古くから定評のある方法[光帯法]のことです。

New Approach for Sweep Frequency Test Record: A low cross-talk precision sweep frequency test record is mastered by the half-speed cutting system, which uses an advance-ball and the technique of synchronizing frequency sweep speed with platter revolution. The amplitude is calibrated by the interferometry method. The resulting test record has specifications of frequency response, 20 Hz to 20kHz + 0.5 dB; separation over 25 dB below 50 Hz and above 10kHz; and separation over 35 dB in the mid-range.

スポット周波数レコードは結構見受けられますが、精度を保ちながら20Hz-20kHz sweep録音はDGGのDIN 45543 (1984)やこのレコードなど余り多くはありません。

TRS-1005を使った特性表の例

同じくJVCのステレオテストレコードTRS-1005は1kHz-50kHz Sweep L, R 繰り返し9回AB面同じ信号が録音されたもので高域周波数特性とクロストークや内周・外周の差をテストするものでした。以下はどれもDENON DL-103C1のものです(針交換のたびに特性表がついてきました)。テストレコードの信号レベルは45度方向peak 3.54cm/sですが例によって水平方向peak 5cm/sに換算されて表示しています。JIS C5503(1979)「ピックアップ」の勧告では:カートリッジの出力電圧測定について「モノラルレコード用は速度振幅50mm/sに、ステレオレコード用は速度振幅35.4mm/sに換算しなければならない」というのを逆行して換算表示しているわけです。3つの測定特性にばらつきがあるのは、カートリッジの個体特性だけではなく、テストレコードの劣化も考えられます。山本氏は重針圧(3g以上)のカートリッジにおいて50回ほど同じレコードをトレースすると高域の機械インピーダンスが高いことにより音溝が削られ4kHz-20kHzの出力が増えることを指摘しています。1g程度の針圧のカートリッジではテストレコードの劣化が少なく周波数特性に変化がない由ー同様の測定結果は1960年代後半にVEB Deutsche Schallplattenでも報告がありました。一方で高域周波数特性は溝径と針の曲率により変化します。TRS-1007では半径約7.5cmに記録された縦信号sweepが最内周になっています。一般に周波数測定レコードの音溝は外周側だけに記録されているのが通例ですが、TRS-1007の場合、外周と内周に同じsweep信号が記録されていることは特記すべきことです。実際のレコードでは内周の高域はフラットに聞こえるように録音補正されているのであって、フラットに録音されているわけではありません(トレーシング・シミュレータの項参照)。丸針0.65milのDL-103はbandwidthとして45kHzまで伸びているとされますが、高域端での再生損失(dB)は示されません。又Frequency Bandwidthと±dB許容範囲で示されたFrequency Responseは本来別物です。モノラルのDL-102は±2dB以内の保証帯域(本来のFrequency Response)として50-10000Hzが示されていますが、そのbandwidthは30-15000Hzよりワイドです。

正体不明のJVCのテストレコード

レコード原盤の番号(RG-○○○○)だけ記載されている内容不明のレコードが手元にあります。表RG-1256は声によるチャンネルガイダンス+ワーブルトーンから4チャンネル用だと分かりました。このレコードの白ジャケットの裏にオンキヨー神戸営業所のスタンプが押されているのでおそらく4チャンネル時代には各社にサービス用途で配られていたようです。JVCの4チャンネル用テストレコードTRS-1006の一部もしくは原型のように思われます。私は幸いにも4チャンネルの混乱期以後にレコードを集めだしたので4チャンネルDemodulatorを持っていません。各バンドの内容はざっとステレオ2channel再生した上での憶測にすぎません(特に裏RG-1257は不確かです)。

Band  
1 Channel 1(voice+warble tone) L Front
2 Channel 2(voice+warble tone) L Back
3 Channel 3(voice+warble tone) R Front
4 Channel 4(voice+warble tone) R Back
5 Channel 1-4 & 1-4(voice+pure tone)
6 R&L front?
7 R&L rear?
8 Plain groove? around radius 11.5cm  
9 Inner Plain groove? at radius 7.5cm
  1 Reference tone
2 spot from super high to high
3 spot from high to middle
4 spot from middle to low
5 Reference tone
6 Same set(?) of above 1-5
7 Wide Plain groove or supersonic?
8 Plain groove?
9 Plain groove?
Flat Face from radius 10cm

テストレコード一覧(hearing testやデモ・レコードを除く)

日本ビクターの技術陣が書いた「レコードとレコード・プレーヤ」(1979)P.288にテストレコード一覧表がありました。一番下に載っているDIN45541(1971)周波数レコードと45542(1969)歪測定レコードは勿論東芝EMIのものではなくドイツDINの古めのテストレコードです。JVC TRS-1001はモノラルの標準レコードJIS C5507に準拠する東芝EMI LF-1003に似ていますが総合特性測定用RIAA特性のSpot信号も含んでいるようです(その録音レベルは1kHz 5cm/sより低いレベルで録音されているはずです)。

ドイツ版IEC98(1987)のAppendixにも周波数レコードの一覧がありました:1kHzでの基準信号/左右出力差(チャンネルバランス)/セパレーションならびに出力周波数特性とクロストーク周波数特性測定用。「録音特性が通常の再生特性(RIAA=IEC=BS=DIN=JIS)と異なる場合には必要な再生補正をすること」の注意書きがあります。ちなみにIECでは1kHzの基準信号レベル(0dB)は特定されていませんのでそれぞれのレコードの基準レベルが異なります。日本では過去のJISの基準レコード(C5507&C5514)に則りモノラル(H、V)の速度振幅はピーク50mm/s、ステレオ45度方向(L、R)の速度振幅はピーク35.4mm/sを採用しているようです。いずれにしてもこれらのレコード群は今では絶版になっていて新品では入手不能です。EIAJ SS41によりテイチクが3.15kHzの信号によるWOW/FLUTTERテストレコード(Level:peak 8cm/s lateral=effective 5.6cm/s lateral)を作ったことがあったらしいので問い合わせてみたら「古いことでよく分からないがとにかく在庫がない」といわれた。JIS C5521-1975(最終版)ホノモータ試験方法ではJIS C5514(ステレオ基準レコード)にある3kHzのバンド(SS−2)を使うことになっていたが、DIN 45545がIECやCCIRに採用され国際標準になったので補助的に3.15kHzの測定信号用レコードを作ることになったらしい。普通WowFlutter計では基準周波数±10%を許容しているので3kHzでも3.15kHzでもどちらの基準信号で測っても基本的には同じ測定値になる。

60年代に普及していたCBS STR-100の録音特性(L/Rスポット周波数)の概念図。500Hz以上は定速度振幅、500Hz以下は定振幅なので、理想的な速度比例型ピックアップでトレースしてRIAA再生するとRIAA録音特性との差がピンクの線の周波数カーブになる。

DENONも幾つかテストレコードを出していますがPCM技術を使った1976-1979年のDENON AUDIO TECHNICAL TEST RECORDが有名です。日本オーディオ協会のAD-1はXG-7001を復刻したものでした。なお、XG-7001(1976年8月発売)は1973年秋発売XL-7001〜3(輸出用XL-7004〜6)オーディオ・テクニカルレコード3枚組み(9000円)の第1枚目の単独発売とのことです。Mechanical Impedanceとは何なのかを知るために、XG−7001を最近入手しました(またまた、おバカですね)。

XG-7001 DENON TECHNICAL TEST RECORD A: Slow Sweep, Mechanical Impedance, Very Low Frequency Sweep, Wow Flutter 3kHz
B: 1/3 octave band noise, flat zone for inside force check, phasing, reference levels, plain groove
XG-7002 PICKUP TEST I Very High Frequency Sweep (1kHz-50kHz) & Very Low Frequency Sweep (3Hz-1000Hz)
XG-7003 PICKUP TEST II Mechanical Impedance, Reference Levels, Polarity Test
XG-7004 TURNTABLE TEST Wow & Flutter measurement (3kHz&3.15kHz 33&45rpm), Rumble measurement
XG-7005 RIAA SYSTEM TEST Sweep, Spot, 1/3 Octave Band Noise

驚くべきことにXG−7001のSN測定用のplain grooveは特別製作の無音溝でした:「一般のカッターヘッドでカッテングしますとハムなどの雑音が出る為に、このバンドでは特に、振動系を持たない無音溝カッターヘッドを作り、カッテングしてあります」と述べられていました。 

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JVCはカートリッジ測定にpulse-train法(Pulse Train Analytical Method)を提唱しました。従来の周波数特性測定だけではCD-4対応のカートリッジとして実際の動作測定が十分ではないとして、位相特性などを調べる方法でした。AES(1974)にはMeasurement of Phonograph Cartridges by the Pulse-Train Methodの表題で発表しIEEE(1977)にはThe Pulse-Train Method and its Application to The Measurement of Phonograph Cartridgesなど。以後もたびたび村岡輝夫さん(CD-4の開発者の一人)が中心となって研究発表がありました。「レコードとレコードプレーヤ」(1979)P.282-286にも詳しい解説がありました。パルス波形(raised cosine wave)、パルス巾20μS、繰り返し周波数156.25Hzの仕様の特殊テストレコードを超低速カッティングにて製作したそうです。140種ものカートリッジを測定したものが示され以下のような意義深い発言をしています:
「FM信号に対する良否には、位相特性よりも郡遅延特性(位相特性周波数で微分したもの)のほうが向いているので、特性の表示には後者によっています」
「@パルス・トレイン法による周波数特性とスィープ・レコード法による周波数特性は基本的に一致する→カートリッジの動的な周波数特性の普遍性の証明
A使用帯域内では周波数特性の山谷と郡遅延特性の山谷は完全に一致する→カートリッジの伝送特性の最小移送性の証明」

このようにCD-4用のカートリッジは一般的には性能がよいのですが、普通のステレオ用としては商業的に成功したものが多くないように感じます。偏った音質(オーディオマニアに心地よい音)とハイファイは相容れないもののようです。レコードの瑕も再生カートリッジの違いにより気になったり気にならなかったりします。私のような素人は測定用テストレコードを使うより瑕の再生音で良否を判断します:プッ>プツ>ブツ>ブバ

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