周波数テストレコード

JIS C5507(1958年制定)に準拠する東芝EMIのテストレコードを最近入手しました。東芝音楽工業から東芝EMIに改名したのが1973年なのでそのころ製作のものです。モノラルの基準レコードの規格JIS C5507は既に1971年廃止されていたので当時はステレオの基準レコードの規格JIS C5514(1967年制定1977年最終改定1984年廃止)が有効だったはずです。社内に閉じこもっている技術者は規格の動向に無頓着なことが多いようです。事の始まりは覚えていても終わりは不分明なことも多い。いまさらLPを愛好する私を棚上げして言えば、自らの死を知らないゾンビみたいですね。録音区分B/C/DはそれぞれJISに則った測定方法とその項目を示しています。LPの外周側(半径12cm)の無音溝(無変調溝)をトレースしストロボ盤でターンテーブルの回転速度を確認したことも窺えます。録音区分EはJISでは指定されていないそうですが、溝径に依存するホノモータの負荷特性などが確認できます。Section D 100Hz 1.1cm/sはRIAA再生イコライザーを通せばSection Bの1kHz 5cm/sと同じ電圧を示すはずですので補助的にSN比測定のSignal測定に用いられたようです(無変調溝はNoise測定に使用)。

[容器内のコウ正表]?!として以下のB5サイズの較正シートが添付されていました。区分Aの30Hz-1kHz、Dの200Hz-400Hzの真ん中の一点鎖線はJISの基準線(許容値は基準線±2dB以内)を表しています。

JVCのテストレコードTRS-1007と同様にRIAA録音特性から高域のtop-lift (75microsecond)だけ省いたものでした。基準水平録音レベルを1kHzでpeak 5cm/s (rms 3.54cm/s)とすると以下のように シミュレーションできます。3180-318μsecondsの時定数の録音カーブでは1kHz以上の高域で少しだけズレが生じ完全にフラット(定速度振幅)にはなりませんし、RIAAの低域ともずれが生じますが、いずれも1dB以内なので許容範囲とされているようです(図では1kHzが0dBになるように作りましたが、JVCのTRS-1007 Sweep Frequency Test Recordでは約1dB下にずらしてRIAA特性の低域特性と合致するように作られています)。LF-1003では基準レベルからの偏差は較正シートにより補正することになっていましたー何と正直なことでしょう!

測定するには特殊なイコライザー及び増幅器が必要になります。このようなタイプのテストレコードが多かった理由は、

  1. 高域側の録音条件が軽減できる (RIAA録音特性のままでは20kHzで19.6dBとなり1kHzの速度振幅の10倍近くになってしまうー下の録音再生限界の図を参照すると外周=ピンクの線でも高域端は録音限界を超えてしまうー外周に高域側を録音する理由にもなっています)
  2. 針による溝の傷みなど再生側の問題も軽減でき、録音再生上のメリットによるものだと思います。

従ってRIAA特性そのままのFrequency Sweep Test Recordは相当低いレベルで録音されているはずです。例えばDIN 45543 (1984)の周波数レコードの規定によると:IEC/RIAA録音特性では基準レベル(ステレオ片チャンネル1kHz 8cm/s, 水平又は垂直録音1kHz 11.3cm/s)に対して-10dB sweep from 20Hz to 1kHz and -20dB sweep from 1kHz to 20kHzとされ、topliftを省いた録音特性でも-10dB sweep from 20Hz to 20kHとして高域側の録音再生に配慮しています。 端的に言うとアナログレコードは高域の録音レベルに制限がある(もちろん低域端にも振幅レベルの制限がある)

上の図のEq1はピッチ幅によって制限される値(高レベルで長めの録音をするためにはVariable Pitchが必要な理由にもなっています)、Eq2は内周外周での速度振幅限界(≒線速度/√2)、Eq3は針と溝径による高域再生限界です。詳細はdistortions.xlsのGroove and modulationのシートをご覧ください。


他のテストレコード各種

テストレコードは現在その大半が在庫切れ/販売終了になってしまいました。

  1. アナログレコードの専門ショップ0510のもの(東洋化成)ちなみに0510(れーごーとぅ)という語呂合わせは東洋化成の2代目社長の萩原克治さんが提唱した「5月10日はレコードの日」に由来している由。

  2. 誠文堂新光社発行のもの(MJ/DENON)(1999年発行ー現在在庫切れ?)

  3. 日本オーディオ協会発行のAD−1(在庫切れ/販売終了)

  4. 海外では英国HFN(Hi-Fi News)やCardasのテストレコードもあり、後者はたまに輸入販売されているようです。

Model of Test Record Details Remarks
1 Toshiba-EMI LF-1003 circa 1973      2 copies Frequency Record based on JIS C5507(1958) about monaural standard disc
2 Denon XG-7001 (year 1970) Test Record same as XL-7004 selected from series XL-7004-6 and AD-1 by Japan Audio Society
3 JVC TRS-1007 (RG-2001) Frequency Record AES's Convention (April 1978) New Approach for Sweep Frequency Test Record
4 JVC RG-1256/RG-1257            3 copies Channel Guidance similar ? to TRS-1006 for discrete 4 channel record
5 JVC TRS-1004 (RG-1392) For developing CD-4 and stereophonic pickups (Band 12 absolute polarity check by square wave 370Hz duty ratio 3:7)
6 Sharp SSR 3001 (NAS-189) (King Records) Auto-Player Test Record similar to NEC ES 1008 checking lead-in/out and stop
7 NEC ES 1008 (King Records) Auto-Player Test Record similar to Sharp SSR 3001 checking lead-in/out and stop
8 Diatone P-3001 (RG 1410) Test Record Stereophonic & 4 channel
9 DIN 45542 (TELDEC) circa 1969 Verzerrungs-Mess-Schallplatte (Side A:VTA & Side B: Non-linear Distortions Test at 45degrees components)
10 Shure TTR-103 issued in 1972 PHONO CARTRIDGE (45 RPM) Trackability Test Record.
11 Shure TTR-110 An Audio Obstacle Course-ERA III (in the era of cartridge V15 type III).
12 MJ/Denon HQ-180 Technical Disc vol.3 issued in 1999
13 Hi-FiNews Analog Test LP (The Producer's Cut by Len Gregory) issued in 2002
   RG in JVC recordings may stand for Recorded Master (Rokuon-Genban in Japanese).
   Some test records (1,4,5,6,8,9) were given to me free of charge from readers of my HP.
   In return I sent some test records (7,10) to a friend.
  Essential test records were produced mainly in 1970s when LP records had their heyday on worldwide production scale.

過去の測定用とデモ用LPについてはDecca LXTのコレクターとして有名な北川さんのサイトに素晴らしいコレクションがあります(Deccaの新旧ffrrのテストレコードもあります)。70年代にはオルトフォンやShureやCBSから測定用やデモ用のレコードが出ていました。レコードメーカーと機器メーカーからも促販の一環(商品のオマケ)としてデモ用レコードがいろいろ作られました。東芝EMIのLF1003のほかにNECのテストレコードも使い道を知らない人から安く譲ってもらいました(ワウフラッター計などこの手の特殊なものはマニアでない部外者やバタ屋が頼りです)。

NECのテストレコードはキングレコード製作でした。NECは1980年頃ピュアオーディオ業界に参入しました(1990年代にはAuthenticというブランドになった)。このレコードはオート・プレーヤを開発・調整する目的で作成されたようです。社内用・工場用・サービス用の調整レコードは他社にもいろいろあったようですが用途不明のものも有り、その多くが廃棄処分になったようで日の目を見ませんでした。第2面1.純音3kHzの溝はワウフラッターテスト用(45rpm時のワウフラ測定は珍しい)2.はステレオの左右チャンネルとピックアップ感度を測る目的のようです。3.純音15000−30c/sはsweepではなく5バンドに分かれており東芝の区分Aと同内容の録音でした(半径10cm以内の内周側に記録されているが45回転なので周波数特性に遜色がない)。このレコードの最大の特徴は30cmLPなのにレーベル紙はSPのように直径が72mmと小さいものが貼られ、ピッチ3mm(第1面)と1mm(第2面)のリードアウト溝上にメトロノームとカウントする声がレーベル面近くまで録音されていることです。3mmピッチではレーベル面の手前でオートストップ・リターンが働きますが1mmピッチではそれらが作動せずレーベル面に針が乗り上げてしまうオートプレーヤがあります(それは誤作動ではなく定格どおりの動作です)。リードアウトピッチ規格は6.4+/-3.2mm(IEC)又は4-9mm(JIS)とされているので1mmのリードアウトピッチは規格外です。たまに規格を無視したものがイタリア盤などで見つかりますーその場合もオートストップ・リターンが働きません。
ES-1008は1978年のYamaha YP-D8(CdS光センサーで導出溝の速度に反応する無接触式オートストップ機構つきYP-D10の海外向け改装モデル)のオートストップ調整に使ったことがそのサービスマニュアルに載っていました[ピッチ3mmの導出溝でオートリフトし、ピッチ1mm(バンド分離溝marker spaceは通常1mmピッチ)には反応しないように調整すれば通常の録音溝や偏芯で誤違ってオートリフトしてしまうことがない]。 オートリフトの機構には4種類あるらしい:1.Position Trip (一定内周位置に反応する)    2. Progress Trip (finishing grooveでアームがスィングしなくなった時に反応)   3. Eccentric Trip (SPのeccentric最終溝に反応)   4. Velocity Trip (lead-out pitchによるアームのスィング速度に反応)
4のVelocity Tripが電子アームを採用したオートプレーヤーでは主流になっていました。

測定しても音が良くなるわけでも悪くなるわけでもありません。ただ、何かおかしいなと思った時、測定することでその原因が分かることがあります。そしてその原因を排除することで忠実度を高めることができます。必ずしも良い音には直接結びつきませんが、独りよがりの温泉気分から脱却することができます(いつまでも温泉に浸かっていられればそれはそれで幸せなことです)。あまり良い測定数値が出ない機器の方が好ましいと感じることがあるのも、オーディオの面白いところです。突出した個性的な音が出る機器は一般にあまり特性がよろしくないのに比べ、普通の機器が中庸の平均点を取ってしまい機器間の物理的な差位が感じられない場合もあります。オーディオって何なのだろうと思うことが度々です。他人の持っていないものを持つ心持ちの差位(あるいは評判や能書きやブランド)の方が勝ってしまうこともあります。


モノラルLP用カートリッジの測定

テストレコードは持っているだけでは面白くないので、手持ちのモノラルカートリッジをLF-1003を使って調べてみました。どれも一昔前のMCカートリッジで使用時間もバラバラなので、製品自体の特性というよりも特定個体の現状としてみてください(周辺温度26度湿度55%)。私の印象ではATはハデ、XLは繊細で伸びがある、SPUは中庸で安心感がある、102は中域の安定感、といったオーディオマニアらしい固定観念を持っていましたー果たして記憶にある音質傾向と測定値が符合するか?テストの方法は自作のLine/Headphone兼用Flat-ampを使いましたー本来のオーディオ用としての使用よりも試験用前段増幅器として重宝しています。フラットアンプの入力インピーダンスは約33kΩでそれがカートリッジの負荷抵抗になります。アームは例によってマイクロのMA-505です。ATとXLは4端子の独立2チャンネル出力なのでいろいろな接続法が実験できます(SPU Mono GMは本体内部で既にモノラル接続されているようです)。アナログメータやデジタルテスターで表示されるのは普通実効値(RMS=root mean square*)なので注意が必要です(ヘタレな私はAC100Vの尖頭値は±141.4Vになっているのを10数年前にやっと気が付きましたートランスの交流電圧を整流した時DC電圧は√2倍相当になるのでコンデンサーの耐圧をそれ以上にしなければいけないのと同じ理由です)。ところでカートリッジの出力感度の表示方法は溝の振幅がpeak cm/sで表示され出力はmV(rms)だったり各社一様ではありません。IECの推奨するようにステレオカートリッジはmV/cm/s 45degreesに、モノラルカートリッジはmV/cm/s lateralに統一してほしいですねーそして溝の速度振幅と出力電圧を共にpeak又はrmsに揃えてほしい、と思うのは私だけでしょうか?DL-102の出力表示-48dB(dBm)は600Ω標準マイクなどに使われる基準電圧0dBm=0.775Vrms(600Ωで消費される電力0.775^2/600=1mW)と比べた電圧で、水平モノラル信号速度振幅1kHz peak 50mm/sにおいて3mVrmsに相当します(ミリバル電圧計の目盛にも1V基準のdBVと0.775V基準のdBmがあります)。IECの感度表記が一般的にならなかった理由は溝の速度振幅はピーク(理論値)で表記する一方、出力電圧はRMS(メータ表示による測定値)を表す慣習が多いので素直に割り算が成立しないことにあると思われます。太字の数値を5倍すると速度振幅5cm/sにおける出力公表値に該当します。細字の方は速度振幅と出力電圧を共にpeak又はrmsに揃えた時の値となります。基準レベル1kHzは区分AとBの頭を感度の基準レベルとしました。[較正表]によれば区分Aの途中の1kHzが一番高いレベル[+0.9dB]で録音されているはずですが個々のカートリッジでトレースすると3点の出力に差の出るカートリッジと出ないカートリッジがあります。*注:二乗平均と呼ばれるRMSとは何のことやら? 普通はコイルや抵抗などで実際に消費される実効値と説明されていますが、上部が曲線からなる範囲の面積を求める時に使われる数学的手法です。正弦波の波高を単純サンプリングしてサンプリング数で割るとピークの63.6%[単純平均]になりますが、サンプリング値を自乗し合計しそれを平方することにより平均すると0 to peakの70.7%[二乗平均]になります。つまりduty ratioとしてはAC100Vx時間(面積)はDC100Vx同時間(面積)に相当する。計算例は自分用に作ったAUDIOTOOL(エクセルファイル)を参照ください。

SonyのXL55monoも8の字ツインコイル発電機構となっています。「モノーラル録音の真のよさを再生するには、カートリッジがレコード盤のソリやピンチ効果などによる不要な垂直成分を検出しないことが理想です」とありますのでステレオ用のXL55と同じではないようです(左下のステレオ用8の字コイルの配置を変えた構造と予想している)。右画像のXL-55monoでは8●8のようにカンチレバーを挟んで左右に縦長にコイルがあるように見えますが、ポールピースの配置が分からないので正確な動作原理は分からない。

XL-55mono with same figure 8 coils, but their alignment is different from stereo model.

ATのMCカートリッジはVCタイプとも呼ばれステレオ用はV字(又はAT-34の場合は逆V字=ハの字)の巻芯にそれぞれコイルが巻かれているが、このモノラルカートリッジではどうなっているのか調べてみました。画像にあるようにV字ではなく水平にツノが生えています(ステレオ用の転用ではなく純然たるモノラル仕様です)。AT-MONO3の水平/垂直出力比は30dB以上(相対垂直感度3%以下)とされ、ピンチ効果による垂直成分出力も抑制しています。

Monaural cartridges 

[Old & used specimen produced before 1993]

Sensibility mV/cm/s at 1kHz  [pseudo expression as mVrms/peak velocity]  Sensibility mV/cm/s  at 1kHz [genuine IEC expression as mVrms/rms velocity or mVpeak/peak velocity] Nominal Specifications:  [Output for Lateral modulation: peak velocity 5 cm/s at 1kHz]
Output VTF
AT-MONO3/LP (conical tip)    one channel output  0.28 0.4 1.2mV   2g
Denon DL-102 (tip 0.7mil) 0.68 0.96 -48dB (≒3mV)±2dB 3g
SPU Mono GM (tip 1mil)=SPU Mono G 0.57 0.81 3mV  3.5g
Sony XL-55mono (tip 1mil)     one channel output 0.03 0.042 0.15mV  2g
It seems that the velocity of groove modulation is usually expressed as peak cm/s while output voltage is conventionally shown as mVrms in accordance with the indication of millivoltmeter. IEC defined channel sensibility as output voltage (mV)/velocity (cm/s) at 1kHz where output mV and velocity cm/s are both either effective (rms) or peak values. This IEC definition is causing confusion so that sensibility is not mentioned generally and relative output against specific velocity is indicated instead. To comply strictly with the definition by IEC in the style mV/cm/s, the above output ratios in third column only shall be valid instead of conventional expression in second column (mVrms against peak cm/s!).   See that above figure in bold x 5 is equivalent to nominal output as specified by cartridge manufacturers.
Current IEC98-1987 defined the sensibility of stereophonic cartridge as average: (left channel output + right channel output) divided by 2*velocity of 45/45 modulation at 1kHz when alternative test bands of left channel only and right channel only are used [in case of monaural cartridge as output divided by the velocity of lateral monaural modulation].  Old JIS C5503-1979 (Phonograph Pick-ups) defined the output of cartridges using peak velocity 5cm/s lateral at 1kHz for the test of monaural cartridge output and peak velocity 3.54cm/s 45degrees direction at 1kHz for the test of stereophonic cartridge. Lateral velocity 5cm/s in monaural modulation is equivalent to 45/45 velocity 3.54cm/s in stereophonic modulation for stereophonic cartridges which have 100% sensibility against 45/45 direction and 1/SQRT(2)=70.7% sensibility against lateral and vertical direction. JVC test record TRS-1007: 3.54cm/s peak (=2.5cm/s rms) 45degrees L/R and 5cm/s peak laterally (L+R) & vertically (L-R). CBS test record: STR-100 5cm/s peak (=3.54cm/s rms) 45degrees at 1kHz. DIN 45543 frequency test record: 8cm/s peak 45degrees L/R and 11.3cm/s peak lateral (L+R). Every test record has different reference level so that output ratio or sensibility as defined by IEC should be ideal though most cartridge manufacturers would not follow it. Some rules are presented in standards though their applications are often misused.
For example: stereophonic cartridge DENON DL-103 has nominal output 0.3mVrms at 5cm/s peak lateral. This can be expressed as 0.3mVrms at 3.54cm/s peak or 2.5cm/s rms for 45degrees. Then it has sensibility 0.12 mV/cm/s in IEC expression for stereophonic cartridge (45degrees). In case of DENON "peak velocity 5cm/s lateral" is used commonly for both monophonic and stereophonic cartridges.
Once EMT TSD15 and XSD15 (SME type connection model of TSD15) were said to have output 0.15mV・s/cm+/-2dB. This indicated output mVrms for peak velocity 1cm/s (0.15mV+/-2dB Pegel bei 1kHz Spitzenschnelle1cm/s). By the year 1983 this was amended reasonably to read as 0.21mV・s/cm+/-2dB (0.21mV for 1cm/s rms recorded velocity). 0.21mV・s/cm or 0.21mV/cm/s (0.15x√2=0.21) is expressing sensibility in genuine IEC expression: mVrms/rms velocity or mVpeak/peak velocity. Accordingly the sensibility of OF 25 is amended to read as 1.15mV/cm/s instead of 0.8mV/cm/s. The sensibility of OF 65 is amended to read as 0.85mV/cm/s instead of 0.6mV/cm/s. Similar confusion is often found in old commercial documents. 
Old DIN (45500-1975 &45539-1971) used to indicate relative output in mVrms for peak recorded velocity.
Click the next link to see the table of replacement styli for Shure M97 series cartridges (original M97 around 1979) with remark at the bottom: "Output voltages given for stereo cut record. For MONO cut record, output voltage at both left channel and right channel cartridge terminal will be 71% of figures above." Apparently the output 4mV is expressed in mVrms while 1kHz at 5cm/s peak 45degrees is used as test signal for stereo cartridges. I could not find this remark in later manuals (ENCORE Me97HE and M97xE) though output 4mVrms is common for this series. Hence M97 has output sensitivity about 1.13mV/cm/s in IEC expression.
In short, two factors are involved in determining true sensitivity of cartridge:
     1) rms or peak for both cartridge output and groove velocity
     2) direction of the recorded velocity (lateral=monaural or 45 degrees=stereo).

[較正表]により録音特性を補正し1kHzで0dBとした時、各カートリッジの高域周波数特性をデシベル表示にしてみました。カートリッジの出力波形は誘導ハムやトレーシング歪などを含むので純然たる周波数特性とは隔たりがある(音質上の特性は周波数特性だけでは測りがたい)ことをお汲み取りください。それでも相対的音質の傾向は周波数特性に現れています。ATとXLは右チャンネル出力ですが左の出力も同じ傾向でした。又テストレコードのA面B面の録音特性は記述の通り同一なのでカートリッジ出力に顕著な変化が見られませんでした。普段は全く気にならないのですが、インバーターを使った照明器具が近くにあるとノイズフロアが約2倍に増えているのがミリバル+オッシロスコープで観察されました。私の測定環境では3mV出力のMCカートリッジの場合でも56dBのノイズマージンしか取れませんでした。インバーター照明をオンにすると50dB程度のノイズマージンになりました(50kHz辺りのノイズなので耳には聞こえません)。カタログなどに記載されているS/Nなどの数値は聴感上有効とされるフィルターを使用しなければ得られないもので、システムとして実働時の裸特性とは程遠い事を思い知らされます。ノイズマージン56dBはDIN-B評価カーブを適用すればターンテーブルのSN比76dB程度になります。実はレコード自体のSNとターンテーブルのSNは分別しがたいものなのです。古いJIS測定はレコードとターンテーブルのSNを同時に測定することになるので信頼がおけます。つまり56dBはテストレコード盤のSN比とも言えます。

Pickupテスト用のJISの基準信号レベルpeak 5cm/s=0dB at 1kHzは録音可能最大速度(LPの内周で15cm/s〜外周で36cm/s程度=+10〜+17dB)と比べても結構高めの出力で実際の平均録音レベルは相当低いと予想されます。高域の周波数特性は随分とばらつきがあります。DL-102の割と素直な特性はDL-103ならもっとフラットに伸びているのでしょうか?構造的には別物なので、モノラル専用カートリッジとステレオカートリッジを比べられませんが、私の場合モノラル専用カートリッジは出番がなくほぼ死蔵品になってしまいました(それでもこんなお馬鹿な実験報告ができるのでその意味では貴重ですが)。高域特性はDL-102は6kHzあたりから+3dB/Oct、AT-MONO3/LPは4kHzあたりから+3dB/Octでハイ上がりの傾向が見られますが、カートリッジ本来の特性なのか或いはダンパーなどの劣化によるものかは不明です(いずれにしてもJIS C5503-1979で規定された周波数特性許容範囲内には収まっています)。追記:推奨負荷抵抗はDL-102で1kΩ以上(インピーダンスは240Ω±20%:恐らく1kHzの値)、AT-MONO3/LPで40Ω以上(インダクタンスは190μH)とあり、これら高出力タイプMCはインダクタンスの影響を無視できないのでMMと同様に負荷抵抗の影響を受けやすいと考えられます。従って、低めの負荷抵抗(1kΩ等)を選べば高域の特性はかなり改善されると思います(カートリッジのシェル内で負荷抵抗をつけダンプする方法が考えられます)。お暇な方は実験してみてください。

低域特性はデータ点数が少ないので周波数は対数目盛りにしました。低域はカートリッジ間の周波数偏差が少なくなっています。

本音を言うとDL-102の再生帯域に興味があったのです。規格上は50−10,000Hz+/-2dBと控えめの数値になっていますが、デンオンのほかのカートリッジと違い周波数レスポンス表も何故かついてきません。50−10,000Hz+/-2dBはモノラルレコードの忠実な再生に必要な保証帯域だと思います。色や文字によるマークがないばかりではなく、取扱説明書にも極性の記述がありません。デノンの公式Q&A(現在のサイト行方不明)でも<DL-102側の端子は、特に極性を指定しておりません>と回答されていました。JIS C5503(1979)ではカートリッジの極性について<針先が水平方向に駆動されたとき同相であって、しかも針先がレコードの外周方向に動いたとき、正の電圧が発生する端子をプラス(+)とする>としています。Murray Allenは個々の絶対極性(absolute polarity)は周知の録音の波形をオッシロスコープで観察すれば分かるとしていますが、ステレオのチャンネル間の同相逆相(channel phasing)とは違い、難しい問題をはらんでいると私は思いますー何故なら収録機器の極性と再生機器の極性、特にスピーカの極性を音だけで判断するのは困難だからです(わざとスピーカ接続の+/−を逆にして聞くと音が良くなるとか言う話も古くからありますー特にpush-pullがリニアでない機器の場合)。音自体の+・−は密・粗の圧力と同じでしょうが弦を弾く作業では上下どちら側から始まってもおかしくない?さらにピアノの天板で反射した音は? マイク収録位置と聴取位置の関係は?push-pullがリニアな機器においては相対的意味しかないように思いますが、習慣的に学習した音楽的素養を持つ人ならキッパリ判断できるのでしょうか?私にはそのような能力はないことだけは確かです。

測定のための測定になってはいけないとは思いますが、必要に応じたテストレコードがあると便利だと思います。逆に言うと<その必要がない人(疑念を持たない幸せな人)にはテストレコードは無用の長物です>ーそもそも純音を聞いても決して楽しいものではありませんから!

Polarity as per JIS C5503-1979 about Pick-ups[5.1(1)polarity]: "In phase for lateral displacement, stylus tip movement toward the right (outer as seen from centre of record) should output as + voltage at cartridge" explaining further: "Polarity is necessary for discrete 4 channel stereo pickups. It is desirable that usual stereophonic pickups too shall follow this."

何故discrete 4 channel以外では極性が問題にならないかについて私は次のように考えます:@音の特性として密・疎は対称であることが多い A単サイクルの音は少なく基本的に音は数サイクル以上連続している(単サイクル=パルスは認識されにくい)。従って片チャンネルしかないモノラルは勿論のこと、相対的にチャンネル間の極性が揃っていればステレオでも問題がない(感知できない)。日本ビクターのCD-4用のテストレコードTRS-1004のBand 12には位相チェックとして370Hz(Mono) duty比3:7の矩形波が録音され「カッティングされた溝の形状において、レコードセンターに対し、外側に振れたときを+、内側に振れた時を−としています。この場合幅の狭い方が+になっています」と説明されていました。いずれ手持ちのステレオカートリッジの端子極性がどうなっているか調べる予定です。

うがった見方をすれば、CD4の再生時に極性が問題になったことを踏まえて初めて1979年JIS C5503でカートリッジの極性について規定され、それに従い1987年のIEC98第3版で再生側ステレオ装置の極性について8.2.4(Polarity of channels)で規定した。モノラルピックアップについては規定がありませんし録音側についての直接な規定ではありません(再生側を規定することで言外に録音側を間接的に示しているようです)。録音側については分かりきったことなのか、もしくはそこに触れたくなかったのかードイツのカッティングスタジオに問い合わせたら「The IEC98 (later registered as IEC 60098) defined the absolute polarity relations in its 3rd, 1987 version for the first time! (and quite inconveniently btw.) As most cutting devices and systems have been designed before that date. You can imagine that still most records are cut at a random polarity. Many years ago, I have checked our two Neumann VMS80 cutting systems to that circumstances and found that one of them was factory-set wrongly.」との律儀な返事をもらいました。IECの人々は録音の実際(recording practice)には関与したくないんだな。IEC98(1987)はそのドイツ訳しかもっていないので英訳してみました。8.2.4(Polarity of channels): The polarity of two channel signals should be for the reproduction with stereophonic equipment, which is so arranged that the displacement of stylus (along the radial line between stylus and the centre of record) in the direction away from the centre of record generates a rise of pressure for the right and the left speakers. This rise of pressure is similar to that of original program source.  


温度変化によるカートリッジの高域特性

高域端の周波数特性は温度変化によって大いに影響を受けるそうです。TechnicsのTTDD(Technics Temperature Defense Damper)のUS特許4232869(1980)の特許図面は以下の図を示しています。従来ブチル系のゴムを加硫してダンパーとするのが主流でしたがTTDDではシリコンとブチルをブレンドして温度特性を改善したダンパーを目指しました。3図のresponseは20kHzにおける出力偏差を示しています。これによると従来のブチル系のダンパーでは20度以下ではダンパーが硬化し高域が減少、20度以上ではダンパーが軟化し高域が増加の傾向が見られます。ヤマハもLTD(Low Temperature Dependency)ダンパーをMC-1000などに採用していますが、TTDDとの関係は不明です。同時期にデンオンの技師もシリコンとブチルをブレンドし温度特性を向上させる趣旨で「ピックアップカートリッジ用ゴムダンパー」(特開S56-94503)を特許申請していました。

同じく松下電器産業の特許公開としては再生カートリッジに対して最適な周辺温度を示すS60-243801(針圧計)やS60-243802(アーム)やS60-243803(シェル)やS60-243804(スタイラス・タイマー)やS60-234283(プレーヤー)やS60-106003(カートリッジ)などがあります。いずれも20℃近辺で色が変化するシートを貼り付けたものですが、余りにも陳腐な発想なので実現しませんでした。半導体応力素子を利用したアナログ表示針圧計は既にSH-50P1として発売されていました(恐らくその関連特許公開はS55-97002「レコードプレーヤー用針圧計」)。以下の図を見ると最適とされる20度でもMMカートリッジの中高音域のたるみが目だちますが、テクニクスの高級なカートリッジに付いている周波数特性表ではほぼ横一線でたるみが無いのはどうしてでしょうか?特許公開S60-243802では低域及び高域共振の山が周辺温度によって変化する(そのQは相対的にそれぞれ共振周波数が低いほど大きい)ことも示されています。周辺温度が高いとQが高くなるのでそのメリハリ音が好きな人もいます。周辺温度が低いと全体にオトナシ目の音になるようで、その高域についてはMMカートリッジの負荷抵抗を低めに設定した時に似ています。中庸=平凡(非凡なる凡)を選択する人はオーディオ通とは呼ばれないようですが、私は他人に聞かせてインパクトを与える音よりも本人が常に楽しむ音を目指していますーその音が客観的にハイファイかどうかは二の次です。

ゴム系のダンパーは主にブチルゴムが使われ、バネとダッシュポットとして擬似等価されますが、「レコードとレコード・プレーヤ」(1979)P.271でダンパーの特性について次のように解説しています。

実際のカートリッジのダンパとしてのゴムを表す等価式はいまのところ得られていません。
ゴムは原料を加硫して作りますが、100%加硫すれば硬いエボナイトとなり、その程度により硬軟いろいろのゴムができます。原料にはカーボンその他の不純物を調合し、混合物とゴム分子間の摩擦抵抗を加減して粘性抵抗を調節します。
またゴムは使用中に空気中の酸素などにより化学変化を受け、次第に老化したり、逆に内部からの加硫残りの硫黄分が発生して銀や銅に反応し、それを侵すことがあるので注意が必要です

同P.293〜294には(負荷抵抗・容量による変化とは別に)以下の図がありました。
*針圧によって音溝が一時的に弾性変形することによるTranslation Loss。translationとは併進運動の意味で、音壁の凸部が凹部より針の沈み込みが大きく、下図左のように特に高域に顕著に表れる再生損失です。針の接触面積を大きくするか針圧を軽くすることで軽減されます。カートリッジの一般的傾向として針圧を軽くすると派手な高音になり、重針圧では滑らかな音に聞こえる理由がこれです。針形状(tracing distortion)による高音域の減少だけでなく針圧で音溝が変形するtranslation lossでも同様に高音域が減少する。一方でレコード録音はこれら高域の減少は「ある程度まで」織り込み済みで録音(radius correction)されるのが普通です。光学式のLaser Turntableではビームの直径が小さい(tracing distortionが少ない)ことに加えて針圧がないので高域ロスがないので録音補正がかえって徒になり高域に偏ったバランスの音になります。
*周辺温度による変化:「温度の変化により音質やトレース状態が変わることはよく経験されます。その原因は、普及型プレーヤではカートリッジに、高級品ではレコードにあることが多いのです。普及品ではもともとダンパ・ゴムが硬く、温度がゴムのコンプライアンスを変化させてトラッキング能力に影響を与えるのに対して、高級品では温度変化によるレコードのスチフネス変化が高域における共振周波数と機械インピーダンスに影響を及ぼして音質を変えるためです。<中略>ゴムやプラスチックの温度特性を0にはできないので、20℃±10℃程度の環境で使用したいものです」と解説されています。盤のstiffnessと再生針振動系等価質量との高域共振については、接触面積の大きい(従って盤の等価スチフネスが大きくなる)シバタ針において可聴域外にその共振を追いやることが出来るので、「これによって温度変化の影響は、常温で問題にならないまで改善されています」とも記されています。

Frequency response variations due to VTFFrequency response variations due to groove radius and temperature

他にも周波数特性を変化させる要素があります。内周での線速度低下により記録波長と再生針先の寸法比が変化することによるLoss of Fundamental(損失した分がトレーシング歪となる)。一般に周波数テストレコードの高域録音はレコード盤の外周側にあり、内周側に向かってより低い周波数が記録されます。多くの音楽レコードでは内周に向かって高域を補正録音(radius correction)していますがこの事実を無視してラインコンタクト針など高級針が一般に好まれます。見かけのHI−FIに付きやすい(高級な機器が高級な音を出すハズ、という錯覚)。私の経験では古いレコードを特殊形状針で再生するとき、内周側で高域と低域のバランスが崩れ、煩く感じられることが多くありました。最近は丸針しか使わなくなりましたが、耳の老化のせいもあって内周の音質劣化がさほど気にならなくなり、レコードの再生音がより滑らかに聞こえるようになりました。

同じカートリッジモデルで同時期に生産されたものでも、その使用法や経年変化で高域端の特性は相当バラつきがでるようです。さらに湿度の影響もいれれば、その時々の音質は人の日々の体調の変化と同様に一定ではない。雨降りで室内湿度が高い時の方が一般にレコードの再生音が良いのは:静電気が発生しにくいので滑らかな再生音になるのではないかと、私は考えています。レコード自体solidではない「ナマモノ」でその再生音も折々で異なるLive Performanceだと感じます。カートリッジの再生特性は電気特性(Phonoampの項参照)と機械共振特性(低域端はアームの等価質量と針のcomplianceとの共振:高域端は針振動系等価質量と音溝のstiffnessとの共振)の総合です。温度の影響を受けるのはstiffnessとcomplianceなので機械的特性は温度変化を受けやすいということなんですね。


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