戸 惑 い 1
一人の少女が僅かな月の光を頼りに船が起こす波飛沫を見つめていた。
慌しく船に乗ったまでは良かったが何故か少女は所在無げだった。
「ああ・・・皆に迷惑掛けちゃう私って足手まといだ」
そう呟く少女の前に黒のドレスを着た女性が近づいてきた。
「ルールーさん?」
「ちゃん、少し話しをしない?」
「はい・・・・・」
は目覚めてから皆が自分をはれ物の様に扱うのが心苦しかった。
「ちゃんは私達の所に向かっている途中にモンスターに襲われてその後の記憶が無いって言ってたわね」
「はい、もう駄目だって思って目を閉じた後の事は覚えてません。気が付いたらベッドに寝ていて」
「そう・・・あのね、私はこれから貴方に酷い事を言うわ。気に障ったら引っ叩いても構わないから」
「ルールーさん?」
「ルカに着いたら、ティーダと一緒にユウナの前から消えて欲しいの。
シンに襲われて不安定な貴方達を気遣って上げれるほど私達の旅は余裕のある旅ではないの。解るかしら」
「・・・・はい」
「貴方がユウナの旅に支障をもたらしたらスピラは滅びてしまう。ちゃんには謎が多すぎる」
「解っています!!やった事のない魔法が使えたり突然に祈り子の間から現れたら
変だと思われてもしょうがないです。でもお兄ちゃんを疑わないで!
お願いです!お兄ちゃんをザナルカンドに連れて行ってあげて」
「ちゃん?何をいってるの!貴方はティーダと離れて如何するつもりなの」
「ルカで待ちます。ルカって大きな街なんでしょ?働き口を探してお兄ちゃんを待ちます」
「ちゃん・・・・・危険な旅なのよ。
ティーダは貴方の許に戻ってこれないかもしれない」
「でも・・・お兄ちゃんはザナルカンドに戻りたいって願ってるし
それにユウナさんを守りたいって思い始めてる」
「でもね、それと同じくらい貴方も守りたいと思っているはずよ」
「知ってます。両親が居なくなってから私を守ってくれていたのはお兄ちゃんですから」
「ルカに着くまでもう一度考えてみて。ねっ?」
ルールーはにそう優しく言うと甲板の二階に続く階段に去って行った。
「きつかったんじゃねーか?」
「ええ、でもね・・・・私達はただの親切なお兄さん、お姉さんじゃ済まないの。
貴方もティーダの事はチャップとは切り離しなさいワッカ」
「解ってるって!!」
「解ってないじゃない!ルカに行けば知っている人に会えるかも知れない?
そんな気休めをいってあの子に期待させて」
「それは・・・・」
「いい?もしあの子に相談されたらちゃんと残るようにちゃんと言い聞かせてね」
「・・・・・っ、ああ解ったよ」
二人の間には何故か泣きそうになるユウナの顔が浮かんだ。
その頃、は昂った感情を抑えるために甲板の何処かにいるはずの兄を捜していた。
は滅多に感情を爆発させなかったが爆発した時彼女を宥めなれるのはアーロンだけだった。
しかし此処にはアーロンはいない、だからはティーダを捜した。
彼があの太陽のような笑顔で自分の名前を呼んでくれたら、
きっとこの胸の仕えは取れるはずだから。
しかし探し当てた兄の側には近づく事が出来なかった。
「ユウナ、今のシュートを知ってるのか?」
「ジェクトシュートでしょ。ジェクトさんに見せてもらったもの」
「・・・・・やっぱり、おやじはここにいたのかな」
「信じられない?」
「ユウナの事が信じられない訳じゃない。
ただ・・・・死んだと思っていた親父が生きてたと思うと無性に腹が立つ」
「ティーダ・・・・・ジェクトさんは君とちゃんの所に一生懸命帰ろうとしてたよ。
ほんとだよ。私を膝に乗せながら二人の話を色々聞かせてくれたの」
「もういいよ!親父の話は・・・・今は明日の試合の事だけ考えるっス」
「解った・・・・でも話したくなったらいつでも言ってね」
「・・・・サンキュウ・・・ユウナ」
ティーダはそう言うとユウナをそっと引き寄せた。
は何故かそこから離れなければと思った。
とても胸が苦しかった。
兄であるティーダが遠くに感じた。
何処をどうやって走ったかは判らなかったが、は船の先端にいた。
「・・・・どうして?私はいなくてもいいの?」
は何故かスピラの海がとても懐かしかった。
母の腕の中にいる気がした。
もう少し進めば海の中、そんな事を考えていたの腕を誰かが引っ張った。
「・・・・何をしている」
「あっキマリさん・・・・」
「もう少しで落ちる所だった」
キマリはそう言うと動こうとしないを抱き上げ安全な甲板の上に下ろした。
「ありがとう。あのキマリさん、お兄ちゃんには今の事は言わないでくれますか?」
「わかった。それからキマリでいい」
「えっ?」
「呼ぶ時はキマリでいい」
「じゃあそうする。あの・・・・私の話を聞いてくれるキマリ?」
「もう遅いから、寝たほうがいいが・・・・少しなら」
「よかった」
はホッとした顔して近くにあったベンチに座り、キマリにも隣に座るように勧めた。
キマリはそんな少女の横顔が何故か幼き日のユウナの横顔と重なり困惑した。
*****
朝になり甲板に出たとティーダは近づいてくるルカの街並みに感嘆の声を上げた。
「うわーキーリカと全然違うよ」
「ああ凄いな。スタジアムも気に入った」
「そうだろ?スピラで最大のスタジアムだ」
「おはようっス!ワッカ・・・俺、燃えてきた。今日は絶対に勝つ」
「頑張って!お兄ちゃん」
「おうよ!」
元気にはしゃぐ三人をユウナは楽しそうに、ルールーは少し呆れ顔で笑いながら見ていた。
ルカに着くと同時にとティーダは、ルールーに大目玉を喰らった。
ティーダが観衆の前で優勝宣言をしてしまったのだ。
はでルカ・ゴワーズのメンバーとひと悶着を起こしそうになり
キマリに止められていた。
「まったく・・・・貴方達はきょうだい揃って騒ぎを起こしてくれて」
「ごめん」
「ごめんなさい」
ルールーがさらに小言を続けようとした時それは人々のどよめきによって中断された。
「マイカ老師様がお着きになったぞ」
人々が老師の乗った船の着くポートに集まって行く。
「ルールー、二人には後でみっちりお説教する事にして俺達も行こう」
船から出て来た人物を見ては何か嫌な感じを覚えた。
(なんだろう・・・・あの人は人間なの?)
「あれはグアド族のシーモア老師よ」
ルールーがに耳打ちする。
「グアド族・・・・」
はシーモア老師の冷たすぎる瞳に身震いした。
そしてその身震いは次に現れた老人を見た瞬間、さらに大きくなった。
エボンの総老師が現れた瞬間、スピラの人々は皆一礼した。
ティーダもワッカの真似をして一礼した。
その中では震えていた。
(何?あの人は何なの!ここから離れたい・・・・)
の異変にいち早く気が付いたのはユウナだった。
「ちゃん?大丈夫!顔が真っ青だよ」
そう言っての倒れそうな体を支えてくれた。
すると何故かの体の震えは治まっていった。
「ユウナさん・・・・もう大丈夫だから」
「でも・・・・・」
はそう言いながらマイカ老師のシーモア老師を紹介する声を
何処か遠くに追いやりたかった。
そんな二人にティーダが気付き声をかける。
「ユウナ、どうかしたのか?」
「なんでもないよお兄ちゃん。ねっユウナさん」
はそう言ってティーダに笑顔を向けた。
ユウナはの事を彼に伝えたかったが、の目配せに気付いて頷いた。
そしてふと誰かの強い視線を感じてそちらを見るとシーモア老師と目が合った。
その視線にユウナは何故か意味ありげな物を感じて戸惑った。
そんなユウナにシーモアは彼女だけに判るように微笑んだ。
しかしその笑みは何故かユウナには好きになれなかった。
そしてそんなユウナとシーモアをティーダは苦々しげには心配そうに見つめていた。