魂の行方

      
       は夢の中を彷徨っていた。

       「どうして!なんでバドに会えないの!?」
       「バドは遠くに引っ越したんだ。彼の才能をもっと役立てるために・・・・」

       問い詰めるに答えるシューインの言葉はいつもと違い歯切れが悪かった。

       「嘘!だって一緒に学校に行こうって言ってたもの」

       はそう言うと家を飛びだしてバドが居る筈の彼の家に向った。

       「バド!!」

       は勢いよく扉を開けたが、彼の家はガランとしていて人の気配はなかった。

       「どうして?なんでわたしに何も言ってくれなかったの」

       の瞳からは涙が溢れ頬に伝わっていた。

       「・・・」
       「シューイン兄ちゃん!」

       は心配して追いかけてきた兄に抱きついた。

       「いつか・・・・いつか会えるよね?」
       「ああ 会えるさきっと。がバドを忘れない限り・・・・」

       シューインはそう言ってを抱きしめるのだった。
       
       「お兄ちゃん・・・・レンお姉ちゃんのパーティに行かなくて良いの?」

       少し落ち着いてきたは手を引いてくれているシューインにそう訊ねる。
       
       「ああ、夜に変更になったんだ。お前も一緒に行こうな」
       「うん」

       その夜、レンの家でのパーティは三人だけのささやかな物だった。

       「レンさん、デビューおめでとう。あのこれ喉飴なの疲れた時にって思って」
       「ありがとうちゃん。これは良いものを貰ったわ。
       始まる前と終わった後に1個ずつ舐めるからね」
       「うん。でも終わった後も舐めるものなの?」
       「ふふふ、おまじないよ。次も楽しく歌えますようにって」
       「じゃあなくなったら今度はレモン味あげるね」
       「ありがとうちゃん」

       レンはに抱きついた。

       「ちぇっ俺の事忘れんなよ」

       シューインがそう言ってむくれると

       「お兄ちゃんがちゃんとしたお祝い持ってこなかったのがいけないの!」

       はそういって兄の持ってきた、大きな枕に抱きついた。

       「疲れた時には寝るのが一番なんだ」
       「レンさんがこんな枕使うはずないもん。ねえーレンさん?」

       
       「そうねえ嬉しいけど、もう抱き枕を抱いて寝る歳じゃあないし・・・・」
       「いいよ。それじゃあ、俺持って帰る」
       「駄目だよ。わたしがここに泊まる時に使うの」
       「・・・・お前、俺とレンの邪魔をするきか?」

       シューインの情けない言葉にとレンは大笑いした。


       それはバドがいなくなってから2年ほどたったある日の事だった。
       はメキメキと召喚士としての能力を開花させていた。

       「、明日はレンが休みだっていうから一緒に遊ぶか?」
       「うーん、悪いけどちょっと行きたい所あるから。
       レンさんにはよろしく言っといてよ」
       「解った・・・・・デートか?」
       「ひ・み・つ」
       「ちえっ。今度会わせろよ」
       「・・・・・お兄ちゃん。私の事気にしなくていいからね。
       もう焼きもち妬く歳じゃないもん」
       「なんだよ急に?」
       「へへ二人っきりでいてって事」

       はそう言うと

       「出かけてくるから」

       と言って戸惑っているシューインを置いて家を出て行った。



      
       「シオン先生!」
       「遅いぞ

       にそう言って手を振った長身の男性は少しやつれた笑顔を向けた。

       「先生どうしたの?なんか疲れてるみたい。今のお仕事大変なんですか」

       がシオン先生と呼んだ男性はが通う学校の元教師だった。

       「なんともないよ。少し慣れない事をしたからね・・・・」
       「大変そうですね・・・・」
       「ほどではないさ・・・・明日だろ召喚士試験」
       「はい・・・・炎の召喚獣イフリートを召還できるようにならなきゃ
       本当の召喚士にはなれない」
       「なら大丈夫だ。祈り子の声を聞く事が出来る」
       「祈り子・・・・」


      
       が夢の狭間を彷徨っている頃

       「如何いう事だよ。他の入り口がないのに何でがあそこから出て来るんだよ」
       「ティーダ、落ち着きなさい。貴方がここで大声を張り上げた所で何の解決にもならないわ」
       「でもさルールー・・・・」
       「ワッカ・・・ちゃんは目覚めたの?」

       様子を見に行ったワッカにユウナが心配そうに訊ねた。

       「まだ眠ってる。でもさっき見たいにうなされてはいないってキマリが言っていた」
       「そう・・・・」
       「ティーダ貴方には酷かもしれないけど、寺院には私達の知らない事がたくさんあるの。
       ちゃんが私達を追って試練の間に入ったのは確かなんだから、その時何が遭ったかあの子に聞くしかないわ」
       「そうだけどさ、いいのかよ。急ぐ旅なんだろ?」
       「でもねほっとけないわ。祈り子様の部屋から出て来たあの子をそのままに置いてくのはね。  
       貴方もよティーダ」
       「ありがとうルールー」



       一方を見守っていたキマリは眠っているがはっする言葉に戸惑いを覚えていた。
       ティーダの話によれば、もティーダも召還の事も召喚獣も解らないと
       言っていたのにの寝言からは”祈り子、召還、戦争そしてシューインと言う名前”
       それを向こうの部屋にいる仲間に伝えた方がいいのか迷っていたのだ。
       小さな寝言を繰り返すをみつめながらキマリは彼女に何か解らない違和感を感じ近づいた。

       「!?」

       近づいてみるとの手が透けて見える。
       驚いたキマリは皆に知らせる為、に背を向けた。

       「待って・・・・お願い行かないで」
       「?お前は本当にか?」

       姿はに違いないのだがキマリは何故か不自然なものを感じた。
       「貴方の知るはもう一人の私なの。お願い・・・・誰にも言わないで」
       「無理だ。キマリにはユウナを護るという使命がある。
       お前がユウナの為にならない者だったら、キマリはユウナの信頼に応えられなくなる」

       「・・・・あのね・・・・もあの人が好き。あの人を助けたいのでもこの姿を見たら・・・・きっと」
       そうの体は幻光虫に包まれていたのだ。

       「きっと話すから今はお願い・・・・」

       のその瞳を見た時、キマリは何故か初めて会った時のユウナの縋るような瞳を思い出していた。

       「判った、その言葉をキマリは信じる」
       「ありがとう・・・・」

       のそう言うと意識を失くしてベットに倒れてしまった。
       キマリはそっと彼女を寝かせ直すと何事もなかったようにの眠りを
       見守るのだった。






      の意識は何故か先程とは違う所にあった。
      自分なのにまるで他人のように自分を見ているそんな感じだった。

      (あっ あの人はこの前見た女の人)

      はその女性に駆け寄ったが、女性は何故かには気づかないようだった。
      そこは連絡船の甲板の上で女性は生まれて半年程の赤ん坊を愛しそうに抱いていた。

      「リィナ!」

      そこに金髪の女性がミルクを持ってやって来た。

      「はいミルク。よかったわ、すぐに貰えて」
      「ねえさんすいません。私が行ければ良かったのだけど・・・・」
      「いいのよ。リィナはゆっくりしてなさい!ちゃんを産んでから
      体の調子が良くないんだから」
      「でも申し訳なくて」
      「気にする事ないの!貴方のお兄さんのシドから必ず送り届けてくれってたのまれるんだから」
      「でも、姉さんにだって幼い子がいるのに・・・・」
      「大丈夫よ。あの子結構、自立心旺盛だからねっ!
      それよりちゃんってほんとに可愛いわ。うちの息子のお嫁さんに為って貰おうかな」
      「それいいかも・・・・」

      二人が赤ん坊を見ながら微笑んだ時、それは突然起こった。

      「シンだ!!」

      二人はその悲鳴に驚き、声のする方を目を向けた。
      二人が見た先には絶望が立ちはだかっていた。

      「リィナ!!確か向こうに救命ボートがあったはず行きましょう」
      女性は立ちすくんでいるリィナを引っ張って甲板を駆け下りた。
      しかしボートはすでにたくさんの者が乗り込んでいて二人の入る隙間などありはしなかった。

      「このままじゃ・・・・」
      「いいのよ姉さん。ボートで逃げたって津波に呑まれるだけわ。それならここにいる・・・・」
      「どうして貴方はそんなにすぐに諦めるの!!家族が貴方の帰りを待ってるのよ」

      「その通りですよ・・・・」
      


      その声に二人が振り返るとそこにはボロボロに傷ついた召喚士がいた。

      「召喚士様!大丈夫ですか?まさかシンのコケラがもうここに?」

      「ええ・・・・私のガードも亡くなってしまいました。
      召喚獣も次に召還する一体で終わりです。
      お守り出来なくてすいません」
      「いいんです・・・・これも運命です。
      ただこの子はまだ生まれたばかり、父の顔も見れず抱かれる事もない。それが不憫です」 

      リィナはそう言って子供に頬ずりするのだった。

      召還仕は痛ましそうにリィナを見つめたがそれもシンのコケラの出現で振り切った。
      逃げ惑う人々の前に巨大な召喚獣が現れた。

      「バハムートだ!!」

      その声に今まで呆然とその光景を見つめていたは我に返った。

      「あれがバハムート・・・・」

      はその姿に何故か涙した。

      (私には何も出来ない。なのに何故ここにいるの?誰か教えて!!)

      の叫びに誰も応える者はいなかった。
      目の前で召還仕が死んだ。それとともに召喚獣も消えて、リィナ達も波に呑まれて行く。
      それを泣きながら見つめるの耳に微かな声が聞こえた。

      (お願い!!この子だけは・・・・)

      それはリィナの最後の願いの声だとは思った。
      はリィナ達の姿を捜した。
      すると海の中に幻光虫が小さな塊をつつんでいた。

      (あれは?)

      はそれに手を伸ばそうとした。
  
      「まだ駄目だよ」

      突然その声はの行く手を阻んだ。

      「きゃあー」

      は何かに弾かれまた意識を失くすのだった。