お も い




          「お前達の物語は始まっている」

          アーロンから父ジェクトの消息を聞かされたティーダとはその事について2人で話す事を避けた。
          はアーロンから真実を聞かされた時の兄の叫びが耳から離れなかった。
          ティーダはとても涙もろかった。
          そんに兄があの時は泣いていなかった。

          (涙を見せてくれたほうがよかったかも。そうしたら私も一緒に泣けたのに)

          あの後、三人を待っていたユウナ達の所に戻りティーダは正式にユウナのガードになると宣言した。
          ユウナはとても嬉しそうだった。


          その後、ミヘン街道に行く前の少しの間ユウナとティーダがいなくなった。
          元気のないティーダをユウナが励ましたようだった。

          (お兄ちゃんを慰める役はもう卒業かな)

          は楽しそうに話しながら自分の前を歩くティーダとユウナを見てふとそんな事を考えるのだった。

          「つまらなそうね」

          「ルールーさん?どうしたんですか急に」

          「貴方があの2人を見てボーっとしてるから寂しいのかと思って」

          「ふふふ、ちょっとだけですよ。だって10年近く二人っきりで生きてきたんだから。でもユウナさんなら許します」

          「そう? ありがとう。あの子の代わりにお礼を言うわね」

          ルールーはそう言うとの側を離れワッカの許へ行ってしまった。



          側に誰もいなくなった為、また思考の海に入り込もうとしたにアーロンが声を掛けてきた。

          「、お前はどちらを選ぶ? 召喚士の力と魔道士の力、どちらもこれからの旅に必要なものだ。」

          「アーロンさん、希望は沢山あったほうが良いのかな?」

          「どうゆう意味だ?」

          「ユウナさんはスピラの希望なんでしょ。ルールーさんやワッカさんそしてキマリの」

          「ああ」

          「一緒に旅して行くのに召喚士が二人いて迷わないかな」

          「それがお前の答えか」

          「私の召喚士としての力はまだ取っておくよ。本当に必要になる時まで」

          「好きにしろ」

          「うん。する・・・」

          話している間にティーダ達から少し遅れていた2人をティーダが大きな声で呼んでいた。

          「うるさい奴だ」

          「アーロンさん、本人にいっちゃ駄目だからね」

          はそう言うとアーロンを残してティーダの許へ駆けて行った。



          「? またアーロンに何か言われたのか?」

          「何も言われてないよ。それより如何したの?」

          「それがさ、あの人がユウナの力を試したいだってさ」

          ティーダが示すほうを見ると賢者の風格を備えた女性がに向かって会釈した。

          「えっわっ、こんにちは」

          「何、お前慌ててんの?」

          「お兄ちゃん、どうして鈍感なの。この人からでてるオーラがわかんないの!」

          「へえ、凄い奴なのか?」

          「もういい、お兄ちゃんは黙ってて。それでユウナさん、如何するんですか」

          「旅の途中で、腕試しなどしてもいいのか解らなくて。アーロンさんに聞こうかと思って」

          「なるほど」

          そんな話をしていると遅れていたアーロンがやっとやって来た。
          
          「如何した。こんな所で」

          「アーロンさん、あの人がユウナさんの実力が見たいんだって」

          アーロンはの示す女性を見つめるとユウナに試してみろと言った。
          アーロンの勧めでユウナはその女性ベルゲミーネと召喚獣で戦う事になった。
          ユウナはヴァルファーレを召喚し相手はイフリートを召喚した。
          勝負はユウナはだいぶ健闘したが敗れてしまう。

          「あの女の人強い・・・」

          「10年前もブラスカがこてんぱにされた」

          「ええ!? アーロンさんどうしてそれを早く言わないの!」

          は少し落ち込んでいるユウナの側に駆け寄った。

          「ユウナさん、落ち込む事ないよ!この方はブラスカさんも敵わなかった人なんだって」

          「えっ? 父さんが?」

          「アーロンさんが今! 教えてくれたよ」

          「アーロン!」

          ティーダはの言葉にアーロンに文句を言いに走っていった。



          とユウナはアーロンに文句を言っているティーダを笑いながら見ていたのだが
          不意にベルゲミーネが2人に近づいて来た。

          「少し2人っきりで話がしたいのだが?」

          ベルゲミーネはを愛しそうに見ながらそう言った。

          「えっ・・はい」

          は彼女に即されるまま皆から離れた。

          「貴方にこれを・・・・」

          ベルゲミーネはそう言ってに錫杖を手渡した。

          「あの・・・どうしてこれを私に?」

          「貴方が祈りだけで召喚獣を召喚出来るのは解っています。でもそれでは不自然」

          「あっ・・・・」

          「それに使い慣れていない魔法もそれで制御できる」 

          はベルゲミーネを何も言わず見つめていたが小さくため息をつき悲しそうに笑った。



          「貴方は何もかも知っているですね」

          ベルゲミーネは何も答えなかった。
          そしても答えを聞きたかった訳ではなかった。
          ただ知っている者がいるという事を自問自答しただけだった。
          2人はみんなの待つ所へ戻る事にした。
          ティーダは不安そうにを待っている。
          はクスっと笑うとベルゲミーネに言った。

          「兄はとっても心配性なんです。だから心配かける事しないようにしないと」

          ベルゲミーネはを見て少し笑った、そんな風にには見えた。



          「お待たせー」

          「如何したんだ?いきなり離れて」

          「ちょっとね。プレゼントを貰っちゃったの」

          「プレゼント?」

          「魔法使う時に便利だからってこれを・・・・」

          そう言って皆に見せた錫杖は使い込まれてはいたがとても美しい細工がなされていた。
          その後、ベルゲミーネはユウナにも贈り物をくれた。
          そしてまた何処かで力を試そうと言い旅の安全を祈ってくれているベルゲミーネに見送られ
          ユウナ達一行はまた歩き始めた。

          「頑張らなきゃ・・・・」

          ユウナの小さな呟きをは聞いた。
          は初めてユウナを守ってあげたいと思うのだった。
      




          ******





          街道を歩いていると色んな人々がユウナに声を掛けてきた。
          ユウナは嫌な顔一つしないで笑顔で答える。

          「お兄ちゃん、ユウナさんて・・・・もしかして凄い人なの?」

          「おい何だ今頃・・・・」

          「だって話かけてくる人達から”期待してます! お願いします”ってオーラが・・・・」

          「おれもワッカやルールーから少し聞いただけだから上手く説明できないけど10年前にシンを倒したのがユウナの父親だったんだって」

          「シンを! でもシンは・・・・」

          「俺にもよく解らない。アーロンはあの事意外何も言おうとしないし」

          「うん・・・・」

          少し落ちこんできた2人にワッカが突然声を掛けてきた。


          「お前ら如何した? なんか暗いぞ」

          「いやだなーワッカ、俺達は元気だって。なっ

          「うん、そうだよワッカさん、ただ難しい事話してただけだよ。   暗いっていうより真面目にしてただけ」

          「難しい話?」

          「ユウナさんはとっても期待されてるだなあーとか、ワッカさん”ナギ節ってなに?」

          「ナギ節というのは召喚士がシンを倒して訪れる、一時の穏やかな時期の事だ。シンが復活するまでの少しの間のな」

          「復活するのはどうして?」
   
          「それは人が罪を犯したからだ」

          「シンはその罰なの?」

          「そうだ! あーもうこの話はこれで終わり! ユウナ達が待ってる早く行こう」

          ワッカはそう言うと走り出した。
          ティーダもその後を追って走り出す。
   
          「行くぞ」

          は頷き兄の走っていく背を追いながらふと思った。   
  
          (罪ならもう償ってるよ。あんなに沢山の人が死んでいるんだもの)

          のその思いはこの後起きた惨劇でさらに強くなるのだった。