嵐の前 


       「ワッカさん、そんなに落ち込まないでよ。きっと何か訳があるんだよ」

        「俺にはわかんないっす。
        機械を禁止した寺院がシンを倒す為だからって討伐隊に機械をつかわすなんて変だ!」

        「お兄ちゃん!!」

       はティーダの後頭部を殴ると、さらに落ち込みそうになるワッカを気の毒そうに見て
        他の仲間に助けを求め目で合図を送ってみる。
   

        しかしユウナもルールも少なからずショック受けていた為、の方を申し訳なさそうに見るだけだった。

        「ねえ アローンさんは如何思う?」

         「俺には関係ない」

         「えっ!?」

        「俺は寺院から追い出された。ブラスカもだ。
        シンを倒したブラスカは大召喚士としてまつられているが、あの人が望んでいたのはそんな事ではない」

        ユウナはアーロンの言葉にはっとした表情で彼を見つめた。


        「それって、アーロンは寺院が機械を使っていたって知っていたって事か?」

        「さあな。それより今日はあそこで休むぞ」

        アーロンはそう言うと少し言った所の建物に向かって歩き出した。
        そんなアーロンの態度にワッカが慌てて異議を申し立てた。

        「なっあそこは止めましょう。他のところで」

        「俺は疲れた・・・・もユウナも疲れただろう」

        話を振られた二人の対応は対照的だった。
        ユウナはワッカの心情を思って困った顔をしていた。
        しかしは徒歩での旅に慣れていなかったのでアローンの言葉に直ぐに頷いた。
        それにこのどんよりした雰囲気をなんとかしたくて少しはしゃいでみる。


        「よかった、私少し疲れてたんだ。お兄ちゃんもそうでしょ?」

        「あっ? ああ・・・」

        の問にティーダはワッカの機嫌を伺いながらも頷いた。
        反対する声はワッカ以外あがらず渋るワッカを置いて仲間達は歩き出した。

        「ワッカさん、行こう。なんであそこが嫌なのか私には解らないけどアーロンさんに逆らえないし・・・・・ねっ?」

        ワッカは渋々との後ろからついて来たのだった。



        アーロン達に遅れて建物に入ったはその雰囲気にスピラらしくないものを感じ首を傾げる。

        「いらっしゃいませ。貴方も此方の皆様のお連れさまですか?」

        「はい! お世話になります」

        はベコリと頭を下げて挨拶する。
        すると挨拶された店主らしき男は笑いながら

        「ごゆっくり」

        と言ってくれた。



        それぞれが与えられた部屋に入り一息つき、日も落ち始めた頃
        一眠りしたは同室のユウナとルールーが居ないのに気付き部屋を出て捜すことにした。
        ルールーは階段を降りると直ぐに見つかった。

        「ちゃん起きたのね」
        「はい、疲れもとれました。あのユウナさんは?」

        「外にいるわ。そうだちゃん、あの子を呼んできてくれない? もう日も暮れて寒くなるし」

        「解りました。呼んで来ますね」

        はそう言うとユウナをを呼びに外に出た。

        ユウナはす直ぐに見つかった。
        側にはティーダもいて何か話しているようだ。
        兄が何かユウナを元気づけようと言葉をかけているようだが
        は余計な事を言わないか心配になり声を掛けることにした。

        「お兄ちゃん! ユウナさん! なに話してるの?」

        「わっ!?」

        「ちゃん。起きたんだ、疲れ取れたの?」

        「うん、それよりお兄ちゃんがまた無神経な事を言わなかったかな?」

        「!?」

        ティーダはの言葉にプーっと膨れて文句を言った。
        そんな2人を見てユウナはクスクスと笑った。
  


        「全然そんな事ないよ。ティーダには元気を貰ってるからとっても感謝してるの」

        「それならいいけど・・・・じゃあ2人とも中に入ろう」

        ティーダは何か言いたそうな顔をしていたが、諦めたようにため息を尽くと     
        少し離れてブリッツボールを木にぶつけているワッカの許にかけて行った。

        「直ぐに来るかなあの二人?」

        「どうだろお兄ちゃんもワッカさんもブリッツ馬鹿だし」

        がおどけてそう言うとさらにユウナは可笑しそうに笑った。




        食事の後、先に部屋に戻っていてウトウトしていたは人の気配で目を覚ました。

        「ゴメンねちゃん起こしちゃって」

        「ヘヘまた寝ちゃった。2人とももう休むの?」

        は上着をはおると、ベットの上で起き上がる。

        「そのつもりだけど、どうかした?」

        ユウナが不思議そうにに聞く

        「なんか目が冴えて来たから、二人が寝るなら下に行こうかなっと思って」

        「気にしなくても良いのよちゃん。それに明日も強行軍になるからもっと休んでいて欲しいな」 
   
        とルールが言う。

        「そっか、そうですよね、でも眠れるかな。そうだユウナさん、さっきお兄ちゃんと何を話してたの?」
        
        そうがユウナに聞くとユウナは少し辛そうに小さく呟いた。

        「究極召喚・・・・」

        「究極召喚?」

        「そう、それを得る為に召喚士はスピラを旅するの。そして一番最後に訪れる地がザナルカンド・・・・」

        「えっ!?」

        は驚きの声をあげる。

        「でもね、ティーダにも言ったけどあそこには何も無いの。
        あるのは1000年前に滅びた都市の遺跡だけ」

        ルールがを落ち着かせるようにの手を握り静かに言う。

        「遺跡だけ。でも行くんだよね? ユウナさんはそのザナルカンドに・・・・」

        「うん、それが私の目的だから」

        「それでシンが倒せるんだよね?」

        「うん・・・・」

        はアーロンの言葉を思い返した。

        「シンはジェクトだ」

        それを倒すのはユウナなのかティーダなのか今のには分からなかった。


        ******

      
        次の日は朝から大変だった。
        達が外に出ると巨大なモンスターが現れたのだ。

        「でかいな」

        「お兄ちゃん! なにのん気な事を言ってるの。ほら戦う」

        はそう言うとベルゲミーネから貰った杖を構えた。

        「ちゃん?」

        「へへ私だって役に立つところ見せなきゃね。ユウナさんは後ろで休んでて」

        はユウナとルールの止めるのも聞かず、ティーダ達の許へ駆けて行った。


        「おい? 何やってんの!?」

        「何って戦いに来たの。一応私だってガードでしょ?」

        「おい、アーロン、何とか言えよ」

        「・・・・・・絶対に気を抜くな」

        「了解・・・・来るよお兄ちゃん!!」

        の声にアーロンに文句を言いかけたティーダも剣を構えた。



        戦いは一進一退だった。  
        とても硬い体を持つこのチョコボイーターはティーダやアーロンの攻撃では少ししかダメージを受けなかった。
        なんども崖っぷちに押しやられながらも踏ん張って、の魔法で相手の気をそらして
        体勢を崩し、徐々に弱らせていった。

        「おい大丈夫か?」

        「ちょっと疲れたかも・・・・」

        「下がってろ! 後は俺たちで・・・・」

        しかしティーダの言葉はいきなり表れたユウナとルールの出現で止まってしまう。

        「ユウナ! ルールー!」
        「ちょっと、手柄を横取りしたみたいで悪いけど行くわよユウナ」

        「うん!!」

        勝負はその後あっけなくついてしまった。

        「俺、頑張ったのに・・・・」 
 
        ティーダはガクリと膝をつく。

        「あ・あのティーダ、ゴメンね」

        「や・やだなー、ユウナは謝らなくて良いって・・・・」

        「そうだよ! ユウナさんは気にしなくていいよ。まったくブリッツの試合じゃないんだからね」

        はそう言うとティーダを小突いた。

        「・・・・兄を小突くな!」

        ティーダは反撃をおそれて駆け出したを追いかけ走り出した。

        「緊張感の無い奴らだ」

        アーロンはため息をつきながら呟くと二人の駆けて行った方向へと歩き出し他の者も続いた。

        



        ジョセ方面の出口に着いた所で、一行は兵士に通行を止められる。

        「ちょっと召喚士の使命を妨げるつもりなの?」

        ユウナ達は押し問答の末、諦めてもと来た道を引き返そうと歩き出した時、の不機嫌な声が一同の耳に届く。

        「ちゃん?」

        ユウナは驚きティーダとアーロンを見た。

        「やらせておけ。通れるかもしれないぞ」

        とアーロンは言って傍観を決め込んだ。
        ティーダは気まずそうにユウナに目配せして 
  
        「ごめん。ああなるとアーロンしか止められなんだ、けど止める気ないみたいだ」

        ユウナは少し笑いながらティーダの言葉に頷いた。



        押し問答を中々止めないにワッカが痺れを切らして止めに入ろうとした時だった。
        辺りが急にざわめき出した。

        そしてユウナの側に僧兵に護られたシーモア老師が近づいて来た。

        「シーモア老師・・・」

        ユウナとワッカそれにルールーは敬意を表し腰をおとし挨拶する。
        シーモアは頷くとユウナに何かあったのか聞いてきた。
        そしてユウナの言葉に道を封鎖していた兵を呼び、一行を通すように手配をしてくれたのだった。

        「なんか気に入らないんだよな・・・・」

        ティーダの呟きには頷いた。

        (あの目は嫌いだ。自分の事しか考えてない、そんな目だ)

        しかしそれは誰にも言えないとは思った。