悲鳴
「お兄ちゃん!!」
仲間達とはぐれてしまったは、人々の呻き声の中を駆けていた。
シンの攻撃はの予想を遙かに超えていた。
たった数発で討伐隊は瓦解した。
兄達は大丈夫なのだろうか?
地面に転がる討伐隊の死体を見て恐怖に駆られた。
一人になってしまったら。
泣きそうになるの前にシンのコケラが現れた。
自分は死ぬのだろうか?
「絶対にやられないから!! 出でよバハムート」
は杖を翳してバハムートを召喚する。
バハムートはとシンのコケラの間に立ちはだかった。
そして一撃でコケラを倒す。
その強さには息を呑む。
「強い。有難うバハムート。悪いけど仲間の所まで連れて行って」
バハムートはの言葉に頷くと彼女を乗せ飛び立った。
上空から見る地上には動く人影はまばらで
動いているのはシンのコケラだけだった。
そんな地上の惨状を悲しみながらもは兄達を捜した。
「あの光は!お願い貴方が見つからない程度の所で私を降ろして」
バハムートはに言われた通り、光の見えた場所から少し離れた所に
を降ろすと幻が消えるがごとく消えていった。
「急がなきゃ!!」
は光の見えた場所へと駆け出した。
光の見えた場所では、ユウナとアーロンそれにシーモアが
大きなシンのコケラと戦っていた。
「アーロンさん! ユウナさん! 大丈夫?」
「ちゃん無事だったのね。良かった」
「うん、ユウナさんも。それよりこのコケラは」
「これは討伐隊が運んできたコケラが合体したものだ。愚かな事を考えるからこんな事になる」
アーロンは吐き捨てるように言うとコケラに剣を向けた。
「来ますよ」
会話には関心が無いような表情をしていたシーモアが三人に声をかける。
「ヴァルファーレを召喚します。皆さんさがって下さい」
ユウナの言葉にさがったは隣でユウナを見つめているシーモアをチラッと盗み見た。
しかしそんなの行動を察したのかシーモアが声をかけてくる。
「貴方は確かティーダという名のガードの妹さんでしたね。
たしかさんでしたか、私に何か?」
「いえ、どうしてルカの時みたくあの召喚獣を召喚しないのかなって」
「」
アーロンは止めたがはシーモアへの訳の解らない不信感から言葉を発するのを止められなかった。
「貴方があのアニマを召喚してシンと戦えばシンは滅ぶ、違いますか?
何故? こんな無謀な戦いをあの人達にさせたの!!」
「貴方はそれでいいのですか? さん。貴方とお兄さんは・・いえ、今は言わないでおきましょう。
それに私を過大評価してくれて嬉しいですが私にはそんな力はないですよ」
はカッとなり更に言い募ろうとしたがアーロンに押さえ込まれた。
「、そんな事よりユウナの援護をするぞ」
「アーロンさん・・・・解った」
はシーモアを一瞥すると、ユウナを援護する為に魔法を放つのだった。。
戦いはユウナの召喚したヴァルファーレのお陰で勝利に終わった。
はユウナに労いの言葉を掛けながらシーモアがいる場所を見たがそこにはもう彼の姿はなかった。
「、ユウナ、手分けしてティーダ達を捜す。
シンは消えた。強力なコケラはもう出て来ないだろう。お前達は向こうを捜せ」
アーロンはそう言うとスタスタと行ってしまった。
「ちょっとアーロンさん!」
は引き止めたがアーロンは立ち止まってはくれなかった。
「行こうちゃん。みんな無事ではいると思うけど心配だわ」
ユウナの言葉にはアーロンの方を振り返りながらもユウナの後に続いた。
海岸沿いを歩き始めた2人は死んでいった討伐隊の人々の亡骸の多さに目を覆った。
「酷い・・・・・」
は立ち尽くしていた。
これをやったのが本当にジェクトなのだろうか?
信じたくなかった。
兄であるティーダも今頃、そう思っているだろう。
泣いているかもしれない。いや、怒っているだろう。
「ユウナさん、この人達どうなるの?」
「ちゃん、心配しないで後で異界送りを私がするから・・・・」
「異界送り・・・・」
は異界送りを見た事がなかった。
キーリカの時は、気を失ってユウナの異界送りを見ていなかったので
ティーダから少し聞いただけだった。
暫く海岸沿いを歩いていると、ルールー・ワッカ・キマリが見つかった。
「皆、無事だったのね。よかった・・あのティーダは?」
再会を喜んだ5人だったがその中にティーダの姿はなくユウナは不安で顔を曇らせた。
「私、アーロンさんに知らせてくる!!」
はそう言うと仲間達の止めるのも聞かず駆け出した。
こんな悲惨な所で兄を失いたくなかった。
本当は泣き叫びたいのをグッと堪えてはアーロンの許へと向かった。
*******
どれくらい走っただろうか、アーロンは中々見つからずは焦っていた。
「お兄ちゃん!! 何処にいるのーー。返事して」
は叫んで見たがあの元気な兄の声は返事を返してはくれなかった。
「どおして、どおして・・・私達がこんなめに遭わなきゃいけないの」
の呟きに誰もいないはずなのに声がかかる」
「・・・・ごめんね。僕達のせいで・・・・」
「あっ 君は!」
「今はまだ何も話せない。君の問に答えてあげれない。
僕にできるのは君が望んだ時に現れるだけ、ティーダはあっちにいるよ」
バハムートの祈り子の少年は、にそれだけ言うと消えてしまった。
は少年を呼び戻そうとはしなかった。
そして少年が示したティーダのいる場所へと駆け出すのだった。
ティーダは砂浜で気を失っていた。
は慌てて駆け寄ったがその時、何故か父ジェクトの気配を感じた。
「お父さん?」
は父の姿を捜すがジェクトの姿は何処にもない。
少しの混乱を吹っ切るようにはティーダを揺すった。
「お兄ちゃん! いつまで寝てる気。それでもザナルカンドで一番有名な選手なの? 早くおきなさい!!」
「うっ・・・・? 解った起きるからそんなに耳元で怒鳴るな」
ティーダはそう言うと起き上がる。
何処にも怪我がない兄を見ては泣きながら抱きついた。
「心配したんだからね」
「ああ・・・・」
「もう一人にしないでね?」
「当たり前だろ」
「ユウナさんも心配してるからね」
「そっか・・・・」
2人とも他に言いたい事があったしかしそれを口にしたくは無かった。
今はしないと決めていた。
2人がユウナ達の所へと向かっている途中、微かな言い争いを耳にした。
その声に聞き覚えがあった為、2人が向かうとアーロンが寺院から使わされていたキノックに何か言っている。
アーロンがあそこまで侮蔑を込めて話しているのを、聞いた事が無かった二人は驚き固まった。
しかしその側で、悲しそうにしているユウナに近づいて何か話しかけている
シーモアの姿を見てティーダは何か文句を言いながら駆け出した。
「あっ待ってよお兄ちゃん!」
が慌ててその後を追うとその声にユウナ達も気付き駆け寄って来てくれた。
「ちゃん、ティーダよかった、今から捜しに行こうと思っていたの」
「みんな、心配かけてごめん。それよりアーロンのあれ良いの?」
ティーダはそう言ってアーロンを指差すとルールーは首を振り”わからない”と言ってため息をついた。
そして暫くして戻ってきたアーロンはとてつもなく不機嫌で
一言”行くぞ”と言って歩き出し、ユウナ達もそれに続いた。
ジョセ街道に入る直前に一番後ろをトボトボと歩いていたティーダとにアーロンが近づいてきた。
「なんだよアーロン?」
「シンはお前達に会うために来たんだ」
「何言ってんだ!!」
「ジェクトはお前に自分の姿を見せたかったんだ」
「その為にあんなに人を殺したの?」
「シンとはそういう物だ・・・・・破壊しつくすのがシンの本能」
「それが俺達に会いに来たのと関係があるっていうのか!?」
「シンを憎いと思ったろう? もしあれが自分の父親だとしたら殺してでも止めたいだろう」
「お父さんは死にたいのね・・・・」
「そうだ。自分の意思では止められない破壊と殺戮をお前達に見せる事でお前達に止めて欲しいと願っている」
はなんとなく解る気がした。
ティーダのそばで感じたジェクトの気配、それは父の思いだったのだろう。今はそう感じられた。
しかしティーダは納得できないようだった。
言いたい事だけ言って離れていくアーロンに彼は悪態をついていたのだから。
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