過去の記憶








            意識を失くしたは夢を見ていた。

            「返して!! シオン先生を帰してよ!」

            「何故? あの者は、肉体は無くなったが永遠に生きる事ができるのですよ」

            「そんなの!!」

            「ザナルカンドを護るために祈り子となったのです。何を悲しむ事があるのです」

            「・・・・・」

            「貴方も召喚士としてこの街の為に尽くしもらわなくては」

            「ユウナレスカ様はズルイです。貴方は何も失っていない!」

            「と言いましたね。貴方は何も解っていないのです」

            ユウナレスカはそう呟くとに背を向けて行ってしまった。

            「解んないよ!!どうしてシオン先生が犠牲になんなきゃいけないのよ!!」

            の叫びは誰もいない部屋に木霊した。


            「!!」

            ザナルカンドの研究施設を出たは、いつのまにか主の居なくなった家の前に来ていた。

            「・・・・心配したんたぞ。ずっとここにいたのか?」

            シューインは、返事をしない妹の手を握るとそう言って歩き始めた。

            「お兄ちゃん・・・」

            「なんだ?」

            「シオン先生いなくなっちゃった」

            「そうか・・・・」

            シューインは頷いただけで余り驚いた様子はなかった。

            「お兄ちゃんは知ってたの?」

            「俺に会いに来たんだ先生。きっとお前は泣くだろうから慰めてやってくれって」

            「先生が・・・・」

            「可愛い生徒達を護る事ができてホッとしてるとも言ってた」

            「先生は無理やり祈り子にされたんじゃないの?」

            「俺には先生の本当の気持ちは分からない。けどさ覚悟だけは決めてたんだよ」

            「覚悟・・・・・」

            「レンも覚悟を決めたってさ・・・・・」

            「そんなせっかく歌姫になったのに!」

            「今、先生に会いにいってる」

            「えっ?」

            「お前1人で・・・いやなんでもない」

            シューインは言いかけた言葉を呑みこむと、の頭を撫でた。

            「シューイン兄ちゃん?」

            「レンと話してやってくれないか?」

            「いいの?」

            シューインはに頷くと、握っていた手を腕に絡まさせて歩きだすのだった。
        

            *****



            を部屋まで運んだキマリはそっとをベットに寝かせると
            に掛けていたアーロンの上着を取り去った。
            そしてになんの変化も無いのを確認してホッとため息をついた。
            シーモア老師の邸で確かにの身体は幻光虫に包まれていた。
            しかしアーロンはその事を予期していたのか、余り驚いてはいないように見えた。
            キマリはジッと気を失っているを見つめ、その金色の髪を撫でるのだった。

            暫くするとユウナ達が異界から戻ってきて、を心配して部屋へとやって来た。

            「キマリ・・・・は?」

            「ティーダ心配はいらない。はグッスリと眠っている」

            「そうか・・だけどの奴、どうしたんだろう。
            ザナルカンドではいきなり倒れた事なんてなかったのに」

            「疲れてるんだよ。きっともスピラに来てから戦うようになったんでしょ? 結構きついものだよ、魔法を使うって」

            「リュックの言うとおりかもね。ちゃん・・・弱音を吐かないから無理させてたかも」

            「ルールー・・・・」

            「ティーダ、兄の貴方がそんなに心配したらちゃんが余計に気を使うわ。
            知らない振りをして、そっとサポートしてあげなさい」

            「そうっスね。そうしてみるよ俺・・・・」

            「それじゃあ今日はゆっくり寝かせてあげましょう。
            ユウナもシーモア老師との事もあるし。ねっユウナ・・・・」

            「うん・・・・」

            「大丈夫?ジスカル様の事を気にしてるのね・・・・」

            「どうにもならん・・・」

            「アーロンさん・・・・」

            「いいからお前達も休め。明日の出発は早いぞ」

            アーロンはそう言うとキマリを残して、全員を部屋から追い出してしまった。


            「キマリ・・・・・もう少しだけ時間をくれないか?」
  
            窓から外の景色を見ていたキマリにアーロンはポツリと言った。

            「キマリはと約束した。誰にも言わないと。でも、ユウナの旅の妨げになるのならキマリは・・・・」

            「あの子はは・・・ユウナを助ける事が出来るかもしれない」

            「・・・・・?」

            しかしアーロンはそれ以上は何もキマリには言おうとはしなかった。

            
            「うっうーん」

            「・・・・大丈夫か?」

            「アーロンさん・・・・」

            「あまり心配をかけるなよ。ティーダの奴が泣きそうだったぞ」

            「うん、ごめんなさい。私ね・・・・不思議な夢をみたの」

            「夢?」

            「あの綺麗な人、ユウナレスカって人が出て来たの。
             私はあの人に対して凄く怒っていて。そのあとお兄ちゃんが出て来て・・・・あれ・・・」

            「どうした?」

            「忘れちゃった。さっきまで覚えてたのに」

            「・・・夢とはそういうものだ。もう眠れ・・・・明日は早いぞ」

            「うん・・そうする・・」

            はやはり疲れていたのか、すぐに眠りに落ちていった。

            「ユウナレスカか・・・・・」

            アーロンのその呟きはキマリには聞こえなかった。


            *****


            次の日、ユウナがシーモア老師を訪ねて見ると彼はマカラーニャ寺院に行ったと告げられた。

            「なんだよ、人に言うだけ言っといていないなんて・・・・」

            「ティーダ、シーモア老師はお忙しいのよ。
            幸い私達の次の目的地もマカラーニャ寺院なんだし問題ないわ」

            「そうだけどさ・・・・・」

            「お兄ちゃん、焼きもち妬いてるんでしょ」

            「なっ!!」

            「ふーん、ティーダってユウナが好きだったのか〜」

            「リュック!」

            真っ赤になったティーダをからかう2人の少女達をユウナが何とか止めて
            一行はマカラーニャに向かうべくグアドサラムを後にした。

            
            「うっわ! なんて素敵な場所なのここは〜」

            「! 何言ってんの!! ここの何処が素敵な場所なのよ」

            「だって稲妻がスババーンってとっても素敵じゃない」

            「、あんたって雷好き?」

            「うん、ずーっと此処に居たいくらいよ」

            「・・・・・クスン」

            リュックは嬉々として雷平原を歩くを恨めしそうに見ながら鼻をすすった。

            「ごめんなリュック、あいつったら浮かれすぎだよな」

            「いいの・・・・と一つだけ気が合わない所が有っただけよ」

            リュックはティーダにそう言うと、震えながらも歩きだすのだった。

            


            平原を半分程歩いた頃だった。
            あまりの恐怖に限界がきたリュックが旅行行司で休もうと言い出した。
            リュックの発言を聞き流す仲間達だったが、あまりの懇願に折れて休む事になった。
            はどちらにしても雷の側にいれる事には変わりないので快く賛成した。

            「・・・・嬉しそうだね」

            「だってそれだけここの滞在が延びる訳でしょ。リュック、さまさまだよ」

            「ガーン、そう言うふうにも取れる・・・・よね」

            落ち込むリュックを慰めるティーダとの横をユウナがそっと通り過ぎ部屋に入っていってしまった。

            「ユウナ・・・・」

            「待ってお兄ちゃん。女の子の部屋に急に男が入るのは失礼だよ。私が様子みてくるから・・・」


            はティーダを引き止めるとユウナの様子を窺う為に部屋に向かった。
            
            (聞こえない・・・ん? 知らない人の声?)

            はもう少し様子を探ろうとドアに近づいた。

            そして


            「あっ」

            僅かな力でドアが開いてしまったのだ。

            「ちゃん!?」

            「ごめんなさい。ユウナさんが心配で・・あのそれは?」

            はユウナが一心に見つめていたものを指さした。

            「これはグアドサラムで見つけたジスカル様のスフィアなの」

            「シーモア老師のお父さん?なんて言っていたの?」

            「遺言だったの。息子をよろしくって・・・」

            「ふーん、それだけだったの?」

            「・・・・・」

            「ユウナさん、まさかそれで結婚決めたとか言わないよね?
            そんな事で決めたらだめだよ。好きな人と一緒にいるのが一番なんだから」

            「ちゃん・・・・」

            「直ぐに決めちゃ駄目だからね」

            しかしユウナはの言葉に俯いていて頷いてはくれなかった。