2010’05/15 「第2章 調査業務体制」とその解説 第2章 調査業務体制 第1節 調査の原則 (調査の基本) 第3条 調査は,物的証拠を主体とし,関係者等の供述に基づいて検討を加え,科学的方法による合理的な事実の解明を図らなければならない。 「火災調査の目的」と言った文章([資料を作成し、予防行政に資する]とか・・・)が以前は入れていたが、本来、消防法の目的を達 成するための一つの章として「火災調査」が定められており、消防活動や予防、危険物行政と同じで火災の予防全体を目的とした おり、あえて、「目的」を記述する必要はない。 第1条に趣旨としてそのことを記載している。 「調査の基本」は、目的を明示することではなく、火災調査業務のをあるべき姿としての基本を示し、消防職員が火災調査業務を 適切に遂行する姿勢を示す。 (調査の区分及び範囲) 第4条 調査の区分は火災原因調査及び火災損害調査とし,その範囲は次の各号に掲げるとおりとする。 (1) 火災原因調査 ア 出火原因 火災の発生経過及び出火箇所 イ 発見,通報及び初期消火状況 発見の動機,通報及び初期消火の一連の行動経過 ウ 延焼状況 建物火災の延焼経路,延焼拡大要因等 エ 避難状況 避難経路,避難上の支障要因等 オ 消防用設備等及び特殊消防用設備等の状況 消火設備,警報設備,避難設備及び特殊消防用設備等の使用,作動等の状況 (2) 火災損害調査 ア 人的被害の状況 火災による死傷者,り災世帯,り災人員等の人的な被害の状況及びその発生状況 イ 物的損害の状況 火災による焼き,消火,爆発等による物的な損害の状況 ウ 損害額の評価等 火災により受けた物的な損害の評価,火災保険等の状況 「調査の区分及び範囲」は、火災原因調査と火災損害調査の両視点に立って、その対象を示した。原因調査としては、出火原因、 発見、初期消火、延焼経路、避難、消防用設備など広範囲な対象となる。また、損害調査は、人的被害と物的損害の2つではあ るが、損害額評価と言う立脚点の異なる事務を含めて、より的確な姿勢を示すものとしている。 (調査責任) 第5条 署長は,管轄区域内の調査責任を有する。 2 運行中の車両及び航行中の船舶の火災は,主として消火活動を行った場所を管轄する署長が,航空機の火災は,墜落場所又は着陸場所を管轄する署長が 調査を行うものとする。 3 署長は,火災の覚知とともに調査を開始しなければならない。 (調査結果の管理) 第6条 部長及び署長は,調査のために立ち入って見分し,又は質問により得られた情報並びに調査結果から作成された文書等の適切な管理に配意するものとする。(ち) (調査結果の活用等) 第7条 部長は,調査結果を分析及び検討して,火災の実態を明らかにするとともに消防行政に反映できる資料を整備し,活用ができるように努めなければならない。 2 署長は,調査システム等を活用し,調査結果を管内の情勢に合わせて分析及び検討して,消防行政に反映できるよう努めなければならない。 (類似火災への対応) 第8条 部長及び署長は,調査結果から製造物の欠陥による類似火災の発生が予測されるなど必要と認めるときは,当該火災に係る資料の収集に努め, 類似火災の防止に係る対応を図るものとする。 (指導及び職務能力の向上) 第9条 部長又は消防方面本部長は,署長が行う調査に関する業務(以下「調査業務」という。)について,指導を行うものとする。 2 調査業務に関する職員の職務能力の向上については,東京消防庁火災予防規程第3条第1項から第3項までの規定の例によるものとする。 5条では、火災調査の責任主体を「署長」とした。 消防長たる消防総監も消防法上はあるが、実質的にも主体的に係わる上でも 「消防署長」に特定している。 自動車等の乗り物は、あえて責任の所在地点を明確にし、そこを名目上の出火場所としている。 6条は、個人情報保護等の立場を踏まえ、火災調査で得られる情報の管理を明確にし、厳正な態度で保管等するようにしている。 7条は、火災調査の目的である火災予防への視点として、調査結果の活用等を義務づけている。この予防行政への反映の視 点が、現在の消防の火災調査に課せられた任務であり、旧来の資料の収拾と言った次元とは一線を期して、常に市民サイドに 立った消防行政の火災予防に向けたとらえ方として、提起されている。なお、この点は、現在の国の「消防法の解説」にある火災 調査の意味が矮小化されていることから、この点を明確にしたものとなっている。(当ホームページの「火災調査法令」を参照) 8条は、調査結果の活用の中で、最も市民の立場から求められる「類似火災への対応」として、明確にしている。 9条は、部長及び方面本部長がそれぞれの立場で、署を支援し、調査員の能力向上に努めるものを示している。 この第1節の3条から9条は、火災調査の基本的な姿勢を定めている。 何を対象とし、誰が主体となって、どのよう方向性 で、実施すべきなのを示している。そして、火災調査に付随する情報管理と調査員の資質向上を第1節に設けて、調査の姿勢 としている。火災調査のあるべき理念を明確にしたものである。 第2節 調査態勢 (技術の向上) 第10条 部長は,調査に関する研究を行うとともに,機材の整備を図り,火災原因究明の技術を向上するよう努めるものとする。 (調査態勢の確立と実務指導の要請) 第11条 署長は,調査態勢の万全を期すとともに,調査員に対して調査にかかわる知識及び技術を教養し,調査技術の向上に努めなければならない。 2 署長は,調査員の調査技術の向上を図るため,別に定めるところにより実務指導を部長に要請することができるものとする。 (主任調査員等の指定) 第12条 署長は,原則として,認定者等のうち,消防司令補の階級にある者から主任調査員を,また,消防士長以下の階級にある者から消防署の実情に応じて 調査担当員を指定するものとする。 (鑑識員の派遣要請等) 第13条 署長は,調査上特に専門的な技術,知識を必要と認めた場合は,部長に対して鑑識員の派遣を要請することができる。 2 署長は,焼損物件等にかかわる原因究明のための鑑識又は実験を部長に対して依頼することができる。 3 部長は,前2項の要請又は依頼があった場合には,火災の状態その他の事情を勘案して鑑識員を派遣するものとする。 4 部長は,前3項にかかわる調査結果を鑑識・実験結果通知書により署長に通知するものとする。ただし,火災の内容により特にその必要がない場合は,この限りでない。 5 部長は,特異な火災の焼損物件等について,技術安全所長と協議のうえ,外部の機関へ分析,研究等を依頼することができる。 6 部長は,第1項から第3項の規定にかかわらず特に必要と認めた場合は,鑑識員を派遣することができる。 (鑑定員の派遣要請等) 第14条 署長は,特に鑑定を必要と認めた場合は,部長と協議のうえ,技術安全所長に対し,鑑定員の派遣を要請することができる。 2 署長は,焼損物件等にかかわる鑑定を必要と認める場合は,部長と協議のうえ鑑定依頼書(別記様式第2号)により,技術安全所長に鑑定を依頼することができる。 3 技術安全所長は,第1項の要請があった場合は,特に支障がない限り鑑定員を派遣するものとする。 4 技術安全所長は,前3項にかかわる鑑定結果を鑑定書により,部長及び署長に通知するものとする。ただし,鑑定の内容により特にその必要がない場合は,この限りでない。 (通訳人の要請等) 第15条 署長は,外国人に関連する火災があった場合には,東京消防庁火災調査に係る通訳人に対する通訳料の支払に関する規程(以下「通訳人規程」という。) 第4条に基づき,通訳人(通訳人規程第2条第1項に定める通訳人をいう。以下同じ。)の派遣要請を行い,適切な調査を実施するものとする。 2 署長は,前項による通訳人の派遣ができない場合で,かつ,調査上特に通訳を必要と認める場合は,部長と協議のうえ,総務部長に対し通訳の派遣を要請することができる。 3 総務部長は,前項の求めがあった場合は,特に支障がない限り通訳を派遣することができる。 (消防署間の技術協力) 第16条 署長は,火災調査上技術協力を必要と認めた場合には,本部長に対して方面内の主任調査員又は認定者等(以下「主任調査員等」という。)の派遣を要請することができる。 2 本部長は,前項に規定する要請があったとき,又は必要と認めるときは,方面内の署長と協議し,方面内の主任調査員等の派遣について調整するものとする。 3 本部長は,前項に規定する主任調査員等の派遣について調整した場合は,部長に報告するものとする。 (管轄区域外に対する支援) 第17条 消防組織法(昭和22年法律第226号)第39条に基づき東京消防庁管轄区域外の市町村長から火災調査に関する応援要請があった場合は,部長は,消防総監の 承認を得て職員を派遣することができる。 2 東京消防庁管轄区域外の消防長から火災調査にかかわる技術支援の要請があった場合は,部長は,鑑識員の派遣又は焼損物件の鑑識を行うことができる。 第2節では、火災調査の業務遂行にあたって、庁内全体の業務の水準を均質化するための方策、調査員の育成などを明確にし ている。 第10条は、火災調査技術の向上策の主体を庁の本部(部長)にあるとしている。これは、関連する研究所、大学、学会等との連携 や火災実験、現場調査資器材や鑑識資材の購入など、広範囲な対応を予測して、本部に責任の所在を置いたものである。 第11条は、実務的なレベルでの調査員の育成の主体を署(署長)にあるとしている。一件一件の火災調査を如何に正確に適切に 実施できるかは、最も身近な署の課題であり、その意味で署長の責務とされている。そのために、署の調査員に技術レベルを 向上させたいと考えた時には、本庁調査課に“実務指導”として、署の調査員を短期的に本庁調査課員として研修させる方策を作っ ている。また、火災調査において困難な事案には、第13条の本庁の調査課員(鑑識員)の派遣要請、第14条消防技術安全所員 (鑑定員)の派遣を要請することを明記している。 現在(平成21年中)、火災調査現場への鑑識要請により、署員と調査課員の合同による調査は、年間305件行われており、死 者の発生した火災、大規模火災、特異火災、車両火災などの製造物火災、爆発火災など広範囲多岐に渡って、運用されている。 年間火災件数6,000件の5%は、ほぼ「目ぼしい火災」の全てに調査課が係わっていることになる。また、署の調査員が、「立証 のための調査」として、物件等を鑑識する際には合同で行う鑑識は188件あり、また、検査分析が必要とされて、鑑定依頼する ものが96件ある。このように、あらゆる火災おいて、署と本庁が相互に係わって、科学的で合理的な原因究明ができる体制を維持 している。これらは、署調査員と本庁調査課との相互の信頼関係が、大きな支柱となっている。 第12条「主任調査員」制度である。現在、国の消防庁からの指導もあり、全国の主要な消防本部でも同様の制度が推進されて いる。これは、消防署で実施される火災調査活動の主役的立場となるた職員を明確にしたものである。知識、技術、そして指導力 と折衝力を兼ね備えた消防司令補の階級にある職員である。署の火災調査の中心人物であるだけに、各署ともその指定には、 資質・知識・人物等を考慮して指定している。また、捜査機関との窓口、裁判時の出頭、署内での鑑識、署員指導など、他の消防 職員の業務とは異なる側面が多くあり、重要な業務となっている。 第15条は、聴覚障害者や外国人などの日常生活でハンディのある方々に対する、火災調査業務遂行時の不利益を生じることが ないように配慮されたものでる。現在、行政事務の遂行にあたっては、当然に配慮しなければならないことであり、規程上で明確に し、通訳人等の派遣予算措置等も講じている 第16条は、署々間での火災調査員の活動規程である。現在、火災件数が年間50件程度の署から300件発生する署など、署に よって、異なることから、火災調査現場経験に偏りがあり、また、大規模火災時に一署だけではレベルの高い調査員が不足すること から設けられている規程で、火災現場経験を増やすため相互派遣や大規模時火災時に方面本部を経由して調査員を多数集結さ せて調査活動の総合力の結集に役立てるなどが、この規程により運用されている。 第17条は、他の消防本部から要請に答えるために、全国消防長会からの要請もあり設けられた規程である。古くは、熱海・大東館 火災の支援など、多くの実績をもっている。なお、現在は、国の消防センター“火災原因調査室”が運営されるので、要請はほとん どない。 第3節は「削除」となっている。旧規程上は「火災調査本部」の設置等を定めていたが、無用となったことから除かれた。昭和57年2月 「ホテルニュージャパンの火災」の火災調査を契機として、調査本部制度を規程化したが、本庁内企画課が中心として対策を推進す ることから、発展的解消となり、平成13年9月「新宿小規模雑居ビル火災」時には、既に、削除されていたのが、便宜的に一時期その 名称を使って、火災調査の総合力の集結を図った。 |