二輪車ETC問題とは何だったのか?  (07.6.25)


2005年9月25日から始めた『二輪車ETC問題』の連載を終わるに当たって、あらためてこれがどんな問題だったのか、整理しておきましょう。

繰り返しになりますが、そもそも、このETC問題を取り上げた直接のきっかけは、ハイカの廃止でした。つまり、高速道路の料金問題です。それまでハイカでいくらかでも高速料金の負担を押さえていたのに、二輪用のETC導入の予定がないまま、一方的にハイカを廃止(販売中止)されたことに疑問をもったことから、掘り下げてみようと思ったわけです。

それと、もうひとつきっかけとして、モータージャーナリズムが二輪ETCの未実施を問題として取り上げることがなかったこともあります。2005年の春に、プロライダーによるモニター運用が始まり、また新聞にも「今秋にも二輪ETC導入」との報道がなされた後では、もはや二輪ETCが本格導入されないでいる現実について、疑問を呈するメディアがなかったことが、私には不思議でしかたありませんでした。

ですので、連載の基調は、モーターサイクリストにとっての不利益状態の改善でした。それは、ETC割引を享受できるようにすること、車載器を四輪並の低価格で提供すること、そして、バイクに違和感なく装着できるサイズと工夫、の3点に集約されます。

私個人は、ノンストップでゲートを通過できるかどうかは、どうでもよかったことでした。ETCカードだけで料金所の窓口でETC装着車と同じ割り引きが受けられるのなら、あえて車載器は付けていなかったかも知れません。

ともあれ、ほかのジャーナリズムが沈黙してしまった後に連載を始めた関係で、事実確認と分析に時間もかかりましたが、まず実現したかったのは、四輪ETCの陰で忘れ去られていた、ハイカ廃止に伴う二輪向け代替措置でした。連載の『その3』 で指摘したように、

「二輪車のお客様などETCを利用したくてもご利用頂けなかったお客様には」従来のハイカや回数券同様のメリットを受けられるような「代替措置が実施されるまでは、ハイカや回数券を廃止する予定はありませんので、ご安心ください」
というプレス発表の一文をしつこく繰り返し引用してきました。その効果があったものかどうか、ハイカの使用が中止となる2006年4月1日の直前に、代替措置としてのETCカードによる二輪用特例マイレージサービスが発表されました。(『その12』

さらに、2005年10月29日に呼びかけたアンケートの集計では、車載器の価格が15000円以下でコンパクトなら装着検討という回答が7割近くを占めました。これなども妥当なものと思っています。

そうして、昨年11月の「本格スタート」時は、車載器の供給不足やら、セットアップ事業者の認定の遅れ、さらに導入キャンぺーンの一貫性のなさなどの問題がありましたが、この4月からは、定価3万円の車載器に対して一律で新規装着には16000円分のマイレージポイント還元となり、またこの5月のアンケート調査によれば、車載器の入荷不足という事態も解消されているようです。車載器も四輪並にコンパクトになり、モニター試作器に対して寄せられたような不満は、製品の車載器については聞こえて来ません。

こうして振り返ってみると、このシリーズで問題や要望を取り上げるたびに、それに呼応するような格好で関係各社に対応が見られたことに気づきます。きっと、関係当局の中には、職務上の制約はあるものの、二輪ETCをライダーの立場になってなんとか実現しようと尽力くださった二輪の味方もいたものと想像します。

さて、いったん二輪ETCが実現してしまったあとでは、待ち焦がれていたときの期待度に比べて、ETCを利用できる喜びの度合いというものは、案外と小さいかも知れません。夢や計画というものは、いつもそんなもので、いざ実現すると、すぐにそれが当たり前のものとなって、次の課題に関心が向くことになります。

では二輪ETCに次の課題はあるのか?

あります。それは、二輪にとってだけの問題ではなくて、四輪にも共通する問題として、高速に乗る機会の少ない利用者の問題、それと、四輪に比べてどうみても割高な二輪の高速料金の問題です。

この5月に実施したアンケートでは、ETCの装着予定なしという回答が多く寄せられました。その内訳は、高速の利用頻度が少ないこと、高速料金が高いので極力利用しないでいること、さらに、オフロード車などETCの装着に制約があること、などの理由が大半です。

この3つは互いに関係しあっています。高速道路を使わない理由にその料金の高さがあることは四輪と共通です。現在ETC装着件数が1700万台とはいっても、車全体保有台数の7千万台からすれば4分の1にも及びません。あまり高速を使わない車なら、わざわざ余計な装置やカードを持ちたくないのは当然です。バイクならなおさらのこと、めったに乗らない高速のための車載器は、目障りで邪魔なばかりか、車とちがって外部にアンテナが晒されているという意味では、いたずらされる危険も伴います。

日本語で高速道路と呼ばれることが一般的な「自動車専用道路」ですが、その名前のせいか、一般道を走るよりも時間を短縮できるという意味で、列車の特急料金と類似されているフシがあります。そのためか、いつも高速を使っている車、とくに業務で利用するためにそれが経費として処理され、利用者個人の負担ではないドライバーにとっては、高速料金が安くなって利用者がふえることで渋滞が激しくなっては困る、という意見がありそうです。

渋滞といっても、その実態は、大都市とその周辺だけの問題で、地方の「自動車専用道路」はガラガラというケースも多いでしょう。さらに地方なら一般道もスイスイで、敢えて高速料金を払ってまで時間をセーブする意味がない事情も、大都市圏とかけ離れています。

ETCが導入されて料金所の待ち行列がなくなると、あらためて渋滞問題が、高速道路の有効利用とはなんなのか、料金負担はいかにあるべきか、の問題として浮上してきます。その中で、二輪料金が軽自動車と同じという不公平さも浮き彫りになってきています。二輪ETC問題は、高速料金問題の呼び水でもありました。



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