ヘッドライト・テールライト

-55- (2012.10 - 2012.12 ) 


>> バックナンバーリスト へ戻る




 (2012/12/28) 
こちらは王政復古期のフランスが舞台 〜『レ・ミゼラブル』

ミュージカル『レ・ミゼラブル』の舞台を見たのは10年ほど前のロンドンでした。その時の興奮が忘れられずに、かといって次に見るチャンスもなく、せめてオリジナルロンドンキャストのCDでも、と車で遠出するときなどよくかけていました。

そのロングランを続けるミュージカルの名作がついに映画化されて、12月21日から世界のトップを切って日本で公開されています。わたしは期待と不安半々で今日観ることができました。不安というのは、もうひとつわたしの大好きな『オペラ座の怪人』の映画版にがっかりさせられた過去があるからです。

ところが、この『レ・ミゼラブル』は見事にロンドン公演での感動の記憶を甦らせてくれました。キャスティングがぴったり、しかも歌がほぼ舞台のまま。まるで、巨大な舞台でのパフォーマンスを観ているようでした。

それというのも、俳優さんたちの歌唱が、アフレコやプレスコのようには聞こえず(見えず)、生で歌っているみたいだったからです。帰宅して調べたら、実際に生で収録していることが分かりました。

ミュージカルだからそんなに混まないだろうと思っていたら、なんと朝一番の上映なのにずいぶん客が入っていました。プロモーションもうまくいったせいか、順当にヒットしそうです。

ところで、『レ・ミゼラブル』の時代背景は、ナポレオン没落とウイーン会議後の、いわば王政復古期のフランスですが、トルストイの『戦争と平和』といい、このユゴーの小説といい、やはりヨーロッパの近代はフランス革命とナポレオン戦争から始まっている、という思いを強くします。100年、200年という単位で歴史を「見る」のではなくて「生きている」ような、スケールの違いがあります。そういえば、このミュージカルだってロンドンでの初演から今年で27年。たしかロンドンで25周年を記念するコンサートがあって、いつだったか、その録画がテレビで放送されておりました。



 (2012/12/18) 
<総選挙> 維新の会の英語名は「王政復古党」?

政策も公約もそっちのけの無風選挙で、投票率も戦後最低とか。それでいて過ぎてしまえば台風なみの暴風雨。選挙活動も制限だらけで、結局マスコミだけが選挙運動をやっていたように見えてしまいます。

嫌「自公民」の風で帆が膨らんだ維新丸ですが、政策が脱「自公民」というわけではない。選挙公報にも政策の明細がなく、どこか危うさが漂う。その広報を見ていたら党名の英語名が併記されているのに気づきました。なになに 'Japan Restoration Party'?「日本王政復古党」かい?

大政奉還と王政復古の大号令を当時のイギリス人が、自国の歴史上の事件「王政復古 the Restoration (1660年)」になぞらえて the Meiji Restoration と呼んだのが、そのまま明治維新の英訳であるかのように和英辞典に定着しています。それを修正しようにも、明治維新は革命ではなし、倒幕という意味ではクーデターだし、結局 the Meiji Ishin と呼ぶのが、今では無難なところでしょう。

いやいや復古党じゃなくて変革の意味での維新党だ、と言っても、restore はバイクのレストアと同じ、復旧とか修復の意味なので、復旧党か復興党くらいにしか解釈できない。明治の英学事始めの時代じゃないんだから、英語表記くらい、自分の頭で考える時代と思うが、命名者は誰だろう? それに、いつまでも復古調の龍馬ブームから抜け出せない日本人を、当時としては時代の先端を見ていたであろう当の龍馬自身は、さぞかし墓の中で呆れているんじゃないかな。それとも、本気の王政復古か。



 (2012/12/17) 
<総選挙> 非「自公民」の潮流が鮮明に

「裸の王様」野田総理の勝手解散で棚ぼた式大勝が転がり込んだ自公。獲得議席数だけがニュースになるので、選挙結果にがっかりしている方が大半でしょうが、選挙そのものの分析はまだまだこれから。

こういう時にはYahoo!が選挙特集を組んでくれるので助かります。たまたま東京の小選挙区の集計が出ていましたので、私の地元多摩市東京23区の結果を見ておりました。さすがYahoo!の特集は、2005年、2009年の総選挙の結果まで一緒に掲載しています。

その推移をグラフにすると、以下のようになります。

議席は自民党(実質は自公)が獲得しましたが、大勝どころか、退潮傾向は変わらず。得票率わずか30%での当選。前回2009年には反自民の勢いが民主に集まりましたが、公約をことごとく保古にしてきた民主党が第二自民党に成り下がったために、結果として、非「自公民」の得票が48%にまで達しています。この傾向は他の選挙区でも、程度の差はあれ、似たようなものでしょう。

今回の選挙が示したもの、まずそれは、小選挙区制と二大政党制の破綻と言えそうです。



 (2012/12/4) 
FIFAの苦悩

昨夜のヤフーニュースのトピックスに、FIFAが<独島プラカード>事件の処分を発表したとの記事が掲載されました。

FIFA(国際サッカー連盟)は現地時間3日(中略)韓国代表MF朴鍾佑(パク・
チョンウ/23)に対し、2試合の国際試合出場停止処分と3500スイスフラン
(約31万円)の罰金を科すことを発表した。(中略)
FIFAは声明のなかで「朴鍾佑の行動は前もって計画されたものとはみられないが、
FIFAの理念とスポーツマンシップに反するものであり、容認することはできない」
とし、処分を発表した。
FIFA、五輪で「竹島」メッセージ掲出の韓国MF朴鍾佑に2試合の出場停止処分
ISM 12月3日(月)19時37分配信
すぐにFIFAの発表そのものを捜したのですが、見つけきれませんでした。同時に掲載されていた他メディアによる報道を見ると、韓国メディアの記事の引用が目立ったので、さては裁定は公表されずに韓国サッカー協会だけに送付されたものか、と疑ったものです。

今朝になって、やっとFIFAのHPにそのソースを見つけることができました。

Korea Republic’s Park Jongwoo suspended for two matches
FIFA.com  Monday 3 December 2012
この声明をよむとおかしなことに気づきます。

まず、裁定が決定したのは先月11月20日のとのこと。それが、どうして発表に2週間ちかい日数を要するのか不可解です。さらに、もっとも注目するのが以下のパラグラフ。

The Committee took into account that the behaviour of the player, 
even though it appears not to have been premeditated or intentional, 
contradicts the principal idea and goal of sportsmanship and fair 
play, and therefore, cannot be tolerated. 
冒頭引用した ISMの記事で引用されている部分の原文ですが、これは妙な文言です。私の想像ですが、3ヶ月以上もの時間をかけてFIFAが腐心していたことがここに凝縮しているようです。というのは、文中の、
even though it appears not to have been premeditated or intentional,
準備された意図的なものとは思われないが、
というくだり。この挿入句はルールに照らした処分決定の理由としては本来不要な蛇足であるし、懲罰対象者側の主張にどうしても言及したいなら、
準備された意図的なものであるか否かにかかわらず、
とすべきところでしょう。それをこんな作文にしたのはなぜなのか?

それはきっとあのプラカードを手渡したのが韓国サッカー協会関係者だったからではないか、というのが私の個人的な推理。理由は簡単で、映像が報道されているのに、手渡した「観客」の特定にかんしてメディア報道がないこと、さらにメダル剥奪の原因を作った「観客」がパク選手に謝罪したとの報道もないこと。もし、韓国の協会関係者が関与したとなると、選手ともども協会も処罰の対象にしないとならない上に、上部機関としてそれを指導、統制できていないFIFA自身のタガのゆるみも浮上してくるかも知れない。声明の最後に形式的に、韓国サッカー協会にたいして警告を添えているのも、理解できる。

いずれにしろ、「準備された意図的なものとは思われない」というのが3ヶ月の調査の結論だったとしら、これほどお粗末なことはない。ということは、見方を変えると、これは、苦悩するFIFAがIOCにたいして情状酌量を懇願するメッセージなのかも知れない。さて、IOCはどれだけFIFAから独立しているものか。

なお、このニュースを<独竹抗争>に絡めて、感情的、政治的に反応するブログなどが多くヒットしますが、それもうっとうしいだけ。この事件はあくまでメディア問題、そしてFIFAやIOCの透明性、独立性の問題でしかありません。



 (2012/11/24) 
バイクが難聴の少女の人生を変えた

今日の夜、テレビの番組表を見ていたら、NHK Eテレ に「バイク」の文字が目が止まりました。なんだ、なんだ?とタイトルを読むと、

グラン・ジュテ 〜私が跳んだ日〜「バイクレーサー 高杉奈緒子」 
番組はすでに始まったところでしたが(夜10時25分〜10時50分)、ナレーションよりも、本人の語りを軸に、よくまとまった内容でした。高杉奈緒子の名を初めて知ったわたしは、番組終了後さっそく本人のHPをGoogleで捜したものの、一時的にアクセスが集中したのか、すぐには繋がりませんでした。HPはあまり更新がないようですが、ブログでは番組についてこう語っていました。
今までグランジュテに出演してきた人達は
今、すごい活躍をされている方がほとんどです
自分のような異例な人間であり
ましてNHKさんで
オートバイレースを取り上げていただけることは
大変にすごいことだと思っています 
けれど、番組はオートバイレースというより、むしろ高杉奈緒子という人間をみごとに演出しておりました。逆に、そうすることで、オートバイに関心のない人たちがバイクに興味をもったり、またバイクから離れていた人たちがふたたびバイクとつきあうきっかけになるかも知れません。

強度の難聴のために、人とのコミュニケーションができなかくて苦しんだ彼女は、番組の最後で、こんなふうに話ができるようになって、自分らしさがどんどん現れてきて嬉しい、と輝きを放っていました。

再放送が来週の火曜午前10時30分〜10時55分にあるそうです。見逃した方は、平日の午前が障害なら録画してでも、ぜひどうぞ。



 (2012/11/12) 
アニメが語る意外な物語

Disney/PIXAR のコンピュータアニメーション「Brave」が今年公開になっていたことを最近になって知り、観てみるとすばらしい作品なのでびっくりしてしまいました。わたしはマニアというほどではないけれど、映画には注意を払っているつもりですが、映画館の上映スケジュールでは気づきませんでした。きっと、その邦題「メリダとおそろしの森」からして敬遠していたのでしょう。あまりにも子供じみたタイトルのつけ方です。

どうしてこんな邦題になったのだろう、と遅ればせながら映画のレビューなどを検索していたら、この作品が日本では興行的には記録的な失敗を「達成」していたことを知りました。すると、どうしてなんだろう、と詮索したくなるものです。

むろん、映画の好みは、小説や音楽のように、まったく個人のもの。どこのだれがどう誉めようと、けなそうと、自分の感性だけが決めればいいこと。ただ、映画の場合は、立ち読みや視聴ができない(難しい)ために、どうしてもプロモーションの仕方や前評判、話題性が売り上げ(集客数)に響いてきます。先行公開のアメリカでは大ヒットしていたので、これは日本でも楽勝、とプロモに手を抜いたのかも知れません。

ネットの書き込みなどを見ると、吹き替え(と話題喚起)にAKBタレントを起用したことが裏目に出た、との見方がありますが、それはしょせん後付け。わたしはあまりテレビを見ないのでAKBのことは知らないし、日本語吹き替え版も観ていないので、その「声優」の出来についてはコメントできません。ただ、たとえ吹き替えが上手でなかったとしても、それが致命的な欠陥になるとは思えません。やはりプロモーションの問題ではないかと思ってしまいます。

その筆頭が「メリダとおそろしの森」という邦題。日本での公開当時のポスターとキャッチコピーを見ると、「森の掟」とか「森の魔法」というフレーズがあり、あたかも森が恐ろしいところであるかのような印象を与えます。たぶん、コピーライターは作品を観ないで、トレーラーやあらすじだけで、タイトルを子供向けにひねり出したのでしょう。

そもそも、この作品の原題は「Brave(勇気)」。「おそろしの森」の話などでは全然なくて、

母親(王妃)に反抗して自分の運命を変えてもらおうと魔女の力を借りたがために、
意に反してとんでもない事態を引き起こしてしまったわがままな王女が、自分の
過ちを自ら取り返すべく試練に立ち向かい、ついには自分の運命をも変えてしまう。
というストーリー。運命というキーワードは冒頭のナレーションで提示され、勇気というキーワードは結末のナレーションで、このようなメッセージに託される。
運命は自分自身の内にある。それを見据える勇気があれば、運命は変えられる。
この作品のプロモ失敗から見えることは、「たとえ正しいことではあっても、その表現の仕方をまちがえると、反対物に転化してしまう」というジャーナリズムの原則にも似て、「優れた作品ではあっても、看板を間違えると、客は素通りする」ということでしょうか。

以上はストーリーとテーマについてですが、冒頭わたしがびっくりした、と書いたのは、なによりもCGアニメの完成度でした。まずヒロインの赤い髪。それが揺れる様、風になびき踊る様は、ある意味、実写よりも真に迫るもの。他にも、ドレスの揺れと光沢、水の流れ、森と城の暗い背景の中に光とそれが作る陰影の完璧さ、そして、「神は細部に宿る」のたとえのごとく、1コマ1コマが絵画のような芸術的な仕上がり。これらは、ディズニーの前作「ラプンツェル」(Tangled 2010年)でも際立っていましたが、それがさらに進化しています。

弓の名手でもあるヒロインが馬で疾走するシーンも「ラプンツェル」を思い出させます。ただし、「Brave」にあっては、それは弓とあいまって、自由と勇気を象徴しています。だから、あの馬に乗って駆ける映像を、当然バイクと重ね合わせて見るライダーも多いことでしょう。



 (2012/10/26) 
展示ハーレーはモノではなくてヒトの物語 〜カナダに流れ着いたハーレーその6〜

昨日からヤフーニュースの海外トピックスに「津波で漂着のバイク 米で展示」の見出しが踊っています。カナダに漂着したハーレーがようやくハーレーミュージアムで公開になった、というニュースです。

前回のコラムから5ヶ月。ようやく展示になったか、という思いです。ニュースソースは、ハーレー本社のプレスレリース

Harley-Davidson Museum unveils tsunami motorcycle
Harly-Davidson  October 24, 2012
ほかに、テレビ報道の動画が
Tsunami motorcycle comes to Harley-Davidson Museum
WCSH6チャンネル 11:53 AM, Oct 25, 2012
それと、オンラインニュースメディアの記事
Tsunami bike at Harley-Davidson Museum
By Rick Barrett  the Journal Sentinel Oct. 24, 2012
などがあります。

3つに共通しているのは、6400キロも海を漂流して流れ着いた「奇跡のバイク」として扱われていること。けれども、この漂着バイクが最初にニュースになったときから追跡してきた立場からすると、ちょっと違和感を感じないではいられません。

まず事実からおさらいすると、発見者のPeter Mark氏は、ナンバープレートから3.11の津波によって日本から流れ着いたバイクと見て、丁重に扱うとともに、詳しく映像に納めた。それを報道してくれたのはカナダのCBCニュース。それが反響を呼んで、カナダの日本領事館までがオーナー特定に動き出した。そこに、バイクを回収して持ち主に返そうと思い立った個人がいた。ハーレー乗りでもあるRalph Tieleman氏は、Peter Mark氏になんとか漂着ハーレーをビーチから回収してくれるよう頼み、自分はそれを対岸の大陸で受け取り、バンクーバー島のハーレーショップオーナーまで運ぶ。往復の走行距離なんと3000キロ。バイクがコンテナで太平洋を6400キロ旅したことが驚きなら、その回収のために3000キロもトラックを走らせた個人がいたことも、これまた驚きだ。自分の負担でレストアするつもりだったショップのオーナーSteve Drane氏だが、ハーレー本社が無償で修理してオーナーに送る、と発表したために、このハーレーはハーレー本社の手に渡る。

ハーレーの発表では、ハーレーがオーナーを探し出して、修理の提案をしたが、オーナーの横山氏の希望でハーレーミュージアムに現状展示することになった、という単純な筋書きになっています。けれど、オーナーが判明したのも、なにもハーレーが努力したからではなくて、たんに時間の問題でしかありませんでした。

だから、この漂着ハーレーのほんとの奇跡とは、その発見から報道、回収まで、関与したのが個人であったということ。このようなカナダ人がいて、はじめてこのハーレーが展示されるまでになったという事実が、説明書きに明記されているかどうか、ミュージアムに行かれる方は、ぜひ注意して見ていただきたい。

結局これは、たんにハーレーモーターサイクルのもうひとつの伝説ではなくて、漂着物を大切に扱った個人がなしえた、ヒトの伝説なのだから。

CBCニュースがこの件でなにか報道するかと、昨日から捜していたのですが、見つかりません。そういえば、展示の除幕式(があったのか、なかったのか)に上記カナダ人が列席したとのニュースも見つかりません。横山氏も招待したが、多忙を理由に断った、と上記Journal Sentinelが伝えています。



 (2012/10/25) 
地震予知失敗罪?、じつは過失致死罪

おとといの23日、ヤフー海外ニュースにちょっと妙なタイトルの記事が並びました。

地震予知失敗、専門家ら禁錮6年判決…イタリア
読売新聞 2012年10月23日 07時33分

イタリア:地震予知失敗「有罪」に疑問の声…海外の科学者
毎日新聞 2012年10月23日 12時55分
ニュース記事は見出しが命ですが、はて「地震予知に失敗」したことで罪に問われるとはどういうことかしら? しかも記事は、事実に関する情報がきわめて少なくて、判決に対する専門家の「反応」に重きを置いているように読み取れます。その反応コメントも、判決に批判的な意見だけが取り上げられている印象を受けます。上記の記事には、それぞれこんな、記者の主観的コメントが加えられています。
「地震予知を困難視する科学者団体の反発は必至だ」
「裁判では、技術的に困難とされる地震予知を巡り、科学者の刑事責任を
問えるかが焦点となった」
いったい裁判では何が問われたのか?

同じニュースを伝える BBC News は、その見出しからして正確です。

L'Aquila quake: Italy scientists guilty of manslaughter
<ラクイラ地震:イタリアの科学者に過失致死の有罪判決>
BBC News 22 October 2012 Last updated at 19:06 GMT
地震予知に「失敗」したから有罪になったのではなくて、manslaughter、殺意なき殺人、が問われたのでした。

どういうことかと言うと、群発する小規模地震のさなか、専門家から成る政府の「大規模リスク予知・予防委員会」が、大地震が起きる可能性は小さい、と事実上の「安全宣言」を出したことで、退避していた住民が自宅に戻り、避難を考えていた住民が家に留まったところへ、破壊的地震が襲って、犠牲者を増やした、というもの。この事情については、私も以前報道で知っておりました。 当然、検察側と弁護側では言い分が違っています。そこをBBC Newsは客観的に伝えています。

Prosecutors said the defendants gave a falsely reassuring statement 
before the quake, while the defence maintained there was no way 
to predict major quakes.
検察は、被告が大地震が起る前に誤った安全宣言をしたと主張し、弁護側は
大地震の予知は不可能だ、との主張を繰り返した。
冒頭引用した日本のマスコミ報道は、被告弁護側からの見方に偏ったものであることが見えてきます。

そんな日本のメディアの中でTBSの映像ニュースは新聞メディアよりも事実に迫っています。

イタリアの地震「安全宣言」で実刑判決
TBS News i 10月23日 21:52
そうして、その中で、被告の一人が安全宣言を出した背景として、パニックを押さえようという心理がはたらいた、と述べていることを伝えています。
被告の1人は、群発地震をめぐって町で起きていた混乱を収めたかった
と話します。
「混乱した状況に何らかの形で対応しなければならない。そういう意識
があったということです」(被告男性)
控訴審で判決が覆ることもありえますが、問題は、安全宣言が「独立の」科学者から出されたものではなくて、専門家・学者からなる政府機関の発表だったこと。つまり「安全宣言」にどれだけ科学的根拠があったのか、それがどこまで検証されたのか、上記のニュースだけでは分かりません。きっとイタリア語に堪能な記者が、日本にも、英語メディア圏にも、少ないんだと想像します。

ただ、日本のマスコミが「地震予知失敗」と表現したことは、いかにも象徴的です。どの新聞も、「大規模地震を想定外にしたことで有罪判決」とは伝えませんでした。



 (2012/10/19) 
No news is full of news の追記

昨日のコラムは正午にアップしたものですが、それが呼び水になったものか(笑)しばらくしたらヤフーニュースにこの記事がトピックスに出ておりました。

”独島”プラカード問題、FIFAが懲戒を延期、追加調査へ=韓国
サーチナ 2012/10/18(木) 14:02
情報源は韓国サッカー協会で、それを伝える韓国メディアからの引用です。
大韓サッカー協会は18日、国際サッカー連盟(FIFA)の規律委員会がサッカー韓国
代表MF朴鍾佑(パク・ジョンウ・23)事件について、FIFA法務局に追加調査を
通知したと明らかにした。
その「韓国メディイア」のひとつ、中央日報の記事には、こうあります。
大韓サッカー協会は18日、「FIFA懲戒委員会から朴種佑事件に対する追加の調査が
必要だという内容の公文を受けた」とし「これまで提出した資料のほか、追加で出すもの
があれば、27日までに送ってほしいと伝えてきた」と明らかにした。
FIFA、“独島パフォーマンス”追加調査…これほど慎重な理由は?
中央日報日本語版 2012年10月18日15時22分
懲罰の対象者からの情報なので、事実にフィルターがかかっていることを考慮しないとなりません。それより何より、FIFAは資料の提出を「お願い」するだけで、独自に調査をしていないのか、不可解です。そもそも、メダルを留保された表彰式は8月11日。FIFAは韓国サッカー協会にその16日までに経緯の報告を求めました。相手に1週間も猶予を与えず、いっぽう自分のところでは2ヶ月もの時間を費やしていながら、なお結論を先送りするとは、これも不可解。FIFAの懲罰委員会自身が審議の「経緯の報告」を出す義務があるのでは?


 (2012/10/18) 
No news is full of news

翌週、つまり先週、に持ち越されたはずの<オリンピックサッカー政治プラカード事件>のFIFA裁定。またもや、それらしきニュースが見当たりません。グーグル検索でようやく、Inside World Football の10月9日付けのこの報道が見つかりました。

October 9 - FIFA has mysteriously postponed its verdict into Park Jong-Woo, 
the South Korean footballer who was banned from receiving his Olympic bronze 
medal for displaying a political message at London 2012.

FIFAは不可解にもパクジョンウに対する評決を先送りにした。この韓国サッカー選手は
ロンドンオリンピックで政治プラカードを掲げたことにより、銅メダルの授賞から
外されている。

FIFA fails to reach decision over Park Jong-Woo's political message at London 2012
By Andrew Warshaw  Inside World Football  Tuesday, 09 October 2012
記事によると、FIFA は Inside World Football からの問い合わせの回答の中で、この件はまだ審理中であり「結論がいつ出るかは明言できない(we cannot confirm when a decision will be passed)」、「新たな進展があればしかるべき時期にお知らせする(Further information will be provided in due course)」と述べるにとどまっています。

記者が「不可解な」と表現するのももっともなことで、報道されるニュースよりも、ニュースにならなかった事実のほうが、時として、ニュース価値があります。



 (2012/10/8) 
欧米ジャーナリストの見た独竹係争

いわゆる「<独島>プラカード問題」にFIFAが裁定を下す予定が10月5日だったので、海外のニュースサイトなどを見渡していたのですが、それらしき報道が見当たりません。そうして、翌日になって、FIFAが処分決定を翌週に持ち越した、という記事が見つかりました。

FIFA、政治的パフォーマンスを行ったパク・ジョンウへの処分決定を来週に延期
サッカーキング 2012.10.06 14:25
その情報源はFIFAの発表ではなくて、韓国紙『中央日報』なので、どうやらFIFAは決定延期の決定を韓国サッカー協会だけに通知したもののようです。

代わりに5日には、欧米メディアが韓国政府の案内で4日竹島を訪問取材していたこと、それに対して日本が韓国に抗議したとの報道がありました。その欧米メディアのうち、BBCとCNNが動画付きでレポートしておりますが、その中身が興味深い。

まず、CNN の Paula Hancocks 記者のレポートはこちら。

A trip to the center of a diplomatic spat
CNN  October 5, 2012 -- Updated 0116 GMT (0916 HKT)
テキストの日本語訳は CNN.co.jp で読むことができます。

面白いというのは、そこにフェリーで到着したツアー客の記述があること。芝居じみたツアー客の言動を記者は冷ややかな目で見るとともに、レポートにもいくらか皮肉がこもっています。

記事は放送された動画に沿った内容ですが、そのビデオには、この島に妻とふたりだけで定住しているという71歳のキム老人がインタビューされて、「日本が領有権を主張していると聞いて怒っている」と言った後、

"They (Japanese) are a crazy people, and are simply NOT telling the truth."
と発言している部分は、記事では別の発言内容に交換して、映像とテキストとを使い分けている配慮が見て取れます。

BBC も参加したのは女性の Lucy Williamson 記者。

Stepping ashore a disputed island 記事
BBC News  5 October 2012 Last updated at 08:25 GMT 

Japan and South Korea in dispute over tiny islands 動画
BBC News  5 October 2012 Last updated at 08:30 GMT 
こちらもレポートの基調はCNN記者と同じですが、ちっぽけな岩山でしかないこの島が緊張の舞台となったのは、イ・ミョンバク大統領が韓国大統領として初めて訪問したことがきっかけだった、と言及しています。フェリーのツアー客に対する冷めた見方は Hancocks 記者と同じ。レポートの締めくくりはさらにユーモアたっぷり。
"I'm like the King of the island," he said - another claim of sovereignty 
to add to the list.
(ここの静寂と孤立が好きだという定住者の)キム漁師は言う「この島の王様に
なった気分だよ」ー 領有権の主張者リストにまた一人追加。
両記者はべつに日本に加勢しているわけではない。芝居がかったけんかを第三者が見ると、滑稽なところが見える、ということか。


 (2012/10/4) 
ジャーナリズムは民主主義の尺度

大阪MBSの高視聴率の報道系番組「たね蒔きジャーナル」が、存続を求める多くの声にもかかわらず、先月末で打ち切られました。福島原発事故直後から小出裕章氏をメインゲストに電話インタビューのかたちで、隠蔽・情報操作されている事故の真実を伝える、数少ないジャーナリズムの一例でした。最終日には熱心なファンが放送局前でメインキャスターの水野氏らを暖かくねぎらっていました。

?2012/09/28 たね蒔きジャーナル【最終回】 放送後MBS前集会

20120926 たね蒔きジャーナル 京都大学原子炉実験所助教 小出裕章
たね蒔きは原発関係だけでなく、ニュースの現場・当事者に直接取材するという姿勢が一貫していて、政府などの発表情報を横流しするだけの記者クラブメディアとは対極に位置するものでした。しかも、議論の余地のある問題については、意見の異なる双方を登場させていました。原発事故に関してもその姿勢はかわらず、しかし推進派の人を招いても、応じてくれないことが多かった、と水野アナが番組の中で言い添えております。

このコラムでもずっとこの番組を紹介したり、引用したりしてきました。わたし自身、教えられることがありました。それは、小出氏の明瞭簡潔な話し方がひとつ。話すセンテンスがそのまま文章になっています。もうひとつは、水野アナの、話の引き出し方。すでに自分は承知していることでも、リスナーのために、知らないフリを装って質問を投げ、さらに小出氏の答えの重要なフレーズを復唱する、というワザが光っていました。

たとえ正しいことではあっても、その表現の仕方をまちがえると、反対物に転化してしまう、という例を数多く見てきたわたしは、正しいことを的確に表現することがいかに大きな力となるものか、そのお手本を見た思いがしたものです。

日本ではラジオ放送はマイナーなメディアとして、これまでジャーナリズムの一翼としては役割の小さなものと思われていました。そんな中でこのたね蒔きは、BBCのNewsPodを連想させる、優れた報道番組でした。そんな番組が、こうもあからさまに潰されたことは、見方を変えると、原発推進勢力がいかに追い詰められているかを示すものでもあります。





| HOME > バックナンバーリスト |