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 (2014/5/22) 
立憲国家としての司法の責任 ― 大飯原発運転差止訴訟判決 

関西電力大飯原発の3、4号機にたいして、住民らが運転差し止めを求めた訴訟で、福井地裁が21日、再稼働を認めない判決を言い渡しました。

ふだん裁判の判決文というものは、形式的な決まり文句が多いこともあり、せいぜい結論の主文に目を通すだけだったりするものですが、この判決要旨は広く主権者としての国民に「読まれる」ことを前提に書かれています。したがって、判決内容を知るのにマスコミ報道に頼る必要はありません。その要旨全文はこちらに掲載されています。

裁判所の判断は、今回の判決のために、ふたつのことに立脚しています。ひとつが憲法第13条が謳う国のあり方、もうひとつが福島事故という「想定」ではなくなった事実。

福島事故以降、メディアとしての責任を自らに問うてきた新聞社は、判決の意義を社説で論評しています。

大飯原発・差し止め訴訟 国民の命を守る判決だ
東京新聞 2014年5月22日

社説:大飯原発差し止め なし崩し再稼働に警告
毎日新聞 2014年05月22日 02時31分
同じ新聞社でも個々のサラリーマン記者はそれぞれでしょうが、社説として、傾いた船の「船内アナウンス」を続ける読売新聞の論説は、一読しておくのもいいでしょう。
大飯再稼働訴訟 不合理な推論が導く否定判決
2014年05月22日 01時25分 読売新聞 社説
 最高裁は1992年の伊方原発の安全審査を巡る訴訟の判決で、「極めて高度で最新の
科学的、技術的、総合的な判断が必要で、行政側の合理的な判断に委ねられている」
との見解を示している。
 原発の審査に関し、司法の役割は抑制的であるべきだ、とした妥当な判決だった。
各地で起こされた原発関連訴訟の判決には、最高裁の考え方が反映されてきた。
 福井地裁判決が最高裁の判例の趣旨に反するのは明らかである。
この社説を執筆した論説委員は、はたして判決文を読んでいるのか、怪しくなります。

憲法第13条の条文はこうです。

「すべて国民は、個人として尊重される。
 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、
 立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」
そうして判決文は
生存を基礎とする人格権が公法、私法を間わず、すべての法分野において、最高の価値
を持つとされている以上、本件訴訟においてもよって立つべき解釈上の指針である。
として、福島事故の前と後では、裁判の判断基準が変わったことを明言しています。
危険性を一定程度容認しないと社会の発展が妨げられるのではないかといった葛藤が
生じることはない。原子力発電技術の危険性の本質及びそのもたらす被害の大きさは、
福島原発事故を通じて十分に明らかになったといえる。本件訴訟においては、本件原発
において、かような事態を招く具体的危険性が万が一でもあるのかが判断の対象とされる
べきであり、福島原発事故の後において、この判断を避けることは裁判所に課された最も
重要な責務を放棄するに等しいものと考えられる。
大飯原発3、4号機運転差止請求事件判決要旨
NPJ News for the People in Japan 2014年5月21日
憲法はその前文で「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうに」と宣言します。判決は、政府の行為によつて再び原発事故の惨禍が起ることのないように、司法がその責任を果たそうとしたものと言えます。どちらも、国の存亡に関わるものであるからです。


 (2014/5/5) 
妙な既視感 ― 韓国旅客船沈没事故 

インド洋に墜落したと思われるマレーシア航空の不明機に関するニュースが途絶えたところに、今度は韓国の旅客船が横倒しになり、沈没。「動かないように」という船内アナウンスに従ったばかりに、修学旅行の高校生多数が犠牲になるという、痛ましい事故が起りました。どちらも、機長、船長という、乗客の命を預かるトップの関与または不作為によるものと見られています。

この沈没事故には、他人事ではない、どこかデジャヴュの戦慄が走ります。

102年前のタイタニック沈没ではありません。それよりもむしろ、3年前の3.11東日本大震災の際に、「動かないで待機」という教師の指示に従い、しかもそのうえに、かえって危険な場所へ「誘導」されて多くの犠牲者を出した石巻市大川小学校の生徒の悲劇を想起される方も多いでしょう。でも、私の既視感は、違うところから来ています。

なんのことはない、この船をひとつの国にたとえれば、船長は国のリーダー、船会社と船員は政府、乗客は国民、そして、船内アナウンスはほかでもない、統制されたメディアそのものではないのか? そこに、起こるべくして起きた原発事故と、いまだ誰もその責任をとっていない国の「船内アナウンス」に、妙に重なるものを感じてしまいます。



 (2014/4/16) 
統一球品質問題 ― 疑惑の<謝罪=幕引き>会見 

昨日15日、ミズノの水野明人社長ほか3名の各部門幹部が記者会見をおこないました。

プロ野球の統一球が、飛びすぎるボールを使用していた問題で、製造元の
ミズノが謝罪し、飛びすぎた原因を明らかにした。ミズノの水野明人社長は
「多大なご迷惑をおかけしたことに関しまして、心からおわび申し上げます。
申し訳ございませんでした」と謝罪した。
プロ野球統一球問題 製造元のミズノが謝罪 原因は「乾燥」
フジテレビ系(FNN) 4月15日(火)19時50分配信
ニュース報道はどこも似たような内容で、原因については
ウール糸の含水率が低かったため、通常より多くきつく巻かれていたこと
が反発係数を高めた「可能性」がある、という部分を引用していることが共通しています。

昨夜のテレビ朝日「報道ステーション」では、去年のボールと今回の問題のボールを真っ二つに切断して、その断面の画像を見せていました。前者が、ちょうどゆで卵の断面のように平らだったのに、後者は「黄身」が「白身」ごと盛り上がって来ていました。たしかに巻かれたウール糸の張力のために押し上げられているように見えます。これがどれだけ反発係数に影響するかはともかく、製品としては、材料または工程に変動があることは一目瞭然です。

原因の詮索はともかく、企業で品質管理、とくにISO9001に関わっている人は、あれっ、と首を傾げたのではないでしょうか。ずいぶんあっさりとミズノが、自分から「不良品」を納入したことを認めたこと、そして、不良品の発生原因を「可能性」のレベルの話として報告していること、に対してです。

いやしくも、ISO認定のメーカーなら、自社製品が規格から外れている、と言われたら、「そんなはずはない。このとおり規格に合っています」と、自信をもって製品完成時の最終検査のデータを示すでしょうに。なのに、ミズノは早々と不良品であったことを認めて、謝罪と原因の「可能性」、および今後の対応を発表したのです。

なんだか、規格外品であることをミズノは実は承知していたんじゃないか、と思わせる空気が漂います。

そもそも、なぜ規格から外れたボールが納入されたのかというと、その本当の、かつ単純な原因は、ミズノが行う製品最終検査に「合格」していたからです。「反発係数」はその検査項目のひとつ。ところが、ミズノの保有している検査機が実際よりも数値を低く表示していた、と言うのです。

ミズノのホームページに掲載されているプレスレリースによると、「反発係数の高いボールを出荷前に除外できなかった要因」について、

社内の反発係数検査の精度を確認するため、弊社、日本車両検査協会が
保有する2台の検査機の検査結果を毎年2回ずつ確認しています。(中略)
 しかし2014年3月、双方の検査機の結果に差異があることがわかりました。
その時は双方ともほとんどの反発係数が基準内の数値であったため、その
後の特別な対応を行いませんでした。
「2014年シーズンのプロ野球統一球について」 ミズノ 4月15日
と説明しています。ISOの品質管理で使う検査機器は、必ず定期的に所定の検査を受けないとなりません。いわんや、同機種で差異があったなら「基準内だからいいや」ということでは済まされません。実際に、測定値が違っていたものか、それとも基準値の中に納まるように検査機をいじったものか、あるいは測定データそのものを改ざんしたものか、等々と疑惑が浮かんできます。

おとといのコラムで、「万が一納品検査がねつ造なら」と、まさかとは思いつつ断った表現をしたのですが、実際にもデータねつ造の可能性が排除できません。はやいとこ謝罪して幕引きを計った、ということかも知れません。



 (2014/4/14) 
統一球問題 ― なんでISOが出て来ない? 

プロ野球で今シーズン使っている球を日本野球機構が抜き取り検査したら、規格から外れた不良品だった、というニュースが報道されています。反発係数の平均値が規定を上回り、実際にも飛びやすくなっていると選手から声が上がっていたといいます。

またしても「統一球」問題ですが、今度はどうやらボールという製品の「品質問題」のようです。しかしながら、どの報道記事を読んでも、腑に落ちないことがあります。ひょっとして、日本野球機構の経営陣も、スポーツ記者も、そろって品質問題にかんしては素人なんじゃないかしら?

ミズノはそのホームページ上で、2006年に「全生産工場がISO9001審査登録(認証取得)」と誇らしげに謳っています。ですので、製品に品質問題が発生したら、ISOの規定にしたがって原因の究明と対策の手順が義務づけられます。

まずは、ミズノは注文主(だと思うが)の日本野球機構へ製品を納入するに当たっては、納品前の最終検査をしているはず。その検査報告書は日本野球機構も受け取っていると思いますが、今頃抜き取り検査した、というのは、いったい受け入れ検査(納入検査書の書面上の確認だけだとしても)をしているのか、いないのか、言及がありません。

日本野球機構側は「製造元のミズノ社に原因究明を急がせている」と報道されていますが、相手はISO認定企業なのだから、究明を任せるのではなくて、ただちに注文主が「監査」に赴くのがスジです。製品の品質にかかわるすべての材料および製造工程の記録は保管されているので、最終製品の品質に変化があったら、材料と行程のどこに変化があったか、まずチェックすることになります。

ミズノもミズノで、「社内調査を行う」と言うが、まずは納品時の検査報告書を提出するのが先でしょう。もしも最終検査がオッケーだったら、納品後の品質変化かも知れないし、万が一納品検査がねつ造なら、メーカーが大企業であれ個人会社であれ、全量返品になるとともに、損害賠償の対象ともなります。

今日14日には、ミズノが日本野球機構の臨時理事会で行った説明として、材料のウールの含水率が低かった可能性を示唆しているようですが、これもおかしな話で、含水率が品質にかかわる項目なら当然その記録はあるわけで、なにも「可能性」の問題などではありません。

今回の規格はずれの統一球問題。ISOの監査手順を踏めばいいことなのに、ミズノも新コミッショナーも、そしてマスコミのスポーツ担当記者も、ISOのIの字も出さないのは、いったい無知のせいなのか、故意に触れないのか、不思議でしかたありません。そもそもISO品質管理規定は、このような品質問題が発生したときのためのもので、名刺の会社名に添えるための勲章でもなんでもないのですから。



 (2014/3/23) 
再び 金以上のすばらしさ・日本のサラ 

オリンピックで金メダルを逃した女子ジャンプの高梨沙羅。しかし、その失意の後のW杯では、変わらず圧倒的な強さを見せつけました。18戦15勝。昨日の最終戦のスロベニア・プラニツァではW杯の7連勝という、男女を通じて史上初の偉業を達成しました。まさかのオリンピック敗戦のショックからみごとに立ち直した姿は、浅田真央のフリー演技と同様、見る者の心を打ちます。

幸いNHKがBSで深夜ながらも実況(ときに録画)してくれていたので、いつも楽しみに見ていました。昨年のシーズンは「ふたりのサラ」のたたかいが注目でした。今年はライバルが不在ながら、ひとり別格のジャンプを見せて、早々と二期連続の個人総合優勝を決めた後も、力を抜くことなく、みごとなジャンプを見せてくれました。

私が注目しているのは、たんに高梨が「勝つ」からではなくて、なによりもその飛翔する姿の美しさに感嘆するからです。(写真はプラニツァのサラ。EPA=時事)ほかの選手とはっきりと違うその空中でのフォームは、まるでツバメが飛んでいるようです。おそらく、来シーズンは各国の選手が高梨のジャンプを研究して、追い上げてくることでしょう。また今シーズン驚異的な躍進を遂げて個人総合で3位を獲得した伊藤有希のさらなる活躍も楽しみです。



 (2014/3/19) 
浦和レッズ横断幕の波紋 その3 ― そしてマスコミは論点をずらした 

わたしがレッズ横断幕事件に特別関心を抱いたのは、JAPANESE ONLY の報道にあたってマスコミの記事がまるで申し合わせたかのように、「差別的な意味にも取れる」という遠慮した表現をしていたのに、おやっ、と思ったのがきっかけでした。

なぜ「差別的内容の横断幕」と明確に言い切らないんだろう?

答えはすぐに分かりました。浦和レッズクラブが3月8日付けで発表したプレスレリースがそもそもの「原典」でした。そこには、

「差別的と解釈されかねない発言と行為」
14.03.08「サガン鳥栖戦での出来事について」浦和レッズオフィシャルサイト 
があった、と言葉を選んだ形跡がありました。なんのことはない、マスコミ記者はクラブが「差別的横断幕」と断定していないことを汲んで、そのクラブの語句のまま引用したり、「差別的とも受け取れる」という自信のない表現を用いたものでした。

レッズクラブは、火消しに務めた翌日の9日付け公式発表でも変わらず、

「差別を想起させる発言と行為」
14.03.09「サガン鳥栖戦での出来事について(第2報)」浦和レッズオフィシャルサイト 
と、少し工夫を変えた表現にしたものの、その下心は明白でした。クラブ社長がJリーグに事実関係を報告した際、「掲示したグループは差別の意図はなかったと言っている」とまで説明しています。13日に村井チェアマンが制裁を発表したとき、はっきりと「差別的な内容の横断幕」と明言してから、ようやくマスコミ報道も言い方を修正し始めました。

ところが、制裁内容については、マスコミ記者はJリーグの公式発表をちゃんと読んでいないものか、あるいは意図的なのか、いまだに一部で誤解を生む紹介をしています。それは、制裁理由について、

「差別的な内容の横断幕を入場ゲート上部に掲示したことに対し、浦和レッズに」
無観客試合の処分を科した、という作文が多見されます。Jリーグの公式発表と村井チェアマンの会見を一読すれば分かるように、制裁理由は、
一部サポーターの掲げた差別的横断幕を、クラブが撤去せずに容認した
ことにたいして、クラブに(サポーターグループにではない)制裁を科したもの。村井チェアマンは、制止しなかったのは加担したのと同じ、と断罪していました。当然です。

サッカーに詳しい人なら、JAPANESE ONLYは一般的な外国人排斥ではなくて、浦和に加わった李忠成を狙ったものであることはすぐに気づいたはずですし、試合後槙野智章選手が勇気をもって発言したのもチームメートをかばってのことでした。

クラブの責任をぼかして、無観客による損失額がどうのと、カネだけを問題にするマスコミ報道の背景心理はなんだろう? それは結局、クラブの最高責任者としての社長の責任に言及したくないため、と思わざるを得ない。浦和レッズは三菱グループの一員。当然社長は三菱からのお下りさん。8日の事件についても、午後11時まで知らされていなかった、と報告にありました。

その報告書に関して、浦和レッズ、というより、三菱ダイヤモンズというべきか、の公式ホームページからは、この件の重要な記録であるプレスレリース3件

14.03.08 サガン鳥栖戦での出来事について
14.03.09 サガン鳥栖戦での出来事について(第2報)
14.03.13 3月8日Jリーグ浦和レッズ対サガン鳥栖におけるサポーターによるコンコース入場ゲートでの横断幕掲出について
は、今日19日現在、いつのまにか削除されていました。記録なければ事実なし ― か。【注】なお、13日のJリーグ村井チェアマンの会見と、浦和レッズ淵田社長の会見は、以下に質疑応答も含めた全文の聴き写しがあります。
差別横断幕問題/Jリーグ・浦和レッズ会見全文書き起こし
2014年3月14日 荻上チキ・Session-22

【注】 削除されていませんでしたので、訂正して、それぞれの文書のリンクを付けました。(3月19日 17:22)



 (2014/3/14) 
浦和レッズ横断幕の波紋 その2 ― 村井Jリーグチェアマンの明確なメッセージ 

昨日のJリーグ村井チェアマンによる浦和レッズへの制裁発表について、ちょっと気になったことがあったので、詳細の報道を探したのですが、マスコミはあいかわらず要領を得ないものばかりなので、ならば会見そのものの録画がアップされていないか探しておりました。現在でもみつかりませんが、その会見の記録はノーカット(と思われる)で以下に掲載されていました。

村井チェアマン「断固とした姿勢で臨む」― 浦和の差別横断幕問題について
スポーツナビ 2014年3月13日 21:17
気になったこと、というのは、昨日触れたように、レッズクラブ側からの最終報告があったのかどうか、そして、裁定委員会の諮問はどうなのか、という点でした。それも上記の会見で明確に経緯説明があります。

今回の制裁内容といい、スピーディな対処といい、日本の大きな組織のトップとしては例外的な対応をした村井チェアマン。ただ迅速だったというだけでなく、その発言に一貫した考えが光りました。会見内容と、その後の質疑応答は、日本人ではまれに見る日本語の明瞭さとリーダーシップの見本が現れていました。

とくに、質問への回答が、今回の差別横断幕の本質について、マスコミ報道を矯正する内容にもなっています。以下がそのコアの部分。(見出しは私)

【掲示した側の意図の問題ではない】
「私の認識としては、掲示した側の意図がどうであれ、それを見た外国人の方が差別的な表現だと受け取るのは自然なことですし、私も差別的な表現だと認識しています」

【制止しなかったのは加担したのと同じ】
「撤去しろという指示をしたにもかかわらず、試合終了までそのまま放置されたことは、違反行為をサポーターがしただけでなく、差別的な行為に加担したととられてもおかしくない」

【メッセージは明確に、かつ時を逸してはならない】
「私の判断としてJリーグの意思を早く伝えたいということがありました」
「それからJリーガーは子供たちがなりたい職業のナンバーワンだったりもします。多くの子供たちに仲間外れはやってはいけないということを伝える責任もあって、多くの関係者にメッセージを伝える意味もあります」

【無観客試合は強いメッセージ】
「今回の無観客試合というのは非常に強烈なメッセージを持つと思っています。このメッセージを伝えること、またリーグとしてはこうした人権問題や差別に関する周知徹底をきちんとできるようにトレーニングや広報活動を強化していきたい」

【とばっちりを受けたと思うファンに】
「その光景(無観客試合)をサッカーを愛する人たちがテレビなどを通じて見ることになると思います。ファン、サポーターだけではなく全クラブに、自分たちの問題として受け止めてほしい。たまたまそういう人が一部いたということではなく、常に起こり得るんだということを各クラブが考えて、対処してほしい」
これで思い出すのが、前回のオリンピックでのサッカー日韓三位決定戦での政治プラカード事件。ここで、FIFAとIOCはずるずると時間を空費して、結局利害関係を反映したような制裁内容に落としどころを見つける、というだらしなさを露呈しました。今回のJリーグの裁定は、そんなFIFAへのメッセージでもあるでしょう。


 (2014/3/13) 
クラブの責任、メディアの無責任 ― 浦和レッズ横断幕の波紋 

浦和レッズのサポーターが試合会場で掲げた「JAPANESE ONLY」という差別的横断幕を、レッズクラブ側が試合が終わるまでそのまま放任していた件について、一連のメディアの報道、レッズクラブのプレスレリース、それとJリーグ・チェアマンの会見記事などを順を追って目を通していたら、ひとりサッカーの問題ではなく、スポーツジャーナリズム自体の問題に気づきました。それについてコラムを準備していたら、以下のラジオ番組で小田嶋隆氏がすでに同じことを代弁してくれていました。

浦和レッズの試合で差別的横断幕が掲げられていた!【たまむすび】 youtube
Jリーグは今週をめどに再度レッズから説明を求める、といった報道もあったのですが、それがすでにあったのかどうか、早くも今日の午前中に
 (1)譴責(始末書をとり、将来を戒める)
 (2)無観客試合の開催(3月23日レッズ・エスパルス戦)
という制裁を発表しました。スピーディで、まともな結論ではあります。浦和レッズの公式サイトは先ほど午後アクセスが集中して繋がらなくなりました。


 (2014/3/4) 
「冬ながら啼かねばならぬほととぎす」― 渡良瀬遊水池と田中正造史跡の旅 

関東に春を告げる渡良瀬遊水池の葦焼きが、今年も3月15日に行われる予定です。上のタイトルグラフィックの写真は2007年のものですが、初めてこの葦焼きを観に、東京の西からはるばる出かけたときは、風のために中止(順延)となってしまい、せっかくだからと、公園として整備されている遊水池を地元の友人と散策しました。ここを強制移住させられた谷中村の跡地も見学しましたが、そのときは、この遊水池が、足尾銅山からの鉱毒のため池造成事業であったことに気づきませんでした。

春になったら足尾銅山と田中正造の史跡を訪ねようと計画を練っていたところ、折よく1月、2週にわたりNHKが土曜ドラマ『足尾から来た女』を放送していました。主人公のサチを演じる尾野真千子の好演が際立っていました。そしてもう一人際立っていたのが、田中正造の存在感でした。

そこで先週末、葦が焼かれる前にとまずはドラマをロケした谷中村跡地を再訪し、合わせて、その周辺の田中正造(1841ー1913)の墓と記念館を訪ねる旅に出かけました。

6カ所に分骨された正造の墓所のある寺のひとつは、「佐野厄除け大師」で知られる惣宗寺。ここは正造の本葬が行われた寺ですが、そもそもは正造の自由民権運動の事務所がここに置かれていたとのこと。同じく墓所のある雲龍寺は、これまた足尾銅山鉱業停止請願事務所が置かれた寺。なんと、お寺が自由民権と公害反対の運動の拠点であったのか、と驚いてしまいました。

さらに、1900年2月、第4回の「押し出し」(東京に向かう請願行進のこと)で起った川俣事件の跡地には、事件の100年後の2000年に明和町長と篤志家によって記念碑が建てられています。

このように田中正造が今なお地元で深く敬愛され、語り継がれていることはその生家を訪ねるとよく分かります。そこではボランティアのおばあさんがガイドをしてくれました。あまりに言葉遣いがしっかりしていたので、年齢をたずねたら、これがまたびっくり(ここでは明かしませんが)。このご婦人によると、彼女が子どものころは、ここ地元では田中正造は牢屋に繋がれた悪者として、口にするのもタブーだった時期があった、という意外な歴史も教えていただきました。

二階建ての「隠居所」の二階は、天井がずいぶんと低い造りなのはどうしてか尋ねると、低い天井の二階というのは蚕を飼うための造りとしてこの近所にもあるが、ここは刺客に襲われたとき刀を振り回させないためとも言われている、と老婦人が説明してくれました。

この二階には、ボランティアの人たちが小学校で定期的に行っている紙芝居の田中正造物語が展示されています。プロの絵描きではないボランティアの人たちが描いたというその絵は、どれもすばらしい出来で、見る人の心を打つものです。

この二階にはまた、通りを挟んで向いにある正造の「誕生地墓所」の石碑の拓本があります。実際の石碑は、彫りが浅いためか、風化のためか、何と書いてあるのか読めなかったのですが、ここで読み取ることができました。そこに彫られていたのは明治32年(1899年)に正造が詠んだ短歌。

冬ながら啼ねばならぬ 
 ほととぎす 
雲井の月の
 さだめなければ
それは、死を覚悟して明治天皇に足尾鉱毒事件について直訴する2年前のことでした。

【注:右図はネガ画像の拓本を白黒反転させたもの】


【追記 2014.3.30】このコラムの続編を以下のエッセーにまとめました。

 もうひとつの「農民一揆記念碑」― 小堀鞆音『田中正造墓碑のための肖像』 (2014.3.28)





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