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コンデンサの火災
                              A1−33   08.09.15 

  1,コンデンサ
 
 ★ コンデンサの種類
  コンデンサは、端的には電気回路上において、“電気を蓄える部品”と言えます。
  しかし、その用途は、電気基板上に米粒のように取り付けられている物から、工場の壁の配電盤に
  弁当箱のような形で取り付けせられている物、変電施設内にどっかりと段ボール状の大きさで
  置かれている物など、さまざまな形態の物があります。
  つまり、電気を使用するあらゆる製品に使用されている、と考えるべきです。
  例えば、オートバイでも、バッテリーの充電回路に、フリッカーランプの雑音防止に、と、さまざまな
  部分で使用されている。車両・航空機・工場、事業所、事務所、家庭用の電気機器など、全てと言って
  良いほどの分野に使用されています。
  その種類にも、手のひらの乗る程度の電気部品として使用されている物には、ペーパコンデンサ、
  電解コンデンサ、MPコンデンサ、フィルム化紙コンデンサ、や、さらに小さなマイカ、セラミックなど
  のコンデンサ、そして、昔のラジオの部品にあった可変コンデンサなるものがある。
  これらの基本的な用途と品質などは、ネットから調べてください。


 ★ コンデンサの火災
  一般的には、「コンデンサは絶縁されている導体間で電気を蓄える」構造なので、この絶縁され
  ている材質に不具合が生じると両極間が導通され“短絡”出火する。その不具合としては、湿気など
  の吸水や製造時のピンホールが次第に拡大したもの、耐圧以上の電圧がかかって開放状態となる
  ものなど、これも幾つかの要因がある

   
  コンデンサ(100V用の進相用コンデンサ)の出火時の挙動実験写真       2010.08/14追加

  東京消防庁で、報道発表として「進相コンデンサの絶縁破壊実験」として
  出火する“挙動映像”を提供されました。
  その映像から画像として10枚を引用して提示します。(詳細映像は、東京消防庁へ)
  
昨年(2009年)、消防技術者会議で大阪市消防局の発表として、同様の映像が提供されています。
 
  
  この映像のように、絶縁破壊の兆候としての「発煙」から、炎を噴き出して出火するまでの時間は、わずかです。
  夏場の高温・高湿時には、作業場となるクリーニング店や旋盤等を扱う工場で、設置しているコンデンサから火災が夜間に
  発生し、人身被害をもたらす事例があります。
  コンデンサを設置している所は「電気保安点検」を、また、10年以上経過している品物は検査と取替え等を「消防のお知らせ」
  として進めています。


   2, 進相コンデンサの火災
 
  進相コンデンサ  
   
進相コンデンサは、モータ等のコイルを使用している電気機器に交流電流を流すと、コイルの抵抗により電圧と電流
   の位相がズレてしまい、(電圧×電流)=(電力)の電力にムダが出てしまう。そこで、コンデンサを入れることによって、
   コイルと逆の抵抗に位相がズレることにより、電気のムダをなくすものです。そのため位相を早めることから「進相コン
   ダンサ」と言われ、モータ機器を取り扱う全ての事業所で使用されています。
   特に、作業場では、様々な機器、例えば、旋盤とか・ボール盤とか・クレーンなどを使っていると場所では、電気の入力
   する配電盤に弁当箱型の電気開閉器の斜め下に、同じような弁当箱型の金属ケースの「進相コンデンサ」が取り付け
   られています。
  
 
          一般的な工場の壁に取り付けられている配電盤
 
  @ 番号1が、メインのカットアウトスイッチです。
  A 番号2が、それぞれの機械ごとに電源を入れる
  箱型開閉器で、中にヒューズが入り、電流メータが
  組み込まれたものです。ハイプルとも呼ばれています。
  B 番号3が、“進相コンデンサ”です。
   一見、弁当箱のおかず入れ見たいです。
 
 
  

  
  
★ 火災発生の時季。 過去5年間の月別発生件数
    2003年(平成15年) 〜2007年(平成19年)の5年間の東京消防庁管内の「進相コンデンサの火災」の発生
    は、70件でした。 内訳は、2003年9件、04年27件、05年22件、06年18件、07年22件です。
    その5年間の月別発生件数を下グラフに示します。
           
     6月18件、7月19件、8月22件、9月13件となっています。つまり、ほとんどが“夏場”に発生しています。
     コンデンサは、絶縁されていることが大事ですが、夏場の高温多湿時には、どうしても、内部に浸透しやすく絶縁
     が不良に成り易くなります。また、夏場は、電力の使用量が多く、電圧の揺れ(上下動)も大きく、また、雷などの
     サージによる高電圧の侵入の危険も大きくなり、悪い影響が出易いと言えます。
  
   
★ 火災発生の要因(経年)    
    2003年から5年間の火災の中で、使用年の判明している物について、下のグラフに示す。
    10年未満2.4%、10〜20年9.5%、20〜30年4.8%、30〜40年73.8%、40年以上9.5% となった。
           
   圧倒的に30年以上使用されている物であった。
   一つの電気機器を30年以上にわたって、使い続けることは、しかも、電気機器の開閉器のスイッチをOFFにしていて
   も、印加(電圧がかかっている状態)されている回路が、多いことからも、過酷な使用形態での使い勝手に問題がある
   と言える。
    2−1 進相コンデンサの火災現場の状況
   配電盤での焼損状況
  2系統ある上段の回路のコンデンサ
  から出火している。  
 
 焼損した「進相コンデンサ」
  蓋が跳ね上がって、内部
  の素子が膨張破裂してい
  るのが分かる。
  内部を取り出した状態
 焼損している内部の素子は、焼けて
 一部が欠損している。
               
  
  内部を出して見ると、その物から
  出火した物とそうでない物との比較
  から明確な違いが見分出来る。
 
  同じく、焼損した配電盤の状況
  配電盤は木製の板で作る事となっているため、多くの場合
  この裏板が燃えて、「延焼経路」となって、内壁・天井へと立
  ち上がる。そのため、発見が遅れると、確実に、作業場から
  の「延焼火災」なる。
 
  左側が出火したコンデンサ、
   右側が他の火炎で燃えされた物、
   鑑識を確実に行なうと、どの部品のどれからと
   明確に判定できる。
 
           
   同じく、焼損した配電盤付近の状況
  このような、配電盤の裏板から延焼して、内壁・天井へと立ち上がると
  工場・作業場の全焼火災となる。
  出火時間が、作業場が使用されていない時なども多い。
  また、配電盤が壁の高い所にとりつけられているため、拡大すると
  天井に火が回って、建物全体に拡大しやすい。
  この場合、「出火箇所の見極め」を適切にしないと、「原因が不明」の
  火災となりやすい。
 
 出火したコンデンサ
 右の現場からいろいろなコンデンサが採取されるが
 よく見分を進める、出火したと判定されるコンデンサが
 分かる。
 
              
  変電室内の高圧進相コンデンサの焼損状況
  変電室内においても、事業所の電気供給のために、回路内に
   進相コンデンサを組み込んでいる。
   火災は事務所の形態の建物で、夜間の午前3時に出火した。
  焼損したのは、モールドタイプの物で、比較的新しい物のように
   見られるが15年以上使用しているものであった。
   消防検査時に見るように、変電施設の結線回路上、類似施設
   には必ず設置されている。
   夜間や祝祭日の事業所が、「無人」の時に出火する傾向が高いこと
   から、消防活動的には、高圧変電施設内への進入と消火活動と
  なることから、「安全サイド」にたった活動が求められる事例である。
 この施設に対しては、焼損品の取り替えと合わ
 せて、高調波の侵入影響を測定してもらいまし
 た。
 結果は、第5次高調波は短時間で少ないが、第
 3次高調波が夜間に約60Wの流入でしばしば
 計測された。
 歪みは、基準以下であったが、回路にストレス
 がかかることや今後の高調波の増加も懸念さ
 れるから、直列リアクトルを設置する、こととな
 った。
 消防的には、単に、焼損品の取り替えではなく、
 この種の火災が、高調波の影響によるなどの
 要因も提言して、適切な改修を進めるのが
 一般的な予防対策となっている。
   焼損箇所
 膨れ上がって避けている。
 この部分から「炎」が上がって
 おり、消火器で消している。 
     
 
 
★ 【進相コンデンサ火災の特徴】 (⇒平成20年8月22日東京消防・調査課提供) 
  ○ 過去5年(15年から19年)の月別発生状況をみると、6月から9月の4ヶ月間で全体の74%の火災が発生している。
  ○ 設置経過年数の判明したもののうち、83%が設置後30年以上経過している。
  ○ 出火した用途の46%が工場・作業場である。
  ○ 出火原因は、ほとんどが内部の絶縁劣化により発熱し、出火したものである。
  ○ 一般的な電気機器と違い、それ自身が動かなくなるなどの症状が見られないため、故障や劣化が分かりにくく、また、
    回路上の機器等が使用されていなくても電圧は常時印加されている場合が多く、早朝や夜間などその場に人がいない
    ときに出火する事例も見られる。


 ★ 危険性の認識

  この「進相コンデンサの火災」は、事例に示したように、壁面の高い位置から出火し、作業をしていな人が不在の
  時に「発生しやすい」。このため、「延焼火災」となりやすい。事実、この進相コンデンサから火災で、死傷者の発生
  した火災も多い。
  工場・作業所の電気を多く使う事業所は、原則として、電気検査を受けている。
  外注の電気検査員は、例え、メガリングなどの電気検査結果からはOKとされていも、「見た眼」にダメと思われる製品は、
  「取り替え」を強く進める姿勢が必要では思う。
  「火災」後に、「この作業所は、今年春の電気検査では異常ありませんでした。」との関係者からの話を聞くことがある。
  そんな場合に、「電気検査だけ」でOKして、実質的な個々の電気保安機器の目視検査を疎かにしていた、結果がこの
  ような火災を引き起こしたのでは、と、思ったりすることもある。 機器の取り替えを促すのは、容易でないかもしれないが
  「安全の電気のつか方」を熟知している、電気検査員が見てあげるのが最も有用と思う。
  
  
 4, 家電製品類のコンデンサの火災 
 
 コンデンサの火災として、身近な「火災」をとり上げるべきだと思い、「家電製品のコンデンサの火災」を述べる。
 東京消防庁では、火災調査結果の予防行政への活用方策として、毎年、火災調査統計と火災調査書類から抽出した
 「火災の実態」と言う「資料」を、各署に提供している。
 昔は、同様の内容が、「本」として市販されていたが、今は、なく、資料として消防署に提供されるものだけとなっている。
 この中から、「主な電気製品」の中の「コンデンサから出火した火災」を拾ってみた。
  
家電製品のコンデンサの火災
      2003年(平成15年)から2007年(平成19年)までの5年間で、東京消防庁管内の主な電気機器からの火災が
      852件計上されている。 この、主な電気製品は、その多くが家電製品でもあるが、コンデンサ部から「出火」し
      いる物が38件、率にして4.4%であった。
      製品の種類別では、テレビ、蛍光灯が過半以上を占めている。
     
  
  テレビは、回路上多数のコンデンサを使用しているので、どの部分からの出火が多いと特定することは難しい、が
    蛍光灯では、安定器の側に取り付けられている雑音防止用コンデンサと、周波数変換回路上のコンデンサである。

  4−2  電気機器内のコンデンサ火災の事例 
 テレビ  
 テレビからの火災は様々な原因が
 あり、綿密な見分が必要となる。
  電源部からの出火
 電源部の電源供給回路から、出火して
 いるのが見分された。
  電解コンデンサ
 平滑回路に使用されている「電解コンデンサ」か
 ら出火している焼損状況
 
       
 
 冷蔵庫 
 冷蔵庫も下部のコンプレッサ等の
 電気機器類の付近から出火する
 と予想外に良く燃え上がる製品だ。
 コンプレッサ用のコンデンサ
 コイルを用いている機器のコンプレッサ
 用に取り付けられているコンデンサ
 
 フイルム化紙コンデンサ
 このコンデンサは、全体が樹脂で出来ている
 ため焼損するので、この部分から燃えて、強く
 燃えると「出火部品の判定」が出来ないとこと
 がある。
 
        
  扇風機
  最もオオソドックスな火災事例。
  この扇風機の機種は、機種とし
  て多数の出火件数があり、現在
  リコールとして回収されている。
  架台の大きさと、ピアノスイッチの
 形状で機種を特定できる。
 矢印のMPコンデンサ
 出火の原因となるMPコンデンサで
 この部位から出火すると、モータカバー
 がプラスチック製のため、立ち上がって
 延焼火災となる。
 
 コンデンサを開いた状態
 内部の絶縁紙が焼けて黒く炭化し、また、
 欠損などの穴などが見分される。
        
  コンピュター
 タワー型のコンピュターの電源部
 から発煙した火災。発見と同時に
 電源を引き抜きこの程度で終わっ
 た。
 電源部を見ると、平滑回路の
 コンデンサが焼けている。 
  燃えた「電解コンデンサ」 
         
 
 このように、建物の設備としての「コンデンサ」から、電気機器の内部部品として「コンデンサ」まで
 多種多用に使用されていることから、「火災事例」もさまざまなケースがある。
 ★ 
 コンデンサからの「火災」を見ると、製造される何万個のうちの1個として、単に「不良品」として考え
 られる「1個の火災事例」なのか、それとも、次に火災が続く始めの火災事例の「1個」なのか、と
 考えてしまうことがある。
 事実、何万個と製作する中には、不良品の歩留り率はあるわけて、全ての製品が完璧とはならない
 であるとすると、やはり、たまたま発生した「火災」と見られなくもない事例もある。
 反面、今は、消費者の使用上の「問題」とされることもある。

 
 ★経年劣化
 「古い」と言う理由、「経年劣化」と言う言葉は、何と、言い得て妙な言葉かと思う。
 この言葉を出す限りは、思考が停止し、およそ「火災原因調査」をする必要がなくなってしまう。
 「火災調査」には、さまざまな視点から、厳格に原因が究明しようとする姿勢が必要だ。
 前事例の事業所の高圧進相コンデンサのように、「古い」だけでなく、地域の高調波からの影響にも言及して、
 再発防止が図れるものでだ。 消防の火災調査は、再発防止に向けた、しっこい「火災原因調査」であるべきで
 と思っている。
 

    <火災原因調査