NaS電池の火災 <(電気火災) <火災原因調査 <ホーム:「火災調査探偵団」
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1,NaS電池 | ||||||||||||
★ 二次電池 ウィキテデイアによれば、二次電池(にじでんち)は蓄電池(ちくでんち)、充電式電池ともいい、充電 を行うことにより電気を蓄えて電池として使用できる様になり、繰り返し使用することが出来る電池 (化学電池)のことである。 NaS電池 法令的では、平成19年3月の危険物規制の省令改正により、NaS電池に関する所要の法的整備が なされ、貯蔵の基準ができた。このことにより、危険物の施設とは思えないような形態の危険物施設 として「電気設備のキャビネット」が許可施設の対象となった。 [当時の書類から] ○エネルギー密度が高く、高効率、長寿命といった特長 ○非常時電源や電力の負荷平準化のための電力貯蔵システム等に用いられる。 高い電力貯蔵能力を有するナトリウム・硫黄電池(以下「NaS電池」という。)の実用化の進展等 を踏まえ、安全性の確保を前提に、貯蔵・運搬等を円滑化するための規定の整備を行う等、所要の 規定の整備を行う。危険物の規制に関する規則及び危険物の規制に関する技術上の基準の細目 を定める告示の一部改正を行い、各都道府県知事等あて通知した。 「安全性の確保」を前提に、危険物の許可施設とされた。 本来、危険物はその類を異にした製品を同時に貯蔵することは行っていけない。 NaS電池は、「ナトリウム・硫黄電池」のことで、硫黄を正極(+)に、ナトリウムを負極(-)に利用した 二次電池であり、 ・硫 黄・・・第二類の危険物(可燃性固体) ・ナトリウム・・・第三類の危険物(自然発火性物質及び禁水性物質) を使用していることから 類を異にする危険物を一緒に貯蔵した施設となる。 つまり、一つの梱包形態の中に、「類を異にする危険物(NaS電池)」を貯蔵取り扱う場合は、特例とし て、許可されることとなった。 この時は、温度異常などを早期に感知し、波及事故を防ぐ遮断特性を有し、「砂による消火」ができ ることとなっていた。 (平成7年3月「Na-S電池に係る安全性の調査検討報告書」を踏まえ。 |
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2, 安全性と利用面 | ||||||||||||
平成11年6月消防庁危険物規制課長から「ナトリウム・硫黄電池を設置する危険物施設の技術 上の基準等について」が通知され、設置促進がなされるようになった。 本通知文では、「当該電池は、内部に第二類の危険物である硫黄と第三類の危険物であるナトリ ウムを用いているため、取り扱う危険物の数量が指定数量以上となる場合には、 危険物の一般取扱所に該当するものであるが、密閉した単電池を複数組み合 わせた電池(「モジュール電池」)として使用されるものであり、高い安全性を有す ることが確認されているところである。」となっている。 そして「 ナトリウム・硫黄電池に要求される火災安全性能 1 単電池 (1) 単電池の過充電に対する安全性 充電末(完全に充電した状態をいう。)の単電池をさらに充電し、過充電により電解質 が破損した場合においても、危険物が単電池の外部へ漏えいしないこと。 (2) 単電池の短絡に対する安全性 単電池に短絡が発生し、過大な電流が流れた場合においても、単電池が破壊せず、 危険物が単電池の外部へ漏えいしないこと。 (3) 単電池の昇降温に対する安全性 単電池を放電末(完全に放電した状態をいう。)の状態で運転温度から室温まで降温 し、再度運転温度まで昇温させた場合に危険物が単電池の外部へ漏えいしないこと。 2 モジュール電池 (1) モジュール電池の短絡に対する安全性 モジュール電池の外部で短絡が発生した場合に、モジュール電池内のヒューズが速や かに遮断され、短絡が安全に終了し、危険物がモジュール電池の外部へ漏えいしないこと。 (2) モジュール電池の防火性 モジュール電池の外部で火災が発生し、火炎にさらされた場合にあっても、危険物が モジュール電池の外部へ漏えいしないこと。 (3) モジュール電池の耐浸水性 運転温度のモジュール電池が浸水した場合にあっても、単電池が破損せず、危険物が モジュール電池の外部へ漏えいしないこと。 (4) モジュール電池の自己消火性 モジュール電池の内部で、単電池を強制的に破壊、発火させた場合、周囲の単電池に 破壊が連鎖拡大せず、自己消火するとともに、危険物がモジュール電池の外部に漏えい しないこと。 (5) モジュール電池の構造的強度 モジュール電池が落下等の外的衝撃を受ける場合において、単電池が破壊せず、危険 物がモジュール電池の外部へ漏えいしないこと。 |
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3, 火災事例 | ||||||||||||
第1の火災 場所: 栃木県小山市中久喜 T製作所小山工場 日時: 出火 平成22年2月15日 7時40分頃 覚知 〃 8時18分 鎮圧 〃 22時36分 鎮火 2月17日 9時55分 焼損物件 200kw NaS電池設備1基 焼損
このタイプは、早い時期に設置された設備で、現在普及しているタイプとは、少し異なり 高出力を得るため、モジュール電池ないの単電池を全数直列にした初期型のもの。 火災の様子
制限がなされた。 当初の予想では、モジュール電池内に充填された砂で自己消火する、こととなっていた。 ⇒メーカの原因説明 (メーカの報告書から、2010.11.05) このNAS電池は高出力タイプの初期型で、高出力を得るためにモジュール電池内の全ての単電 池を直列に接続したタイプでした。その1本の不具合により発生したもの。 ○ モジュール電池の内部で単電池間の多硫化物による短絡(ショート)が発生し異常な大電流 が流れ続けたため、発熱による高温状態が継続し火災に至ることを火災再現実験で確認した。 第2の火災 場所: 茨城県常総市古間木 M社筑波製作所 日時: 出火 平成23年 9月21日 7時20分頃 鎮圧 〃 15時55分 鎮火 10月 5日 15時25分 消火は、第1の火災と同様に、砂を搬送して、砂による消火をしている。 鎮火の確認までに、数日を要している。 詳細時間 7時10分頃 火災発見 7時31分 119番通報 8時から12時 モジュール電池延焼拡大 13時10分頃 乾燥砂8トンにより、消火開始。 ⇒メーカの原因説明 上火災の第2番目の火災が、社会的にも大きかった。 この火災の原因と対策については、当該メーカから提供されている。 ⇒火災事故の原因は以下の通りです。 1. 設置されていたNAS電池システムを構成するモジュール電池40台のうちの1台(単電池384本収納)に製造不良 の単電池が1本あり、その単電池が破壊して高温の溶融物が流出した。 2. 溶融物がモジュール電池内のブロック間にある砂層を越えて流出し、隣接するブロックにある単電池との間で 短絡(ショート)が発生した。 3. 短絡した単電池間にヒューズが設置されていなかったため、短絡電流が継続的に流れて発熱したことで多数の 単電池が破壊して火災が発生し、当該モジュール電池全体に延焼拡大した。 4. 当該モジュール電池1台の燃焼により、火炎と高温の溶融物が上段と下段に設置されていた他のモジュール電 池内の単電池容器を溶解させ、さらに延焼拡大した。 本文は、右アドレスから http://www.ngk.co.jp/announce/111031_nas.html 確認ください。 第0の火災 場所: 愛知県小牧市 N社 NAS電池製造工場 日時: 出火 平成17年 2月 7日 11時05分頃 鎮火 2月12日 12時00分 火災は、モジュール電池検査室内のモジュール電池1台の耐電圧試験中に高電圧をかけて 発生したもの。 工場内部で、モジュール1台であったことから、終息した。 第?の火災 場所: 茨城県つくば市 A研究所 日時: 出火 平成22年 8月 2日 13時02分頃 鎮火 8月 2日 13時06分 火災鎮火後に、119番通報されたもの。 火災は、モジュール電池のプラグ端子が発火し、焼損したが、終息した。(ぼや扱い) |
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消防庁から、平成24年6月7日消防危第154号 「ナトリウム・硫黄電池を設置する一般取扱所の火災対策について」が出された。 平成22年の火災(栃木県小山市)で、すでにその火災の危険性(延焼規模の強さ・現 の毒性)が指摘されていたが、本通知では、メーカの対応等もあって、平成23年9月 茨城県常総市の火災だけが取り上げられている。(出火場所は未掲載) 本通知の極め付きは、 「ナトリウム・硫黄電池を設置する危険物施設の技術上の基準等について」(平成11年6 月2日消防危第53号。) 別添2(モジュール電池の火災安全性能)、⑷(モジュール電池の 自己消火性)において、単電池を強制的に破壊、発火させた場合、周囲の単電池に破壊が 連鎖拡大せず、自己消火すること(自己消火性)を一般取扱所としての位置、構造及び 設備の技術上の基準の特例要件として求めている。しかし、既存のモジュール電池の 一部に、特殊な条件が重畳した場合に自己消火性を満たさないものが存在する可能性が あること、となっしまった。 単電池に不良品が入りこんでいると、モジュール電池が火災となり、さらに、パッケージ全 体に延焼拡大する、ことが認められることから、本来、類を異にした貯蔵取扱いを禁止して いることを特例的に設置許可した消防本部は、様々な対策をとることを求められている。 そして、通常運転の可否は当該消防本部に任せる、みたいな通知となっている。 なお、事業者に乾燥砂40トンを3時間以内に搬送できるようにしなさい、となっている(これ は、製造メーカが顧客リストから、3時間なら搬送できると見越して作成されたもの見られる。) 製品の試験確認業務もしており、不良品等により万一出火したとしても、自己消火性により、 延焼拡大はせずに、消防活動の必要性はない、かのような認識を持って、設置許可したが、 何件かの火災から、自己消火性は担保されておらず、延焼しますよ。そして、その危険性を 通知したので、あとは許可した当該消防本部の責任です。となる、らしい。 思い違い、間違いがあるといけないので、必ず原文通知参照してください。通知154号 |
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現在までのところ、この施設は屋外のキュービクルタイプの電気設備の火災であることから、 クレーンにより多量の砂をかぶせて、消火している。 しかし、NaS電池施設によっては、建物内に格納されているものもあり、消防的には今後の課題 と思える。 2件の火災(実質4件)からは、平成19年当時に想定された「局所的に終息する」ことはないようだ、 消防機関として消防活動の方法が必要となる。 平成2年6月に発生した山形県長井市でのアルミ屑火災では、火災時の消火活動の不備を理由 として、国家賠償責任が認められている判例もある(判例時報1713号)。 このNaS電池の火災では、当該出火施設にとどまらず、近隣への有毒ガス等による被害の発生も 懸念されるが、すでに消防庁は154号通知で、既存施設の運転の可否は、当該消防本部に任せら れるとし、平成11年6月第53号通知を保障していなことから、平成19年の危険物規制の改正にとも なう火災安全は、通常の許可施設の製造所等と同じで、許可した当該消防本部にある、こととなった。 その割には、NaS電池の火災の詳細内容が、設置許可している消防本部に伝わっているようには 思えないところがある。 自己消火性が否定されていることから、出火時の近隣者等(屋内施設はもとより)の安全確保義務は、 設置許可と消火活動(避難指示等を含め)を行う消防機関に、その責任が求められることになるので はないか思われる。そのためには、実際の火災内容を詳細に検討できる資料が提供されるのが、 予防行政の基本ではないか思える。 |