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電気痕と火災
                               A1-56   12’09/15、13'01/14

1, 電線の短絡
 
  火災現場の調査では、発掘時に焼損して芯線だけの電気コードが
多数見られる。特に、マンション火災では、顕著に見られることである。
 その都度、「この火災の原因は、電気火災では・・」と調査員は考え
込んでしまう。
 今回は、その中で気になる(喉に刺さった魚の骨のような)
 
「電気の短絡痕」に関することをまとめてみました。
   消防活動時の電気火花
   炎上中の消火活動時「電気幹線の短絡」が目にとまる。閃光とバチバチと言う音、電気配線が短絡している様子は、火災が
 電気火災により発生したのでは、と思える情景で、燃えている建物を取り囲んでいる近隣者からも「電気が火を噴いている」との
 声が飛び交う。
  写真1は、その火災現場の状況だ。奥の窓の下、階段横で白く輝いている閃光からは、バチバチと音とを立てて燃えている
  引込線で、外壁のトタンを介して激しく反応している。
  見ていて、「すごいな」とその閃光に引き寄せられるものがある。もちろん、閃光の下の階段を駆け上がるには、放水してから
  でないとムリな話だ。一般火災では、電柱の電線が、建物火災の輻射熱で、燃えている場面を良く見かけるが、その場合は、
 あまりバチバチと言う音は聞かない。反面、建物の屋側電線路が燃えると、このような地絡を伴って激しい音を立てて燃える。
  翌日、建物外壁の屋側電線路は、写真2のように、少し焼け細り、トタンは溶融して穴があき、溶融物が垂れ下がっている。
 鎮火後の見分からは、特段の印象深いものもないが、溶融して穴の開いた外壁を見ると、電気の強さと火災との関係を改めて
 思い知らされるものがある。 なお、この建物火災の出火原因は、電気火災ではなかったが・・・。
    写真1 火災現場で閃光を発する引込線の地絡現場。       写真2 引込線とトタン外壁の溶融
2.   短絡火災の統計
 1) 電気火災の比重が増加傾向
  
  東京消防庁管内の電気機器火災、ガス設備火災、石油設備火災が、その年の火災件数に対する比率を年別にプロット
 したものを図1である。

 図1 全火災に対する種類別火災の出火比率の年別推移
図1は、昭和55年(1980年)から平成21年(2009年)まで
の30年間の統計で、図から、東京都内では、石油設備
機器の火災比率が4%から1%へと下がり、ガス設備は
13%前後で横ばい傾向で、電気機器の火災比率が
12%から19%へと顕著な増加傾向にあることが分かる。
 なお、減少傾向にあるのは石油設備機器の火災ばか
りでなく、タバコなどの微小火源火災や火遊びなども火
災比率が減少している。
 (本図は、2011.01.20 平成22年度火災学会講演討論
会、東京消防庁笠原孝一「電気火災の実態と最近の
傾向」図2を借用した)。
  東京消防庁の火災統計を見たが、東京都と全国の相違は、火災全体として全国の1割を東京が占め、傾向として同じ傾向
 を示す。しかし、電気火災に着目すると、東京都内の電気火災件数の発生比率が高く、全国の2割弱を占める。つまり、一般
 の火災では、東京で10件発生している火災は、全国では100件程度となるが、電気火災では60件前後の発生と低くなる。
  以下、東京と全国を比較する際は、東京の件数の5.5倍~6倍に換算して見てもらうと、全国の傾向が掴めるものと思う。 
 
 2) 製品別の火災発生率
  図 2 種類別の火災発生率(2004年~2010年
      東京消防庁管内

 電気火災の中から種別に区分した場合の電気火災全体に
 占める割合を図2に示す。

  7年間の「年間平均の電気機器等の出火件数」は1,019件
 ある。 年間約1,000件近い火災件数が東京都内の電気火
 災となる。
 電気火災の種類別では、「テレビ、冷蔵庫、蛍光灯などの電
 気機器」が32%、「ストーブなどの電熱器」が26%、「モータな
 どの電気装置」が19%、「延長コードなどの配線」が16%、「漏
 電遮断器などの配線器具類」が6%、「その他」が1%となる。
   比率では、全国でも似たような傾向と思われるが、東京は
 全国の数値と比べ「電気機器」からの出火比率が高く、「配線
 等」の比率がやや低くなる。これは、統計上の発火源コードの
 取り方が「器具コード」の扱いなどで異なり、このようなことなど
 が考えられる。
 3) 電気火災の原因別内訳
 東京における電気火災の出火原因を見ると、実にさまざまな原因が出てくる。
 もちろん、火災報告取扱要領に定める「経過コード」の項目のことである。上
記の2004年から2010年の年間平均の発生件数は1,019件あり、その中の年別
の出火原因比率(経過の内訳)を図3に示す。
 図から多い順に「金属の接触部過熱」「短絡」「可燃物の接触」「トラッキング」
「絶縁劣化」「半断線」となっている。その他には「地絡」「過多の電流」「過熱」
「放置・忘れる」「スパークする」「火花が飛ぶ」など、さまざまである。
 経過(火災要因)の意味する言葉が一般には、分かりにくいが、このホームページ
の「火災原因の分類」☆経過分類の解説を参考にしてほしい。消防の火災調
査員は出火原因コードを使い慣れているので、「経過」の言葉だけでどのよう
な火災を示しているのかが分かることから、個別の説明は省略する。(発火
源と経過の組み合わせによる火災の実態は、別のページに記載している。)
 この図3から、最も多いのが「接触物過熱」であるが、「短絡火災」は2番目に
多い出火要因となっており、
全体の17%を占めている。年によって、電気
火災の最も多い出火要因に挙げられることもあり、「短絡火災」は、最も身近
な火災原因となっている。
図3 電気火災の経過(出火要因)別割合
 4) 短絡火災の出火比率

 電気火災で、種別に見た「短絡の出火要因」の割合を円グラフの図4に、さらに、その種別ごとの「短絡火災」の占める割合を
 横棒グラフ図5に示す。
 短絡火災を火災件数で見ると、配線類39%、電気機器35%の順となり、年平均して167件の短絡火災が発生している。これを
 「各電気機器等の種別の火災件数」からその中の短絡火災が占める比率を図5に示した。配線等で39%、電気機器で18%、
 電気装置で17%、配線器具類で10%、電熱器で5%が、短絡火災が占めている。
   
短絡火災の発生としては、この図5が最も分かりやすいと思う。
   配線等では
「約4割が短絡によるも」ので、電気機器と電気装置が約2割、配線器具等が1割、電熱器が0.5割

  図4  短絡火災の種別別の発生割合       図5 種別の火災の中で、短絡火災の占める割合
3.  火災現場の短絡痕
  1)  ケーブル線の短絡

  写真3や4は、いずもFケーブルの短絡火災で、あまり見かけない火災事例である。
 ステップル等がケーブルの芯線に打ち込まれ、木材等を通して徐々に地絡が進行し発熱して、絶縁被覆が損傷、両極間で
 短絡出火するが、ステップル等の打ち込みから10年近く経て出火している事例が見られる。
 他に写真5のようなFケーブルでは、ネズミがかじって短絡させて出火する例があるが、これも数年の月日を経たものが多い。
  ほとんどは、火災調査関係の教本にも写真入りで紹介され、火災現場においてもほぼそのとおりの現実が発掘される。
 もっとも、出火箇所の判定を誤ると、わかりやすい電気火災と言えども「原因不明」になるが、これは電気火災の究明より
 も「現場観察要領」の課題である。Fケーブル火災の中で、ネズミによる「短絡」は、小さな短絡痕で、かつ、出火箇所の判定
 が難しい場面であるが、齧歯動物の特徴的な要因が
焼損箇所以外の所にでるので、まず、見誤ることはないと思う。
 写真3 ステップによる短絡  写真4 壁内配線を室内から
    打ち込んだ短絡
 写真5 特徴的なネズミによる短絡
  2)  ビニール平型コードの複数の短絡痕
写真6 発掘した床面付近の多数の短絡痕
 この写真6では、複数の電気痕が見られる。このような現場は数多くあり、特に、マンション火災では、普通に見られる。
 個々の近接写真を取ると、写真7.8.9となる。火災調査員にとって、電源側に遠い方にある「電気痕」に注目するところで
 あるが、やはり数が多いと惑わされる。
   ビニール平型コードは、火災熱で短絡しても、短絡時の反応時間が短いので、短絡電気容量が小さく、配電用20A
 ブレーカ、又は電流制限器(Sブレーカ) を短絡遮断させないことがあり、このため、幾つかの短絡痕を発生させる。この
 点がFケーブルの短絡火災とは
大きく異なる。このため、電源側(コンセント)から一番遠い所の電気痕が「始めの電気痕」
 となる。火災調査的には、この遠い「痕」が出火原因判定の着眼点となる。
 写真7  延長コードの電気溶融痕-1  写真8  電気溶融痕-2   写真9  電気溶融痕-3
 3) より線接続による短絡

  手より接続による電気火災は、最近は次第に減少している。
 このような手間かけることがめんどくさいと感じる人、中学校などの理科教育で電気コードを配線して実験するような機会が
 なく良くわからい人、などが増えているからと思われる。 
 火災は、手より接続部の接触抵抗により発熱し、この発熱によって、被覆のビニールテープがズレ、最終的に短絡出火する。
 手より接続の中でも「Fケーブルの単線とコードのより線を接続」した場合は、火災の危険が最も多く、数年を経ずして火
 災になる。コード同士の手よりだと、流れる電流と接続の仕方により、出火危険は異なる。もっとも、昔の電気工事試験では、
 配線同士をペンチを使ってケーブルのねじり接続による工事作業が実技試験科目にあったので、接続そのものが悪いの
 では
なく、素人により適当に行われることが出火危険を招くことにある。
  また、車両火災では、電装品を素人が手より接続等で取り付ける際、ヒューズボックスの一次側配線から分岐して、取り付け
 ると、接続部に熱を持った時に、短絡出火から車両全焼火災への危険が大きいものとなる。
写真10 コードの手より接続部の短絡
   4) 電気溶融痕とは異なる熱による溶融塊

 電気火災では、電気による溶融痕と異なり、火災熱により、配線(またはケーブル)の銅が溶断して、その断面部に銅の溶融物
 を「塊状」に作る。
 意外とこんな溶融物も、火災現場では、「電気痕」と見誤ることがある。
 現場で出火要因と言えそうな物が「何もない」と、藁にもすがる思いで、溶融物を「電気痕」として、火災原因にすることもある。
 どこで、見分けるかは、ともかく、まずは出火箇所の焼けが合うかどうか、もう一度確認してほしい。
 その箇所から燃えて、立ち上がると、建物全体の焼損が説明がつくのかどうか?
 そして、「短絡痕」と言えるような高温でショートした「美しさ」を持った痕なのか?
                  
写真11 電気コードの熱による溶融塊  
4.  電気の一次痕・二次痕
 1) 電気の一次痕と二次痕
  短絡痕には、「一次痕」と「二次痕」そして「熱の溶融塊」がある。
  
 溶融塊の熱痕とは、単に高温により銅線がその先端部で溶けただけのもので、一次・二次痕が電気的な短絡痕となる。 
    一次痕は、塩化ビニルやゴムなどでできた電気配線やコードの被覆が、損傷したりすると次第に絶縁性が悪くなり、導
   通状態の芯線が接触して短絡する。特に、曲げや引っ張りの頻度が多い電気機器類の器具付きコードと延長コードは、机
   などで押しつぶされたりすると、細い銅線を縒り合わせてできているため、その素線が切れ、半断線となって抵抗が増し、過
   熱して被覆の絶縁を破壊して短絡する。   
   これらの被覆の損傷等による芯線の短絡時のスパーク(火花)で付近
  の可燃物を燃焼させ着火して火災になる。
  
この時の電気痕を「一次痕」と呼び、火災の直接の出火原因と
  なったものである。

 
 一次痕ができた後に、電源側二次痕ができる場合がある。
   
                                             写真12 プラグの直近で、判断線で短絡出火した一次痕 

  ○  二次痕とは、すでに何らかの原因によって周囲に火災が発生し、そのため周囲の可燃物の燃焼と相まって、コードや電線
  ケーブルなどの被覆が損傷して芯線が露出し、これが通電状態の中で短絡したものである。
   この時に発生した電気痕を「二次痕」と呼び、火災の直接の原因
 でなく、間接的に生じた電気痕のことである。
  
出火原因とは、何ら関係がない、原因がタバコや放火などで、室内で
 火災が発生すれば、発生する電気痕であり、直接に電気火災であると
 言うこととは関係しない。


                                    写真13 換気扇の器具コードに発生した二次痕
   一次痕と二次痕の区別
  写真12と13の溶融痕をルーペ等により比較したとしても、見た目には、その区別は「判然としない」ことが結論となる。
  つまり、現場の焼損状況などに左右される要素が多く、痕の見分だけで区別することは困難である。
   しかし、「見た」だけでない何かの違いがあるはずだと、意気込んで「考える」のが、火災調査の楽しさでもある。
 2) 電気の溶融痕は、出火箇所判定の有力な材料

  
電気痕の意味
 1)
 一次痕と二次痕の発生は、一端発生すると短絡時の過電流により、ついにはブレーカーが落ちて電源遮断し、その後は一般
  的には発生しなくなる。このため、短絡痕が見分される所は火災の発生場所に近いところであることが多く、短絡痕を「現場
  で発見する」
ことは、
出火箇所判定の大きな根拠となる。火災現場調査の進め方の教科書に記載されているとおりである。
   火災現場で「短絡痕」を探すことは、出火原因としてよりも「出火箇所の近傍であることの裏付け」として強調される。
  特に、室内中央部付近から出火すると、壁面の立ち上がりがわかりにくいことが多く、そのの際部屋中央の照明器具のFケーブル
  の短絡痕は、有用な火災原因立証の証拠につながる。
 
2) また、電気痕は、ある電気製品の通電立証 となる。
  電気製品から出火した場合、当該製品からの出火の仕組みを立証することは困難であっても、その製品の器具コードに電気の
 溶融痕が見られれば、その製品には電気が通電されていたことになる。このことを「電気痕による通電証明」と呼んでいる。通電が
 証明され、そして、電気痕が出火の近傍で発生することからも、当該製品からの出火の可能性が高くなる。
  逆に、通電立証ができなければ、当該電気製品からの出火の可能性が極めて、低くなってしまう。

5.  電気の一次痕・二次痕に関する研究
 1) その発端と研究過程
 消防の火災原因調査の専門書を昭和40年頃に全国加除法令出版から出版し、その中に「電気火災」があった。短絡の記述
 の中に「・・火災現場で見分される電気痕には一次・二次痕があり、一次痕の表面はきれいなものが多い・・」と言った表現が
 あった。 果たして、これがどこまで客観的に立証しえるのか、と言うことが、研究の発端であった。
  1990年(平成2年)火災学会で、東京消防庁 石橋良男、岸田順次氏による「電線の一次、二次溶融痕鑑定方法に関する
  研究
(その1)(その2)」として、研究内容から発表があった。この発表は、電気の短絡溶融痕を外観観察だけでなく、X線撮影、
  痕断面の観察、金属組織の観察とまったく新しい視点からの発表となった。火災学会誌には1992年(Vol.42, No.2, 197)で公表。
   その後、USAでのAESによる研究をベースとして、1996年(平成8年)火災学会で、東京消防庁 佐藤和広、杉崎倫男、柿崎
  諭等による 「電線短絡痕に対する、SIMS、AESを使用した表面分析による鑑定法」が発表され、溶融痕表面の酸素
  濃化深度による判定法が提案された。( SIMS:二次イオン質量分析法、AES:オージェ電子分光法)
   その後、1999年関氏等による「DASによる識別」が火災学会に、2000年、2001年の李義平氏等による様々な取組が火災
  学会論文集等に発表され、2003年長谷川、今田、矢代氏による「セルサイズによる識別」が発表され、平行して、NITE(製品
  評価技術基盤機構の栃木、北関東支社)が溶融痕のCu2Oの析出解析と結晶のセルを解析する識別法等が提案されている。
  また、2000年以降、日本鑑識科学技術学会等でも様々な角度からの検討結果が発表されている。
   論文は少なく、どちらかと言うと学会発表が多くみられる。  
 2) 一次、二次痕の外観からの判別
    石橋、岸田氏の論文から引用する。
  発端が「表面の見掛け上の美しさ」であったことから、その言葉の確証を得ることから始めたため、半年以上をかけて、火災
  現場から、電気短絡痕を丁寧に発掘し、現場の状況から出火原因の判定を確認した上で、採取した15個を試料とした。
  
内訳として、一次痕9個、二次痕6個であった。
  確認後、外観観察をして、実態顕微鏡で観察、次に、電子操作顕微鏡で観察してから、短絡痕の内部観察をする。
    
外観観察→ 顕微鏡観察→ 走査電子顕微鏡(SEM)→ 断面ミクロ組織の観察

  顕微鏡により、表面の「ツルツル、ぴかぴかの様子を探る」を立証するために
  「1、光沢の確認(銅と黒墨部の分布)、2 平滑度、3形状」の3項目を調べた。 
図6 短絡痕の外観表面観察手順
    この手順により観察した結果が次のようになった。
  図7 溶融痕の表面の光沢状態の分布   写真14  顕微鏡の表面観察 

 図7は、縦軸に「黒ずみ」の比率を、横軸に「銅の光沢」比率を示す。
 短絡痕を方眼紙上で分布率を算出し、個別の観察結果を散布図にプロットした。
 
1) 0°~30°の「光沢のある領域」に一次痕が多く、60°から90°の「黒ずみ領域」に二次痕が多いことが言えるが、
   「判別方法の確率は15%」程度でとなる。
 
2) 次いで、表面の平滑度についても表面が「平滑」である領域に一次痕が多く、平滑でない領域に二次痕が多いが、
  「判別の確率は6%」程度であった。
 
3) 同様に形状として、半球形と不定形に分けると、半球形に一次痕が多く、不定型に二次痕が多い、この場合の「判別
  は確率とし40%」程度であった。
  このように、従来からの外形観察から得られる情報を整理して、判別する手法として実体顕微鏡で観察するかぎりでは、
  「光沢・平滑・形状」を判断要素とすると6割程度の確率で、一次・二次痕が判別される。
  つまり、火災調査現場で従来から言われてきたルーペによる観察も科学的に見ると6割まで判別が可能で、これに調査員の
 経験を重ねると7割程度まで判別ができるようになるが、それとて、所詮は「感」の世界に頼ることになる、ことが判る。 
 3)  短絡痕を断面切断した観察と金属組織
 次に、短絡痕の断面観察を実施した。
 断面観察は、短絡痕の研磨面を決め、その部分が研磨できるように全体をエポキシ樹脂で固定し、研磨機で2種~3種のエミリー
 ペーパーで研磨し、その後アルミナ液で研磨し、表面をアンモニア溶液等の混合液で腐食させて固定した。
  断面観察から、
ブローホールボイド及び異物巻込みが観察される。
  「ブローホール」は、表面に口を開けた穴であり、「ボイド」は空気だまりである。
 写真15 短絡痕の外見観察   写真16 表面観察写真  写真17 短絡痕断面写真

  写真18 短絡痕の断面写真の解説
  写真17から、「ボイドの気泡」が見られ、表面にその
 気泡が開いているものを「ブローホール」と呼ぶ。
 
 ★写真を見せられて、「ビックリ」だった。
 今まで、金属腐食などの割れを観察する際に金属表面写真を見た
 ことがあったが、電気の「短絡痕」がこんなにも
魅力的に富んだもの
 だとは・・・、と感心した。これを見ただけで、電気短絡痕の力と神秘性
 がわかった気がして、一次二次痕も解明できるのではと思えた??
  ブローホールとボイド、異物混入の短絡痕の断面観察からの結果を識別すると下の図8となった。
         
図8 短絡痕の断面観察の結果
  
 短絡痕15個の観察結果が図8となる。 
   表のバラツキから、結論として、一次痕であるとことと、二次痕であることの明確な判別とはなっていない。
  
 ブローホールでは、一次痕では発生しやすく、二次痕では発生が低くなる。
    
このことは、ブローホール発生では、急冷が考えられ、短絡痕形成時のエネルギーが大きいことから、一次痕に多くでる
    ものと思われる。
 ○ ボイドでは、一次痕、二次痕で発生するが、二次痕では発生しないことがある。
 ○ 異物の巻き込みは、二次痕のほうが多い傾向を示す
   このことは、徐々に冷えてできる時間が長いために異物の巻き込みの比率が高くなると思われる。
         
  判定としては、 ①ボイドの有無 → ボイドが無いと二次痕の可能性が高い。
                          ↓        
                     ②異物の巻き込みが多い→ 二次痕の可能性が高い。
                          ↓
                     ③ ブローホールの有無 → 無いと二次痕の可能性が高い。
  この手順を踏んでも、判定の決定には至らない。
  しかし、外観観察の図7の光沢の分布図において、光沢の有無・球形の条件も前提として判断要素とすると、その後に、
  異物巻き込み・ボイド・ブロホールの条件がすべてあてはまると「一次痕」である可能性が高くなる。
  
 このことは、「一次痕の判定」と言うことでなく、現場で採取された一次痕の持つ様相が、「一致する条件が多い」
  と言うことである。つまり、「必要十分条件を満たした同等(equivalents)である」と言うことでなく、一次痕と認めるに足る
  条件にふさわしいと言うことで、「一次痕の判定」とはならないが、一次痕の要素を備えた電気痕である。
   このロジックが、電気の一次・二次痕では、混乱して使用されることが多い。
  ここで、このボイドの「分散」状態について、さらに検証実験1)をしている
   それによると、石英管の管状炉の中で、電気配線を用いて過電流により人為的に「短絡痕」を作成する。その際、
 1) 管内を“大気中の雰囲気”とした場合と、“窒素、二酸化炭素だけ”の場合に分けて作成すると、大気中の場合の
  ほうが「ボイドが生成し」、酸素がないと「ボイドが発生しない」ことが裏付けられた。
   
短絡痕の「ボイド」は、大気中の酸素が溶融した銅に吸収され、冷却時にガスとして再び分離する際に発生する
   ものと解される。 
 
2) また、酸素の吸収の際に、溶銅の冷却過程において、冷却速度が速いと細かいボイドがたくさんできる傾向にあり、
  緩やかに冷却すると大きいボイドになることもわかった。このことも、急冷傾向が「一次痕の雰囲気に近い」ことから、
  細かいボイドは一次痕の傾向を示し、数少なく大きいボイドは雰囲気温度が高い、二次痕の傾向を示すこととなった。
  この実験結果と、表4の実際の短絡痕の観察から、「ボイドの有無」は判定の大きな要件となるものと思われる。
  そして、これらが金属顕微鏡で観察できることから、現場調査の判別法として有意な意味をなすものとなった。
×88 ×88
 写真19 実験による急冷時溶融痕
 ボイドが細かく分散している
  写真20 実験による除冷時の溶融痕
   ボイドが大きく中央に偏在する
 同様に、実験による溶融痕を作製し、その痕を観察した。
 実験は、被覆を焼損させて、短絡させた場合と何もない条件で短絡させた「電気痕」を観察すると、異物混入は「雰囲気中に煤
 等がある」時に発生している。これも二次痕に近い傾向を示すとなった。
  4)  短絡痕の断面からのミクロ組織の観察
 次に、断面を金属顕微鏡によりミクロ組織の観察を行った。
     
図9 試料のミクロ組織の観察結果
  この観察結果では、一次・二次痕ともにα固有体の組織が多く見られる。
  No4は、初晶のCu2Oが晶出してから、共晶のCu-Cu2Oを形成している。 このNo4は、スパークを繰返したため、
  酸化反応で溶融痕の酸素固溶量が多くなり生成したものと考えられた。
 
微細な酸化第一銅(Cu2O)(亜酸化銅)の析出の有無が見られるが、一次痕にはあまり見られず、二次痕と判定
  されている溶融痕には多く見られる。
  これは、酸化第一銅の析出が、高温状態の出現時間帯に依拠することから、一次痕のように雰囲気温度が低い
  と短絡時の短い時間帯しかないことから「発生しずらく」、二次痕のように周囲が高温帯となる場に存在しながら
  形成される電気痕では「発生しやすく」なる。このように考えると理解しやすくなる。
  このことを、検証実験で確認する。
  常温の状態で短絡した「溶融痕」を作成したものが写真21で、全体として「共晶組織」が均一に広がっている。
  800℃の高温状態で短絡させた「溶融痕」を作成したものが写真22で、溶融痕の表面やボイド内壁に酸化第一銅
  (Cu2O)の被膜が発生している。
  まとめると、一次痕に近いものは「微細な共晶組織」が全体を占めるが、二次痕近いと共晶組織に大きいものが
 できたり、銅と酸化第一銅の初晶の発生が見られる。
    微細な共晶組織
 写真21 周囲温度を常温・酸素ありとした溶融痕  写真22 周囲を高温、酸素小として溶融痕
 酸化第一銅が見られる。(デンドライト) 
 さらに、一度発生した電気溶融痕は、火災熱(800℃)で再加熱しても組織の変化がないことも確認された。
   5)  ここまでのまとめ
 ここまでの内容をまとめる。
 ここまでだけでも、外観観察から断面観察、ミクロ観察とさまざまな視点から試料により一次、二次痕の判定方法を提案した。  
図10 一次・二次痕のまとめ
  この表のように「識別の判定条件」として一覧すると分かりやすくなる。
 ポイント欄は、勝手に筆者が入れ込んだものだが、便宜的にこのようなポイントを入れ「
80ポイント以上だと一次痕に判定
 される要因が高い」
と言うと分かりやすい。
 このことが、一義的に「一次痕であると判定する」ものではない。
 ここで、議論なったのは、短絡痕を集めて調べてみたら、一次痕と二次痕では「様相が異なる部分がある」と言うこと
 だった。と言っても、すべてに共通したものではなく、おおざっぱに言えば「異なる部分がある」となる。
 そこで、検討したのが「なぜ、そうなるのか」。識別の違いとその後の検証実験から推測して、次のように考えた。
 
「一次痕は、近傍の空気中酸素が多く、かつ、短絡後に急冷する。二次痕は火災により酸素が少なく、除冷する。」
 
と仮定した。
 この考えでまとめると、検証のための追実験は、その線に沿った結果を示し、ほぼその考え方(仮定)の実験結果と試料と相似
 が得られた。

 ☆ ここまでの内容は、下記の論文から引いている。思い違いもあるかもしれないので、研究されるなら、自分で確認されたい。
  (1) 東京消防庁 石橋良男、岸田順次「電線の一次、二次溶融痕鑑定方法に関する研究」その1、その2
    平成2年度火災学会研究発表会概要集,pp83~90 (1990).
  (2) 東京消防庁調査課「電線の1次、2次溶融痕鑑定方法に関する研究」火災,42,No2(197号),(1992)
   (3) 伊藤允之「電線の短絡痕と火災」'93予防時報175, 日本損害保険協会(1993)
      伊藤氏が書かれているのは、東京消防庁の研究が、分析等において研究委託し、その委託研究を引き受けた
      日立製作所多賀工場の研究員として発表されている。委託先は、日立電線(株)日高工場、日立電線(株)金属
      研究所、茨城大学工学部、日立製作所多賀工場の4者による共同受託である。

  6)  「銅の結晶組成」を観察するさまざまな方法へのコメント
  [この部分は、つぎのSIMSの研究内容に入る前に入れました。]
  一次・二次痕の試料から見た識別方法を提案したところ、金属組織の部分に着目された研究がその後に続いた。
 図11は、銅の温度と酸素環境における結晶状態図だ。
 写真21,22の実験として、酸素を絶った状態を二次痕に近い
 状態として、再現させ、そのことによって、二次痕の様相を
 説明する際に利用した。
  端的には、温度範囲が高く、酸素が少ない状態で、酸化
 第一銅(Cu2O)の析出が見られることにある。
 
 図11 Cu-O状態図
  話の展開は、「一次痕は、空気(酸素)が多く、急冷する。二次痕は火災により空気が少なく、除冷する。」と仮定し、
 実験を組み立てたことにある。
  「たぶん、そうだろう」とした仲間うちの取り決めによる仮定が、いつの間にか「定義」のようになってしまった。
  定義「・一次痕は、出火時に生じる短絡痕であって、近傍の酸素濃度が高く、生成時の雰囲気温度が低い。
      ・二次痕は、出火後の火炎の中で生じる短絡痕であって、酸素が少なく、生成時の雰囲気温度は高い。」

  しかし、こんなこと、電気火災の短絡現象の中で、決まっていることとは言えないし、誰も証明していない。
 この上に立って、コードのより線の数本に、過電流をかけて溶融痕を幾つ作っても、「電気火災の一次痕」とは言えない。
 まして、酸素を絶って、デンドライトができたところで、火災現場がそうやすやすとその手の再現実験に見合うわけではない。
 建物火災は、床面付近を這うように火災全体の「空気」を吸い込んでおり、結構な風がある。それは、ろうそくの炎の一次空
 気の取り入れ方法と同じだ。その中で、室内全体が、上方からの強い輻射熱で床面付近のコード被覆が焼損して溶融し、
 短絡すると、二次痕でも「空気があって、急冷すること」もあり得る。逆に、一次痕ほど、じくじくと被覆が半断線等の高い抵
 抗熱が熱せられて、短絡すると近傍の空気層が薄く、除冷となるかも知れない。銅の溶融時温度と雰囲気酸素量の関係が、
 わかったとして、そのここと一次・二次痕との関係は、前出の定義を、はめ込まない何とも言えないことになる。
 実験が、銅のより線の数本または1本を過電流で溶融させ、温度と酸素量等を変化させてミクロ組織の変化を観察している
 ケースが多いが、これが、「火災の一次・二次短絡痕」に同等である、とする、もともとの立証がどこにもない。  
                      電気の一次、二次痕の判定方法の欠陥(陥穽)。
  仮説として「定義」の明確な根拠がないまま、実験室レベルの無数の「短絡痕」を作って、無理やりその枠にはめ込もうと
  している作業に過ぎず、火災調査の現場とは違った次元となっている。 
  そもそも、実験の前提があやふやなまま、その実験による溶融痕を「一次短絡痕・二次短絡痕」と名付けて、分析して
 も火災時の短絡痕と同等と呼べには「無理がある。」ことになる。
  電気溶融痕の研究の中では、半断線・断線(スパーク)・束線・捩回接続、外傷とされる実験をして、作った溶融痕を「一次痕」
 とし、二次痕をクリブ等上で通電したコードを燃やした物を「二次痕」として、分析しているケースもあるが、その場合では、この
 作成した溶融痕により、一次・二次痕としたものは、その結果のまとめで、外観の識別困難・ボイドも識別困難・酸化組織もどち
 らとも言えない。となっている。と言うことは、このような「実験サンプルによる、一次・二次痕の識別」の前提が本来「識別方法と
 するにはふさわしくない。」とも言える結論である。火災現場から採取した「実際の現物」を使って組み立てた識別判定がまったく
 意味をなさないとするなら、それは「定義の根拠を欠いた実験により得られた溶融痕にこそ」意味がないとすべきだろう。
 たとえば、下記のような火災現場はどうだろう。
 実験では「束線による短絡火災」の典型例だが、この場合、どの痕を持って「一次痕」とするのだろうか
  写真23 火災現場で一次痕とされたコード  写真24 左コードを鑑識して、拡大したもの
 いくつもの短絡痕が発生している。一次はどれか?
  ☆火災学会 「電源コード溶融痕のDSAによる一次・二次痕の識別」「セルサイズによる電源コードの一次・二次痕識別」
 「巻き込み炭化残差中の炭素結晶構造分析による1次・2次溶融痕の判別に関する研究」「電気溶融痕に関する基礎的研究」
 日本鑑識科学技術学会等の発表などさまざまで、さらには個別に「事故原因究明のマニュアル」などもあり自分で確認してく
 ださい。
  7)  SIMSを用いた研究(表面分析)

                    
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