自然発火の火災 < (化学火災) <火災原因調査 <ホーム:「火災調査探偵団」
火災原因調査 Fire Cause |
火災損害調査 Fire Damage |
火災調査の基礎 Fire Investigation |
火災統計と資料 Fire Statistics |
外国の火災調査 Foreign Inv. |
火災調査と法律 Fire Laws |
火災調査の話題 Such a thing of Fire |
火災調査リンク Fire Inv. Link |
先月の火災誌(285号、Vol.56 No.6) を見ると、「バイオディゼル燃料の自然発火(名古屋消防)」
と「魚油の酸化・出火事例(東京消防)」が掲載され、今月号の東京消防でも「天ぷら油が
自然発火した火災事例」が、11月の消防技術者会議も「オリーブオイルの発熱(京都消防)」が、
10月の法科学学会では「産業廃棄物の自然発火の実験と評価」が発表されていました。
☆ 最近、危険物施設の火災や事故は増加傾向と言われていますが、
一昔(20年)前と違い、化学火災の原因が減少しています。 東京の統計から見ると。
「あげカス・油ボロ」の火災では。平成17年中4件。 昭和51年〜60年中で144件(年14件以上)
と3倍の違い。 他の「セルロイド・硝化綿・さらし粉・金属類など」はもっと減っています。
東京では身近に、この種危険物が減っているのが実態で、大学等の研究室での化学火災が
ほぼ昔どおり発生している程度です。
自然発火は@セルロイド等の酸化によるもの、A高度さらし粉・金属類などの湿気によるもの、
B含油物によるもの に大きく分けられます。
最近の自然発火と言われているのは、ほとんどがBに該当します。
しかし、この場合は、経過分類が 「27 自然発火」 「29 酸化発熱」と 「33 余熱発火」
と違って来ます。火災調査上は、この「経過分類」のとり方が「火災」の質を分けます。
含油物の油ポロが、魚油であれ、植物油であれ、油類が含まれていることにより発熱出火する
のは、なかば当然で、「余熱発火」とされた、出火時の雰囲気温度条件が調査上の必須事項となります。
ですから、乾燥機内であれば、出火前の庫内温度は、どの程度と推定されるか、
天ぷら油を含ませた油ボロなら、含ませた時のだいたいの油温度、の調査が必要です。
含油物の「余熱発火」は、油脂類の中の二重結合(−C=C−)となっている炭素に酸素が結合
するときの発熱反応により、熱の蓄熱が起こり、出火に至ります。
植物油の中には、不飽和脂肪酸として、リノレン酸・リノール酸・オレイン酸などが含まれます。
また、これらの不飽和脂肪酸が多いと「味わいが良い」とも言われます。
二重結合の不飽和結合を多く持つものほど発熱しやすく、目安として「よう素価」を用います。
☆ 鉱物油はこの不飽和結合がなく、自然発火はありません。
☆ 自然発火の概ねの基準は、昔は、「マッキー氏試験器」で行なっていました。
脱脂綿に油を含ませ、内径3.5cm、長さ15cmの金網筒に入れて、容器の中で100℃(雰囲気温度)
まで加熱して、試験します。
☆ その後、内径9cm、深さ15cmの試料油60g,脱脂綿30gを使用する「自然発火現象試験器」を用い、
雰囲気温度も140℃程度まで条件変化をつけられるになりました。
☆ 今は、まず、不飽和脂肪酸の存在をガスクロマトグラフ質量分析で明らかにし、
示差熱分析でおおよその発熱温度条件、マイクロカロリメータで発熱速度からの自然発火性を
調べています。その後、恒温槽で、油を脱脂綿に含ませて100℃条件での時間−温度変化を見る。
しかし、これらのことと、実際の現場での、大きさ(容量)と湿度、換気条件でかなり異なります。
☆ USAの基準は、Frank-Kamenetskii熱発火理論。発熱因子δ=EpQr2/{RλT2・exp(E/RT)}
(数字2は二乗のこと)。を、物質の活性化エネルギー、熱伝導率、比熱等の係数から導くようになっている
ようです。
★ 試料分析とは別に、調査上では、「油名」(例えば大豆油)ごとの不飽和脂肪酸の含有量は、
「新火災調査教本」の末尾の表にでています。これで、おおよその不飽和脂肪酸に関する検討がつきます。
次に、「油名」ごとの、マッキー氏試験結果(つまりどのくらいの余熱温度・時間で出火するか)は、
旧「火災調査技術教本」の「油脂類の発熱試験」で分かります。
(この「油脂類の発熱試験」表は出展が「実用油脂便覧1949」(絶版)です。)
☆ 「余熱発火」は、余熱の温度とその油の発火時間は逆対数の関係になりなす。
例えば、オレイン酸なら、80℃なら20時間ですが、100℃なら2時間30分と言うように。
この発火するための最低の余熱温度を「励起温度」と言います。この励起温度の視点が、
始めに説明した 「余熱発火として判定する」時の、含油物の自然発火の条件要素として意味を持ちます。
(消科研・所報 1966年版第3号 内田氏論文)
☆一番身近な例が、天ぷら油の廃油処理の際の「余熱発火」で、今月、1月号東京消防の「主任調査
員からの報告」では実に4時間近くかけて、再現実験をして原因を究明しています。
なお、油吸着処理製品の場合の実験は、神戸消防が1998年12月号近代消防で公表しています。
☆ クリーニング店では、惣菜店、パン屋、エステサロンなどの白衣、タオル類を洗濯、乾燥する際には
含油物の自然発火の危険性を良く承知しており、工業界だよりにより、洗う時に「石鹸けんにメタ珪酸
ソーデ、又は苛性ソーダ等を入れる」 「乾燥後は、必ず冷めてから、畳む」ように統一しています。
さて、自然発火は他にも、身近な塗料類・画材の絵の具などもありますので、火災調査教本を読んで下さい。
★ 昔、あげカス、塗料ボロ、セルロイド燃え残磋、研磨作業場の切削油(しょう油)、臭い匂いの活性白土など
を知ったつもりでいたのですが、某大学の研究室火災で、「燃えた物がこれだ」とわかったのですが、
関係者に聞いても、その物を知らないと言うし、どう見ても、ただ燃えた、燃えかすでしかないし、二次的に燃えた
だけのもの、と言えなくもないし。と、困ったことがありました。途中でやめて、その燃えた物を鑑定依頼し、
硝化綿の燃え残磋と判明しましたが、(硝化綿は燃えると化学記号からは分析不可能ですが、)
自然発火した物は、それ自体が燃えてしまう物ですので、普段の調査と同じつもりで、ムキになって、バラバラ
にしないで、「わからない!」と半ばあきらめて、その物を鑑定分析などに、任せることが、大事なことです。
☆ 「知識と経験に頼って、ムキに原因を究明しょうとしないで、“分からない”とあきらめ。
他の人を頼る。」 これも火災調査員の必須アイテムですよネ!