ガス給湯器の火災 < (燃焼器具火災) <火災原因調査 <ホーム:「火災調査探偵団」
火災原因調査 Fire Cause |
火災損害調査 Fire Damage |
火災調査の基礎 Fire Investigation |
火災統計と資料 Fire Statistics |
外国の火災調査 Foreign Inv. |
火災調査と法律 Fire Laws |
火災調査の話題 Such a thing of Fire |
火災調査リンク Fire Inv. Link |
A3-39 09.09.19
★ ガス給湯器に関係する火災は、毎年8件前後発生している。
その多くは、単に給湯器が発火源となったものが多く、例えば、給湯器使用中にその側でカセットボンベに
穴を開けていたため、噴出したLPガスが給湯器の火により引火爆発した、などの事例が多い。
東京消防庁の統計では、平成20年8件、 平成19年9件、 平成18年8件、の件数である。
しかし、中には、給湯器本体からの原因で火災となっているものもある。
これらを少し古い事例も交えて、記載する。
一般的な構造
奥行きの幅が薄型になったことが、高い効率性と便利性を兼ね備えるとともに、出火の要因ともなっている。
瞬間湯沸器と異なり、多量の湯量を確保するため、バナー等に機構上の工夫がなされている。
給湯器は、消費容量が大きいため、屋外に設置することを前提としているが、アパートなどの集合住宅では
必ずしも設計上想定している条件に合わないこともでて来る。 特に、設置後、周りに十分な空間が得られ
ないと、不完全燃焼に近い条件下で使用され、さまざまなトラブルを招くことになる。
昔、給湯器を設置しないで、瞬間湯沸器を理髪店(床屋・散髪屋)で店内改装して、使用したため、給湯量を
超える使用状態となり、火災になったことがある。
ガス設備器具は、設計上の想定条件にあった使用が求められる。
また、多くの安全装置を組み込んでいるので、素人修理は禁物である。
![]() |
全体の構造の概略図を示す。メーカや機能によって異なる。 図右下、ガス供給を受けると、昔と異なり、完全燃焼を効率的に行うため、 一次空気をファンで押し込んで、ガスと予混合させている。 バーナの火が完全燃焼していると、熱交換部のフィンと全体の内胴の中で 均一に熱が伝わり、内胴にロウ付けされた水管内の水を温めて、湯になる。 バーナが2口のものと、1口だが、火力をガス量と空気量で調整して強くする ものがあり、それぞれ、蛇口からの給湯と浴槽・シャワー給湯を変えられる 仕組みとなっている。つまり、小火力と大火力の2つの機能を持っている。 給湯器は、奥行きの幅が10cm程度の薄さに仕上げられているのは、この 空気供給用ファンを組み込んだことによって、可能となった。 そのため、ファンの不具合やバーナの炎のみだれなどによって、内胴に 炎が均一に伝導されないと、内胴破損などを起こして、本体火災となる。 現在は、「安全装置」が複数取り付けられ、ケース本体の裏側や内胴に 温度ヒューズ、過温度感知のサーミスタ・バイメタルが設置されている。 火災時の見分には、事前に回路図で確認する必要がある。 安全装置の取付け方法は、年度とメーカにより異なっている。 |
排気不良による火災
![]() |
アパートの廊下に取り付けられた給湯器か から出火した火災。 居住者が要らなくなったベッドマットレスを 廊下に出して、給湯器に立てかけたため、 排気口がマットレスでふさがれ、異常燃焼を 起こして、マットレスに着火して、火災となっ た。 |
![]() |
右写真は、アパートの外壁に設置されたガス給湯機が、本体上部から炎を出している のを発見され、外壁を焼損する火災となったもの。 隣棟に敷地いっぱいに建物が建てられたため、二次空気の取り入れが不完全となり、 排気空気が吸気される環境となり、酸素不足の不完全燃焼となり、異常燃焼となって、 炎が立ち上がった。 ★ 本体をふさぐような、行為がなくても、高層階の北側外壁に設置されていると、強風で 排気空気が吸気される環境となって、“不完全燃焼”を起こすこともある。 |
![]() |
|
この2事例のように、給湯器は、給排気ともに多量の空気を必要とする構造となっていることから、 排気・吸気が不十分な環境になると、出火する。 火災とならなくても、排気空気が室内に入る構造だと、建物内がCo中毒を呈することになる。 |
内胴破損による火災
![]() |
![]() |
少し古い事例ですが、内胴とバーナ取付け部の接合部付近 が欠損溶融し、炎が吹き出して、本体全面カバーを焼損した 火災です。 安全装置の温度ヒューズや過熱防止用バイメル・サーミスタが 設置されていた。 炎監視用の「のぞき穴」があつたため、この部分から流入する 余分の空気のため、燃焼バーナの炎が伸びて(不完全)、内胴 の一部が局部的に過熱され、熱により溶融し、火災となった。 |
![]() |
![]() |
本体は、給湯能力16号と呼ばれ、都市ガス 14,000kcal/hある。 小型化のため、下の絵のように、バーナの 燃焼部装置と内胴の大きさをほぼ同じに するため、実態としてスカートを設けて内胴 と燃焼部をつなげている。 内胴の欠損溶融箇所は、そのスカート部と 内胴の接合部で、水管の接合ともなっている。 本体前面カバーと焼けが一致する。 |
![]() |
原因は、一次空気のファンの能力が、ゴミの付着等で送風量が落ち、全開運転をすると、 空気不作による不完全燃焼を発生されることが、実験で確かめられた。 このため、炎がゆらぎ、局部的に過熱されて、内胴とスカート部の接合部で、厚みの違い による熱収縮による亀裂が発生し、これから大きくなって、溶融欠損となった。 このため、本体表面が焼損した。 このように、小型化は、微妙な伝導熱の均一化を要求する構造となっており、供給空気の 給排気バランスで、不完全燃焼を起こすことになる。 |
|
ガス給湯器と瞬間湯沸器があるが、室内で少量の使用に適するのが5号以下のもので、通常、瞬間湯沸器と呼ばれ、 風呂やシャワーなど多量に長いし時間に渡って使用されるのが16号程度の「給湯器」と呼ばれる。 ガス湯沸器は、1号が1分間に、1?の水を25℃温度上昇させる能力を示す。(15℃ならどし40℃に温まる。) また、1号=1.75kWとなる。 (1.75kW=1,500kcal/h ) 瞬間湯沸器では、3号以下のものがほとんどである。 |
内胴の欠損から、本体背面カバーを焼損し、建物の壁内へと延焼した事例
![]() |
![]() |
![]() |
上①写真は、外壁に取り付けられていた給湯器。外観からあまり燃えた兆候は見られない。 しかし、上③の写真が示すように、外壁を取り除くと、壁の筋交いと間柱が焼損し、特に、間柱のほとんどが焼失している。 建物の内部の天井付近に煙がむ漂ったことから、火災を発見し、外壁等を破壊して、壁内が強く使用村していることが分 かった。 上の事例と同じように、給湯器の内胴に水管との接合部に溶融欠損が見られる。 このガス給湯器も、給湯能力16号で、最大消費熱量は30,000Kcalであった。 内胴(熱交換部)の上部には、スリット状のフィンがあり、ここに緑青やゴミが付着して、排気不良となつたため、給排気の バランスがとれずに、内胴の一部で局部過熱が発生し、溶融欠損して、その熱により本体裏面カバーから外壁に熱伝導し て、内壁内で火災拡大した。 |
||
昔、出火箇所と出火原因を間違った火災現場があった。 場所は、ラーメン屋の厨房の火災で、天井と内壁の一部と2階居室が焼損したものだった。 当時、ダウンライントの火災が多くあり、現場の焼損物件に、天井で使用していたダウンラインが あり、その近傍でケーブルの短絡痕も見られ、関係者の供述内容からも天井付近の出火がもっ とも合理的な判定であることから、「電気の火災」と判定した。 数日して、建物の解体中に、解体業者から内壁が強く燃えている、と連絡があり、 調べなおしたら、上の事例のように、厨房用に使用していたガス給湯器から出火し、裏側から、 壁内に延焼して天井裏に拡大し、さらに2階へと燃えたことが判明した。 苦い経験である。 火災調査では、“思い込み・出火箇所の見込み違い”により、「火災原因を誤る」ことがある。 経験を積んだつもりでいても、火災原因の判定は難しいことが多い。 できるだけ多くの情報を丹念に集めて、組み立てること、が「王道」のような気が するが、分かってはいても、今だに、正解にはたどり着かないもどかしがある!。 |