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ビニール紐,PPロープの火災
                               A3−43    10’11/13

 1, 荷造りロープ(紐)の火災 
 
 荷造りロープ(ビニール紐)は、白色系のより網みされたポリプロピレン製のロープで、安価で丈夫で、使いやすい
 ことから、家庭を含めて非常に多い使用されている。そのロープ(紐)に関係する火災事例である。

 ここで紹介するのは、今年(2010年4月)東京都文京区の日本医師会館で2日午後1時35分頃、配達業者が届けた
 鉢植えが、燃えて応接室の床が焼けた火災があった。始めは、テロや自然発火などがとり騒がれたが、結局は、
 包装の紐をライターで切断した時の「残り火」がラッピング用紙に拡大して、火災となったもの判明した。

 この新聞報道にあたって、このH.Pで掲出した写真を再度掲出するとともに、今年(2010年)全国消防技術者会議で、
 福島市消防本部の七島真司氏が「PPロープ火災の調査について」を発表されているので、その論文を紹介します。


  
★ 燃焼性状

★ 燃焼性状
左端から、紐の先端に着火させると、ロープの樹脂を溶融させる。溶融した樹脂も「火」が着いた
まま滴下していく。滴下していく時に「消える」ことはない。もちろん、ロープ先端は火がついた
まま継続して燃え進んでいく。

 PPロープ(紐)は、ライターで燃やして切断する室内の蛍光灯の下では「火が見えにくい」ことがあり、切り口をきれい
 にしょうとすると必要以上に燃やしてしまうことがある。さらに、切断溶融と相まって、火の付いた溶融物が「火種落下」
 することである。
 溶融樹脂が火の着いたままホタホタと落ちて、この火種が結構エネルギー量の大きい「火の玉」なので、落ちた所に
 紙などがあると燃え上がりやすいことである。
  PPロープ(紐)をライターで燃やして切断することは、切断している「紐」部分への注意が、溶融滴下している
 「火の玉」には向かないため、足元で燃えている、または、燃え上がることがわからいことである。
  また、燃えさしの「残り火」の残りやすいく気づきにくい。
 △ PPロープ(ひも)は、ライターでの切断には十分の注意が必要です。
 

 ★ 原因分類から。

 この場合は、ライターを用いて切断している行為そのものは、別に「火災」とは関係しません。
 着火物の取り方が分類の基本で、ロープ(紐)から次に燃えたもの、例えば、紙くずや床板などが燃えたことにより
 「火災となった」ことを原因分類とします。
   そのため、[発火源]は、「火の着いた紐類」
          [着火物]は、「包装紙、床板やゴミなど」
          [経 過]は、「接炎」又は「火源落下」となります。

 <原因分類の解説>
 発火源を「ライター」、経過を「使用方法不適」、着火物を「荷造りロープ」としてしまうと、ライターの使用が本来用途
 が火をつけることであり、そのことで「喫煙」や「切断」などは目的でしかなく、このことから使用方法の不適とはなり
 ません。また、もともとロープに着火させているので、着火物をロープとすることも「火災」との関係で不適切となりま
 す。着火物をロープとすると必然的に経過は「放火」となります。


 参考の新聞記事
 [2010年4月2日午後1時35分ごろ、東京都文京区本駒込2丁目の日本医師会館に届けられた鉢植えから突然発火、
  床が数十センチ四方にわたり焦げた。けが人はなかった。
  駒込署が発火の詳しい状況を調べるとともに脅迫などの疑いで捜査を始めた。同署によると、鉢植えは4階の応接室
  に届き、30代の女性職員が受け取った。その後、他の男性職員2人が包装を外したところ突然発火し、炎が数十cm
  上がったという。]

  [<日本医師会館>火災、実は職員の不注意  4月8日11時7分配信 毎日新聞
  東京都文京区の日本医師会館で2日、配達業者が届けた鉢植えが発火し応接室の床が焼けた火災で、医師会の60
  代の男性職員が警視庁駒込署の任意の事情聴取に 「はさみが見当たらなかったので、ライターで包装用フィルムを
  焼き切ろうとしたら引火した」と話していることが分かった。 職員は「火災当日はどうしても言い出せなかった」と話して
  いるという。
  捜査関係者によると、医師会に送られた鉢植えは、1日に行われた医師会会長選の当選祝いに都内の製薬会社が百
  貨店を通じて贈ったランだった。透明のフィルムでラッピングされており、職員数人で開封していたところ、突然発火。
  高さ数十cmの火柱が上がり、床の一部が焼けた。 駒込署は当初、脅迫事件も視野に捜査していたが、発火装置や
  発火物は検出されなかった。鉢植えの化学肥料が何らかの原因で発火した可能性も検討したが、警視庁科学捜査研
  究所から「考えにくい」と回答があり、出火原因は謎のままだった。 署員が火災現場にいた職員らから改めて事情を
  聴いたところ、男性職員が数日前になって「問題が大きくなり、これ以上迷惑は掛けられない」と落ち込んだ様子で経
  緯を話し始めたという。]

福島市消防本部の七島真司氏が「PPロープ火災の調査について」から
 「第58回全国消防技術者会議」  開催:総務省消防庁消防大学校消防研究センター 
   平成22年10月22日
 
 福島市での火災。 出火−2007年11月 11時20分頃。
             焼損−1階事務所の内壁、床若干、及び、机1等焼損。

 原因は、建物所有者が、屋外の作業で梯子を支柱に固定するため、50cm程度の紐が必要となり、作業場内にあった
 PPロープの丸束から、その長さ分をライターで焼き切って、持ち去った時に、ロープの丸束側切断部に「残り火」が残り、
 それが拡大して火災となった。
 出火当時、関係者の供述では、そのような行為を否定していたが、現場見分と実験等から消防が特定し、関係者の供述
 も得られて原因が判定された。

 この際の原因判定の大きな要素となったのは、実験により、焼損物件のプラスチック製溶融物が、PPロープの燃焼残存
 物と同定され、出火時間の経過と実験経過が一致、さらに、切断した「紐」の両端にライターで切断したと同じ形状である
 こと、から原因救命に至っている。

 
☆ PPロープの燃焼実験結果
  PPロープ長さ10mの丸束では、点火後5分で、丸束全体に火が回り、溶融後も樹脂が自己燃焼し、11分経過で最盛
  期となり、20分で自然鎮火する。
  PPロープ長さ30mの丸束では、7分で丸束全体に火が回り、10分経過で炎の勢いが増し、13分で最盛期となり、23
  分で鎮火している。

 ☆ 溶融物
  PPロープの燃焼残磋物は、黄土色の溶融樹脂で、割って仔細に見ると微量の白い繊維屑がみられる。

 
☆ 燃焼時の特性
  「ロープ丸束から紐の一部を取り出して、切り取る目的で、燃焼されると、紐状態のPPロープは、着火後穏やかな自己
  燃焼を継続し、丸束外周部に炎が接炎すると丸束外周部のPPロープを連続的に切断、炎で切断された部分は各先端
  部に着炎してそれぞれに燃焼を開始し、相互作用で火力が強まり、間もなくPPロープ丸束の中心部へ向けて着炎が進
  み丸束全体に炎に包まれる。
  PPロープの丸束は、燃焼すると溶融し、着炎状態で液面が拡大、ロープが置かれている傾斜などの条件によっては
  着炎状態のまま流動・滴下し、鎮火後、この溶融物は黄土色の固形物として残存する。」


                    
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