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カセットこんろの火災
                              A4−35   08.11.04 

情報提供:五右衛門氏 

  1,カセットこんろ
 
 ★カセットこんろは、携帯用として用途の範囲も広く、多くの場所で用いられている。
  特に、これから冬場の「鍋物」には、台所のテーブルで煮炊きできることから、使用が増えます。
  {カセットこんろ火災}は、東京消防庁管内では、年間約20件発生しています。
  その主な原因と対策の注意点は次のとおりです。

 @こんろを2台並べて使用する。
  取扱方法が不適切な例としては、2台のカセットこんろの上に鉄板を置いて、焼きそばなどを調理する
  もので、バザーやピクニックなどで見られます。この場合は、鉄板の放射熱が下方に向かっい、ボンベ
  本体が加熱されて、爆発し火災となります。(このホームページの「エアゾール缶」も参照してください。)

 A大きすぎる鍋を使う。
  同様に、1台のカセットこんろでもこんろ本体よりも大きい、鍋やフライパンなどを使うと、同様の
  火災を招きます。
 
 B炭を起こす。
  バベーキュ用の炭を早く起こすために、カセットこんろを使用して、炭を起こす人がいますが、これはボンベ
  本体が加熱されるため、爆発の危険が有ります。
 
 CIHクッキングヒータなどの他の調理器具の上で使用するのも危険です。
 
 Dそして、次に、カセットこんろとボンベの装着が不適切な場合に、ガス洩れが発生して、爆発・火災と
  なるものです。
   
   2, 火災事例 
 
  ★  火災は、一般住宅の台所で、カセットこんろを使用中に こんろの下から50cmの炎が上がって
   火災となつたものです。
  
 火災の主な原因は、他社製ボンベを使用し、さらに「誤装着」したものでした。
   現物を見分すると、カセットこんろのメーカが指定するボンベでない、他社製のボンベが取り付けられ
  また、「切り欠き」セット部に正しく装着されていない状態で、押し込まれていた。
  そこで、この火災は、カセットこんろの指定するメーカでない、ボンベを使用し、かつ「切り欠き」部に正
  しセットされていないためにガスが漏洩して出火したものと判定しました。
  しかし、この火災の「原因調査」から思わぬ結果も導かれました。
  @ 凹凸が噛み合っていなくても、押し下げレバーが動いて装着される。圧力装置のボンベ受け口に
   確実に入っていなくても、ガスボンベからガスが出てしまう。このため、受け口付近でガス洩れが
   生じる。
  A 今は、凹凸部が確実に噛み合わなくても、使用できるタイプのカセットこんろが出回っており、ボ
  ンベのJIS規格に対して、カセツトこんろの規格はゆるやかで、どのようなタイプのボンベにでも利用
  できるようになっている「カセットこんろ」が、販売されている。
  「切り欠き」部とは、
  昭和55年頃にカセットコンロの火災が多発し、もともとはこのような「正しく装着する」機構となつてなか
  ったことから、ボンベの大きさもマチマチで、セットの仕方でどのようにでも装着し、ガス洩れ事故が発生
  て火災となったことから、消防側からの「要望」で、カセットこんろの圧力部とボンベのかみ合わせ「切り
  欠き」部を設定し、メーカごとの共通の仕様とすることになった。
  これにより、凹凸の形状で、同一メーカ製のこんろとボンベが使用されることが前提要件とされる工夫と
  なった
 
    現場の状況
   
 火災現場の状況。
 火災の原因となったカセットこんろ。  
 各部の名称。
 ガスボンベを、こんろの「圧力感知安全装置」の「切り
 欠き部(凸部)」に、ボンベ側の凹部をあわせる。あわ
 せるとだいたいは、説明文が上の来るように装着される。
 圧力装置の凸部とボンベの凹部が重なる位置で、こんろ
 の「カセットレバー」を下に下げると、「ボンベガイド」がボ
 ンベの底を前に押しやって、凹凸がかみ合い、確実にボ
 ンベ受け口に入る。(火災調査教本、参照) 
 
 
  ★ ボンベとこんろのあわせによる意外性 
   
     
  通常は、圧力装置部の凸部と ボンベの凹部が噛み合うと
  ボンベが奥まで入って、キッチリ入り、ガスが出る状態となる。  
  ボンベ受け口は、2つのOリングが
 ボンベのステムをくわえ込む形なる。
     
    今の販売されているカセットこんろは、どのメーカのボンベでも共通して使用できるようになって
    いる。
 
    ☆ このため、凹凸部の形状にはあまり関係なく、凹凸がまったくあわなくても、ボンベの大きさ
     (長さ)が同一なら、ボンベガイドが動いてレバーが下がり、点火できる態勢となる。ボンベの
      ステムを受ける「こんろ側のボンベ受け口」の構造が向上して、ガス洩れをおこさないとされ
      ている。

    ☆ 今回の火災では、ボンベのステム長さが5.01mmであった。
     JISの定めるボンベのステムは5.0〜6.0mmであり、ボンベはJISに適合していたが、こん
     ろの想定するボンベのステム長さが5.3〜5.8mmで設計されていた。
     このため、ステム長さが足りないために受け口のらOリングが、完全に「くわえ込む」状態とは
     ならなかったため、ガスが洩れたものであった。
  なぜ、こんなこんになったのか?
  カセットこんろとボンベの「くわえ込み」の構造をもう一度、チェックしてみる。
  少し、見にくい図ですが、こんろの受け口は、ボンベの先端のステムが刺さると、ステムが押し
  下げられ、ガスが出る仕組みとなっています。このとき、先端の“小さいOリング”がガス圧で押
  し下げられ、斜線の構造材の部品が動いて、“大きいOリング”が押しつぶされ、ステムをしっか
  りと「くわえ込む」仕組みとなっています。
  この場合のガス洩れ防止は、小さいOリングと大きいOリングの2つが連動してガス圧に対応した
  動きをすることが必要で、このためには
  @中心軸が水平で傾きがなくステムが刺さっている。
 

  A2つのリングが連動して動くステムの長さが足りている。
  ことにあります。
  
  今の販売のカセットこんろは、ガスボンベの大きさや形がJIS
  で規格されていることから、@の水平がとれるため、傾きが生
  じないため、凹凸をあわせる必要がない。Aのステムの長さと
  ボンベの外枠とステムの飛び出し長さ(ステムハイト)が均一なら、
  2つのリングが連動するので、どのメーカのボンベでも使用が
  可能である。と言う事になる。
  
  そこで、今回の火災は、カセットこんろメーカが希望したステムの長さに足りない、ボンベがJIS規
  格品として販売されていたことから、“微妙な条件下”で2つのリングが完全に連動しなくなり、不
  完全な「くわえ込み」となって、受け口からガスが漏洩したことになります。
  

   ☆ 通常のガス器具検査は、同一メーカの「ガスこんろ」と「ガスボンベ」に限って、行なわれる。
    しかし、現在の「カセットこんろ」は、そのような同一メーカ製にこだわらないことを前提とし
    て設計・販売されている。
    製品の販売ではこれがあたりまえだ、との認識が少し欠けていたことが改めて、分かった。
    昭和50年台に「カセットこんろ」火災を追いかけて、規格が統一されている中で、このような
    齟齬が生じて「火災」が発生するとは、まだまだ、火災調査は広くて深いものだと実感した。
   ☆ 火災原因調査上は、「メーカ指定でないボンベで、凹凸をあわせずに使用したこと」として
   ガス漏洩火災を「誤装着」の“経過”でとったが、昭和55年頃なら、まさに“誤装着”だが、今は
   「メーカ指定の有無や凹凸を問わない」ことが前提とした製品機構として、販売されている中で
   「誤装着」は、果たして、適切な“経過”なのかと思う。
   火災の“経過”も、昭和時代の火災の出火機構の考えに立って、決めてしまうと、時代の流れを
   的確につかめなくなっているのでは思える。

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