放火 < 火災原因調査 <ホーム:「火災調査探偵団

火災原因調査
Fire Cause
火災損害調査
Fire Damage
火災調査の基礎
Fire Investigation
火災統計と資料
Fire Statistics
外国の火災調査
Foreign Inv.
火災調査と法律
Fire Laws
火災調査の話題
Such a thing of Fire
火災調査リンク
Fire Inv. Link

放火

          A1-09   07.12.09                          転載を禁ず

構 成 : 1) 統計から見た「放火火災」の現況 ⇒東京消防管内の放火火災の分析結果
      2) 「放火火災」と景気の動向との関係
      3) 消防の火災調査で分類する「放火」と「放火の疑い」とは?
      4) なぜ、「放火」と「放火の疑い」の解釈を、行為の妥当性などをあまり考慮しないものにしたのか?
      5) 「放火」と「放火の疑い」の統計的な傾向
      6) 「放火」と「放火の疑い」の検討
      7) 江戸時代の「放火」の罪
      8) 現在の刑法上の放火の罪
      9) 放火犯罪者の傾向 
     10) 放火火災の現場調査の要領
  

 1, 統計から見た放火火災の現況                                転載を禁ず

 ☆ 火災統計から、東京消防での最近の年別推移
  放火火災が、東京消防管内で火災原因の第一位を占めたのは、昭和52年の1,544件を記録してからとなる。
  以後、常に、第一位を占めている。この時に放火火災の全火災に占める割合は19.5%でしかなかった。その
  後、徐々に件数と比率の増加傾向が顕著となっていった。

 東京での、平成元年から18年間の統計を
 左図に示す。
 放火火災は、平均して年間2,400件発生し
 ている。[±10%]の幅で推移しているので
 ある意味、現在では一定の件数が毎年発生
 しているとも言える。しかし、ここ3年間では
 明らかに、減少傾向にある。
 全火災件数に占める比率は、平均して
 37%と、これも[±8%]の幅で上下して
 いる。
 過去、最も、放火の比率の高かったのが、
 左図に示すように2,671件の放火火災が
 発生し、41%が放火を占めた平成10年
 である。
 いずれにしろ、東京消防の全火災件数の
 約4割弱が「放火」であることは、異常な数
 値とも言える。

 ☆ どのような、傾向が見られるのか?
  放火を、発生場所で調べる(平成18年統計)と、53%が建物敷地内・公園・道路・屋外駐車場などの「屋外」で、
  43%が「建物」、残りの4%が「車両」となる。
  それぞれの占める割合では、建物火災の中の放火火災が占める割合は24%、車両では26%、屋外では58%
  となる。屋外の火災では、約6割が「放火」によるものであることから、屋外の火災(「その他の火災」に多く分類される)
  に対する警戒や対策が、火災予防に直結いると言える。
  この内訳を、下の円グラフで示す。それぞれ、傾向としては、「人目に付かない」所では共通点している。
  
  ・「屋外」では、敷地内・公園・道路が多くを占めているが、いずれも「ゴミや紙屑類」に放火されている。
    敷地内としては、建物の周囲に燃えされるような放置物品があると、危険性が高いと言える。
  ・「建物」では、共同住宅などの廊下・階段などの共有部分で、集合郵便受けや掲示板などに放火される。
    建物用途では、共同住宅が最も多く40%を占めている。
  ・「車両」では、バイク・荷台・外周部が多くを占めている。全放火火災件数では4%でしかないが、バイクや
    トラック荷台などでは、隣に駐車されている車に延焼することがある。

    建物における出火場所       屋外における出火場所     車両の出火場所

     
 ☆ 月別、時間別変化

 
 ☆月別分布
 東京消防の平成16年~平成18年までの3年間の「放火火災」と
 放火火災を除く「一般火災」の相違を左図に示します
  放火火災は、中央部の赤線の〇で、だいたい円に近く、11月~
 1月の3ケ月間がやや多くなる傾向であることが分かる。
  反面、「一般火災」は青色の〇で示すように、11月~3月までの
 5ケ月間、冬の「火気を使用する季節」に多い傾向ははつきり出て
 います。つまり、一般火災は“冬”の火気の取扱に起因すると思え
 る季節傾向が明確ですが、「放火」は季節に関係なく、発生するこ
 とが分かります。
  月別の変化は、放火火災は月別変化りの少ない傾向がある。
 
 
 
☆ 時間別分布
 東京消防の平成16年~平成18年までの
 3年間の「放火火災」と放火火災を除く「一
 般火災」の相違を右図に示します。
 この場合は、放火火災のグラフは、2軸表
 示としましたので、グラフの数値は異なりま
 す。
  赤色の〇が放火火災です。
 7時から14時の日中は少なく、24時から4時
 の真夜中の4時間に多い傾向が明確です。
  青色の〇はいつ版火災です。
 逆に7時から増えてきて、17時から20時が
 ピークとなり、徐々に減少して朝の6時が最
 も少ないです。つまり、調理時間を中心とし
 た時間帯であり、人の動きも昼から夜に移
 動する時間帯である、ことから、火気や錯
 誤などの失火の要因などが増えるためと
 考えられます。
  時間別変化では、放火は夜間に多い
 傾向が明確である。
 
 ☆まとめると 
   ○ 月別な季節傾向はあまりない。
   ○ 時間は、19時から4時までの夜間、特に、24時から4時頃が多く、日中の10時は最も少ない。
   ○ 場所は、建物では共同住宅と住宅が多く、共同住宅では玄関ホール、廊下などの共有部分で、住宅では
           軒先などの外周部、及び庭先や物置などである。
           屋外では、公園、道路などで、車ではバイクとトラック荷台などが多い。
   ○ 着火物は、建物では新聞紙、雑誌類等の紙類。屋外などではゴミくず、ポスター、のぼり旗など、車両では
           ボディカバーである。
   ○季節は、年間降雨両が少なく、平均湿度が低い年に多い。
                           (地域的傾向などは別の章で。)
      
 2, 放火火災の景気との関係

 ☆ 放火火災が景気の動向に左右されるか?
  1,の「平成元年から平成18年の放火火災件数の推移と放火発生率の変化」を見ても、東京での「放火と不況」との
  傾向は、まったく見いだせないし、また、現在の「放火」が常に全火災の4割近くを占めている現況では、統計的にも
  無理がある。
  「放火火災」の景気などとの関連性については、戦前の昭和9年の不況時代に、全国消防長会で多数(約2,500件)
  が発生し、この時季の世相を反映して、「不況になると放火火災が増える」とされ、昭和50年の不況時にも放火火災の
  発生率が高かったことなどから、「放火と不況」との関連性が定説となり、放火火災を不況型犯罪と呼ばれるように
  なった。
   そこで、次に下のグラフを見ると。 
 ☆ 左図は
 昭和50年か
 ら平成6年ま
 での約20年
 間の放火火
 災件数の推
 移です。
 この場合には
 放火火災の
 増加傾向が
 強くでる時期
 と「不況」とが
 ほぼ一致して
 いる。
     (上グラフは、不況期として網斜線としたが、「完全失業率」とリンクさせている。)
   アメリカ(USA)を含めて、諸外国では、「放火火災と景気との関連」は否定されている。
  しかし、東京の場合は、特に、この昭和50年からの約20年間は、「不況」の周期と「放火増加の契機」とが
  うまく一致している。一慨には、言えないが、経済成長で「火災」が増加しているような傾向がある時期には、
  その後に「不況」と連動して「放火火災」の発生も見られるのではないかと、思われる。
  ある時期の、ある地域での、「景気」圧力が顕著に見られるような場合に生じた「あだ花」かも知れない。
   直線的に「○○が火災発生の社会的要因である。」などとは、複雑な社会世相の中で、立証することはできない
  ことだと思う。ただ、上のグラフから見る限りは、昭和50年からは、そのような“傾向が見られた”と言う事である。
  なお、UASでは、日本の放火と異なり、ドラッグにからんだ犯罪としてのガソリンを使用するなどの悪質な「放火」
  が多いことなど、国別ではまつたく異なった土壌の中で発生していることからも、「放火火災件数」を要因分析する
  ことはできないだろう。 

  東京消防の放火火災の対策経過と関連条文

  上グラフの火災件数の増加が顕著となった、昭和55年、56年、57年のこの間の放火火災の増加は528件、放火
  火災の占める割合も23%から30%と、7ポンイトも増加した。また、昭和55年08月の新宿西口路線バス放火事件
  が発生し、放火火災の恐怖を巻き起こしている。  (昭和55年=1980年、昭和60年=1985年、平成5年=1993年)
  1) 昭和58年4月から59年3月の間。  「東京消防・ 放火火災予防対策会議」が設置され、審議検討された。
  2) 昭和60年06月「放火火災予防対策の推進」が、上の審議内容などを精査して通知され、以後は
    この文書にだいたい沿うこととなつた。
      ・事業所等に対する指導  ・一般住宅等にた意する指導  ・広報活動の推進  ・関係機関等との連携
    関係機関等との連携では、まだ、当時は「放火」は捜査機関の領域なので、捜査機関の対応を見て行なうべき
    ことで、消防からの“広報活動”は積極的にしなくても良い、との、一歩引いた、感じがあったことから、積極広報
    への転換として、取り上げられている。
  3) 昭和61年度から63年度。 放火火災の調査研究を、『日本火災学会』に研究委託
      報告書として提出され、報告書は3部に分かれ、
        ・放火火災予防対策に関する基本的なあり方 
        ・自主防災組織、防火管理組織等社会面からの放火火災予防対策
        ・都市計画・建築環境、法制・行政面、社会心理・青少年等の教育面からの放火火災予防対策
  4) 昭和62年06月から平成元年3月の間。 「東京消防・放火火災予防対策推進委員会」を設置して、対策強化。
  5) 平成5年から「放火火災予防キャンペーンの実施」
                                           などとなっている。

 ☆ 消防法や政省令などには具体的な「放火対策」はない。
 ☆ 都・火災予防条例(2007年12月現在)
   (空地及び空き家の管理)
   第25条の2 第1項 (省略)
      〃    第2項 空き家の所有者又は管理者は、当該空き家への侵入の防止、周囲の燃焼のおそれのある
                物件の除去その他火災予防上必要な措置を講じなければならない。
  (住宅防火対策の推進)
  第55条の5の2 第1項 消防総監は、住宅火災を予防し、人命の安全を確保するため、関係機関、団体等と密接な
                連携を図り、次に掲げる事項の推進に努めるものとする。
                ① (省略)
                ② (省略)
                ③ (省略)
                ④ 放火火災を予防するための環境整備に関すること。
                ⑤ (省略)
             第2項 (省略)  
  第55条の5の3 第1項  都民は、前条第1項各号(3号は除く)に掲げる事項に配慮し、住宅火災の予防に努め
                 なければならない。
             第2項 (省略)
 
 ☆ 国の放火火災対策

 ★ 「放火火災防止対策検討会」。
  2004年4月(平成16年)に東大 小出治教授を委員長として設置され、その検討内容が報告された。
   報告書は「放火火災の防止に向けて  ~放火火災防止対策戦略プラン~ 」と言う。
    総務省消防庁のホームページに掲載されている。
 
  ★ 過去の経緯
    平成3年に、空き家からの火災を防止する放火対策の意味で、火災予防条例準則を示す。
    平成6年 警察庁・建設庁等の関係省庁と連携した「放火火災予防対策推進連絡会議会」を設置。
    平成9.10年 学識経験者からなる「防火対象物の放火火災予防対策に関する調査研究委員会」を設置して検討。
    平成11年度に 「放火火災予防マニュアル」を作成し、全国消防機関に配布。
  

 3,消防の火災調査で分類する「放火」と「放火の疑い」とは?
 
 ☆ 経過分類では、{放火91}{放火の疑い92}{火遊び93}を分類コードとして分けている。
 では、まず「放火」とは、どんな場合のことを対象として分類しているのか?
 
 東京消防では、昭和37年12月予調査第698号予防部長指示により、放火等の取扱の斉一を帰した。
 この中では、行為の違法性や刑事責任の有無にとらわれず、当事者の行為を第一義に判断することとなった。
 ・放火は、何者かによって放火(火を放つことによって火災を発生させる行為)されなければ発生しなかつたであろう
  と認められる火災。
  被疑者の判明や不明、及び供述内容にかかわらず、客観的な調査により判定する。
 ・放火の疑いは、放火による火災と考えられるが、なお、他の出火の可能性を残す火災。
  ただし、他の出火の可能性が大なる場合は放火の疑いとしない。
  また、他の出火の可能性については不明であるが、放火については多少の可能性を有する火災は、放火の疑い
  とする。
 ・火遊び(弄火、ろうか)は、18歳未満の少年の行為時、火災発生を直接の目的としなかった火遊びの火災。
  ここでは、14歳未満はすべて「火遊び」となるが、14歳以上は放火とされることもある。
 
 この分類の解釈が、以後、東京消防の基本となり、また、現在の全国消防学校標準教科書「火災調査」に掲載される
 内容となっている。
 ここで、さらに過去を溯ると、「放火」は
 1) 昭和23年自治体消防の火災調査が始まってから昭和35年までは,
    「放火は、被疑者の判明した火災」となっていた。
 2) 昭和35年から37年までは、
   「①被疑者の判明した火災、または②明らかに放火と思われる火災」となつていた。
   「放火の疑いは、①被疑者は判明しないが放火と思われる火災  ②放火と思われるが断定の根拠のとぼしい火災」、
   となつていた。

 このように、分類の解釈が時代により変わっており、例えば昭和28年と昭和38年の統計、あるいは昭和58年の統計
 数値を比べて、もっともらしく、「戦後は、放火は少なかった。」さらには「戦中は、放火はなかった。」などのコメントは、
 もともと統計のとり方が違っていた時代背景を無視した、表現となる。

 4 なぜ、「放火」と「放火の疑い」の解釈を、
    行為の妥当性などをあまり考慮しないものにしたのか?
 この上の件について、
 消防機関の人ですら「・・コンクリート壁に張られたポスターが燃やされたことを{放火}とするなど・・・{いたずら}に
 分類すべきことまでも放火としている・・・東京消防の放火の判定は、いささか大雑把すぎて意味をなさない場合
 が多い。もっと、放火犯の追跡調査などに使えるような放火火災撲滅につながる、正確な火災調査判断にたつべき
 である。」と、さらに「放火火災の捜査権を持つべきだ」などと言及されることもある。
 その趣旨は、「放火」とは、「客観的に見て、公共危険性の高い場合、又は、延焼したならぱ公共危険と判断される
 ような場合に限る」べきではないか、との含蓄ある意味である。そして、後ほど、統計的に示すが、このような「判断
 に立って」解釈しているように見れる地域も多くあり、さらに、統計からは、おおよその地域では、上欄の昭和35年
 解釈である  「放火は、①被疑者の判明した火災、または②明らかに放火と思われる火災」
 を適用しているようにも見られる。
 
 そのように、東京消防が取っている、「放火」と「放火の疑い」の解釈は、敷衍化(ふえんか)しすぎている、
 とも言われている。
  このように(東京)消防の火災調査の「放火」の分類に疑念を抱かれる方もいる。
 しかし、この議論は、いささか、実態を見ていないように思えるので、答えさせていただく。
 もっとも、将来は、「放火」分類解釈の意味を変えることが、あるかもしれない、ので、恒久的なものではない。
 
 昭和37年に「放火」の考えを統一したのは、火災予防の面から“広義”に捉えて、放火火災対策を俎上に乗せる
 ためのものである。
 「放火」とは、社会通念上では、刑法上の放火罪の適用対象、つまり、公共危険性の有無などを考慮した対象と考え、
 消防の火災調査上の放火と刑法上とが違った運用をしているとは一般には思わないが、消防は“火災予防”に視点
 を置くために、刑法概念とは違ったものとなっている。要約すると、予防行政上の放火とは「火を放つ行為があれば
 よく、放火しょうという意図の有無を要しない」こととなる。
 「放火」を犯罪として成立させるには、行為者の責任能力など刑法上の要件を必要とする。
 しかし、この点に着目すると、「路上の掲示板のポスターへの放火」「のぼり旗への放火」「集積所のごみの類の放火」
 「公園の立ち木の放火」などは、もともと公共危険性も乏しく、犯人が捕まらないことも多く、刑法上の判断に立つと、
 大部分が火災原因分類の適用できなくなり「不明」と分類される。
 果たして、その考え方が妥当だろろう?
 
 放火犯が、怨恨などの犯罪者の性格を有し、対象物を特定して「放火」する場合は、旧来の犯罪者の類型に合致し、
 分かりやすい。しかし、昨今の「放火」は、ある日にムシャクシャして2件放火したら、次は10日ほどして4件放火し、
 さらに1ケ月して3件放火する、その対象も「ごみ」だったり、「ポスター」だったりする、このような「連続放火」であって、
 しかも無目的な場合が多い。この時に、たまたま放火した「ごみ」がそばの住宅に燃え移って、死傷者を出す住宅火
 災に拡大すると、それだけが旧来の考えでは「放火」となる。
 火災予防に視点を置くと、住宅が燃えた、死傷者がでたなど誰が見ても「放火火災」となる場合だけでなく、その前
 から発生している、「クズのような放火」が、予防対策上において「放火」と分類し、事前の策をしていなければらない
 ことは明白なことである。
 また、警察の照会では、この種の多数の「クズのような放火」について、調査依頼されることがある。つまり、犯人を
 逮捕して見ると、犯罪としての「放火」の発端は、「ごみ屑に放火したら、気分が晴れた。その初めは○月○日の公園
 横のごみ集積場所でした。」と供述されると、捜査上その「放火」を特定しなければならないことがあり、消防署に相談
 に来ることがある。火災調査書類として正確に記録が残されている{クズのような放火火災}が、現在社会での「放火」
 犯罪の基本形態となつている。
 
 このように、消防の火災調査の「放火」のとらえ方に疑念を持たれる方は、「放火犯」と言うイメージのとらえ方が、実際
 の犯罪現場と違っていることの現実性を理解しないことが大きな原因ではないかと思う。何ケ月にもわたって、イロイロ
 な所に、さまざま物に「放火」する、そのような連続放火こそが、死傷者発生につながる悲惨な放火火災を生むこととな
 る現実を理解していただきたい。たまたま、あった「掲示板のポスターに放火」されたぐらいの公共危険性のない火災は
 別に「いたづら」とかに分類しておけば良い、ように思われるが、今、述べたように、ポスターの次は、立木だったり、
 その次は車両カバーだったり、そして、住宅の軒先だったりと、次第にエスカレータしないとは、誰も判断しえない、また
 どの時点から明確に「放火」として区別する術も現場的には、持ちえないと、言える。
 その意味でも、初めてに定義したように、「燃えた焼損物件から見て、他の火源が考えられなければ、コンクリート壁に
 張られたポスター1枚であっても、その状況から「放火」と判断する。」ことにしている。
 それが、結果的には、もっとも確かな“予防行政目的にかなった”解釈であると考える。
 そのためか、火災全体に占める「その他の火災」の割合が、東京消防は高めに出ている。
 つまり、屋外のゴミなどを燃やされた場合も、1件の火災=放火火災、とカウントしていることにある。

 ☆ 捜査機関の、放火統計
  放火犯罪の統計は ①認知件数、 ②検挙件数、 ③検挙人員に分けて統計される。
  被疑者が行なったと見なされる犯罪の件数を認知件数としているので、消防の「放火等の件数」と4~5倍の相違が
  ある。これは、放火によると認められることの条件、と、ゴミなどの場合は器物毀廃軽犯として別扱いとなる、ことにより
 異なった数値となる。 

 5、「放火」と「放火の疑い」の統計的な傾向                          転載を禁ず
 
 ☆
 「放火等」と「不明」との、都道府県別の傾向を見る。
  「放火」又は「放火の疑い」と判定する時に、「不明」と判定する場合との比較を、県別に調べてみた。
  一般的には「不審火」とよばるように、ある程度推定できうる火災原因が、現場から判定できない場合、火災調査では、
  その現場を「放火等」と判定するか、「不明」として処理する、この違いを見てみる。
  ☆ 下図に、各県別の全火災件数に対する「放火(疑いを含む)」件数の比率、と、「不明の件数から放火件数を除いた、
   ほぼ純然たる{不明}」の件数を出して、これも同様に全件数との比率を「不明率」として算出し、「散布図」とした。
     統計は平成5年火災年報。 なお、偏りの大きい値と{不明}件数がマイナスとなる場合は除いた。
  
 ☆ これは、大雑把に見た、「放火等」と「不明」との
 原因判定上の判断比率となる。
 つまり、全火災で、「放火等」と判定するか、「不明」と
 判定するかは、逆比例の関係を作ることになる。
 この地域的傾向は、例えば、宮崎県では「不明」が
 20%だと「放火」は4%、逆に埼玉では「不明」が
 8%で、「放火」は21%、宮城県も「不明」が10%、
 「放火」が20%となる。
 とすると、合計比率の約3割の「火災原因」の原因
 判定において、微妙なバランスの上で“地域差”を生
 んでいる、ことになる。
 なお、東京はグラフから外したが、「放火」が34%、
 「不明」1%となる。   
  「放火等」と「不明」は、逆比例となることから、考えると、それぞれの各県別の消防本部での「火災原因判定」は、これら、
  つまり「不審火」と呼ばれるような約2割強の火災で、火災原因調査を実施すると、各県の地域特性として、「不明」判定を
  重視する、「放火等」を重視する、かは、ある程度決まっていることになる。
  全体としの傾向はグラフにみられるように、「不明」と判定する傾向が強い、ことがわかる。

 6,「放火」と「放火の疑い」に関する検討

 ☆ 「放火」と「放火の疑い」では、どのような判断をするか?
  各都道府県の火災統計から、「放火」と「放火の疑い」の比率を算出した。例えば、放火火災10件で、放火の疑いが
  5件だと、0.5に、20件だと2.0に、なることになる。この「放火の疑い/放火」比率と「全火災件数」との関係を散布図
  に示す。
  東京の「放火の疑い/放火」比率の0.1と、沖縄の比率4.3を両極端として、愛知・大阪を中間点とするラインの中に
  各道府県が位置し、だいたいが3つほどのグループに分けられる。

 
 東京は火災件数
 6500件で、0.1。
 沖縄が火災件数
 500件で4.3と
 大きく開く。
 愛知・大阪は、4000件
 近い火災件数で、
 2.0の付近に位置する。
 ついで、千葉なとの
 2000件前後の火災件
 数の所は、1.3付近と
 愛知・大阪より
 「放火の疑い」より
 「放火」と判定する
 比率が高くなる。
 奈良・岡山・宮城などの
 1000件前後の所は、逆    に1.6近い値で、「放火
 の疑い」の比率が高い。
 最も多いケースは、火
 災件数が1000件弱で、
 比率1.0以下の所だ。
 つまり、「放火の疑い」と
 するよりも「放火」と判定
 している地域が最も多く、
 火災件数もそんなに多く
 ない所となる。

   このグラフで「疑いの比率」が1.0を越えている地域は、放火火災より「放火の疑いの件数が多い」こと
  から、「放火」と判定されるよりも「放火の疑い」と判定される地域が、かなりあることを示している。
   一般的に使用される言葉として「放火は、放火の疑いを含む。」として統計上は「放火火災」としているが、上グラフ
  の1.0を越える地域、例えば愛知県などは、2.0であることから、「放火火災」には1/3しか「放火」と判定されて
  いないこととなり、表現としは「放火の疑い等」と表現したほうが妥当とも言えそうだ。
     
    どうして、このようなこととなるのか、「3,放火と放火の疑いの分類説明」で示したように、東京消防も解釈を変化させて
  いる。そのことからも、昭和35年当時の解釈である「放火は、①被疑者の判明した火災、または②明らかに放火と思わ
  れる火災」に限定していることにあると思われる。そして、それ以外を「放火の疑い」としている、つまり「不審火」である。
  ただし、「放火」と「放火の疑い」の比率が低い、つまり「放火」と判定するほうが多く、かつ、火災件数の少ない地域は、
  前グラフの「放火等」と判定するより「不明」と判定しているケースも多いことから、 一概に、「放火」の判定度が高いとも
  言えない。つまり、「放火」「放火の疑い」と判定する前に「不明」と判定していることもある。 
  ☆このように、「放火」と「放火の疑い」及び「不明」との兼ね合いは、火災件数を含めて地域的傾向があることとなる。
  
  ここで、話は変わるが、USAのある市のファイヤーマーシャルが来日した時、日本の火災統計を説明したが、
  この「放火の疑い」の説明には、なかなか納得しなかった。この表現が存在するとすると、火災原因の「タバコ」も
  「タバコの疑い」が存在しても良いことになって、しまうからかも、しれない。
  将来的には、「放火」か「不明」かのどちらかで、良いのでは、と思う。
  各都道府県ごとに、これだけのバラツキが「火災原因判定」で存在することが、うとましい、ことと言える。

            
 
放火は、 incendiary fires。  火災が故意のものであったという確かな証拠があるもの。
   放火の疑いは、suspicious fires。 決定的証拠に欠けるものであるが放火とされるもの。
   放火罪(放火)は、arson。   通常、放火が犯罪としての立場から論述するのでArsonsu。

  統計上の相違点
 
 ☆ 「放火」と「放火の疑い」について、上記載のように、見られるが、では実態はどうか。
    と、公開データはないのですが、イロイロ探したら、
    1987年秋号「消防科学と情報」日野氏の「クローズアップ“火災 放火火災と諸相(その2)」に、全国統計から
   抜き取った、「放火」と「放火の疑い」の相違データが有りました。
   この中で、出火時間の「放火」と「放火の疑い」のグラフもありましたが、その差はほとんど見られません。
   下に、出火個所別の火災件数に対する比率のグラフを掲載します(昭和60年の数値)。
   

 
☆放火と放火の疑いの相違
 放火の疑いは、「建物外周部」や「一般倉庫」
 などに高い比率を示し、放火では「居室」「廊下」 などで高い比率となります。
 つまり、建物内からの火災では、出火原因と
 なる発火源が絞られてくることから、出火個所
 をある程度特定すると、考えうる発火源が“ない”
 ことから「放火」と判定せざるおえない、ために
 建物内での「放火」判定比率が高くなる。
 反面、屋外では、タバコや火遊びなどの原因を
 否定しきれないことから、「放火の疑い」との判断
 に傾くことになるものと思われる。
  

 ☆ このように、「放火」と「放火の疑い」の判断基準が、統計的には、
       概ね「屋内か・屋外か」による差異に依存する

  そのように考えると、火災調査員の判定時の“気持ち”として、屋外なら、他の火源の検討対象も、タバコなどが
  あり、幾つかは列記でき、例えば、集積場所のゴミなら、通行人がタバコを投げ捨てたとして、火災原因が考えられる、
  とすると、「放火」以外の火源が列記できることから、あえて、「放火」と決めつけなくても、「放火の疑い」ですむ、と
  考える。これは、地域内で、「放火」○○件、「放火の疑い」○○件と言った時に、できれば「放火」と断定される件数が
  少ないほうが、地元的にはベターかなと、思うから、と言えそうだ。

  

 7,放火犯罪の特徴                                     転載を禁ず
 
 ☆ 
放火、この犯罪
  放火の犯罪は、犯罪者心理の分野でもさまざまな取り上げられ方をしている。
  このため、それらの一部しか扱えないが、まあ、火災調査員としての「教養知識」程度で、良いのではと思う。
  古くは、明示35年に発表された吉田栄次郎先生の論文に、放火は女性に比較的多い犯罪だと述べられ、以後
  体力のいらない、怨恨を晴らすうえでの犯罪として、定性的に定義されてきた。
  戦後は、東京医科歯科大学教授の中田修氏が“放火犯”の研究をされ、「犯罪精神医学」「放火の犯罪心理」がある。
  この放火の犯罪を実行する際の“放火の動機”も実は千差万別で、必ずしも、どのケースが多いとも言えないことが
  多い。それほど、誰もが、何のこだわりもなく犯す犯罪の類型として存在しているようだ。
  放火の特性としては、3つ上げられる。
  ① 実行が容易であつて、火源となるマッチ・ライターも喫煙道具として、常時所持できるものであり、抑止力が乏しい。
  ② 犯行の計画性が乏しく、徘徊しながら、標的を探して、犯行におよぶケースが多くあり、行きずり的となる。
  ③ 社会生活の軋轢から逃れる方便として、また、飲酒との関連において、現状逃避の捌け口として実行にされやすい。
  
 
☆ 放火の動機
  下表は、’78が、かなりまとまってている論文として、警察庁科学警察研究所心理研究室の山岡一信氏の論文から、
  放火の動機の男女別等の分類から集計した合計の%比率を示す。ここでは「夫婦間の争い」と「火事騒ぎ」が
  目につく動機だ。
   次いで、’91の論文として、横浜消防での研修会講演録を収める上野厚氏の論文から抜粋引用して、表とした。
 この表では、「同僚、友人等との争い」「親子間の争い」と「怨恨、憤怒」が目につく動機である。
 ’78の論文
(昭和53年)
 ’91の論文
(平成3年)
  夫婦間の争い
  親子間の争い
  他の親族間の争い
  失恋
  上司、雇い主とのトラブル
  同僚、友人間との争い
  近隣関係の争い
  10.1%
   7.4%
   4.1%
    -
    -
   4.2%
   2.7%  
   4.8%
   8.6%
    -
   3.8%
   8.3%
  10.3%
   3.2%
 ☆ 引用文献
  ’78の論文は、科学警察研究所心理
  研究室の山岡一信氏の論文。
  「放火犯罪の形態に関する諸特性」  
   科学警察研究所報告 Vol.31,No.4
   対象数は1,691件。
  
 ’91の論文は、神奈川警察科学捜査
 研究所心理科長の上野 厚氏の論文。
 「放火犯罪者の心理特性」
  横浜消防’91.07.08
  対象数は、312件。
  
  怨恨、憤怒
  火事騒ぎ
  自殺・心中
  学校忌避 
  火遊び
  火の喜び
  保険金詐欺
  窃盗との関係
 
   8.7%
  17.4%
   6.0%
   1.2%
   6.1%
   4.4%
   1.2%
   2.1%    
  14.1%
   9.6%
   1.0%
   0.6%
   1.9%
   0.3%
   2.6%
   4.8% 

 放火犯罪の特徴は、他の犯罪と比較して、“犯行形態の単純と”にあり、事前の準備や計画を必要としない犯行が容易な
 犯罪とれている。そして、従来から、人間関係の軋轢の反動及び放火媒介物の多いことなどから、農村型犯罪の類型とさ
 れていたが、都市における疎外感の反映から都市型犯罪への傾向が、約20年前に科学警察研究所の山岡氏により示され
 ている。
 山岡氏の研究は、単一犯と連続犯に分けて調査したことにより、この傾向を鮮明なものとしている。
 単一犯の動機は、「夫婦・愛人間の争い、親子間の争い、自殺」が多いが、
 連続犯の動機は「火事騒ぎを起こす、世間に対する不満」が多い傾向があり、犯罪者も男性の比率が高くなる。
 このように、都市型犯罪としての類型に入れられるのは、「社会」に対する不満であり、かつ攻撃的な男性犯罪であることが、
 裏付けられている。
 同様に、警察大学校常任講師の近藤一歳氏の論文「放火犯罪」(捜査研究)又は学会誌、火災(Vol.35 No.5)による、
 連続放火犯人のうち10件以上犯行を重ねた犯人115名(昭和36年から昭和60年までの放火被疑者2,512人から)の
 “連続放火の心理”としての動機の上位5つは、次のようなケースであった。
    1,火事騒ぎが面白い。気分がスーッとする。 
    2,上司におこられた。同僚にバカにされた。
    3,ホステスにもてない。女に相手にされない。
    4,自分のみじめな生活に比べ、他人の幸福がうらやましくねたましい。
    5 家族にうとまれ相手にされない。家庭が面白くない。
 
 これらも概ね、山岡氏等の論旨と同様で、都市の核家族化と職場でのストレスを解消できないことによる要因の増加
 が「放火」を増大させているように考えられる。
 さらに,被疑者の印象から同氏は、その側面として
    ①知能の欠陥  ②家庭的な欠陥  ③身体的欠陥 の三つの類型をあげている。
  この中で、“知能の欠陥”に関しては、放火犯は精神障害者とその疑いのある者の比率が比較的高いことや病理疾患
  として、薬物依存、アルコール中毒が多いことが犯罪心理の立場から山上皓氏、中村希明氏も示され、共通している。
  なお、USAでは、薬物がらみの放火犯罪が多い。
     *東京医科歯科大学教授 山上皓氏 予防時報157、 防炎ニュースNo114など。
                      中村希明氏 「犯罪の心理学」講談社
 ☆ 昭和55年8月の新宿路線バス放火事件。
   ・・世間に対する憤まんの情が募り、そのあげくどこかにガソリンをまいて火をつけ、社会を驚かそうなどと考えるに
   至り、ガソリン10?を購入してポリエチレン容器に入れてもらい、これをいったん京王百貨店西側道路の中央分離帯
   の植え込み内に運び込んで隠した。・・・・・・さらに飲酒酩酊して、・・・・・「馬鹿野郎。なめやがって」と怒鳴りながら
   火のついた新聞紙を、(バスの)後部降車口から車内の床に投げ入れ、バケツ内のガソリンをその付近に投げかけ
   るようにして振りまいた。・・・・
  被告人は、知能が精神薄弱軽愚級にあって、敬神的成熟が劣る上、被害妄想、追跡妄想を抱いたおり、さらに、犯行
  時には、飲酒酩酊状態であった。とされている。
  この事件のようなケースが、放火の単一犯には多く見られる。 

  
★ 連続放火犯の地理的傾向 
     放火の中でも、連続放火は、被疑者の生活領域と密生な関係を有している場合が多い。
   ここで、警察庁科学警察研究所 鈴木 護氏の論文「連続放火犯の犯人像と地理的プロファイリング」火災学
   会誌 火災Vol.49 No.4から。 平成元年以降平成7年までの検挙事件5件以上の犯行記録のある事件(約300件)
   の 107人からのデータ。結論だけを抜粋すると、次の様になる。
    ① 住居から犯行地点までの平均距離が“1km以内”であった者が過半数である。
       また、現場間の最長距離も1km以内であった者が過半となつていた。
       土地勘については、全体の8割が土地勘のある場所で犯行におよんでいる。
    ② 最も遠い2犯行地点を直径とする円内に、犯人の“住居”が存在する、と言う仮説の成立している者が
      約5割、設定された円に住居が近接している者が2割であった。
    ③ 過半数の犯人の“住居”は、設定された円の中心から半径1kmの円内に存在する。
     このように、連続放火は、地域的に近接することから、地域にとっては、恐怖の的となる犯罪である。
  この研究は、Canter,D.and Larkin,P(1993年)によるものを引用している。
  しかし、地理的な物理的距離と、例えば通勤や通学に利用する道順としての心的な距離感は異なることから、
  犯人の“心的地図”を想定して、円を補正する考え方が出てきている。Adams (1969年)。
  この考えたを利用した「火災犯の拠点推定に関する研究」を愛知県警科捜研の長谷川、河村氏などが行なっている。

 
 ☆ 放火傾向から見た対策 
  ここで、消防の行なっている対策を、平成元年に東京消防から出た「放火火災予防対策に関する調査・研究報告
  書」 第三次  (日本火災学会委託研究・味岡健二委員長)から拾って見る。
   放火されている場所や時間などの事例から、分析すると、都市構成及び周辺環境の観点からある程度整理する
 ことができる。
 ① 放火は、着火までの時間が短い、放火対象物の特徴が捕まえにくい。
 ② 放火犯は、単一と連続があり、その形態によって二面性があることから、絞りにくい。
 ③ 犯行として共通するのは、人から見つからない、逃げやすい、人通りの少ない、見通しの悪い、
  幹線道路から奥まった場所などの、環境的な共通項目がある。
 ④ 着火物では、放置されているゴミなど、犯行に使用されるライターなどで容易に着火する「物」が
  無造作に置かれている(放置されている)場合が多い。
 ⑤ 路上放置のゴミやポスターなどへの放火が多いが、これらが媒介となったり、軒先の放置物から建物火災に至る
  など、建物火災となつて住民に恐怖心を引き起こす。
 ⑥車両火災ではボディカバーへの放火が多い。
  これらの特徴的なことがら、その対策として「場」のコントロールを上げている。
  放火は、放火の動機を持つもの(犯意のある者)が、放火対象物(着火物)に近づき、火をつける行動である。
 それには、それぞれの「場」が形成されていることから、その場を制御(コンロトール)していく、考えに立つことが
 大切です。その「場」とは
   ① 犯意のコントロール
   ② 着火物のコントロール
   ③ アクセスのコントロール
   ④ 放火行為のコントロール

 となる。
  犯意のコントロールとは、青少年教育などの教育や孤独感を持つ人を地域で支えあえるコミュニティの育成です。
  着火物のコントロールとは、まさに、ゴミ出しのルールや建物の外周部に“燃えやすい物”置かないなどの事です。
  アクセスのコントロールとは、暗くなりがちの幹線道路脇の横道などの照明の増設、路地裏の人通り、明るく見通し
  の良い街路、生活と都市構成が犯罪を減らす創意が感じられることで、「割れた窓ガラスのない」地域です。
  放火行為のコントロールとは、見られている・逃げられないことの状態で、監視装置や「一声」挨拶運動などの地域
  活動に立脚した活動です。
   これらの、複合的な活動の展開が、都市部での放火火災対策となるのであって、単に「燃えやすい物の除去だけ
   を声高に言っているだけ」では、足りないことと言えます。消防・市・警察・地域などが一体となった取り組みが
  求められています。  
  

 8 江戸時代の放火の罪                                転載を禁ず
 
 ☆ 八百屋お七
 江戸時代の「放火」の中でも、「お七の放火」は歌舞伎で有名となり、事実以上の脚色により本物らしくなって、
 江戸時代の放火悲話の代表となつた。 処刑された、東海道沿いの品川区の鈴ヶ森刑場跡には、火あぶりとされ
 た台座の石(写真のネガが分からないので探し、そのうち掲載します。)が残されている、が、そのほかにも、
 お七に関連する史跡が都内にはあります。
 「放火の罪」で処刑されたのが、天和3年(1683年)3月に当年16才で鈴ヶ森で火刑になつたとされています。
 が、このこと、これほど大げさになったには、歌舞伎によるものです。最も、忠臣蔵も菅原伝授手習鏡で知っておられる
 ように、江戸時代は、本来娯楽が少ない割りには都市(市民)の形成期で成熟しつつあったことから、この種のことが
 もてはやされたものと思います。
 井原西鶴の「好色五人女・八百屋お七物語」を原作として ⇒ 歌舞伎 「松竹梅湯島掛額」で公演されています。
 内容は、火災にあって、引っ越した先の隣家お寺の小姓を好きになった、ことから、建て直した元の家に戻るのが
 嫌で、「放火」したとのことです。 まあ、言えば、好いた相手に会う為ならば、社会の掟も、屁の河童かな。

 さて、ついでにもう一つ
 ☆ 池波正太郎 「鬼平犯科帳」に出てくる
「鈍牛(のろうし)」
  これは、奉公人の亀ちゃんが、隣家に押し入りお金を取って、放火したとのことで、「晒しもの」になっている
  ところから始まり、実は、真犯人は別に居て、昔この亀ちゃんに親切にしてやった男のために、身代わりに
  なっていたとのこと。が、それを見逃す火盗改方・長谷川平蔵ではなく、晒しものの日数を延期して、真犯人
  を捉えます。
 ま、それだけのことですが。当時の刑罰の仕組みはよく分かるかと思います。例えば、連座制とか。

 さて。
 成文としては、江戸時代の刑法典が「公事方御定書(別名・御定書百箇条)」(寛保2年。1742年)あり、この中に
 失火や放火に関する罰則を定めていた。
 
 放火張文罪(御定書百箇条 第63条) 相手に遺恨を持って、火を付ける旨を通告する脅迫状で、この中に張文
                          と捨文(投文)が該当し、この行為を行なった罪。
 失火罪(御定書百箇条 第69条)    消失した面積により罪が異なり、また、将軍の外出等の時にも異なる、よ
                          うな仕組みであった。罰は「押込(牢屋入り)」など。
 放火罪(御定書百箇条 第70条)    火を付けた者は火罪(火あぶりの刑)となっていた。
                          さらに、物を盗んで放火した場合には、市中引き回して刑罰を課した。
        
 ☆ 江戸の街と、大名地では、刑罰の考えも違っているため、必ずしも、全国同じではないが、だいたいは、同じもの
  と見ても差し支えないようだ。
  江戸は、町家と呼ばれる一般人の住む場所は全体の15%の地域(街割り)に、人口の50%が住んでいたような
  状態で、又、建物も葦で拭いた屋根などの粗末なものが多く、火災になると、類焼が早く、冬の乾燥時と強風時に
  は、大火となることが多かった。消防力もあまりなかった。そのような地勢的なことも関連して、厳しい刑罰が課せ
  られた。
  この考えは、明治・現在も引き継がれ、「放火」は重罪とされ、又、「失火罪」も存在している。

 ☆ コメント
  江戸時代は「火事」が多いと言われているが、実際は、出火件数の多さではなく、出火すると、町方の家々の構造、
  消火方法がなかった、ことから、風に吹かれて、大規模に“延焼”したにより言われていることです。
  それに、初期の頃の借家中心の町並みは、焼失してこまるほどの財産的価値もなかったと言えます。
  特に、振り袖大火の時は、時代的に、大名火消ししかない消火体制でしたので、致し方なし、です。
  大岡越前が「町火消し」を創設したのは、そのずっと後です。
  さらに、火盗改方が活躍したのは、さらに、その後の時代です。江戸時代は結構長いです。
  で、江戸時代を通じて、「火事が多い」というほどの出火率ではなかったと思います。
  これは、阪神・淡路隊大震災時に神戸で火災が延焼拡大していったことと似ています。消防力が劣勢だと、都市は
  「火災」にはもろいものです。
  さて、
『火事と喧嘩は、江戸の華』と言われていることですが、これも「華」ではなく「恥」だとも言われています。
  江戸の賑わいの中で、喧嘩と火事は、都市が爛熟してくると起こりえるもので、その上に立って、上方の関西地方
  から見ると、「恥」だと映るのでしょう。が、ここで、引いては、江戸小話にはならない、「恥」を承知で「華」と読み替える
  ぐらいの「粋」があったのでしょう。
  

 

 9、現在の刑法上の放火の罪

 ☆ 放火は、刑法で非常に厳しい罰則を設けており、刑罰にる抑止効果を期待している犯罪である。
   刑法では、第108条(現住建造物等放火)から始まり第111条(延焼)まで、細かく刑罰の対象を規定している。
   
   ○(現住建造物等放火)
     第 108条 放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船、又は鉱坑を
            焼損した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。
      ○(非現住建造物等放火)
     第 109条 放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船、又は鉱坑を焼損
            した者は、2年以上の有期懲役に処する。
          2 前項の物が自己の所有に係るときは、6月以上7年以下の懲役に処する。
            ただし、公共の危険を生じなかったときは、罰しない。
      ○(建造物等以外放火)
     第 110条 (略)
      ○(延焼)
     第 111条 (略)


 ☆ 刑法は、平成7年に全部改正により、条文が上のように平仮名に改められた。
   従来は、“焼燬(しょうき)”と言う言葉であったが、改正により消防用語で使用している平易な“焼損”に変更され、文章
   も分かりやすくなった。
     従来の「焼燬」の「燬」の文字が、滅すると言う意味なので、焼けて焼失するような状態を想定していたものと思う。
   しかし、現在のように、「焼け」て、燃えない壁・天井などの部材があると、燃えて失われたことより、燃えて被害が生じた
   と考えることのほうが、より現実的であることから、このような言葉の変更をしたのではないかと思う。 消防では、高熱、
   濃煙による被害部位を「焼損範囲」と捉えていることからも、整合性が図れる。特に、ホテル・ニュージャパンなどの
   耐火高層建物火災では、「焼損」として、被害範囲を考えないと、現実的でないこととなる。

 ☆ さて、条文解釈としては、放火は元来は“財産犯罪”であるが、日本では通常家屋の構造や都市の形態から「不特定
   多数人の生命・身体・財産に対する公共危険罪」として捉えられている。 刑法第 109条2項では“公共の危険”という
   言葉が具体的に入っており、これは個人の所有物の放火(焼却に類似した行為)であっても、{公共の危険}が存在
   する時は、刑法犯になり、財産犯を越えた捉え方の例証である。
     公共危険の解釈も様々であるが「いずれの判決においても、不安感といった心理的要素が加味され、自然的・物理
   的観点(例えば風向きとか)からは危険が存在しない場合でも、通常人の感覚からすれば危険が認められるときはな
   お公共の危険がある」とされる。
     しかし、このことが拡大解釈されて、「物」が燃えれば、即、公共危険とされると全てが抽象的危険犯の範疇に組み
   込まれるおそれがあることから、焼燬(現在の焼損)の考え方を限定することによって、バランスをとるようになっている。
   (生田、他「刑法各論講義」より) 焼燬の言葉は、旧来「独立燃焼説」を採用しているが,公共危険罪の範囲を限定す
   るうえで学説的には“効用滅失説”を多く取り入れている。もっとも、放火犯罪は抽象的危険犯であることにはかわりが
   ない。
    独立燃焼説は「焼燬とは、火勢が放火の媒介物を離れて目的物が独立燃焼する程度に達したことを言う」(燃すため
  に用いた物から、さらに建物等の部材に燃えて広がろうとする状態)。 効用滅失説は「焼燬とは、火力によって客体が
  その重要部分を失い本来の効用を失う程度に毀損された状況を言う」とするものである。(詳しくは石毛平蔵著「放火犯の
  研究」月刊消防92'6~ など参照) 
    放火現場での“危険性”は、燃える状態のとらえ方と燃え広がる客体の状況から判断されるため、耐火建物内の人の
  居ない事務室や屋外のゴミの放火に対して、上階や近隣の建物等への延焼のおそれ(人命危険性)があるとして放火行
  為者に対して、現住建造物放火罪(法 108条)を適用するケースや反対に適用されないケースが判例として存在し、火災
  形態のとらえ方に左右され、難しい言葉であると言える。
   このため、現場では、「延焼していくであろう」と判断される、現場見分状況が求められることがある。つまり、屋外から
  燃えて、窓ガラスを破って、内部室内に延焼したとしても、室内に、さらに燃え広がる内装材・装飾材・置物などがあり
  それに炎又は熱の影響がおよんでいることが、見分されていることが望まれる、ことである。人が、現に居た場合は、
  「煙」が侵入したことが供述から明らかとなることから、死傷するおそれがでてくることで、説明がつく。

 12,  USAの教育カリキュラム                           転載を禁ず
       
⇒ この下に記載のカリキュラム全体は、かなり古いものです。今、現在は違うことが
          考えられますので、単なる「参考」として考えて下さい。
 
 ☆ アメリカ(USA)の国立消防大学校での
 放火火災調査の学生カリキュラム。

 
実質10日間で2週間の研修を「火災調査員」に行なっており、
単位は16単位、授業は朝9時から4時までだが、
夕方に、全員参加型のクラス活動としの討論会などが、毎日入っており、
厳しいカリキュラムとなっている。(テキストは約8cm近い分厚いもの)

 日  単 位   内   容              課外活動
1日目  
 2
 3

     
 授業案内
 火災燃焼学

 出火箇所の判定

                 初日/夕 クラス活動 
2日目  
       
 失火火災の原因判定
                 2日/夕 クラス講義
3日目  5
 6

       
 放火火災の原因判定
 放火犯罪者の心理

                 3日/夕 クラス活動
4日目   
 8
 9

       
 火災現場の調査と追跡
 火災保険の基礎
 消防用設備の実習
 
                 4日/夕 クラス活動 
5日目  10
 11

       
 車両火災
 焼死者火災

                  中間 試験   
6日目  12
 13 
       
 放火の立証
 法律的見地

                 6日/夕 クラス活動 
7日目  14
   
       
 供述録取
  (放火立証の実習、放火火災の模擬実習)
                   修了任命 
8日目  
 15
       
 (放火火災捜査班による展示)
 ATF局による展示(採取資料の実験実習)                         研修評価
9日目  16
       
 放火火災の告発管理要領 
                   最終 試験
10日目  最終審査の復習
 
国立消防大学校(NFA)卒業活動


 11,発火源から見た放火の手口
  この文章は、割愛します。非掲載。


 10 放火火災の現場調査要領                              転載を禁ず
  
  ☆ 放火火災を現場での対応から説明すると、次のようなケースに分けられる。
     ・ 自損放火に関連した現場
     ・ 傷害又は窃盗放火などの刑法犯罪と重複する現場
     ・ 建物内侵入の放火現場
     ・ 車両等に対する放火現場(この出火個所から延焼した建物火災になった場合も含む。)
     ・ ゴミ、ポスターなどに対する放火(この出火個所から延焼した建物火災になった場合も含む。)

 ☆ 「火災現場調査は、すべて原則として“放火”の火源を念頭において、調査に従事する。」ことを前提としている。
   これが、火災現場調査の基本原則であり、関係者の供述が如何に“失火”と考えられる場合であっても、放火を
   念頭におく。例えば、天ぷら油火災であると判断される、現場焼損状況と供述があったしても、「放火」を考えの
   中に入れることが求められる。
 
 ☆ ・ゴミ、ポスターなどの現場は、現場の通行量・出火時間帯・付近に火源となるライターなどがないか、などを見分して
    おく。付近の聞き込みも大切で、この種の放火は類似火災が多く、近隣者が知っていることも多くある。
   ・車両は、本体の施錠個所の見分と内部の状況も良く見分しておく。車両の使用状況も聞いておく。
   ・建物への侵入による内部から出火は、出入口の施錠や開閉状況、出火前の人の出入りなどを確認する。
    また、室内の物品の移動・消失、知らない物の存在など、関係者の立ち会いを求めて、必ず確認する。
    放火と判定する上では、助燃材の有無、電気・タバコなどの他の火源の否定ができているか、確認する。
    火源と見なされる対象が「ない」ことを確認し、また、出火個所が2ケ所以上存在するか、を調べる。
   ・ 窃盗放火などの刑事犯罪と重複する際は、現場鑑識の捜査機関と連携を密にして、順に出入り口から確認して
    行く事が大切で、いきなり窃盗又は放火場所へ立入らないで、順に、押し進める。
   ・火災鎮圧時に自損者の容態観察と合わせて、助燃材の確認、付近の火源、体に他の痕跡がないかなど
    を捜査機関と連携して進める。
  ☆ 放火では「出火個所」の判定は、出火個所コード分類に定められている程度の空間を考慮し、“出火点”なる
    場所を調査書類上に特定する必要はない。現場での、判定と調査書類上での記載内容は、異なっても支障ない。
    “出火点”付近の見分は、徐々に段階的に行い、詳細な見分を必要とする。つまり、知り得ない事実を明確にする。
  ☆ り災申告書の扱いは良く確認する。
  ☆ 類似火災は、チェックする。
  ☆ 不用意に現場状況を話さない。写真等の保管は厳格に行なう。
  ☆ 助燃材の検出を、実施する。現行では、北川式ガス検知管による分析が手軽で分かりやすい。
  ☆ 捜査機関が「不明」と処理する意向で、消防の火災調査の判断と異なる場合があっても、「放火」として
   処理して差し支えない。

   
 火災学会誌「火災」での放火火災の特集は、
 Vol.49 No.4 1999.08 {241号} と Vol.50 No.4 2005.08 {277号}、で特集している。


 <火災原因調査 <