火災調査探偵団           Fire Investigation Reserch Team for Fire Fighters
Title:「焼損床面積と焼損表面積」-13
B1-02   11’11/12 ⇒ 17’02/08  転載を禁ず  . 
焼損床面積と焼損表面積 < 用語の解説  <火災損害 <ホーム:「火災調査探偵団」 . 
1,焼損床面積と焼損表面積
 1) 経緯(過去の課題から)
   「焼損面積」とされていた時代から、全国で「焼損床面積」「焼損表面積」の2つの焼損範囲を計上する方法に変更したのが平成7年からです。
  基本的には、平成の時代となって「耐火系建物」火災の増加の中で、旧来の「火災報告取扱要領」で示される木造建物火災主体の「火災被害」の
  数値上の算定方法が合致しなくなってきたことによります。
   「木造建物火災」の場合は、り災建物の評価において、焼損面積の算定が人により異なるなることはなく、せいぜい誤差の範囲で、だいたい誰
  (消防職員なら) が見ても同じような「焼損面積」を算定していました。それが、耐火系建物火災では、下地材が燃えずに表面の壁紙だけが燃え
  ている壁やほとんど焼損が見られないフローリング床などを現場で見ると、その部分を「焼損している範囲」とするにはどこまでを考えるのか、
  この部屋を「焼損床面積」として計上できるのか、などなど「人によって見方」が大きく異なり、耐火系建物火災の増加により統計結果として表出
  するようになりました。
   この「焼損面積」の算出問題を関沢先生(現:理科大)が1977年1月号火災誌「焼損面積の算定要領の問題」(27-1 No106) として提起されている。
   今も“課題”として存在し続けていることから、ここに一部を紹介します。(全文は火災誌で検索、ダウンロードしてください) 
 
 室内を6面体とし、「焼損」の範囲を
 (1)床のみ、(2)壁と天井、(3)床と壁、 (4)床、壁、天井、の4つ
 のパターンに分け、さらに、木造では「焼損」は下地材も含め、
 耐火では「表面材だけ」としています(耐火の下地はコンク
 リートなど不燃材ですからそのようになります。)

 この8つのパターンに対して10消防本部からアンケートをとった
 ものです。もちろん今とは大きく違って、各本部のバラッキは
 大きい結果となっています。
  その中で、2つの本部を抽出し、火元建物の焼損面積(10㎡毎)
 の大きさと火災頻度の割合を調べると、焼損面積が20㎡を超え
 るとほぼ発生頻度は2つの消防本部で同じ傾向となりますが、
 10㎡以下では大きく異なります。つまり、小さい「焼損面積」で
 はその面積を計上しないケースと計上するケースに明確に分
 かれることです。つまり、「部分焼」程度の火災だと、り災した
 地域の消防本部により「り災面積」計上の有無が左右される、
 と言うことです。

       
      2, 火災報告取扱要領から       転載を禁ず
 「焼損」はどのような状態か
   現在「火災報告取扱要領」の解説に示されている事項は、平成7年に「焼損床面積」と「焼損表面積」の計上を取り込んだ時に作成され、
   継続しています。(ただし、火災報告取扱要領は消防庁の公式の通知文ですが、「解説」は消防庁の正式文書としての性格はなく、曖昧
   な扱いです。そのためか、現場での状況を踏まえるよりも言葉のつながりの中で解釈している表現があります。実態と少しはなれている
   表現の箇所があります。)
   
 「焼損は、それが下地材まで含むかどうか」
   火災報告取扱要領には、焼損の「深度」を説明していないので、下地材の焼けの有無を問わないこととなります。焼損面積で考える「焼損」
   は「下地材」等の「焼け」考え方はなく、建物の「表面」に「焼損(焼けた、火災の熱で影響を受けた等)」があれば良いこととなります。
    では「煤け」についてですが、火災損害では「焼き損害」の中にある言葉ですが、焼き損害では「すすけ」は単に「煤が付着している」こと
   ではなく「火災による高熱により煤けとなった状態」になるかと思います(このあたりは、焼き損害そのものの考えとも関係しますが)。
    この考えにより「耐火建物火災」の焼損範囲の取り方は、かなり広くとらえることができる、と考えることができます。

   「焼損」として捉えられる「焼き損害」は、表面部材が火煙による影響を受けている部分を含めて考える、
   こととなります。 
 
 現場の状況から。
 全体が「焼損している」ように見られる現場です。
 
黄色矢印の「絵画」は焼けが見られません。
 
オレンジ矢印の窓枠とその付近の壁体は「焼け」による「黒い変色」が見られ
 ます。
 このように、全体として室内が「煤等により」黒くなっていても、詳細に見た「焼け」
 としては、天井面とその付近の壁だけに限られています。
 天井は、石膏ボード下地ですので「燃える」ことはないですが、表面材や照明器具
 の溶融からは、明らかな「焼け」としての焼き損害があります。
 しかし、テーブル上も「煤け」ているだけで「床」も汚損しているだけです。
 このような場合は、火災報告取扱要領では「天井と壁の一部が焼損表面」として
 計上されることとなります。
 しかし、壁面の燃え下がりは「高熱による受熱であり」天井面から1/3程度まで
 認められる場合は、東京消防では、焼損床面積の算定対象としています。
 このため、この台所は「8帖(26㎡)を焼損床面積」とします。
 このような場合、次に説明する「立体的な構成部分が、火災により機能が失われた」
 と判定されると、焼損床面積に計上されることを応用したものと言えます。

  火災報告取扱要領の解説では、焼き損害の言葉として「すすけた」とされていま
 すが、この「すすけた」は「火災の火炎、高熱等によって」と前置詞があるように。
 火炎なり高熱なりの受熱影響を前提とした「すすけ」です。
 とは言え、「焼き損害」に単に「すすけた」と記載すると、ふつうには、写真の流し台
 のデコラ板の場合は「すすけた」とされるので、「焼き損害」と扱われることが想定さ
 れます。何とも「解説」の中身の薄いことか・・・。

 立体的な構成として説明
   建物の焼損が立体的に及んだ場合は、その部分を床面積の算定要領で算出する。
   建物は立体的なものであり、建物としての機能を有しているが、焼損したことによってその機能が失われ
   た部分の床面積が焼損床面積である。
   建物を6面体の立体として単純化すると、建物の建築床面積は、その立体的な空間の床面積を代表して捉えた面積です。
  その考え方をそのまま「焼損部分」にあてはめて「焼損したことによってその機能が失われた“立体的な部分”」としている。
  
ここで、「機能」とは何だ? という議論もでてくる。
  例えば、鉄骨・スレート壁・屋根構造の「駐車場」なら、内部で収容物が燃え、内部が煤けていても「駐車場」として使用できれば「機能」を
  失っていないこととなる。ボイラー室で火災があっても「ボイラーが稼動すれば、その室はボイラー室としての機能を失っていない」ことと
  なってしまう。
   逆に、前掲載の写真の現場のように部屋全体が「煤けている」だけの場合も、「一見すると部屋の居室としの"機能がうしなわれている"
  と言うカテゴリーに入ってしまいます。 
   このように考えると、構成する空間の「機能が失われる」状態の判断は、次第に「焼け」と離れてしまうと、と言えます。
   つまり、ここでは「機能」と言っているが、「単に焼損している」状態が確認しえるのであれば、その部分の「機能」と言う縛り(しばり)は
   除外して、「焼損床面積」として成り立たせることにある。前出の「駐車場」「ボイラー室」などは、機能がなくなるというカテゴリーよりも
   「居室」として持つべき性格に火災の影響を受けた部屋と言うべきものである。
  まとめると「機能とは言え、前提としは「焼き損害」が判断される面が立体的に構成されることが焼損床面積の前提となっている」ことと
  なります。
  
焼損床面積と言う表現ではあるが「床」の焼けは必要条件ではない。
   空間的な概念の扱いであることから、「焼損床面積」は「床」の焼損は必須条件とはしていない。コンクリート床の耐火建物を考える
  と理解できるように、耐火建物火災の火元室以外の延焼した部屋は、「床の焼損がない」ことが多いが、焼損床面積は計上することが
  できるので、間違いのないようにしてほしい。
3, 焼損床面積の立体の捉え方
   焼損床面積と焼損表面積
    「焼損床面積」と「焼損表面積」の2つに分けられているが、これは「焼損床面積」だけを指標とすると、立体的にならない「壁のみ」
   「床のみ」の焼損が発生した時に表現する方法がなくなるために平成7年から、「焼損表面積」を取り入れている。
   この場合は、単に「表面積」となり、「壁3㎡焼損」「外壁10㎡焼損」となるが、もちろん「機能」と言うことは触れずに、単に「焼き損害」
   と判断される範囲となる。
  

 1) 壁と天井が焼損している。
  立体を構成する2面が焼損していることから「立体的な焼損」とし
 て捉え、「天井」の床面への投影面積から「焼損床面積2㎡」とする。
  壁の焼損はその立体に含まれる。
 2) 床、壁、天井の一部が焼損している。
 立体を構成していることから「床」をとらえて「焼損床面積3㎡」とする。
 このケースだと「天井」の焼損がなくても同じ結果となる。
 この2事例から、水平・垂直の2面が焼損していると見なせば、その部分を床に投影した床面積で算出して「焼損床面積」となる。
 従来「焼損床面積」として算定するケースは、立体を構成することを建前としており、3面の焼損が必須の条件であった。
 もっとも、木造建物火災では、そのようなことにあまりこだわらなくとも、部屋全体が焼きしており、焼損床面積で算定することに
 間違うことはなかった。 耐火建物や不燃材下地仕上げの居室などの出現により、あえて、このような事例を用いて「説明する」
 必要に迫られたものです。
 3) 壁2面が焼損している。
 壁のみなので立体的な部分と見なせないことから、壁2面の合計
 「焼損表面積5㎡」とする。
 
 4) 壁と収容物(タンス等)が焼損している。
 収容物により室内の焼損が壁に限られていることから、壁の
 「焼損表面積3㎡」とのみに扱われる。
 このように図示された部分を考えると、現在は、おおよそ統一されていると言えます。
 「焼損床面積」は、水平・垂直の2面で構成されて「立体」とされる部分の床面へ投影される面積を「床面積」として捉えることと
 なる。しかし、1)の事例のような場合は、4)と重なると床面の収容物に遮られると、壁の一部と天井となり、多くは「天井のみ」と
 違わない事例が多くでてしまう。このため1)の事例においては、収容物が存在する現場では適用されず、「焼損床面積の算定
 部分はない」と判断されることもある。
 「火災損害のページ」の火災現場の写真から再度、説明を加える。
 
 床、壁、天井が焼損している。
 このため、残りの壁の3面(本棚等)の焼損はあまり見
 られないが、天井は室内全部が焼損している。
 「部屋の機能」と言う考え方でなく、単純に「焼損」して
 いる面的部分により立体が構成されるとして考え、この
 部屋は室内全部の6帖(10㎡)を焼損床面積としている。

 火元部屋から延焼している部屋であるため、「天井の面」が
 主な焼損となっている。
 部屋の下半分には「焼損」がほとんど見られない。
 上半分に着目すると、壁の衣類、ファンシーケースなどに
 高熱による溶融の焼損が見られる。照明器具の溶融に見ら
 れように、天井は室内全部が焼損している。この場合、室内
 の上半分が「焼損」としているすると、この部屋の機能が失
 われていると言う言葉からは、室内全部の
 「焼損床面積8帖(13㎡)」と計上される。
  しかし、「床面の焼損がない」ことからすると天井8帖(13㎡
 と壁16㎡として「焼損表面積」だけを計上したとしても誤りと
 はならない。
 
 この現場で見られるように「すすけた」と言う現象は、いかにも
 貧弱な言葉であることがわかる。今の「火災調査」では「すすけ」
 は焼き損害とは見なされない。
  このように、「焼損床面積」は、火災報告取扱要領の解説図に近似されるケースばかりでなく、「天井」面の焼損が見られるだけの現場も多い。
  つまり、必ずしも「正解はない」と言うのが、現場でのとらえ方となる。
  調査員が、経験から判断したものが、他の人と違っていたとしても、「焼損床面積」と「焼損表面積」のどちらかで、それぞれ焼損を計上すれ
  ば「焼損床面積」にこだわることはないと言える。
   ただ、できれば「焼損床面積」で計上しておけば、り災証明時に、り災者の心情に沿ったものとなる。「焼損表面積」の算定は、個別の壁等
  の部分を全て説明の対象とこととなるが、「焼損床面積」の算定による場合は、その部屋等をひっくるめてり災範囲として認定していることか
  ら、り災証明としてはわかりやすいものとなる。
  と言っても、燃えてもいないのに「焼損表面積」として計上する必要はない。

     5) 「焼損床面積」と「焼損表面積」で算定した場合の違いはあるか。

  り災による損害額評価においては、計算上からは「焼損床面積」で取り上げると「㎡あたり」の「り災時評価の単価」に面積を乗ずること
 から、その範囲全体の損害額となるが、「焼損表面積」による場合は「部材単価」に焼損表面積を乗ずることから、全体として見ると、り災
 時の損害額は同じ結果となる。しかし、現行の取扱要領に示される「部材単価」による場合は、その下地材を含めて施工費とはなってい
 るが「部材単価」が古く、減損の扱いが難しいなどの関係で、損害額ではかなりの隔たりが生じる。
  保険会社の損害査定では、焼損した部分とその周辺も含めた範囲を修復するとした積算額を基準にしているので、大きくは「焼損床
 面積」で捉える立体を構成する範囲が損害計上される。さらに、今は、再調達価格を損害保険の支払基準にしていることもあり、消防の
 算出する損害額よりもかなり多めの損額額が提示されることとなる。このため、火災保険による支払と金額とは、直接に影響しないこと
 から、焼損範囲や水損範囲を著しく間違っていない限りは、あまり影響がないと言える。

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