火災調査探偵団                     Fire Investigation Reserch Team for Fire Fighters
Title:「火災の定義」-01 Think over the difnition of Fire in Japan
B1−15   18'12/28, 17’03/03, 16’03/07, 10’11/27, 07’09/17,   転載を禁ず  .
火災の定義 < 火災損害調査 <ホーム:「火災調査探偵団」      . 
 今(2016年)、日本の消防は、従来からの「火災の定義」とその解釈に対し、疑問が提起され「課題」となりつつある。
 この「火災の定義」は、この頁で、2007年から取り上げているが、最近、特に多くの現場からで聞かれるようになってきた。
 この頁(記事)は、全部で、7つのセクションからなっている。
   1. 「火災の定義」に対する消防機関での「課題」
   2. 実際の「火災現場」を写真で取り上げ、どんなケースが問題となっているか、を検討する。
   3. 消費者行政等から見た火災 
   4. 現行の「火災報告」等で示されている「火災の定義」とその解説   
   5. 火災調査の現場活動から見た「火災」に対するスタンス。
   6. 「火災統計」を始めた昭和25年当時の「火災」の考え方。
   7. 前6の火災報告の解説等を踏まえての火災の定義の再構築について。
   8. まとめ。
 参考文献等
 ☆ かなりのページ数(A4版で8頁程度)なので、印刷されたほうが「読みやすい」です。
   各消防本部は、現行の火災報告取扱要領で定める「火災の定義」を現場の状況に合わせて柔軟に扱っていることが多い。この頁では、この取扱いに
   対して、「火災の定義」を現場の視点から検討するものです。
1,「火災の定義」を考えるにあたって
 「火災の定義」に関する、消防の扱い方
   「火災の定義」は、消防の火災調査の中で問題とされる事案が増加しつつある。
   しかし、[火災に関する学者や研究者]にあっては、見向きもされず、歯牙にもかけられない。
   なぜなら、これら研究者の方等は、日々の研究等業務の中で、「火災にするかどうか? 」と言うことなど、考えたこともないし、実際の現場で「火災」を見た
   ことも、「消火した」こともないことから、実感もわかず、問題意識も生まれてこないからである。更に言えば、自らが人生をかけているテーマの根幹に
   疑問を挟むことなど生理的にも忌避される、ゆえんかと思う。また、突き詰めると、火災=対象の存立に関わることから、学科や講座等の組織の枠組み
   にまで影響しかねない、と不安になるのかもしれない。
   消防の世界では、「火災にするかどうか?」と言う、結局のところ「火災の定義」をどのように扱うべきなのか、戸惑うことが多く発生している。
   このようなことは、少し、昔なら、消防の世界でもまったく「問題」にしなかった。
   焼損床面積は「坪単位」で算出され、一日2件も3件も「火掛かり」する時代に「火災にするかどうかを考えること」すら、バカバカしいこと、でしかな
   かった。また、焼損床面積と焼損表面積を使い分ける、わずらわしさすらなかった。
   「如何にして、火災件数を減らすか」「火災のない文化都市であるか」の目標の前には、「火災として取り扱わない」ことが当たり前の選択肢で
   「火災に非ず(非火災)」「危険排除作業」「電気事故」「爆発事故」として取扱い、火災の減少化政策に努めてきた。この行政判断の「扱い」
   に対する苦情には「(消防活動があったことの)事実証明書」等を発行し、火災保険や税金減免措置対応としてきた。
   しかし、今や、そんな時代ではなくなりつつあり、火災として扱うべき事案は
火災であるとの立場に立つことを求められている。
   仮に「火災に非ず(火災に至らず)」を取り上げるとどうなるのか。
   @ 「火災でない」とすると、法第7章の規程は適用されず、住居等への侵入・法令に基づかない供述録取等は、公務員として行ってはいけない
      ことである。さらに、非火災等を行政調査の対象とするならば、「何の目的で・どのような調査内容と手段で」と言った項目を市町村条例
      市民に提示すべきで、消防法を恣意的に解釈した脱法行為は慎むべき、と言える。
   A 現在のような居住環境での「火災の定義の疑義」を見過ごして、火災であることを避けた「非火災等」による調査は、結局のところ、
      火災と非火災の区別が輻輳して混乱し、事故か火災かの市民目線を離れた火災予防議論となってしまう。 
   B 火災調査の事務処理は煩瑣だ、とすると、「非火災」にしてしまう。易きに流され、気がつていた頃には、多くの火災が「非火災」となる。
     それが東京消防を始め過去に「非火災」を取り込んで、その過ちを正すのに幾年も費やした結果だ。担当者が理解しているうちは良いが、
     5年先には無残な「〇〇市火災統計」となり、「火災」を正確な数値として出せない三流の本部に落ちてしまう。
   これらのことは、現場の「火災調査員のプライド」を無視した官僚的対応とも言えそうだ。
  今や(平成30年現在)、住警器の設置、放火等犯罪の減少、裸火の低減等により「火災件数も焼損面積も減少の一途」をたどる中では、一件一件
  の火災を丁寧に取り上げなければならない時代となっている。
  火災の定義に関する視点は、下記の事項に集約される。
  
@ 消費者行政の浸透
   
平成7年7月から施行された「製造物責任法」、平成21年9月施行の「消費安全法」などの影響により、「火災」と捉えられる「事故」が積極的に通報
   される傾向にあり、また、その製品の火災事故原因について「説明」を求められる立場におかれていることが大きな要因となっている。通報されてい
   る内容から、従来なら「火災にしなかった」と思われる事案を「火災」として扱い(事後聞知等)、「火災原因調査」を実施する「義務」が生じている。
   その例は、消費経済審議会・製品事故判定第三者委員会などの議事録を読むと、なおさら、「この種事故が、火災として扱われる根拠は何なんだ
   ろうか」と思えるケースもある。
 
  A 製造メーカに対する資料提出命令権等の付与
   
平成24年6月の消防法の改正により、法第32条第1項に「・・・火災の原因である疑いがあると認められる製品を製造し若しくは輸入した者に対
   して必要な資料の提出を命じ若しくは報告を求めることができる。」(罰則法第44条第22号、両罰規程も含む。)となった。
   この扱いについて、平成24年10月19日消防予第389号、消防技第60号「消防法の一部を改正する法律等の運用について」 [第2 火災の調査に
   関する制度の整備]として、「資料提出命令等を発出する際は、消防庁に命令の内容を「照会」すること、その結果を「報告」することが、示され、
   かつ、その「情報」の管理を厳格にし、反面、他の行政機関等からの申し出に対して「情報提供等の対応」をすること」となっている。
   この場合の消防庁通知の解説は別に置くとして、改正消防法からは、火災原因調査のために「製品の火災」に積極的に関与しなければならない
   ことが趣旨となっている。
   その際に、まず「その製品からの火災」を「火災として扱う」かどうか、次に、火災とした時に「出火原因とされる疑い」をどの視点から判断するのか
   と言う、従来にはない「課題」が消防法の新たな条文の創設から求められている。

  B 外国の常識
    
@Aの扱いの中で、「製品が外国の企業」の場合に、特に、「なぜ、消防がこれほどまで詳細に調査する必要があるのか?」
    「火災なのかどうか、明確ではないのではないか?」と。欧米を含め、海外の消防の火災調査は「火災予防的見地からの詳細な調査」は、ほと
    んど実施していない。 大陸の火災調査は、その対象を放火火災を主としている。 そして、外国の通例では、製品だけが焼損した場合は、行政
    機関が関与せずに、民事訴訟事案として「調査会社による調査結果」が出される。しかし、日本では「火災予防的見地」として、積極的な火災調査
    権の行使をする、そのズレが理解されにくい。
    もちろん、日本のメーカにおいても専属弁護士からは、外国企業と同様の意見がなされる。
    「この火災は、本当に「火災」と言えるものなのでしょうか?」 「国の示す火災報告取扱要領の火災の三原則に合致しているのですか?」と。

  C 事後聞知火災の占める割合の増加
  
 現在の「消防白書」には、第1章、第1節「火災の予防」1. 出火状況 (5) 火災覚知方法は119番通報 として、「第1-1-2図火災覚知方法別出火件数」が
   あるが、「事後聞知火災」は、この円グラフでは「その他」に扱われている。「駆けつけ報 0.6%」がグラフ表示されているのに「事後聞知火災 18.6%」
   は[その他]に入れらている。平成23年から消防白書では、「事後聞知火災」は「その他」扱いである。
   「消防署への直接の火災報知、警察からの報知、駆けつけ報」などをひっくるめても10.8%にしか過ぎないのに、18.6%の「事後聞知火災」の覚知は、
   消防庁にとって「無視したい」件数なのかな? と思えてしまう。
    平成12年の事後聞知は13.9%、平成16年で15.3%、平成21年で17.3%、そして平成27年の白書の平成26年では18.6%と、毎年、火災の覚知別に
    占める割合が着実に増加している。
    「事後聞知火災」を調べると、東京(2006年)は約18%であった。が、現在(2104年平成26年)では37.8%を占め、建物火災では38.9%、ほぼ4割が
   「事後聞知火災」となっている。
    ここで、「事後聞知火災」とは、鎮火されたとして、消防機関に「火災」として通報されたものである。
    全国の統計は「詳細が不明なので東京消防の統計から調べてみると次のようになっている。」
    通報時「消えている」ケースの通報で、「消してから通報した」場合と、「消えていた」ので通報した場合がある。
     @ 事後聞知火災の約6割が「建物火災のぼや」、残りの3割が「その他の火災」で、建物火災に占める割合が微増する傾向にある。
     A 通報者で見ると、行為者が1割、これは火災で消火し、「鎮火させた」と推定される。通行人・近隣者が2割、建物の居住者が3割、建物の
      勤務者などが2割である。これは、単に「焼損し、鎮火した物件などあった」ことから、念のため通報したものと推定される。
     B 発見時の状態は、半分が「発火源又はその着火物」が燃えていたもので、「消火した」と考えられる。次に35%が「既に、消えていた」状態
      で発見して通報している。「消えていた」ことからすれば、「消火すらなかった」事案が「火災」として、事後聞知として扱われている。
    このように、消防としては、この「事後聞知火災」という「難題」に取り組まなければならない瀬戸際にきている。
    つまり「火災の定義」の問題に突きあたると言える。それは「消火を必要とする燃焼現象・消火設備等を使用した事案」に対する問いかけとなる。
   
      2, 火災調査で扱う「火災」の実態           転載を禁ず
 火災報告取扱要領(消防法の解説を含め) から離れて考える。
   「火災の定義」を考えると、火災報告取扱要領を金城鉄壁と思い込んでおられる職員も多い。しかし、火災統計は、統計報告が定着した1968年
   (昭和43年)で火災件数が変化し、さらに、1995年(平成7年)での改正(平成6年4月通知)においても火災件数が変化し、解釈等の改正が影響し
   ている。
   平成6年4月の改正は主に次の項目であり、 @ボヤ火災を焼損程度に入れ、A爆発火災を取り込んだ、ことがである。
   それまで、建物火災の区分に「部分焼火災」までしかなく、収容物のみが焼損した火災(テレビだけが燃えたケース)では、部分焼火災として扱う
   はずのものが、「建物の部分焼ではない」として、「製品等の電気事故」等として非火災とされ、扱われていた。
    爆発は、事故であり「火災」でないとして、爆発時の死傷者がまったく火災統計からは捉えられていなかった。これらを是正させる目的で改正
   した。消防的な見地からは、火災調査の実態と整合性がとれ、いずれの改正も今では、これで良かったと思っている。
    しかし、そのため。 社会通念上「火災」と「爆発」は、まったく別の次元で扱われる性格のものが「火災」とされ、世界的に見ると少しゆがんだも
   のとなっている。このように、火災報告で示される「火災の定義」は、日本の「消防の火災統計」としてのみ位置づけられるものでしかない。
   つまり、現行の火災報告の通知文のみを、こねくり回して「定義づける」ことは、現場で扱う消防としては、もう少し柔軟に検討してみる必要があり、
   必ずしも「現行規定を必守しなければならない」ものではない。もっとも、各県消防学校の「火災調査課程」などでは、県職員などが、裏覚えで、
   統計的な扱いだけを授業で話すので、絶対的なものであるかのような、誤解が生まれる。
   それは火災の研究者が発言する「火災の定義」と同根のもので、あまり参考とはならない。

  まずは火災報告取扱要領からの「火災の定義」のおさらい
   火災報告取扱要領には、「第1 総則 2. 火災の定義」とされている。
   火災報告取扱要領では、「火災とは、人の意図に反して発生し若しくは拡大し、又は放火により発生して、消火の必要がある燃焼現象であって、これ
  を消火するために消火施設又は同程度の効果のあるものの利用を必要とするもの、又は人の意図に反して発生し若しくは拡大した爆発現象をいう。」
  としている。この中で、爆発現象が平成6年の改正で入り、平成7年の統計から計上している。
   火災の定義を文脈から、3つの段落の箇条書きにより解説し
「火災の三要素」と呼称している。
     @ 人の意図に反し、又は放火により発生すること。
     A 消火の必要がある燃焼現象であること。
     B 消火施設又は同程度の効果のあるものの利用を必要とすること。
  この3つの要素(発生過程+消火の必要性+消火用具等実行行為)が全部含まれているものとされ、
  このうちいずれか1つでも該当しないものがあれば、それは「火災ではない」としている。
  そして、「爆発現象」は、AとBの有無にかかわらず、火災に該当する、としている  

  「火災の事例」から、現場的に見る
  
次に、わかりやすく、火災の現場写真を見て、説明していく。
 このような建物火災は、論を待たずに「火災」と
 なる。しかし、現在、このような「火災」らしい火災
 は、少なくなりつつある。研究者が唱える「火災」
 はこのようなものが対象となっている。
 誰もが「火災」として浮かべる「建物火災」である。
 火災に対して消火活動がなされ、延焼を食い
 止める。その意味では本来、火災とは「建物火災」
 に対して用いられる用語とも言える。
 建物火災は、社会性を帯びる。もし、社会性
 のない「建物火災」として、山の中の「掘立
 小屋」が落雷により燃え、誰も気づかなかっ
 たら、建物火災として処理されるのだろうか。
  建物火災で、室内の一部が燃えている現場。左「天ぷら油火災」、中「石油ストーブの火災」、右「フスマに押しつけられて火が点火した「ライター火災」。
  消防隊により消火しているケースもあるが、居住者による「初期消火」も行われている。
  「消火行為」を伴うゆえに、火災の三要素に該当し、問題はない。
  また、居住者にとっても、意外性の中で発生した「火災」としての認識が強い。現在の建物火災のほとんどが、この程度の火災が多い。 住宅用火災
  警報器の設置と耐火建物の増加により、ぼや火災に区分されて計上される火災である。
 この河川敷の「枯草火災」だと、およそ、損害もな
 い。 消防庁の古い「火災とならない事例」の中に
 「川の中州の河川敷火災は火災ではない」と言う
 のがあった。
 これなどは、火災の三要素の前提となっている、
 「延焼」に直にむすびつかないため、この解釈が
 存在していた。
 現在は、消火活動がなされることもあり、「火災
 に非ず(=危険排除活動)」ではなく、「火災」と
 扱われている。
  次に、「火災」と定める中で定義される「延焼拡大と消火行為」を考える。  
  公園内のトイレの一角のゴミが「燃えて、消えていた」現場である。 火災時の通報がなく
  翌日に通報されている。つまり。火災として延焼拡大することはない。 結果的に、自然鎮火して
 「事後聞知」の火災として扱われている。
  この場合は、原因を「放火」とすると、現在の解説では、「消火をしていない」が火災の三要素
 に対して「人がその場にいたら、通常人は消火の必要を感じ、消火していた」と言う言い回しにより
 放火火災の事後聞知火災とされる。放火の「その他の火災」で、最も多く適用される解釈である。。
 では、現場の原因が「タバコ」で、「放火」ではないが、「人の意図しない」原因ではあるときは、
 耐火造のトイレに集められた枯草が「燃えた」現場で、必然的に「消えてしまう」状況の中で、
 「通常人なら、消火する」と言えるのか、どうか。
  天井の「引掛けシーリングの火災」
  原因は、据え付け工事に際して、プラス側屋内配線のVVF電線を差し込み時に芯線の入れ
 込みが不安定、或いは短かったために「接触部過熱」により過熱出火したもの。
 このような事例では、「消火行為」「延焼拡大」もない。火災の三要素が適用されない。
 しかし、り災者は、「通報」し、天井面が熱と煤等で変色している損害実態から、「火災」とされ
 るケースである。そして、当然に「り災申告」が出され、天井と照明接続器具等の焼損が申告され、
 火災保険の補償、又は、税の免除などに直結する。
  万一、このような事例を消防機関が「火災」としないのであれば、り災者が火災により被った
  被害を、どのように扱うのか、十分な説明が求められる。
 「エアコンの部品からの火災」
 このケースも「消火行為」「延焼拡大」がない
 火災である。このケースでは「火災の三要素」
 が成り立たないことからすれば、消防法第32
 条の資料提出命令権の行使は難しくなる。
 「火災の定義」を火災報告の説明文しかない
 と考えると、消防法の火災原因調査の充実
 強化に対する趣旨が活かされないこととなる。
 次に、「電子レンジ」の火災で、燃えたものは、内部の配線の接続部のみである。
 電気メーカの担当者は、「火災」として納得するが、その会社の弁護士は「火災報告取扱要領」を
 コピーして来て、「火災とは言えないのでは」と言う。
 このケースは、コンセント部のコードの
 一部のみが焼損した「短絡火災」だ。 
 
  変電設備の乾式コンデンサで、粉末消火器を使用しているが、実態は、爆裂的に燃えたと同時に
 鎮火している。つまり、「消火行為」は、火災の延焼実態とは関係のないケースも在り得る。
 昔、考えられたように、「消火行為は当然に火災を消すために行う」ことであったが、今は、
 結果として見ると「火災の消火」とは関係しないケースがある。
 これは、トラック車両のセルモータの焼損部
 だ。エンジンをかけてしばらくしたら白い煙が
 でてきたために、エンジンを止めて、消防に
 通報しており、消火行為は勿論ない。
  「消火の必要がない(自然鎮火など)」火災が多くある。
   例示: 「地下通路のコンクリート壁に張られたポスターに放火された」
       「校庭の隅で、捨てられたタバコの山がくすぶって、煙を出していたが、そのうち、消えた。」
       「テレビ(フライバックトランス)から煙が出たので、電気コードを抜いて、しばらくしたら、煙がなくなった。」
       「子供が、家の中で、電気のコードの上を三輪車で走ったらコードがバチバチ言って、煙と火が出たが、そのうち、しなくなった。」
      「燃えた紙屑を敷地内に投げ込まれた。見つけた時は消えていた。(燃え尽きた紙屑かもしれない)。」
      「電子レンジ内でカップ麺を温めようとしたら、パチパチ言って、カップの蓋の銀紙から炎がでたので、レンジのドアを開けたところ止まった。」
      このようなケースでは、A「消火する」B「消火設備」などの、「火災の三要素」は意味をなさない。
  上の火災の写真を、真剣に捉えて「火災の定義」を考える時に、火災の三要素で示される「消火行為」は、「火災」が発生しているとした時の
  事後の対処行為にしかすぎないので、「火災」そのものの定義づけの条件とはなり得なくなっている。
  火災の現場を知らない「火災研究者達」なら、従来どおりの「火災報告取扱要領」で国が示すことを盲目的に信じることも許されるが、現に、り災者を
  前にして判断する消防機関としては、「火災の三要素」の一つでも該当しないものは「火災ではない」とすることはできなくなっている。
  火災報告として扱う対象としての「枠組み」の基準が「火災の三要素」であり、必ずしも、それは「火災の定義ではない」と言うことを理解してほしい。
  火災報告に「枠組みを踏まえていない火災」を件数として計上したとしても、それは消防本部としての行政判断として正しいものです。
  「火災の定義」としている用語の使い方において「火災報告取扱要領」は誤記していると考える、わかりやすいと言える。
3, 消費者行政等から見た火災
 損害保険の扱い
  消防以外の組織として、もっとも大きい影響力のあるのが「損害保険会社」ですが、火災保険約款に記載されている内容だと、このホームページで
  話題としている内容に関するような答えはありません。つまり、原則は消防が判断すると同じとしています。実態は、ケースバイケースで「火災」と
  されています。
  ただ、昔の「Table Fire」事件の教訓から、「火災」があったかどうかの認定として消防のり災証明があることが条件としています。とは言え、これらの
  実態を調べることはできません。例えば、このことを「住宅を除外した火災発生場所の支払一覧」として、消防に提示されれば突き合わせにより疑問
  は払しょくできますが、その可能性はありません。
  将来、住宅を除外した一覧を消防署と情報共有する制度設計が、必要なことと思われます。まずは「火災の発生の有無」、次に「消防へのり災申告
  の一覧と火災保険支払対象との著しい相違」の2点が明確になることによって、保険会社がしばしば用いるモラルハザードの言葉が、実質的な意味
  を持つものとなります。情報共有などは、あり得ないかもしれませんが、消防の立場からは、Table Fireに類似した事案の発生に留意し続けることは
  必要だと思う。
   なお、一定額以上の火災保険金支払いは、第三者による中立性確保から「損害鑑定人」が勤務する損害査定調査会社が評価書を作成することと
  なっており、損保会社から独立した仕組みによる査定となる。ただし、「火災」として認定するかどうかは、各社ごとの保険約款の微妙な解釈の差異に
  より保険会社の担当者に任される。
 
テーブルファイヤは、昭和32年1月東京地検の捜査において、当時の日本火災海上保険が、代理店を自社内に設置し、架空契約と火災時支払
  金の架空支払を行い巨額の裏金をねん出し、これらを代理店に対する保険料の割引資金(奨励金)としていたことが判明したもの。当初、業務上横領
  の内部告発から始まったが、この件は裁判で無罪とされ、問題は、テーブルファイヤとして、火災保険制度の在り方を否定する行為として指弾された
  (国会、日経新聞等)。 社内の代理店により、火災保険契約を架空につくり、さらに「火災の発生と損害」を架空で作りあげて支払い、その支払金を
  プールするもので、3年間で1億5400万円近い金額となっていたと伝えられている。
   このように、損害保険は、生命保険会社のように直営ではなく、業務を代理店に依存する体質から、代理店の優劣(規模や支払実績等)により、対応
  に差異が生じる内在的な要因を持っている。火災調査時の損害調査で、り災者の損保対応に違いがあることに気付くことがあるが、それらは代理店
  の規模等によることが多い。 ( 旧日本火災海上保険⇒日本興亜損害保険(株) ⇔形態としては、損害保険ジャパン日本興亜株式会社)

 消費者庁に扱う事例からい
  消費者行政の中で、「火災」事案がしばしば登場することから、これらの中から特徴的な事案をとりあげる。「消費経済審議会・製品安全部会・ 製品
  事故判定第三者委員会」(消費者庁のホームページからは容易に着けないので、次のアドレスで見てください。
    (http://www.caa.go.jp/safety/jikojoho.html )
  この委員会は、製品安全の視点から事故情報を収集し、その対策を検討する委員会と言うべき性格のものですが、集められる情報は主にメーカ
  からのもので、対処内容が提示され、委員の検討に経済産業省とNITEが回答する。
  @平成27年度第2回 資料6、No.6
   電気カーペット (火災)当該製品を使用中、当該製品及び周辺を焼損する火災が発生した。
                ○当該製品は、コントローラー部の電源コードコネクターの内側に、著しい焼損が認められた。
               ○電源コードコネクターの刃受金具の片側はプラグ刃とともに溶融、焼失しており、カシメ部の溶融痕のみが残存していた。
               ○基板側プラグ刃は両極とも根元で溶断していた。
    ●当該製品のコントローラー部の電源コードコネクターから出火したものと考えられるが、コネクター内の焼損が著しく、確認できない部品も
     あることから、製品起因か否かを含め、事故原因の特定には至らなかった。
 
[この記事から] 主に、電気カーペットのコントローラーから出火し、焼損している。コントローラ部の内部の電源コードコネクター(取付け部)の
   接続端子のカメシ部が溶融していることから、カシメ不良による接触部過熱により出火した火災である。なお、委員会報告では、事故原因は
   特定に至らない火災としている。
  A 同委員会 資料6 No10
    電子レンジ    火災によりも軽傷者2名。
              ○使用者は、当該製品に少量の食品(100g程度)を樹脂製のフタを被せた状態で入れ、自動調理モードにて調理を行った。
              ○庫内の残渣物の焼損は著しく、庫内一面にススの付着が認められたが、機械室内部に発火の痕跡は認められなかった。
              ○使用者の使用方法で実施した再現試験の結果、発火には至らなかった。
              ○当該製品下部のアンテナ部モーターの動作確認ができず、回転部が正常に働いていたか否かは確認できなかった。
   ●当該製品は、機械室内に発火の痕跡は認められないことより、少量の食品に樹脂製のフタを被せた状態で自動加熱したため、発煙、発火
    に至ったものと推定されるが、再現試験では発火に至らなかったこと、また回転部の動作状況が不明であり食品に電磁波が集中して発火
    した可能性を否定できないことから、事故原因を特定するには至らなかった。
 ※[この記事から] 電子レンジ内に入れた樹脂製のふたフタに入れた食品100gが、自動調理モードで過熱させた際に、発火して燃えたもので
  ある。電子レンジでは100gの過熱は、特段「少ない」と表現されるものではなく、冷凍品のタラコなどの解凍などはこの程度の量である。
  原因の課題は、自動調理のケースで「発火」するほどまで照射されたことであり、製品としての問題点はそこにあるかと思える?。

  消費者庁の2つの例示だけで全体を敷衍するのはやや問題ではあるが、「火災の認定」が、消防の火災報告取扱要領に示される「火災の
  三要素とは関係なく扱われている」ことである。およそ、「消火施設又はそれらのものを利用した」とは思えないような事例が、この委員会議事録
  の中で取り上げられている。
  消費者の立場からは、「火災」となった事象に対して「消火するかどうか」は別の問題として置き去りにされている。
  これら事例に、消防が「火災の三要素」を示し、「コレコレの事例は、火災とは認められない」と言えるのだろうか? 
  消防だけが「火災」を認める唯一の機関であるとするのはムリがあり、さらに「火災報告取扱要領」のような単に統計上の要綱を持ってして、
  一律に考えるのは、さらにムリがあるようだ。
4, 「火災の定義」とされている火災報告取扱要領等
  火災報告取扱要領からの「火災の定義」(再掲)
   火災報告取扱要領は、「第1 総則 2. 火災の定義」がさだめられている。
   火災報告取扱要領では、「火災とは、人の意図に反して発生し若しくは拡大し、又は放火により発生して、消火の必要がある燃焼現象であって、これ
  を消火するために消火施設又は同程度の効果のあるものの利用を必要とするもの、又は人の意図に反して発生し若しくは拡大した爆発現象をいう。」
  としている。この中で、「爆発現象」が平成6年の改正で入り、平成7年の統計から計上している。
   火災の定義を文脈から、3つの段落の箇条書きにより解説し
「火災の三要素」と呼称している。
  @ 人の意図に反し、又は放火により発生すること。
  A 消火の必要がある燃焼現象であること。
  B 消火施設又は同程度の効果のあるものの利用を必要とすること。
  この3つの要素が全部含まれているものとされ、このうちいずれか1つでも該当しないものがあれば、それは「火災」ではない、としている。
  そして、「爆発現象」は、AとBの有無にかかわらず、火災に該当する、としている  
 
  
「消防法の解説」からの「火災について」
  「消防法の解説」(逐条解説「消防法」第5版 消防基本法制研究会編著)を見ると、解説として、次のように示している。
  火災とは、
       @ 人の意図に反し、又は放火により発生すること。
       A 消火の必要がある燃焼現象であること。
       B 消火施設又は同程度の効果のあるものの利用を必要とすること。>
         の3つの要素が全部含まれているものとされ、このうちいずれか1つでも該当しないものがあれば、それは「火災」ではない。
         「爆発現象」は、AとBの有無にかかわらず、火災に該当する。
   [さらに解説として]
   @ 「人の意図に反して発生し若しくは拡大し、又は放火により発生する」とは、人の意図に反して発生し若しくは拡大するか、放火によって
    発生する現象であることが、火災として成立する上に欠くことのできない条件であって、これらの現象を放置すれば、社会通念上公共
    危険が予想される燃焼現象をいう。(なお、この解釈だと「・・公共の危険性が予想されない燃焼現象」があるとすれば、それは「火災で
    はない」と言う説明が成り立つ。本当に、火災の全てが「公共危険の尺度」で測られる対象だけであるのか、との疑問が生まれる。)
   A「消火の必要がある燃焼現象であること」とは、燃焼拡大の危険性があると客観的に判断されるもので、燃焼物の経済的価値の有無に
    かかわらず、社会通念上消火の必要が継続する燃焼現象をいう。(・・・消火の必要が継続・・とは、どんな継続事案(鎮火しない)なのか・・)
   B「消火するために消火施設又は同程度の効果のあるものの利用を必要とする」とは、消火効果のあるものを現に利用し、あるいはそれらの
    ものを利用することが必要であると客観的に判断される燃焼現象をいう。 (・・・消火は主観的なものだが、爆発などはダメと言うこと・・)
   「爆発現象」の説明として、燃焼爆発を捉えて破裂のような圧力上の爆発を除くことを説明している。
     ここで、更に続けて、「刑法」上の放火罪及び失火罪の構成要件として「焼損」の犯意の捉え方により「火災」を「独立燃焼説」と
   「効用喪失説」があることを説明し、学説により別れることを示している。
   
[追記のコメント]
   「解説」と言う陳腐な説明は、「火災の定義」として記載されている内容から、それが三要素として示されているものであること、が十分わかる
   はずなのに、「社会通念上公共の危険」とか、「社会通念上消火の必要」「客観的に判断される」と言う修飾語的な言葉をかぶせている。
   およそ数学などの「定義」と言われるものは、それ自体がその言葉で説明されるものであるが、消防法(火災報告取扱要領も)の世界では、
   言葉の意味することよりも「社会通念」の仕組みを入れ込んで、結果的に「定義」とは言えない言葉の遊びのような解説となっている。
    これなら、はじめから「火災とは、社会通念上火災と認められるもの」と定義しても五十歩百歩の差のように思える。
   独立燃焼説は、わかりやすいもので、出火させても途中で「消えてしまう」出火であれば、刑法上の罪となる「火災」とは捉えられないと言う
    もので、理解しやすい説である。しかし、反面、この説だと、コンクリート造でできた室内(ボイラー室)などで「放火(出火)させた」場合には、独立
    燃焼に至らないで、助燃剤だけが燃えて鎮火するケースでは「放火」が罪として問えないこととなる。そこで、施設の利用面での「効用」が
    失われることを捉えて、その面からは「効用喪失説」が必要な要件として扱われると言うものです。
     いずれも刑法犯の「放火罪」を見据えた扱いである。
    しかし、火災保険等から見て、「火災は、燃焼の形態から「独立燃焼」に至っている状態をさす」ことが考え方の基本となつている。
    独立燃焼するからこそ、「消火の必要がある」と言う言葉が意味をなし、かつ「消火設備等による消火行為」を担保として、成り立ちうるものと
    となっている。この点において、「火災」と「事故」が区別されるゆえんであるとも言える。燃焼現象が、継続して独立に燃え続ける必要を求め
    ている
   さらに、「火災」と「火事」との相違は、実態的にはまったく同じであるが、「火災」は行政機関(消防)が認知した事案であり、「火事」は起こった
    事象で、行政の関与の有無にかかわらずに生起しているものである。人里離れた山間部で落雷により「火事」が起きたとしても、それが消防が
    認知しない限りは「火災」ではなく、「火事である」と言う「話し」の中で説明されることとなる。

 「火災報告取扱要領の解説」から
    元々は、「消防法の解説」と同じ内容であったが、最新(「火災報告取扱要領ハンドブック 平成19年5月 11訂版)の「火災報告取扱要領の解説」
    では
    @をとらえて、ズバリ 「「人の意図に反する」ということは、反社会的であるといえる。」とし、その後に 「火災は災害の1つであり、社会公共
    の福祉と秩序を乱すものであるから、こうした現象を発見した者は、通常人(社会一般の常識を持った人)である限り消火行為、通報等の適応した
    行動を起こすであろう。それは、これらの現象(燃焼現象又は爆発現象)を放置すれば、社会通念上公共の危険が予想されるのである。このよう
    に社会一般人の意志に反するもの又は放火によって発生するということは、火災として成立する上に欠くことができない条件である。」と記されて
    いる。
   しかし、「人の意図に反する」という「火災の出火機構」を捉えて、「反社会的」と言う用語の使い方は、ほとんど日本語の使い方として、どうなのか
   と思える。
  
 [コメント] 従来からの解説は、あくまでも「人の意図に反して発生した」現象が、放置されることが、社会通念上として「問題である」としていたが、
   この解説では「人の意図に反する(つまり出火した)ことが、反社会的なこと」となってしまっている。.もっとも、東京法令出版「火災報告取扱要領
   ハンドブック」に記載しされている著書は「防災行政研究会」という名前の「消防庁防災課のダミー」であり、この文章の文責は「存在しない」、
   こととなっている。
   この文章の誤りは、雷や収れんによる「出火」を
反社会的と言うことにしてしまっているからである。もともと「火災」を統計上から捉える
   際には、統計分類に示されるように、「発火源」「経過」のコードの始めは電気的・化学的・物理的な現象面からの「出火機構」と言うものを解明する
   ためのツールとして、作成されている。そのツールの扱いを明確にするために「定義づけ」をしているのであり、現代社会における「火災一般」の
   意味をことさら説明する必要のものではない。つまり、「この解説を書いた人」は、火災統計の意味も「火災」もよく知らない人達かな・・・・と思える。
   この版には、さらにABについても、解説がなされているが、取り上げるだけの意味がないので、自分で読んでみてください。なお、この解説を
   受け売りしている書物もあるが、取り上げる内容もないなので省きます。
   「消防法の解説」を上回る、あきれるばかりの"表現力"にただ脱帽です。
   火災を科学的に捉えて「統計の視点」から調べて行くと言う姿勢ではなく、国の行政的利点だけに固守した姑息な"表現力"に寒心します。
 
 
その他の文献類
   
火災便覧」「火災と建築」などの火災学会の出版物、熊谷清一郎著「火」、崎川範行著「火事と爆発」などを見ても、「火災」としての考えは
   示されていない。「火災便覧」などもそうだが、「燃焼現象」の説明は、詳しいが、「火災」は単にその燃焼現象の継続延長したものとして扱われて
   いる。
   安全工学講座「火災」では、消防の「火災の定義」を取り上げ、「・・我が国では・・(火災の定義)・・と規定されているが、端的には、可燃物の物質
   が意図に反して燃焼し損失を生じたものが火災であると考えられる。・・」としている。燃焼現象の延長線上にあって、意図しないで「可燃物」が焼
   損したのである、としている。
   最近の書物では、「火災の科学」辻本誠著中公新書(2011年)で、「火災とは」として、「火災の確定した定義がない」こと、一応、消防機関が
   扱っている火災報告取扱要領からの「火災の説明」が示されている。そのスタンスは、安全工学での扱いと同じものと言える。
   他に「火災の法律実務」や「火災と刑事責任」等の火災関係の法律書物や火災保険約款などにおいても「火災の定義はない」ことが、示され
   ている。
    なお、特筆としては、「火災」と「火事」の扱いを調べられたものとして、法文上での違いを、横田英二著「消防用語@」(近代消防02'01号)に
   その使われ方が詳しく掲載されている。一つの法文の中で「火災」と「火事」の両方の用語を持ちている法律があるとは、意外な感がある。
   横田さんは日本橋署長をされていた。その横田氏の記事の中でも特に「火災の定義」としての内容は示されていない。 
   なお、「火」に関しては、白井さんの「火と水の文化史」(近代消防社)があるが、同じである。   

5,「火災」を考えるための概略の復習
 燃焼は、右の図のように3つ要素 「発火源」「着火物」「酸素」が必要とされる。
 燃焼の継続と言うことでは、燃焼による熱エネルギーがフィードバックし、「着火物」
 に作用して、可燃性ガスを継続的作り出し、さらに大きな「燃焼」へと継続させていく。
 燃焼の形態が、拡大していく性質を有するのが一般である。
  
  ⇒詳しくは専門書で。
 
 「火災」は、その燃焼からの火災原因の理由として、4つに大きく分けられる。
    1自然現象、2 不慮の事象、3 過失による事象、4 故意による事象
 つまり、火災の出火機構そのものを捉えるとその成立過程は、火災の解説に
 あるような「社会通念上公共の危険」と言ったものではなく、そもそもは偶発的な
 事象により発生し拡大するものとして、とらえられる対象である。
  その際に、「社会性」の有無ではなく、人が関与している仕組みの中で「火災」
 の性格が異なり、その後に続く「消火の必要性」へと結びつくものとなっている。
 
 火災に対して行われる「火災調査」は、その中でも「燃焼現象」とされる出火機
 構と立ち上がりによる「延焼拡大」との関連性を考察する作業である。
 このために「出火箇所」を判定し、出火原因としての「発火源・着火物・経過」を
 導き出す必要があるとともに、その継続拡大から逆に延焼性状としての「出火箇
 所」の妥当性を考察し、判定することとなる。いずれにしても、燃焼学や火災研究で
 扱われる「分野」とは性格が異なる。
 火災報告により「火災統計」で求められるものは、それらの過程の結果であ。。
 この場合は、従来からの「建物の延焼火災(炎上火災)」として扱っている。
 「火災の定義」では、この"燃焼体"が立ち上がる前に鎮火した際の考え方を
 どのようにとらえるかの問題となる。
 
6,そもそも「火災の定義」はどのように考えて、造られたのか
   出火原因統計特別委員会の考え
   「火災の定義」を考えた時、1950年(昭和25年)に「火災統計」を始めるにあたって、火災学会の中に、統計の組織だった仕組みを作り出す
   ため創設され出火原因統計特別委員会の考え方を知る必要がある。
   この時の解説記事である「出火原因の統計法について」(「火災」誌 第2巻第2号(昭和27年10月)火災誌)からダウンロード可能
  火災の認定
    ・・「火災とは何か」ということで、これが決まらなければ出火原因も科学的に決めることができないのである。ところが普通我々が「火災」と呼んで
    いるもとは甚だ漠然とした輪郭内のもので、これに的確な科学的定義を与えることは、ほとんど不可能に近いようである。
    火災が損害を伴った燃焼現象であることには間違いはない。
    しかし、一つの燃焼現象を「火災と呼んでよいか」の判断の基準となるものでは、単にその損害額というような客観的なものばかりでなく、多分
    に主観的な要素を含んでいるように思われる。
    火に対する恐怖や興奮は、本来我々の本能であるが、その恐ろしい火を我々は自由に使っている。この火が我々の手中にあった自由に制御さ
    れている間はよい。しかし、一度、我々の絆を脱した場合、測り知れないその猛威には本能的な恐ろしさがあり、これに対して一種の興奮を覚える。
     この恐ろしさなり興奮というものがあるかないか・・・・これが、燃焼現象に火災と言う名称を与えているかどうかの
判定には大きな役割を
    演じているものと考えられるのである。
     従って、紙幣の束を火にした場合のように、損害としては甚大であっても底に恐ろしさがないからこれを火災とは言わない。逆に、廃屋同然で、
    価値がほとんどないような家屋の炎上でも、我々は本能的興奮を覚え、消火活動を行なってこれを消そうとする。そしてこれも立派な火災と名付
    ける。我々が消火活動を必要とすると見なすのは、必ず、損害の大きいものについてばかりではないのである。 
     このように、火勢の恐ろしさと言うものが一つの要素である以上、火災と言うものの科学的定義のくだせないのは当然のことであるが、この委員
    会としては大体、次のような基準で火災というものを考えることにした。
     すなわち「火災とは、不慮又は不当に発生し、消火の必要のある燃焼現象であって、これを消火するために組織的の消火活動を必要とし、又は
    放置すれば、それを必要とする程度に拡大するおそれのあものである。
     但し、組織的の消火活動というものは、消防ポンプをもって消火する作業又は同等以上の消火能力のある作業のことである。」 
   
  
 [コメント]
    現行の「火災の定義」と合わせると、
      @
「不慮又は不当に発生し」 = 「人の意図に反し、又は放火により発生し」
      A
「消火の必要のある燃焼現象」 = 同じ
      B
「これを消火するために組織的の消火活動を必要とし、又は放置すれば、それを必要とする程度に拡大するおそれのあものである。」
         =「消火施設又は同程度の効果のあるものの利用を必要とすること。」
    となり、読みようによっては、今の「火災の定義」の表現のほうが分かりやすい。
    ここで、当時、燃焼を捉えて「火災」とするかどうかの判断を「火災に対する恐怖や興奮」を拠りどころとし、それにゆえに、必ず人は「消火行為」
    をなすものである、として「火災」としている。
  
7,火災報告取扱要領から見た検討されるべき内容
  火災報告で定める「火災の定義」の例示事例
  
火災の定義の3要素の例文解説が、火災報告取扱要領の解説編に11事例掲載されている。
  「火災」にするかどうか、と考える時は、だいたいこの事例を中心にして、検討するのが消防機関の通例である。
   事例1 子供の火遊び ⇒
火災
      2 「爆燃」で
爆発
      3 爆発後カーテンに着火 ⇒
火災
      4 新聞受けに燃えた紙を入れられ、雨が降って鎮火した。原因・放火 ⇒
火災
      5 人を殺害後、延焼危険のない場所で焼き。原因・放火  ⇒
火災
      6 薪フロの火の粉が飛んで、塩ビ屋根の一部が溶けた ⇒
火災でない
      7 自殺、着衣に着火。原因・放火  ⇒
火災
      8 タバコの吸殻が枯れ草に燃え、袢てんでたたき消した。 ⇒
火災
      9 火入れの火が下草に燃え移ったので、木でたたき消した。 ⇒
火災
     10 揚げ物をしていて、火が着いて消火器で消火。  ⇒
火災
     11 圧力鍋が破裂。  ⇒
爆破ではない

   火災報告で定める「火災の定義」から見た再構築
    「火災の定義」の再考について
   火災の3要素と言われ、その三要件がすべてそろっていることを「火災」の定義することとなっているが、質疑応答に、消火行為のない火災
   事例が3件あり、これらはいずれも放火火災である。この代表事例として「郵便受けに燃えた新聞紙が入れられたが、前日の雨で濡れて
   いたので、自然に消えてしまった。」がある。これは放火火災であることから、その場に人が居れば当然に消火の必要性を考え、かつ消火
   したであろうとして(仮定の話しを持ち込んで)、消火行為があったものとして「火災」と認定している。
   3つの要件のA消火行為とB消火施設の使用がなくても、「放火」であることによって火災の定義に適うこととした。
   それは放火火災に、事後聞知火災が多くあり、消火行為がなされていない現場があることから、3要件の内の2つを迂回して、「その場
   に人がいれば、消火したであろう」と言う言葉により該当することとしている。この質疑回答に見られように「放火火災」を埒外とした時から、
   既に火災の3要素の本来的な「意味」が成立しなくなっている。このためなのか、「火災報告や消防法の中での火災の定義の解説」には、
   くどいぼとに「社会性」や「社会通念上消火した」と言うような言い回しを用いて「放火火災」の火災への繰り込みをしている。もっともこの解説は
   1985年(昭和60年)頃の放火火災の比率が上昇し社会問題化する中で、放火火災を積極的に「取り上げる」考えの中で造られた時代背景
   を背負ったものである。 当時、公園などゴミかごの放火、自転車・バイクの放火、ポスター類の放火の中で、考えだされたものである。
    30年近く前の当時の社会性を考慮した「解説」が、今も「亡霊のように生きて」その解説を「消防法の解説」にまで、広げてしまっており、
   これを未来永劫、過去から受け継がれてきた真実であるかのようになってしまっている。
    火災原因が「放火」とされることが、「火災を判定する」ものではない。それは「火災」そのものが現に発生していることが、「火災かどうかの
   判断事項」であり、鎮火後の火災原因の結果によって「放火と判定される」ことによって、「火災とされる」ものではない。つまり、同じ現場の
   事象でありながら、「放火」と判定されると火災とされ、出火原因を「不明」と判定すると「火災ではない」かのような矛盾も出てしまう。
     さらに、「消火の行為」に着目すると、濡れている郵便受けに入れられた「燃えている新聞紙」に対して、「その場に人がいれば消火したで
   あろう」と言う考え方は、消えている事実からすれば、実際にその場に人がいたとしても消火はしない場合もありうる。そのことは「コンクリート
   の壁に貼り付けられたポスターに放火されている場合」も同様で、コンクリート壁に貼られた「燃えているポンタ―」を見た人が消火する、とは思え
   ない。このように、消火行為それ自体を「推定される要因」として捉えても、実態上、消火しないのであれば、本来的には「火災でない」ことと
   なってしまう。どの程度あれば、「消火するであろう」と言う推定が可能なのか。燃えた現場のケース・ケースで異なってしまう。
   火災原因を「放火」と判定するか、或いは、放火としなくても「失火に対して消火行為を推定要因と位置付けて、延焼拡大危険がある」とされ
   ているのであれば、もともと「消火行為の有無」は、単なる推定でしかなく、火災と認定される要件には該当しないと、考えるのが道理ではない
   だろうか。

   電気配線の火災や燃焼器具火災の多くがそのことを裏付けているように、燃え広がるかどうかは、周囲の条件により大きく異なり、その場の
   延焼危険を第三者的に評価すれば、火災の要件に該当しないケースがある。「火災と判断して通報した人」にとっては、火災の危険性を
   認識した行為、或いは、通報が社会人としての義務と感じて行った行為であり、延焼危険の考え方に対する客観的要素などの意味づけが
   存在して行われる消防機関への火災通報とは、意味あいがかなり違ったものとなっている。そして、その事案が「事後聞知」火災となって
   表れている。
   
   次に、火災の要件を再考するにあたって、1994年4月の火災報告取扱要領の改正が大きな理由となる。
   この改正により、「爆発」が火災の中に入れられた。本来の意味からすれば、「火災」と「爆発」は違う概念にあり、対象も捉え方も異なるもの
   であるが、改正により「火災として扱われるもの」とされた。このことにより、「火災の定義」上は、規模の小さな爆発は、消火行為のない火災
   と類似し、「消火行為のない」ことが火災とならない要件にならない、ことになってしまった。
   「爆発」は、従来の火災のように、その場に居合わせた人が“恐ろしさ”を感じて「消火する行為などを前提とする」ことなく、その現象の形態とし
   ての燃焼現象のみを主体とし、その後は、結果としての「焼損物件」の現認で説明されるものでしかない。爆発の多くには、誰かが、どこかで
   爆発音を聞いて、黒い煙無が立ち上がったことにより通報され、現認した消防機関は爆破として「火災扱い」する。つまり爆発には、一過性で
   終わることから“恐ろしさ”はもともと必要事項ではなく、焼損物件による燃焼現象の確認で済むものと言える。つまり、小規模の爆発現場は、
   消火行為のない火災現場と同じである。
    爆発は、消防に通報されるが、現場的には一過性で終わり、単なる焼損物件又は破損物件が存在するだけでしかない。
    この爆発が引き起こす現場の状況と製品火災の現場は、火災の捉え方において意味は同じこととなる。

   
   火災の3要件のA消火の必要性 B消火施設などは、爆発を火災と同一視した論理構成からするとこの要件は必要とされないもので
   あり、燃焼現象と爆発現象の現象面の相違だけの違いでしかないと言える。
    言い換えると、「火災は、人の意図に反して発生し若しくは拡大し、又は放火により発生した燃焼現象又は爆発現象であり、焼損物件が
    現認されるものをいう。」と考えるとわかりやすい。焼損物件は、火災による罹災証明の発行において、必須のことであり、焼損物件のことを
   無視すると認定されるべき判断要素が無くなってしまうことから、現場での状況から判断される燃焼現象又は爆発現象の存在と、その結果
   としての焼損物件の現認が必要となる。    
  
  「火災は、人の意図に反して発生し若しくは拡大し、又は放火により発生した燃焼現象又は爆発現象であり、焼損物件が現認されるものをいう。」
   と考えるとわかりやすい、とした。
     しかし、ここまでの議論は、通報された場合の市民から要請される「火災の判定」であるが、通報されない場合に「消火行為もないような
   事象を火災とする」と、消防法第24条火災を発見した者は遅滞なく消防署に届け出る、ことを怠ったことになってしまう。防火対象物では、
   消防法施行規則第3条に定める消防計画に抵触し、施行令第4条の防火管理者の責務に関連して、消防法第8条の問題へとつながってしまう。
    これは、行政側の「火災の判定」を押し付けた場合に応じる危惧である。つまり、通報側が「火災」と思えないような事象を、消防行政側から
   取り立てて「火災とする」ことに大きな抵抗感が生じる。立場による認識の相異を、どのようにとらえるかであり、一般人が扱った事案で、消火せず
   に、通報しない場合に「消火としなかった事象」を「火災」と扱う必然性がなく、行政が「火災」とする意味はないようにも思える。この問題は同様に、
  消防では「火災」としているが、製造メーカでは「焦げただけの事故」と認識すると「火災による資料提出命令の要件には該当しない」と同じことと
  なる。
8, どのように捉えるのか
   まとめ
    消防白書から消し去りたい「事後聞知火災」が増加する現実は、火災件数・焼損床面積の減少の中で、避けて通れない事象となってきている。
   的確な消防行政を遂行する上で、その根幹となる「火災」を消防の中でどのように捉えるのかを明確にしない限りは、2020年のオリンピック後を
   見据えた「消防」が生まれてこないのではないか、と思える。救急と防災で、今をしのいでいる間に、火災調査から得られることを踏まえ、「火災の
   定義」を作りだす必要がある。
   3章の火災の実態で、写真入りて示したように、「消火行為を必要としない」火災が「火災」として捉えられなくてはならない時代になってきている。
   昭和の頃の「事後聞知となったその他火災の放火火災」を取り込むことにより考え出され、造り出した「その場に人がいれば消火したであろう」
   と言う架空の「消火行為」も、平成6年の「爆発」を「火災」に取り込んでからは「消火行為、それ自体に意味のない」こととなってしまっている。にも
   拘わらず、「火災報告」の中や「消防学校等」では無意味な解説と過去踏襲型の門切り的な説明により、現実に発生しているさまざまな「火災」に
   正面から向かって考えることを辞めているようにも思えてしまう。
   私は、消防の扱うべき「火災の定義」から「消火行為の実施の有無をはずして」、人の制御を超えた燃焼拡大の現象として捉え、消防機関に通報
   され、その被害実態が現認されるものにすべきであると思う。もっとも、現実には、そのような流れで各消防本部は「なし崩し的に火災として」扱っ
  ているのが実態である。
    消防に通報されることが「火事」と「火災」との大きな相違点であり、行政として捉える限りは、そのことを持って定義づけしても良いものと思う。
   所詮、現場で焼損物件が確認されない限りは、「火災の三要素」をみたしている火災であっても「火災」とされることはないのだから。
   また、火災報告の意味を限定的にとらえ、単に「火災」を統計的に計上する枠組みであるとすると、あえて「火災の定義」とはせず、「火災報告とし
  て計上すべき火災の目安」で良い。「火災の定義」は根底から取り除くべきものと言える。 
 
  参考資料
  参考資料
  ◎ 消防大学校「火災調査科程」の講義テキスト(火災調査の基礎的事項とその課題)(私のテキスト) 
  ◎ 逐条解説「消防法」第四,五版 消防基本法研究会編(消防庁予防課)  東京法令出版
  ◎ 11訂版 「火災報告取扱要領」ハンドブック  防災行政研究会編(消防庁防災課) 東京法令出版
        (平成6年4月 消防庁長官通知「火災報告取扱要領の全部改正について」)等掲載
  ◎ 「出火原因の統計法について」出火原因統計特別委員会   「火災」誌 第2巻第2号(昭和27年10月)
  ◎ 昭和43年11月 消防庁長官通知「火災報告取扱要領の実施について」 
  ◎ (「火災」と「火事」について) 「消防用語」 横田英二著  近代消防2002年1月号
  ◎ 東京消防庁 「火災調査規程」「火災の実態」「火災統計書」
  〇 他に、「火災便覧」第一版〜第三版、「火災と建築」、熊谷清一著「火災」、崎川範行著「火事と爆発」、辻本誠「火災の科学」
    安全工学講座「火災」、中田金市著「火災」、中山・米田著「火災と刑事責任」「火災と法律実務」「刑法総論」「新火災調査教本」  
    白井和雄著「火と水の文化史」                                                            等 
火災原因調査
Fire Cause
火災損害調査
Fire Damage
火災調査の基礎
Fire Investigation
火災統計と資料
Fire Statistics
外国の火災調査
Foreign Inv.
火災調査と法律
Fire Laws
火災調査リンク
Fire Inv. Link
                 
 < 火災損害調査 <