火災調査探偵団   Fire Investigation Reserch Team for Fire Fighters
Title:「自損放火(放火による自殺)」転載を禁ず
B3-05   06’11/18⇒11'07/17 →19'08/17      .   
自損放火(放火による自殺) < 火災損害調査 <ホーム:「火災調査探偵団」   .
1, 自損放火の視点
 はじめに
 
   本年2011年3月(平成23年)に「自殺者統計」が警察庁から発表され、3万人を超える自殺者数が報道された。
    厚生省の人口動態統計では、1998年(平成10年)に自殺者数が31,755人と3万人を超え、すでに連続して13年間も3万人台が
    続き、昨年(平成22年)も31,690人(警察庁調べ)もの方が亡くなり、日本全体に蔓延している病理とも言える現象が定着しつつあ
    る。そこで、火災事象の中から“火災による死者”に含まれている「自損放火」の現況について調べた所を取り上げます(「近代
    消防」2003年11月、2006年火災学会研究発表の発表済み論文に加筆)。
  
    この自殺者の3万人台の傾向は「世の中全体が、人を死に走らせる病んだ社会である。」ことを愁えるコメントや「切腹」などの自殺を
    是認してきた日本の歴史や家族関係の崩壊、中高年層の自己存在の否定(アイデンティティの喪失)、日本的の共同体の崩壊などいろ
    いろな角度から検討され、社会問題として取り上げられている(参照論文)。通常、死者の数が年間の交通事故死者数を超えると
    その発生原因に関して「社会的に対策を必要とする事象」と呼ばれるが、バブル崩壊後すでに20年が経ち、実態社会の縮小が一般化
    している中では、中高年の自殺も社会の必要悪のようなものとして認知されつつある。
    
IT化の中でグローバル経済が、急激に進行している今日では、欧米諸国が活動している時間は、地球的には「昼間」だとされ、日本
    の24時間の深夜業務が常態化して、過重労働に追い詰められている。
    さらに、失業率の高止まりにより、今までの暮らしが成り立たないなどの中で自殺が増加しているとも言われている。
    同様に、火災統計においても、“火災による死者”の中の自損放火も定着する傾向が見られ、昨年(2010年)の全国統計では、“火災
    による死者”
1,738人のうち458人(26.3%)自損放火として計上されている。
 全国統計で自損放火の占める割合が最も高かった
 のは、4割を超えた平成10年(1998年)で41.5%が自
 損放火であったことと比べると、減少傾向にあるが
 それでも1/4を占めている。
2, 「自損放火」と記載していることについて  転載を禁ず
 用語の扱い
    表題を「自損放火」とした。
    消防白書の表記では「放火自殺」となっており、その呼称を使用するのが国の基準に合致するが、「自殺」は行為ではなく結果として死亡
   していることであり、結果として「火災による死者」の一つの形態の中に取り込まれる言葉である。しかし、自分自身に傷害を加える事故を
   救急統計では「自損」行為としており、また、火災原因調査でも自殺行為と断定できないような放火火災(必ずしも死ぬとは言えないような
   ケース)もあることから「自損放火」としている。
   自殺とそれに近いケースも含まれる自損行為による放火の死者として、「自損放火」として扱うこととした。
   つまり、「死亡している」と言うことからは「自殺」であり、消防白書の自殺放火者と言う表現も正しいが、行為から見た時は自損行為であり、
   死者の発生形態の結果から見るのが放火自殺となる。自損放火は、放火の行為の一つとして多く見られる、と言って、全てが「死亡」する
   ものではない。死亡に至らない負傷しただけの自損放火も多くあり、例えば、自殺と推定される目的で自室に放火したが、怖くなって消火し
   たが、消火できず拡大し、ベランダから「助けてくれ」と叫んで、その後、苦しくなってベランダから飛び降りて負傷した事例もある。

 過去の経緯経緯を調べると
   「自損放火」の用語は、必ずしも従来から一貫していたわけではなく、1976年(昭和51年)の東京消防庁の統計では、放火火災の分析とし
   て“放火自殺者”とし、“火災による死者”の分析では“自損放火”と二通りの用語を使用している。強いて区別すると、「放火」火災を分析する
   際に計上されてくる死者は、放火火災の中でも別枠の“自殺者”であることから“放火自殺者”とし、“火災による死傷者”の動機等を分析する
   時は、負傷者も含まれることから、自殺の用語は適当ではなく“自損行為”とし、その中に死者も含まれることから“自損行為による死者”とし
   ている。また、東京消防庁の救急事故種別も昭和39年までは「自殺」としていたが、昭和40年以後は「自損事故」、現在は「自損行為(故意
   に自分自身に障害が加えた事故)」とする用語を使用している。どちらにしても、長い間、「放火」火災からも、“火災による死者”の分析からも、
   外された対象となっており、現存しながら評価されない統計数字の範疇で処理されている。
   火災調査の目的が、[行政反映とされている]ことから、行為者の心理面に介在する自損放火は必然的に検討の対象からはずされる傾向に
   ある。とりわけ、自損放火でなくとも、一般的に火災調査の中で、行為者等の供述結果から要因を分析する内容のものは、調査員の力量や
   解釈の仕方などにより、統計分類する際に難しい面がある。供述すらない「火災による死者」の場合は、さらに困難で、火災報告に基づく消防
   白書の火災による死者の「死に至った経過と年齢別の死者発生状況」では、逃げ遅れた分類要因が、火災現場で見分した死者から「熟睡し
   ていたのか」「気が付いたが逃げる機会がなかったのか」などとされているが、どのような要因を考察して分類しているかは、実際は極めて
   不明確で、この表は一見するとそれらしい統計資料に見えるが、個別具体的に見ると検討に値するとは言えないものとなっている。
   つまり「火災による死者」に関する火災学会誌などで掲出される「統計分析」は、その過半は根拠のない「感想文」のようなもので、研究者
   としての実証的な側面は全くと言ってほど「ない」のが現実で、だからこそ統計分析していると言える。

3,自殺統計の年別推移から
 全国の自殺統計から
    国立保健医療科学院の資料では、自殺死亡数は、1950年以降においては自殺死亡の2つの山と現在続く山並みが、観察されている(図1)。
    1958年(23,641人)をピークとする1955年前後の第一の山、1986年(25,667人)をピークとする1985年前後の第二の山がみられる。
    1998年以降の急増は、一旦下がったが、高止まりで続き山並みとなっている。 男女別の推移から自殺死亡数の増加の多くは男による
    ことが明らかで、1998年では男は22,349人(70%)を占めていた。
 
  第一の山1958年の1950年台は20歳前半にピークのある若年者の
  自殺死亡率の山があり、この頃は60年安保闘争の前後の時代で、
  以降の年次では若年者の自殺死亡率の山が次第に消失する推移
  を示している。また、1985年前後の自殺死亡の急増では、50-54歳を
  ピークとする中高年の男の出現が見られる。1998年以降は、50-64歳
  の中高年の男性の急増で、この頃は平成不況と言われる時代である。
  
4,自損放火の推移
 自損放火(全国と東京消防)の推移
    図が[全国の自殺者数]と[東京消防庁管内の自損放火者数]の35年間の推移を示す。年間推移の表の始めを1965年としたのは、それ以前
   は統計的に拾いにくいこともあるが、「自損放火」の契機となっているのが、1963年 6月に当時のベトナム戦争の戦争拡大と仏教徒弾圧に抗議
   した僧侶ティック・ファン・ドク氏が「焼身自殺」したことが発端となり、一般化したような傾向が見られるからである。それ以前にも焼身自殺はあるが、
   焼身それ自体が江戸時代からの刑罰(拷問)的な受け止め方が支配的であったようで、焼身自殺にはいくらかの抵抗があったと思われる。
     例えば、1970年ごろは、「ガスの放出」によるガス自殺を選んで、その放出ガスが火源に引火して結果的にガス爆発火災となって死傷して
   いる例が1割近くを占めている。その意味するところは、始めから、自殺としての「放火」の形態が存在したのではなく、自殺を目的と
   する各種行為の中から、次第にガス自殺から、灯油・ガソリンにより焼身する放火が増加したことにより、「自殺放火」の行為それ自体が
   一般化して自損放火の大きな枠(ジャンル)を作ってしまったと思われる。
     なお、現在「生ガスの放出」による自損行為により火災となるのは、ほとんどなくなっている(ガスカランのボールコック構造やマイコンメータ
   などの機械的生ガス放出阻止機能と13Aガスの中毒死しない成分など)。
     東京での自損放火は、1981年にピーク(66人)となり、その後減少したが1986年(昭和61年)に最も多い68名となり、同時に自殺者数におい
  てもこの年が一つのピークとなっている。全国的にも第2の山のピークで「円高不況」 と呼ばれ、また、首都圏では歌手の自殺を契機とした群発
   自殺などの言葉が生まれ、さらに“いじめ”による自殺等が喧騒された時代でもある。この年の東京消防庁の自損放火者は、火災による死者
   の46.3%を占め、 実に全体の5割が自損放火と言う異常な割合となった。この時期の影響で「住宅火災での死者と言っても故意による自損
   放火が、半数近くを占めている。」との認識が生まれ、住宅火災対策の予防面での 積極的な対応を遅らせる要因となった 
   (注:1986年4月のアイドル歌手岡田有希子さんの自殺。後追い自殺をウェルテル効果などと言われた)。
   図2
                図2 年別推移  自殺者(赤色)は、全国数字、自損放火者(青色)は東京消防庁管内の数値。
    1995年頃までは、自殺者と自損放火とは同じような傾向が見られるが、1997年の自損放火の著しい減少から、自殺者の傾向と
   自損放火の傾向が相違してくる。 特に、1998年(平成10年)の自殺者数が31,755人と3万人の大台を超えた時期からの自殺者
   の高止まりは、東京管内での自損放火者数の推移とは連動しなくなる。この分岐点となったのは、1995年29人の自損放火の著しい
   減少となったことであり、それは、その年1月14日の「阪神・淡路大震災」での震災による焼死者の影響があると考えられる。 震
   災により6,432人もの尊い人命が失われ、多くの人達に心に迫る影響を与えた。その一つが「命の大切さ」であり、一般的にも大きな災
   害が発生し、多数の死者が発生した年は自殺者が少ないと言われているが、この場合のように類似性が高い震災での死傷者の実態
   が報道されると、自損放火を抑制させて自損放火者を減少させたものと考える。 反面、自殺者の増加は、バブル不況が色濃く表れて、
   男性の中高年齢者の自殺により、高止まりしている。
    ここ数年間の全国の「火災による死者数」と「自損放火者数」の変化は、図3のとおりで、平均して29%を占めている。
  平成6年から15年までの平均では、自損放火は36%になっていたが、近年は減り続け、昨年は26%と10ポイントものは減少となり、
  合わせて、「火災による死者」の低減傾向ともなっている。
     図3
  図3 全国の「火災による死者」と自損放火者の年別推移
 日本では建物火災による「死者」が多いこと
   「日本の火災は、火災1件あたりの死者の発生率が欧米諸国と比較して高い」と言われるが、この時の“火災による死者”には自損
  放火が含まれており、それを無視して議論がなされる。自損放火が含まれることから、火災件数に対する「死者の比率」が自殺目的である
  だけに、比率として高くなる。火災1件あたりの比率ではなく、人口100万人あたりの“火災による死者”で見ると、欧米諸国の発生率と同じ
  程度(17.4、 2001年)である。
    さらに、この中で自損放火を除くと欧米に比べて低くなる。このことは「日本は、火災発生時の死者率が多い」と言うコメントに対して、
  延焼拡大しやすい日本の建物の構造的要因を考慮してみても“火災による死者”の発生率は、決して高い比率とは言えないように考える。
   例えば、2008年(平成20年)の全国の建物火災は30,053件、火災による死者は1,499人で自損放火を除くと1,279人となり、単純
  には1,499/30,053= 5.0%の死者発生率だが、自損を除くと4.3%と0.7ポイント減少する。

    もっとも、世界的に“火災による死者”数の中から「自損放火数を除く」などと言った統計は取りようがないので、一括計上されて扱われ
  ることはしかたがないが、そのことにより「火災による死者の30%」を占める自損放火は世界的に見て異常な統計数字が含まれていること
  を認識してほしい。欧米では宗教観により、自殺(特に焼身自殺)は忌避されることから、これらが統計上に反映されることがないが、日本
  では年間3万人の自殺者の影響を火災統計が受けていることを理解してほしい。
 図4  2008年の各都市(国内と諸外国)の100万人あたりの火災の死者数(国内は自損放火を除く)。
   消防白書と東京消防庁統計書による、2008年の国内の政令都市の100万人あたりの火災による死者数は、国内では平均10.1で、外国では
   アジア地域は2~3人と低いが、欧米では概ね10人前後で、国内の都市部とほぼ同じ傾向となる。
 自損放火の男女別の差異
   男女比を最近の8年間(1995年~2002年)で見ると、
自殺者では男性が71%、女性29%に対し、東京の自損放火でも男性67%、女性33%
  となり、どちらもだいたい男性2に対して、女性1の割合である。 さらに図5から見られることは、年齢別の自殺者と自損放火のグラフ を重ねると
  ほぼ一致しており、50歳台から多くなり、60歳台が約3割を占める。つまり男性の 中高年齢層の自殺の多さを示す結果となっている。
     図5
5,「火災による死者」と「自損放火者」の関係
 相関性
    次に、図6に最近の東京消防庁での「火災による死者」数と自損放火者数の推移を示す。
   かなりの相関性が見られ、1991年(平成3年)から2010年の20年間を平均すると、「火災による死者数」の (29±5)%が自損放火数となる。
    「火災による死者」が、全体として失火により偶発的に発生している現象である反面、「自損放火者」は故意の放火であり、現象としては
   全く関連性が見あたらないが、統計的数字では近似した傾向を示してており、逆に、いわゆる「自殺者」の傾向との乖離要因となっている。 
   それゆえ、「火災による死者」の増減に合わせて「自損放火」が増減する「理由」は見当たらないが、その年の気候的な要因による火災件数
   の増減や「火災による死者」の報道からの影響の要因などが考えられる。
      自殺者は、景気、特に失業率に影響されることや社会規範の喪失などから「アノミー的自殺」と呼ばれる部分があるが、自損放火
      そのような自殺一般の統計的傾向とは異なり、結果的に「建物火災」増減に影響される要因を含んで発生している。
           (アノミー現象、文献参照)
   このため、「火災による死者数」が建物火災件数に対して(3.5±0.3)%で比例しており、 東京では自損放火数は、概ね次式となる。
      
     「自損放火者数」  X=0.29×A
       「火災による死者数」  A=0.035×B     B:建物火災の件数
                         つまり、「自損放火者数」=0.01×{建物火災件数}となる。

    年間の建物火災が3,000件なら自損放火数は、 1%の約30人となる。
    
式で示すほど厳格な比例関係にはないとしても、自損放火が建物火災件数に依存する傾向があるとすると、一般的な自殺者数の
   推移傾向とは別の次元で推移していることになる。

   しかし、図からも見られるように、2010年(平成22年)の統計からは、はっきりとして変化も見られ、従来までは、火災の死者数の中の
   自損放火は約30%と見られたものが、15%と半減しており、全国統計も平成22年は26%の減少数値を示したように、2010年から
   「火災による死者」全体の構成が変化してきている。
    その主たる要因は「住警器」設置促進に向けた全国規模のキャンペーンが「火災予防」などさまざまな火災の分野に大きな効果となって
   現れている。
    ここで、この表に関連して、自損放火により「死亡した人数」と「負傷で済んだ人数」の比率を見てみた。
    自損放火により「どの程度で亡くなっているか」を見ると、(死亡者)を(死亡者+負傷者)で割った比率は57.2%となった。平均して41人
   の自損放火の死者の発生に対して、負傷者の発生は31人であった。
    つまり、「自損放火」を企てた人の約6割は亡くなっている。これに対して、一般的な火災の負傷者と死者の比率は、火災の
   (死者+負傷者)に対する「火災による死者」の割合は11.7%で、約1割程度である。
   この自損放火の死亡率の6割は、一般的な自殺行為者の死亡率とも大きく違っている。一般的な自殺行為を救急統計から拾った内容を
   後述するが、自損放火との傾向は異なっている。
6, 統計から見える実態
 月別傾向
   次に図7に、自損放火者の月別件数(1998年から2007年の8年間)を示す。
   1月、12月に多く、又7月も比較的多い、8月、9月に少ない。1月、12月は寒くなり、新年を迎え、寒さに向かう沈鬱な気分などの気候的・
   風土的要因が影響するのかと思うが、7月の暑い時季での増加も、気候的なものも含まれるものと思う。
    東京の気象統計では7月の気圧が、一年で最も低く、かつ、梅雨が停滞する月となる。文献では自殺者の月別推移はあまり取り上げら
   れておらず、月別増減の要因はないようだ。男女差では全体として男性と女性の比率は2.1倍の開きがあるが、最も顕著なのが2月で6.5倍
   8月の4倍、10月の3.2倍の順である。
    傾向的には、1月と4月は男女とも自損放火が多いが、7月から10月は男性が多くなる。8月、9月は自損放火が低くなる。

 図7
      図7 自損放火者の月別男女別変化(東京の1998年~2007年の合計)
 時間別傾向
   図8が、自損放火者の時間別件数(1998年から2007年の8年間)を見ると、夜中の3時台がもっとも多い。3時の前後以外はだいたい同じ頻度
   で発生している。ただし、男女による時間的な発生傾向は、夜間では同じ傾向となるが日中では違って傾向を持っている。
                  図8 自損放火者の時間別男女別変化(東京の1998年~2007年の合計)
 発生場所の傾向
   表1に自損放火者の出火箇所別(自損行為場所)に分類して示す。男女の大きな違いは、男性は 河川敷・路上など自宅外が多いが、
   女性では自宅内が多く、自宅敷地内も含めると自宅周辺での傾向が強い。男性は自宅外が半数を占めるがその中で、乗用車の車両内
   のケースが多く、 これは女性ではほとんど見られない。
 
    そして、男性の方が、建物内での放火火災での延焼拡大率(10㎡以上焼損した火災)が高くなる。
    もっとも、先程の時間別推移図からも男性の夜間の自損が多いことから、発見・通報の遅れにより延焼拡大率が高いとも言える。自損
  放火での建物火災の延焼拡大率は61%と高い数値となる。
  これは、自損放火の火災が有炎火源により助燃材を用いて発生するので、急速に拡大するため延焼拡大しやすく、火災性状から当然と言える。
   車両火災で死者が発生した場合の火災調査として、車両本体からの出火か自損による出火なのかの判別がつきにくいケースも生じさせる。
  一応、自損放火での車両火災は、車内から発生し、全体の焼損程度の割に運転席周囲の焼損が強く見られることである。
      建 物 内  車両     屋  外
居室 台所 浴室 ベランダ・階段・廊下 事務室 その他 運転席 敷地内 公園 河川敷・空地 路上 その他
男性 61 7 4 8 5 13 20 12 12 30 14 5
女性 30 8 3 5 0 1 1 20 3 5 5 7
7, 火災の「自損放火」と救急活動の「自損行為者」の比較
 救急から見た自損行為者との対比
    火災に見られる「自損放火」と「一般的な自損行為」との比較として、東京消防庁F消防署の3年間の救急搬送の統計から自損行為の
   負傷者を取り出して、比較してみた。
   まず、男女比がまったく異なる結果となっていた。救急の自損行為者では男性が35%、女性65%と、男性1に対して女性が2の割
   合と、自損放火者や自殺者のそれと逆転する。

   救急の扱う自損による負傷行為者と自損放火者や自殺者との差異が明確であり、死ぬことと負傷する者と同一のカテゴリーには必ずしも
   入っていないと思える。とりわけ図9の月別件数を比較して見ると、自損放火と救急自損行為負傷者では反転している月が多くあり、3月、
   4月の春先が少なく、8月・9月の夏場に多く救急搬送している。
    このように自殺者の中に入るには違いないが、「自損放火」特有の傾向もあるように思える。 
                         図9 火災の自損放火者と救急の自損行為者の月別変化
     (自損放火は1998年から8年間の東京消防庁内総数、自損行為者は2003年から3年間のF消防署救急扱い者数)
    8,まとめ
  火災における自損放火とは
     「火災による死者」のうち「自損放火」の占める割合は、20年以上にわたって東京消防庁で3割を占め、全国でも同様の割合を占めている。
   この数値が、交通事故やその他の災害と異なって、日本の火災に特有の事象として、諸外国の統計との比較を大きくゆがめている。消防内
   部の統計や対策でも、常に「自損放火(自殺放火)を除く」との注釈入りで検討がなされ、それを当然のことのように考えているのが現状である。
     自殺者が全国で13年連続して3万人を超え(平成23年現在)、国策として何ら有効な対策も講じられていないことから考えて、「火災による
   死者」に含まれる「自損放火」に対して、消防が関与できる余地は全くないと考えるのが普通かもしれない。しかし、それらのことを理解したうえ
   で看過するのと、機械的に自損放火を埒外にして放置しておくのとでは、20年或いは30年後に至っても諸外国の火災統計との格差は改善され
   ないように思える。
    「火災による死者」逓減の対策として、住警器の設置促進、たばこ火災抑制の啓発、高齢者住宅の火災予防的な住環境の改善、近隣者と
   のコミュニティの推進などさまざま方策がとられるのであれば、例え改善の可能性は極めて少なくとも自損放火へのアプローチも必要なの
   ではと思う。なぜなら、自殺傾向は男女比と中高年齢の男性が多いことなどでは一致するが、自殺者一般と自損放火の年度推移では明確
   に連動しているわけではないことからも、社会的問題としてだけ見ないで、何らかの方策も検討されるべきではと考える。
      例えば、普段買いつけていない中高年齢者の「ポリタンクによる灯油」販売には気をつける。
      区市町村の「自殺防止」対策に救急分野と合わせて参画して、情報共有化をはかる。
      住警器の設置促進に努める。
    また、この自損放火の中には65歳以上の高齢者が2割近く含まれることや幼児の道連れ自損放火、延焼拡大率が高く危険性が大きいこと
   など、放置しておけない火災から見た時の特性を有していると思う。
注釈と参考文献
   ① 自殺者数は、厚生省人口動態統計と警察庁と2つあり、数字が少し異なる。厚生省は死亡者の医療機関からの報告、警察庁は各都
     道府県警察の検視結果からの報告となっている。最近は警察庁統計を利用するのが一般的となっている。
   ② 厚生労働省・自殺死亡統計の概況「人口動態統計特殊報告」
            同   ・  「自殺防止対策有識者懇談会」報告
   ③ 国立保健医療科学院・各報告書
   ④ 警察庁・平成22年等「自殺の概要資料」
   ⑤ 総務庁消防庁「消防白書」
   ⑥ 東京消防庁「火災の実態」 
   ⑦ 「自損放火の現況」近代消防03'11
   ⑧ 「こころの科学」日本評論社No63,95'春
   ⑨ 高橋祥友著「中高年自殺」筑摩書房
   ⑩ 川人博著「過労自殺」岩波書店⑪ 
   ⑩ ストレス疾患労災研究会「激増する過労自殺」皓星社
   ⑫ 東京消防庁調査課「火災における死者の問題」火災 Vol.39 No.2 (179)
   ⑬ 関沢 愛「住宅火災による死者数の低減方策について」月刊消防2000,5月号  
   ⑭ 日本火災学会編「火災便覧第3版」共立出版
   ⑮ 日本火災学会編「火災と建築」共立出版
火災原因調査
Fire Cause
火災損害調査
Fire Damage
火災調査の基礎
Fire Investigation
火災統計と資料
Fire Statistics
外国の火災調査
Foreign Inv.
火災調査と法律
Fire Laws
火災調査の話題
Such a thing of Fire
火災調査リンク
Fire Inv. Link
                 
 <火災損害  <