火災調査探偵団   Fire Investigation Reserch Team for Fire Fighters
Title:「焼死者の検案 -1 」転載を禁ず
B3-16   08’03/16 →19'08/18      .   

焼死者の検案 < 火災による死者 < 火災損害調査 <ホーム:「火災調査探偵団」 .
1,火災現場での「火災による死者(焼死者)」の対応    転載を禁ず
 火災現場の死者の取扱のながれ(2008年現在)    
  上の図に従い説明します。
  火災現場で「火災による死者(焼死者)」が発生すると、火災現場そのものが「刑事事件の現場」ですので、直ちに臨場した警察官により「不自然死」
  として扱われます。
  不自然死は、異常死体の検案として、警察官(鑑識係員等司法警察官)により検案がなされます。
   この場合、例えば、自宅で高齢者が寿命(心不全)により亡くなって、救急隊現着時「四肢の硬直・死斑など、社会死と認められ」場合は、警察官
  に引き渡し、警察官も一応『捜査』して、死体検案しますが、あまり、問題なく、遺族に引き渡されます。
  しかし、火災現場の場合は、[東京都内では、必ず、検視官」が死体の検視をします。
  だいたいは、現場状況を警察署の鑑識・刑事が見て、警察署内で見ます。
  で、さらに、東京23区は、法律による監察医制度が整備されていますので、検視官の指示で、監察医務院へ搬送され、ここで「行政解剖(剖検)」
  がなされます。東京23区外の三多摩地区は、警察署で、警察署が指定した警察医(地元の外科医)又は、監察医務院から来た病理医が検案して、
  検視官との協議で死因を決めます。最近は、監察医務院の病理医が来ることが多いです。
  つまり、23区内の火災現場での「焼死者」の場合は、すべて行政解剖されるので、正確に「死因」が決定されます。
  そのため、火傷死・焼死・C0中毒死の3つの区分による判定は正確です。なぜなら、CO中毒死は、外見からの検案ではわかりにくいからです。
  血中の{一酸化炭素ヘモグロビン濃度}の基準とした「判定」による、東京消防と監察医務院との間で決められており、その基準によるもので、この
  濃度を調べるには「生理学的検査」を必要とするためです。
  このため、全国の場合は、国の報告要領での「CO中毒・窒息」と「火傷」の2つに分けられますが、特に、その詳細な説明がありません。そのため、
  地元の警察からの(警察医)の検分(話し)で決められます。で、その区分の妥当性の評価は、地域差にもよりますが、はなはだ曖昧です。
  
 検視官
 
  警視庁の検視官は、鑑識課に所属し、数名(5~7名?)の方がいます(2008年当時)。
    事件によつては夜中でも出動するので、この犯罪の多い東京では、激務のポジションです。だいたいの方は、元刑事部鑑識課の係長に居た方が、
   昇任して警視(管理職)となって、署の刑事課長(又は、刑事組織犯罪対策課)から、本庁刑事部鑑識課に戻って来て、「検視官研修」を監察医務院
   や病院の法医学研究室、及び先輩の検視官などに“専門的な知識・技術等”を警察大学校で学んで、検視官に任命されます。
    「なる人と言うより、なれる人が限られている、ポジション」です。
   検視は、鑑識と刑事の担当者も、それぞれの研修で「死体検案」の勉強をしていますので、ま、鑑識の人のほうが良く知っていますが、一応は、犯罪
   とおぼしき死体の検案はそれぞれの立場でできるので、初動時の対応が間違うことは少ないのが一般的です(警視庁の場合ですが)。
     さて、2007’10/24読売新聞では。
   検視官は全国で147人。全国の変死体(上の図の不自然死)が年間約15万人とか、で147人では、すべの死体を検案することはできない訳で、
   平均の臨場率は全国で11.2%とか。大相撲の時津風部屋の力士の変死事件では、「検視官が臨場しなかった」ことが、対応の不備と言われています。
     2015年では全国で340名近くとなり、検視官の立会率(臨場)は76%とされている。(国家公安委員会・ •平成28年2月25日分
      定例委員会の開催状況(議事概要) ・説明資料から
 (東京都)観察医務院
 
  東京では23区内での不自然死は、監察医務院が扱います。
   病院以外で、つまり、医師の監視下以外で、亡くなると、原則、不自然死とされるので、都内での発生件数はメチャ多いです。一番が「老衰」と「末期
   ガン患者の自宅療養下の死亡」で、だいたいは、本人の病歴を家族から聞いて、検視により判断され、遺族に早く引き渡されます。
   「火災による死者(焼死者)」は、だいたい、行政解剖の手続きが行われます。
   行政解剖の手順は、一般の医療解剖と同じで、胴のY字切開から、最後に頭の切開で、救急実習でのソレと少し異なります。
    始めて眼にすると、後半は部分は少し・・・・ですが、分かって見ていると、慣れます。鑑識員・刑事が立ち会うこともあります。
     ま、海堂尊著「死因不明社会」(講談社ブルーバックス)などを見て下さい(すべてその通りではありませんが)。
    救急隊員の研修時も、病院の研修などで見ますから、医療として見る場合も、人体としては変わらないです。また、死因の解明は、監察医務院の
    院長をされていた、上野先生や匂坂先生の新書版等の「本」にでています。
    東京以外は、大阪市・神戸市などで行なわれているようです(「死因不明社会」から)、その他の政令都市は、大学病院に委託していますが、それも、
    費用の面で、特異なケースに限られようです。
   

2, 火災による死者(焼死者)の死因    転載を禁ず
 火災統計上の火災による死者の死因      
 左図が死因を、死因の影響範囲から見た場合。
     A : 高熱の作用     ⇒ “火傷死”
     B : 酸素欠乏       ⇒ “欠酸素性窒息”
     C : 燃焼ガス(主にCOガス)⇒ “一酸化炭素中毒”
     D : 有意差判定不明  ⇒ “焼 死”
                 Aは、Co-Hb飽和度10%以下。
                 Bは、動脈血酸素飽和度33%以下。
                  Cは、Co-Hb飽和度60%以上。これが死因である
    「火災による死者」は、これが死因であると断定できる単一的な原因ではなく、「人体」への火傷や体内へのさまざまな有毒ガスの摂取、さらに、
    建物火災の成長過程のフラッシュオーバ時の極めて低い酸素雰囲気など、全ての影響を複合的に受けます。その点では、「熱傷」としての
    「やけど(火傷)」と異なります。火災現場での複合的要因が「人体」に影響するものです。
     が、一応、もっとも、「死」と関連性の高いものとして、A火傷 B酸欠 C有毒ガス(主にCOガス)の3つを考えるのが、最も、妥当性が高い
    とされています。ま、人によっては、「有毒ガス」だけを強調する人もいますが、もう少し広い見地が必要ですネ。とりわけ、日本の住宅は、木造系
    と耐火系で、まったく異なる火災性状となるので、「火災現場」のもつ意味が異なります(外国文献だけ見ていると間違いのもと)。
      つまり、上図のA、B、C、或いはそれ以外の影響も混じり合う。
     そこで、一応、「Co-Hb飽和度10%以下」だとCOに対しては極めて影響が低いので、COの影響を除外して「火傷死」とします。
     次に、「Co-Hb飽和度60%以上」では、かなり強くCOの影響受けることから、「Cの領域」として、「一酸化炭素中毒死」とします。
     次に、「Bの領域」は、「酸欠(窒息)」ですから、人体からの結果的な測定ができないので、現在では、判定要素から除外しています。
     そして、「AとCの領域」の中間が存在することから、この部分の火災に死者を「焼死」としています。
       ただ、一般的な用語として、火災現場で死なれた場合を「焼死」と呼ぶことも多いので、用語の取扱に注意が必要です。
     で、努めて消防機関では、「火災による死者」と表記しています。
     
そこで、「火災による死者」は、
             「火傷死」         Co-Hb飽和度10%以下。
            「一酸化炭素中毒死」  Co-Hb飽和度60%以上。
            「焼死」           Co-Hb飽和度10%を超え、60%未満。
                                       
と、3つに区分することとしている。
     そして、この区分にあたっては、気管の下部の“気管支”内の煤の吸い込み、“肺胞”の煤の沈着を顕微鏡写真から見て、火傷による
     気管内粘液の滲出から見た影響と、煤の吸い込みによる有毒ガスの影響を見ることも行なわれます。
     ただし、これは、生理学的検査のデータ(剖検)がないと、区分できないことから、厳密にこの区分を、適用しているのは、東京23区だけに近く、
     ほぼ近いのが東京多摩地区です。
      全国では、だいたい検視での結果として、2つの区分(火傷死・一酸化炭素中毒死)を適用しています。
      ☆ “酸欠”の影響を見る上で、福岡県警科捜研の森永さんが「血液中のスチレンに着目した」研究を提唱されている(1997'12)。
      ☆ 酸欠が影響したかどうか、で。
       地下工事中に人が倒れ、その後火災となる、或いは、地下から酸欠空気が噴出し人が倒れて、その後に火災(又はガス爆発など)があると、
       結果としての死因は、かなり困難な判定を要します。どちらが、先に影響したかは、ま、「わからない」と見るのが一般的かなと思います。 
  
3,火災による熱傷
 熱傷の影響

   火災により熱傷を受けると、その受けた面積、深度、年齢、部位を判定因子として影響度を見る事となっている。
   熱傷面積の判定では、①9の法則 ②5の法則 ③ルント-ブラウダーの法則 ④手掌法の4種類があるが、
   成人では、①の方法が分かりやすいので、救急的には用いられることが多い。 
 
☆ 熱傷深度の分類           
 熱傷深度  傷害組織   外見   症 状
    Ⅰ度   表皮  紅斑  疼痛、熱感
  浅いⅡ度   表皮  水泡  強い疼痛
  深いⅡ度   真皮   〃    〃
    Ⅲ度   真皮全層
 皮下組織
 懐死   無疼痛
    Ⅳ度  真皮・皮下  炭化
 


 9の法則の
 体表面の影
 響度測定。
 
    
    救急では3度火傷までを対象とするが、火災による死者の検視では「4度火傷」も見る。
    外見上の火傷分類が、部位によって表れるので、例えば、Ⅱ度の水泡形成は「生体」であったことを表すことから、火傷時に生きていたか
    死んでいたかの判定の検視的な要因とされている。つまり、殺傷して、その現場破壊のため放火した場合の死者の検視に用いられる。
     しかし、火傷の直前に病死したような場合、例えば、揚げ物調理中に心臓麻痺を起こし、倒れて、その直後に「天ぷら油火災」となった
    場合は、微妙で、監察医務院の剖検結果を待たないと、判定できないことがある(ま、200件~300件に1件程度のレアな話です)。  
    詳しくは、救急救命士の標準テキストを参照されるか、救急授業の「熱傷」を参考にして下さい。
   ☆ 検視の立場からは
   「検視」「鑑識ハンドブック」等の本に掲載されているが、消防での入手は困難。
   現場的には、警察・刑事部の検視官の助言を受けて、メモるのが一番かな。
    4,まとめ
     ここでは、「火災による死因」の基本的な事項をまとめました。

火災原因調査
Fire Cause
火災損害調査
Fire Damage
火災調査の基礎
Fire Investigation
火災統計と資料
Fire Statistics
外国の火災調査
Foreign Inv.
火災調査と法律
Fire Laws
火災調査の話題
Such a thing of Fire
火災調査リンク
Fire Inv. Link
                 
 <火災損害  <