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■これからの日本の農業と農村の在り方‐そのU 食糧防衛戦略とこれからの日本の農業‐
 「要旨と展望」


   草刈 啓一 (2008.7-8)


 革新的技術の普及は、いつの世でも、既存技術との価格(コスト)の戦いです。
いままで、開発され、一度頭を持ち上げかけて、価格(コスト)が合わず引っ込めたものや、既存資材の価格に、勝てないと思い、いいところまで来ていた開発を抑制したものもあります。現在の世界を覆うエネルギー、鉱物資源、そして食糧及び飼料の高騰は、これらの潜在性のある材料や製品、廃棄物、そしてシステム等の代替可能なものに、一気に世に出る機会を提供することにもなります。また、既存技術に打ち負かされて世の中から撤退したものにも、お化粧をし直して、再度、世の中に登場する機会を与えます。既存技術や資源国にとって、代替技術や燃料の出現やその促進は、脅威です。ホンダがRITEと開発した稲わらや雑草を原料としたバイオエタノールもその一つです。賢明な産油国は、つい最近まで、そこを見計らいながら、生産量、可採埋蔵量そして価格を調整してきた筈です。このタイミングを誤ると大変です。価格が、大きく上昇し続けると、世の中の多くがその使用を抑制し、断念せざるを得ない事態が到来し、代替エネルギーも登場し易くなります。これまでの、覇権者(産油国)は、自らの前に敷かれた、退場の道に、一歩踏み入れることを躊躇し、残りの可採年数を気にしながら供給の蛇口を緩め始めるのです。


 農業の分野でも、その点では同じです。今まで、経済的理由で、海外に頼っていた主要農産物又はその代替農産物の国内生産が可能となるかもしれません。また、輸入食材に頼っていた食生活が、国産主体に変わるかも知れません。食料、化学肥料や家畜用飼料の高騰は、いままで、廃棄に困っていた、食品や飲料工場での加工品や飲料の廃棄物、そして、レストラン、食堂そして家庭での、食料(食品)残渣を見直し、それらの有効利用価値を高めます。豚や牛の排泄物も、同じです。農業や畜産を含めた、かっての循環型社会(システム)への回帰が、経済的にも、最適な仕組みとなり、これが、結果的には、環境問題の解決の一つにもなるのかも知れません。また、不耕起栽培のように、農薬や肥料、そして大きな機械を使わない、農法も、注目浴びることでしょう。
   こう考えると、神さまは、この世の中をうまくつくり、コントロールしているものです。新しいエネルギーや循環型及び持続型食料生産システムは、クリーン(安全)で、省資源で、環境によく、且つ、経済的であることがその特徴です。今日の資源や食料価格の高騰は、大量消費の世の中の構造や仕組みの大転換を図る前兆として、起こしたものかも知れません。これからの農業は、そのTで述べた農業社会の転換をベースに、農業と食生活そしてそこに関連するシステム、そのものにも、大変革が、求められているのかも知れません。


 未来を描くには、歴史を想い、心や精神とともに、原点を顧みることも必要です。「和の経済」(三野耕治氏)で象徴される日本の農業は、長い歴史の過程で、多くの人々の知恵、工夫、汗、そして神(仏)への祈り、との共存の繰り返しでした。 また、循環型農業も、その基盤でした。100年以上も前から、村人の為に1,000ha以上の耕地整理と新しい農地の創出、湿地改良や治水事業、品種改良や肥料の改善を行い、後ほど、図書館や医療施設、信用金庫までつくった大農家もいました。村人とともに、山の上に、総面積65haの灌漑用人造湖を造り、10km以上離れた1,300haの水田に水を通し、水の神として奉られた村の指導者もいました。このような先人のお陰で、自然と水に恵まれた肥沃な水田や畑、そして農村社会の今日があるのです。有限な化石燃料は、再利用効率が上がったとしても、いつかは、他のエネルギーに代替されねばならない宿命を負っています。一方、食料は、人類が生存する限り必要とされます。先人の血と汗の結晶の集積でもある農地を、我々は、良い形で、次の世代に引き継がなくてはならない責務を負っているのかも知れません。まさに、農地は聖地です。


 暫く前から欧米の投資銀行は、Agri-flationなる用語を用いて、長期にわたる世界的食糧需給の逼迫と価格の上昇に注目し始めていました。既に、かなり多くの世界の年金資金も農業及びその関連企業に投下されたものと推察されます。 日本にも、農業を成長分野として捉え、農産物(食料)とその関連分野に大きな関心が集まる、まさに“ライス・ラッシュ”の時代の到来を、完全に否定できません。その場合、農村には、人も金も集まり、今日の農業と農村の問題のいくつかは、割合簡単に、解決されるのかもしれません。大切なことは、聖地としての農地が、健全な形で活用され、未来永劫に、継承されることが担保されるスキームの存在です。また、農村の自然と環境、伝統や慣習、人と人との繋がりと共生の精神、そして、都会の子供たちにも、情操教育を授け続けられる、日本人にとっての「ふるさと」の存続です。


 変革を成し遂げるには、聖地である農地を有する我が国が、最も相応しい立場にあるともいえます。農業と農村社会の大きな変革(そのT参照)のもとで、伝統的持続型農業が科学技術や近代的システムと共生した、新しい形の循環型農業への回帰が求められます。原点回帰の行動には、しっかりした哲学、情熱と汗、目的志向型の組織とそのネットワーク、また、メリハリのある政府の施策と支援も大事です。
 戦前、日本人により開発された小麦農林10号は、世界の人々を飢えから救い、その遺伝子は、いまでも、世界の小麦作付面積の3分の2を占めていると云われます。環境、エネルギーそして食料に続き、食料生産にとっても更に深刻な影響をもたらす水不足が、世界の大きな難題となるかもしれません。「和の経済」のなかで育くまれてきた農業や環境、そして洪水や水資源に関するノーハウと新しい技術やシステムが、開かれた世界に於いて、食料と環境そしてエネルギーの問題解決に向けての、「環(わ)の経済」の構築に、重要な役割を果たす日が来ることを願わざるを得ません。 



平成20年7月14日、草刈啓一


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