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これからの日本の農業と農村の在り方‐そのU 食糧防衛戦略とこれからの日本の農業‐
「(各論)U−A 食料防衛と国産化並びに輸出入戦略

   草刈 啓一 (2008.7)


U−A 食料防衛と国産化並びに輸出入戦略


1.食料防衛施策の概要



 戦中、そして戦後の一時期を除いて、我々日本人は、真の食料危機の深刻さの実体験がある人も少なくなり、その防衛といっても、なかなか実感が湧かないのが実情です。日本の食糧防衛戦略には、そのTで述べた農業と農村の基幹フィールド構想の実現がそのベースになければなりません。当面の対策としては、国産化と自給率の向上の推進、海外農産物の輸入に対する戦略的施策が急務です。長期的には、種苗や農産物の栽培・生産に関する技術開発力の強化が重要です(U‐B参照)。農業や農産物という括りは同じですが、主要食料とそれ以外の農産物では、国家の政策も含め、根本的な違いがあり、目的や状況に応じ、区別して考える必要があります。防衛戦略上の食料とは、日本人にとっての主要食料もしくは、それに準ずる食料を意味します。


 日本人の高齢化やメタボ対策にともなう野菜中心の日本食、学校給食等での食材変更、3R(s)(以下2−3)を参照)、地産地消、広く国民への運動(国民の意識変更)による食生活や習慣の改革により、ある水準までの自給率の改善は、割合容易になされるのかも知れません。しかし、問題は、それから先です。主要食料の国産化率は改善する必要はありますが、輸入に依存せざるを得ない部分や分野もあります。海外の生産国に対しての、適切な姿勢や対応が求めされます。外食産業、惣菜業、調味料、甘味料の材料や食用油(植物油、油脂)や小麦粉を含む食品加工業、肥料や飼料業界(畜産業界)への短期、長期に渡る様々な影響も懸念し、配慮することも必要です。国内市場が許容し、輸入に問題がない限り、今迄通りの輸入を継続若しくは今後さらに拡大してもよい海外農産物やその加工品もあります。ここで大切なのは、開かれた世界のなかで、主要食料並びに準主要食料、並びに、日常の食材として重要な農産物の種子や生産資材も含めて、食料防衛としての危機管理体制の確立です。これには、農業及びその関連の従事者並びに我々国民の意識改革も求められます。


2.素人なりの国産化政策と食料対策


 米を主体とした食料生産と食生活が、日本の食の防衛戦略の基本です。米への回帰、米飯中心の学校給食や米粉をパンやうどんに応用することも、このところ注目を浴びています。自給率(カロリーベース)の低い主要農産物は、麦、大豆、トウモロコシ、砂糖、食用油(トウモロコシや大豆油含む)、飼料用穀物等のようです。農林省も、耕作放棄地での大豆、小麦生産の推奨等、幾つかの構想を実行に移してきました。大豆については、の東北農政局が、苦味のない種子を開発し、その実施権に基づく大豆の生産、また、その加工食品として、豆乳、豆腐の生産、そして、その大豆粉による、うどん、パン、ケーキへの応用もなされています。飼料用米の生産も始まっています。砂糖やぶどうのみでなく、国産の他の果物(りんご、なし、桃、等)やサツマイモから抽出した甘味成分も、使われることがあるかもしれません。
 主要農産物の国産化政策には、日本の農地や気候の適正、環境(CO2排出権との関連含む)、そして生産の経済性、技術水準、農業就業者、廃材活用の(バイオエネルギー等への)有効性、政府の財政状況、企業の参入や活用動向、海外生産国との関係等、多くの要因を考慮する必要があります。最適な方策が、農林省を中心とした専門家の高度で公正な知恵と懸命な努力によって実現されることを期待します。以下には、特に新鮮さがあるものではありませんが、素人なりに、感じた国産化対策や関連する運動等を述べさせて頂きます。


1)純主食としてのイモ類
 個人的には、ジャガイモとさつまいもを、準主食と指定し、主要食糧としての体制を構築し、緊急時に備えることを提案します。双方ともカロリーが低く栄養成分が多いのが特徴です。特に、ジャガイモは、食べ易く、多様な調理方法、他の多くの食材との相性の良さは、基幹食材としての重要な要素です。一つの食材で、多様な味付けと料理方法を有することは、日本の食文化の原点ともいえますが、何よりも、他の食材が限られてときに重宝です。寒冷地も含めた、日本の広範囲な地域で生産可能なのも魅力です。また、ポテトフライやポテトチップは、子供達にも人気です。加工食品としての輸入も増えていますが、まだまだ、国内生産に優位性があります。二つとも中・南米が起源(ジャガイモはインカの食糧遺産)ですが、ジャガイモは、ヨーロッパ、そして、さつまいもは、江戸時代の日本の、「ききん」を救ったことでも知られています。


2)菜の花と大豆栽培の国民運動
 広く国民が、食べ物や食糧自衛の重要性を認識する為にも、菜の花と大豆栽培の国民運動を提唱します。子供の情操教育や食育教育、そして奉仕精神の養成にも役立ちます。お年寄りにとっても、健康の維持、社会への参画活動としての楽しみや生き甲斐に通じます。菜の花と油、そして廃油の再利用は、かって、滋賀県で随分話題になりました。最近では、殺風景な国会の脇の歩道でも、きれいな菜の花が咲いているようです。篠原孝先生のブログでは、菜の花と本人の写真が5枚ほどあります。
 本人ばかりでなく、荘林先生のゼミの生徒に協力して頂いたら、私のような者ばかりでなく、沢山の人にデモンストレーション効果があったはずです。自宅、学校、公園、工場、役場、事務所、そして、家庭のちょっとした空き地、道路端やあぜ道でも栽培できます。黄色い花は、人々の心をなごませ、チョウやミツバチも寄ってきます。
 大豆は、日本食に必須な食材であり原料で、栄養も高いようです。加工原料としての大豆の国産化率を一定水準まで上げることが望まれます。大豆の栽培は、菜の花ほど、簡単ではありませんが、もともと、田んぼのあぜ道でも栽培可能なものです。経験のない人には、適度な指導も必要です。虫や病気との戦いもあり、菜の花とは違った栽培上の喜怒哀楽を経験します。自宅の敷地や校庭で収穫された大豆、そして菜の花の一部は、学校給食や自宅で食しても良いかと思います。
 その他は、クーポンや地域通貨の供与、もしくは公共の緑や図書館の整備への貢献も、インセンティブとなるでしょう。読んだ新聞や飲んだ後のペットボトルが価値のある時代です。身近で、簡単に栽培した植物や農作物も同じように、小さな価値を生みだします。
 喜びは後者の方が大きい筈です。また、子供達にとっては、良い情操、食育、そしてボランティア教育にもなります。できた果物や野菜を食べるばかりが食育ではありません。自ら苦労し、土をいじり、虫や天候と戦いながら育て、それを味わうことが、本来の食べもの教育(食育)のはずです。食べ物の大切さも学びます。栽培面積によっては、結構忙しくなります。お年寄りは、毎日のケアに、楽しみと生き甲斐を、感じるはずです。植物や野菜のケアに集中することにより、本人のケアは、要らなくなるかも知れません。


3)3R(s)(Reduce, Recycle, Reuse)運動の促進
 必ずしも自給率の向上とは言えませんが、食糧防衛には、無駄を省く努力も必要です。30%の食糧がセーブできるという人もいます。家庭では、食材料の値上がり分をカバーすることにもなります。食べ残しの減少や残り物の有効活用、冷蔵庫の在庫管理と廃棄食品の減少が大事です。
 企業の扱う惣菜や加工食品では、海外からの食材料の使用が比較的多いものと想定されます。そこでの3Rは、無駄を省くと同時に、自給率の改善にも役立ちます。加工食品業界では、賞味期限表示方法の変更と工夫(PI物流企画、伊藤秀行氏;http://p-ilogi.blog16.jp/ 「物流は賞味期限を変えられるか」参照)、賞味期限前の加工食品のリサイクル促進によるキリスト教団体への贈呈や飼料等への使用、生産・流通(店舗含む)段階での在庫管理の徹底があります。
 これらの施策は、企業にとっても、廃棄コスト(廃棄物としての扱い以前の搬出)の減少、倉庫スペースの有効活用、在庫の合理化によるコスト削減といった経済効果があります。スーパー、コンビニ、惣菜店の弁当を含めた惣菜の売れ残りは経営上も深刻です。しっかりした売上と調達管理により、この改善がなされ、ロス率が減れば、経営上の収益の改善と同時に、自給率の改善にも役立ちます。
 飲食店やコンビニそして工場等から出る食品残渣を堆肥や家畜の飼料として使用する循環型農業も行われています。経済的距離と物流コスト、堆肥応用の質や量的限界、塩分や油脂の混合の問題等もありますが、この循環システム、特に豚を中心とした家畜飼料への応用が発展することが重要です。他の廃棄物との分別し難い混合が、スムーズな循環を困難にすることがあります。工場でのプロセス、パッケージ等の材質や方法、廃棄物の分別方法等の更なる工夫や改良が求められます。


4)食べ過ぎの抑制
 「以前は、栄養失調で、病気になる人が多かったが、最近では、栄養の取りすぎで、病気になる人が多い」と云われてから、40年近くになります。米国では、随分前から、この啓蒙運動が起き、その結果、日本食ブームも起きたようです。日本でも、ここに至って、ようやく、カロリー管理の食事への認識が深まってきたようです。
 これにより、食べ過ぎによる無駄の抑制、医療費低減の効果、そして日本食と野菜重視の食事による自給率の改善が、なされる可能性があります。また、高年齢者層の人口割合が増えれば、カロリー摂取量が低減し、米、野菜等の国内食材を中心とした食事割合が多くなり、自給率向上にとって、好ましい結果になるかも知れません。


3.畜産業生存の危機を救う循環型飼育と新しい放牧と牧草管理技術


  このままでは、高い価格を許容しないと、牛乳が飲めなくなります。米、イモ、野菜ばかりでなく、決して高級でない国内産の牛肉や豚肉も、手の届く価格で食べ続けたいものです。これからの畜産に必要なのは、自然の雑草や草木、余った農産物や果物、そして、おからや加工食品も含めた食品残渣(豚と牛では、異なる場合あり)等、一昔前までの飼育方法に、牧草や放牧の科学的管理(コントロール)技術が加わった経済的飼育方法です。
 豚や牛の排泄物は、堆肥として農産物生産用に使用するか、畜産施設や農家の燃料源としても使えます。自然、環境、科学的手法そして農業とも共生する循環方式に回帰することです。また、牧草や農産物、食品残渣をベースの循環方式は、まさに、今日の飼料やエネルギーの高騰、そして食の安全の難題の解決には最適です。臭いや汚水等の環境問題は、現在の技術や運営管理方法で解決できるはずです。 牧草や放牧の管理技術はニュージーランドの方式で、既に、日本でも、数箇所で採用され成功しているようです。従来から慣れ親しんだ加工畜産方式から、自然と共生した伝統的方法に科学的管理手法が融合した循環型方式に転換させるには、目的指向型の施策が必要です。
 専門家によれば、面積のまとまった耕作放棄地(例えば30〜40ha)があれば、この科学的に管理された牛の放牧経営は、十分に採算があうようです。しかし、平地にこれだけの面積の集積された放牧地を確保するのは現実的ではありません。平地より高台にある旧放牧地(牧野)と結び、圃場整備も含めた、地域循環型農業・農村プランとその実行がなされてもよいかと思います。非効率的との理由で放置されたままの昔の放牧地(牧野)を、新しい放牧技術で、再生させることも考えられます。
 従来のような助成金による曖昧な形での支援では、問題の引き延ばしで、本格的経営改善にはいつまで経っても至りません。これからの経営改善と存続の為に必要な方式は、解りやすく、透明で且つ合理的な仕組みでなくてはなりません。
 事業への支援と農家個人への救済は明確に分離されなければなりません。農家の救済が必要な場合は、曖昧さを避ける為にも、事業(経営)主体とは分離し、解り易い形でなされることが必要です。そこに、戸別救済の意義があります。国内畜産の維持には、現場農家の改革に向けての努力、地域の農業就業者や政府による目的指向型支援体制も必要です。将来の契約生産等に向けての、レストランチェーンやスーパー等の民間企業による、準備計画段階からの、合理的協力が必要なこともあります。
(尚、以上の放牧方式等に関しては、和の経済研究会のメンバーのご意見を参考にさせて頂きました。)


4.備蓄とファイナンス
 世界の食糧事情を考えると、防衛戦略上からしても、主要食糧の米の備蓄は現在(100万トン)の3倍はあってしかるべきです。備蓄は、緊急時の市場放出、価格の調整、海外への援助等にも役立ちます。倉庫代金や金利は掛かりますが、在庫資産の価値の劣化や市場価格の落下がない限り、備蓄による損失を被りません。備蓄倉庫の場所やその方法は、ロジィスティクスとそのコストを十分に勘案して決定すべきです。
 一定のリスク負担や掛け目を前提とすれば、動産(在庫)担保による民間金融機関からのファイナンスも可能なはずです。収穫以降の1年間の蔵出し米の価格が倉庫代や金利コストを含んだ価格を基準にできれば、備蓄在庫に伴うコスト負担も減少します。
 財政に不安ならば、米備蓄ファンドを創設し、一口(1俵単位では、残念ながら細かすぎるので、)5万円か10万円にし、広く国民の協力を求めるのも一案です。特別な事態に限定し(恒常的であると米の市場からの消費がその分減る)、米と交換できるクーポン券付もあり得ます。価格変動への対処も含めて、そのストラクチャーに若干の知恵と工夫が必要ですが、比較的健全な金融商品ができそうです。輸入米の一部で、海外の支援に使用の分は、生産地の倉庫に在庫し、必要に応じ、直接、援助国に仕向けた方が、保管コスト次第では、Food Mileageも含めた輸送コストの軽減にも役立ちます。米以外の主要食糧及び一部の準主要食料も、数量は別にして、ある程度の備蓄が必要かも知れません。
 また、大切なことは、種子を主体とした農産物の栽培・生産資材の備蓄です。最近では、コスト上の問題から種子の増殖作業(一部の保管も)を海外に頼っているケースもあるようです。いざというときに、国内生産に支障をきたすようでは、問題です。種子の増殖(技術も含めて)に関する保護上の問題もあります。重要な種子は、国内で増殖を促進することも考える必要があります。種子以外の農業資材も同じことが必要なものもあると推察します。


5.輸入の維持・促進の為の生産国との関係構築
 国産化率の上昇や他の国産農産物への代替にも、限界のある主要食料や飼料用穀物もあります。輸入の確保には、海外の生産者との、相互信頼に基づく取引関係の構築、また、生産国に対する、きめ細かい外交努力も不可欠です。海外の生産者若しくはその関係する企業体への出資、もしくは物流コストを含めての価格や品質が合えば、主要食料の付加価値を高め、現地人の雇用を促進する(日本の加工会社との合弁も含む)現地加工会社による加工品の輸入の促進も必要かもしれません。そこに、日本の加工技術が加われば最適です。
 例えば、白神山系で発見されたこだま酵母は、冷凍パン生地の一定期間の保存とその高い品質維持を可能としました。 物流コスト等で、加工食品の形態での輸入が難しくとも、日本の優れた加工技術や材料が、生産国の加工技術や産業に貢献できるかも知れません。現地生産者による川下との関係強化戦略として、日本の加工業者(例えば、製粉会社)への出資(株式の持ち合いも含め)も考えられます。
 長期的には、主要食料の技術開発を促進し、開発された種子若しくは特許、育成権、ノーハウの実施権を生産国に許諾し、それにより生産もしくは増殖した種子で生産された食糧を輸入するという戦略も大切です。気候や風土の異なる生産国との、部分的、共同開発もあり得ます。(以下の「食糧防衛と技術開発」を参照。)


6.農産物の秩序ある輸出の促進
 日本人が開発し、又は、改良した美味しい果物や野菜を世界の人たちに味わって頂き、喜んで頂きたいものです。秩序ある輸出は、促進すべきです。しかし、主要食料とそれ以外の果物や野菜の輸出では、その基本戦略や方策は異なります。米は在庫分も含めた国内需要を上回る分を輸出する戦略がベースとなるべきです。また、在庫の一部は、緊急時の海外への放出にも使われます。輸出の方が儲かるので、国内需要を無視しても、主要食料を、輸出に仕向けるようなことになったら大変です。主要食料は、国家戦略に準拠した、一定のルールと監視下での秩序ある輸出が必要です。
 果物や野菜の輸出は、日本の農業の国際化と農業従事者及びその周囲のやり甲斐の高揚のみでなく、他の国内産地への刺激、対象農産物の更なる改良と保存技術、そして物流上の温度(通気)管理や衝撃に耐えるパッケージ等の関連技術の発展に貢献します。そして、世界の農産物技術と市場に関する、生きた情報の収集にも役立ちます。また、若い人たちのやる気とやり甲斐に繋がります。
 輸出が全てバラ色と云う訳ではありません。競争の激化、輸送期間中の市況の変化と収益への影響、輸送途中の品質劣化や損傷、そして輸入者の信用リスクも伴います。輸出にも、一定の専門性が要求されます。
 「賞味期限や物流そして輸入規制等」の問題で、輸出が難しいものは、合理的契約のもとでの、技術提供もしくは技術提供の伴った合弁による現地生産という方もあります。


以上


平成20年7月14日、草刈啓一


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