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これからの日本の農業と農村の在り方‐そのU‐食糧防衛戦略とこれからの日本の農業‐
「(各論)U−B 食料技術立国を目指して

   草刈 啓一 (2008.7)


U−B 食料技術立国を目指して


1.技術開発とその効果



 日本の農業及び食料防衛にとって、長期的にその鍵となるのは、技術開発です。味覚、栄養やサイズの他に、害虫、病気、気候に対する耐性をもった種子、土壌改良、肥料、害虫、病気対策を含めた、栽培・生産方法等に関する改良や開発です。技術開発により、主要農産物単位あたりのカロリーや栄養成分が数倍になり、気候(温度や湿度)の変化、害虫や病気に耐えうる生産が可能となれば、国内自給率改善のみでなく、世界の食料問題の緩和に、貢献します。
 主要農産物以外の果物や野菜の分野でも種子や生産方法等に関する技術開発は重要です。果物や野菜類の技術開発(改良)も、その加工品とともに、地域を代表する特産品として、ブランド戦略も伴い、収入の安定に貢献する可能性があります。
 開発当事者は、域内及び国内の他の地域、ある場合は海外に、その開発された種子の販売や種子の増殖権(種子や生産方式含む)を供与し、種子の販売の対価やロイヤリティーを取得します。栽培や生産方法に係る技術供与では、単にそのロイヤリティーを得るのみでなく、設備や関連資材の販売収入が伴う場合があります。
 最近人気のある特殊農法の商標権の使用は、マーケティング上の優位性の確立のみでなく、指定された資材(菌、堆肥、土壌活性剤等)を購入し使うことが前提となっている場合が多いようです。生産技術や関連システムの開発では、環境負荷やエネルギーコストも含めた経済性の改善を加味したものが、尊重されます。また、農業就業者に若者や高年齢者が多くなるなか、人間工学的要素を取り入れた、使いやすく、体に負担の少ない、農業用具や機械そして作業方法の開発も重要です。
 農産物の技術開発の促進には、開発体制の強化や開発の為の人材養成分野での、政府の支援もなくてはなりません。また、民間の開発に対しても、税制面等での支援も大切です。一方、海外での日本人研究者を含め、日本の優秀な頭脳と成果がモンサント等の海外企業へ流出することを防ぐ努力も必要です。



2.輸入依存度の高い主要農産物の研究開発
 小麦等の輸入依存度の高い主要農産物の研究開発にも力を注ぐべきです。開発された成果が、直接、国内生産に結びつかなくとも、生産物の輸入確保を前提として、生産国に、実施権(増殖権)を許諾することにより、強固な関係が構築できます。気候や風土の異なる海外の研究機関との共同研究と開発が効果的なこともあります。日本の食料防衛にも、役立つ戦略技術となり得ます。冒頭の「要旨と展望」で述べた小麦農林10号のように、世界の多くの人々を飢えから救い、いまでも世界で多くを占める小麦の品種の原点になっている、日本人の技術もありました。既に、遅いということはありません。農業分野においても技術立国日本であって欲しいものです。


3.開発者への支援と協力
 農業及び農産物に関する、知的財産権の確立に向けて、国や県、民間企業、そして農業法人や農業就業者等が育成者権、特許、実用新案、意匠権、商標等の無体財産権やノーハウを保持し、戦略化することは、極めて大切です。
 地方の大学や農業試験場を個人で農産物の育成や改良、各種の栽培・生産方法等を開発している人たちには、県や国そして大学等の研究機関の協力や支援、そして開発成果の栽培やマーケティングを含め、地域の理解や尊重、そして協力も必要です。このような個人研究者と研究に協力した研究機関との権利の帰属や報酬等に関する基本的取り決めも必要な場合も多くなります。


4.眠った開発技術を掘り起こそう
 国や県は、農産物の種子や生産方式の研究開発に多くの研究開発費を使ってきました。これまで、様々の理由で、開発途中、若しくは、開発され、眠ったまま放置された種子や栽培・生産方法があるはずです。研究開発を最初から始めるには、相当の年数と費用が掛かります。かっての研究機関や研究者が開発した若しくは手がけ、現在では、眠っている研究成果またはその蓄積を、再検証することは、大いに価値があるかも知れません。


5.海外への技術供与の留意点
 日本の農産物(果樹含む)の種子や種子の増殖と農産物の栽培・生産に関する技術(特許、育成権、ノーハウ等)を海外に供与するには、しっかりした戦略と契約がその根底になければなりません。商標とサービスマークの使用権の提供や現地生産や販売に関する資本出資(合弁等)が伴う場合もあります。日本で開発された種子や生産技術が海外の土壌や風土に適合しない為、更なる改良技術が必要なこともあります。
 また、知的財産権の保護に無関心な多くの国もあります。種子の提供が、第三者への販売用に、勝手に増殖される得ることにも、注意しなければなりません。農産物の海外への種子の提供や技術供与は、対象農産物の特性や対象国での技術の保護状況、将来の国内市場への影響、技術供与による他のメリットや二国間の関係、対価、生産又は販売の地域(テリトリー)、改良技術の帰属等を、十分に検証し、決定することが大切です。商社や企業との共同投資が、必要な場合もあり得ます。知的財産権の保護が無い場合や、対価や諸条件の合理的取り決めがなされない取引を回避することも必要です。
 海外との取組の拡大は、農業の魅力を高めます。農業従事者や技術者にとって、実践的で実りのある国際交流への道が開けます。同時に、若い人たちの農業への関心が高まります。また、海外の農業、農産物情報の収集にも役立ち、国内の技術開発を、更に促進させる効果があります。


6.安易な海外への技術移転の防止
 一方、果樹も含めた農産物の種苗や栽培・生産、そしてその加工品を含めての、知的財産権やノーハウを、安易に海外に持ち込むことを避けねばなりません。和歌山の南高梅の事件の記事を思いだします。長い歴史を通じての多くの人々が積み重ね、残してくれた地域の特産品の栽培や加工技術の蓄積には、多大な敬意が払わなければなりません。新しい種子や栽培方法の技術開発も重要ですが、地域の特産である伝統農産物(果樹)の種苗、栽培方法、そしてその加工品に関する、(知的財産権や)ノーハウを死守しなければなりません。地域住民の生活を守る首長や政治家のマニフェストの一つに、
伝統農産物の保護があってもよいはずです。国のみでなく、県や市も、地域の特産品や主要農産物の技術の保護に関する監視や、罰則を含めた、ルールづくりが必要です。


7.農産物の優れた海外の技術水準−海外の技術の導入
 海外の農産物や果樹技術の向上を侮ってはいけません。日本の技術に、余り自身を持ちすぎると、世界に負けます。山形の佐藤錦は、多くの日本人が、世界一を疑いません。しかし、それよりも大きくて、ピンク色で、果肉も厚く、甘いチェリーが、数量と期間は限られますが、米国シアトルの農園で栽培されています。アメリカンチェリーが入ってきたお陰で、山形の佐藤錦の価値が上がったといわれます。時の経過とともに、これが、逆転する可能性もあります。因みに、紫色のアメリカンチェリーも、最近では、その味が随分良くなりました。
 前U‐Aで述べた通り、畜産分野では、以前から加工畜産と言われる海外の飼育方法を採用しているようです。乳牛関係者のなかでは、この飼育方法は飼料や石油の高騰で利益が確保できないシステムであると認識され出しています。既に何人かの先進的農家は、従来の方法に代わる、ニュージーランドの高度な放牧管理を日本に適合し、大きく経営改善に成功し、この穀物高騰下でも安定的収入を確保しています。代替技術の成功事例により、農林省も、3年前の農業基本法改正で、放牧を推進していくことを盛り込み、各種助成事業を設け推進しているようです。しかし、長い間続いた、飼育方法から簡単には脱却できず、多くの農家が、深刻な経営状態に陥りつつあるようです。
 酪農畜産事業の存続、そして地域循環型農業の実現の為にも、自然と共生し、経済的な高度な牧草・放牧管理技術に基づく飼育方法に、大きな関心が集まるものと思われます。最も効率のよい放牧方式の実現には、前U‐A‐3で指摘した通り、農地の集積や以前使われていた牧野の再生といった別の課題もあります。(以上、畜産に関しては、「和の経済研究会」のメンバーのご意見を参考にしました。)
 農産物に関する、栽培や生産方式も含めた、海外の技術動向には常に関心を持つべきです。土地や気象条件を含む環境の違いはありますが、優れた技術の導入には、積極的に取り組む姿勢も大事です。また、前1で述べた、人間工学的側面を配慮した使い易すく、体に負担の掛からない農業用用具や機械、そして、作業方法は、海外の方が発達しているかも知れません。この分野での、技術の導入も考えるべきです。海外の技術動向の情報収集や、実際の技術導入に際しては、民間企業の介在も必要ですが、場合によっては、国や県のサポートも大切です。


8.世界の種子メーカーによるM&A対策
 防衛戦略のもとでは、農産物の種苗や重要な生産技術や土壌、堆肥そして消毒に関する知的財産は、有形、無形の戦略物資です。 欧米の種子メーカーが、世界の種子の確保と種苗メーカーの買収に動いているようです。安易な海外移転も問題ですが、農産物の知的財産権を有した企業が、買収されることにより、種苗や関連技術が外国企業の傘下に下るリスクも、考慮しなければなりません。
 重要な軍事技術や国家のインフラに関連した企業に対する買収についての対策が必要性ですが、その中に、戦略物資である農産物の重要な種子や知的財産権も含まれて当然です。


以上


平成20年7月14日、草刈啓一



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