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■これからの日本の農業と農村の在り方‐そのU‐食糧防衛戦略とこれからの日本の農業‐
 「(各論)U−C これからの農業経営
   草刈 啓一 (2008.8)


U−C これからの農業経営


1.市場への接近と経営変革



1) 市場及び消費者への接近:(市場ニーズに対応した生産・開発体制の確立)
 これからの農産物の取引には、市場へのアクセス及び連携を強化し、そのニーズと情報を的確にフィードバックし、消費者の動向を敏感に反映した開発、生産、出荷体制の構築が必要です。農協を通じて販売している農業従事者は、以外にも、市場(消費者)との距離が大きくかけ離れていることが多いのです。農協と全農への依存体制が慢性化した結果です。これでは、市場のニーズに合致した農産物(パッケージ等も含めて)の開発や改良、そして計画性のある生産と出荷ができません。これからの農業には、市場のニーズや情報を的確に反映した生産者の対応、その為の体制やシステムの構築が必要で、それを実現することにより、付加価値を高めることが可能となります。
 また、スーパーやファミレスを通じて、消費者との間で、お互いの顔の見える取引が増える一方、Supply Chain Management(SCM)やトレーサビリティーを支えるロジスティクスに組み込まれ、そのシステムや体制構築も必要になります。複数の農業生産者が共同して、市場ニーズに即した開発、生産、出荷そして、対市場体制の確立を図ることが多くなるでしょう。品質(味や安全も含む)、納期、価格の面で、市場(消費者)と適合し、且つ取引上のリスクを回避若しくは軽減するシステムの構築には、信頼できる専門商社や取扱業者(問屋)との良好な関係の構築も重要です。農産物は、季節毎に、生産地が変わります。大手スーパーやファミリーレストラン、そして食品加工業等との取引には、通年供給体制の一環としての役割が求められることもあります。ここでも、関係する専門商社等の国内外からの調達能力が期待されます。
 農業従事者のなかには、農業法人をつくり、農協から独立して、市場や卸売業者と直接取引している人達が増えています。なかには、有機農産物やジュース等の加工品を、スーパーへの直販やインターネットや通販ルートで販売している人もいます。また、ファミリーレストランやファーストフード店との低農薬農産物の供給契約を全国的に拡大し、現在では、50億円以上の売上を達成している人もいます。また、大都市近郊で、市場のニーズに対応した、野菜のマーケティングと生産体制を構築し、付加価値を高めているグループやファミリーレストラン等との循環型生産販売システムを実現している人もいます。これらの人々は全体からすれば、まだまだ僅かです。多くの農業法人にとっても、市場のニーズに即応した付加価値の高い農産物取引の実施は、これからの課題です。
 現在でも、地方の農事法人が合同で、販売会社を設立し、大量消費地での量販店や飲食店との直販ルートの開拓を模索しています。生産から販売まで、自分たちで全てコントロールするという付加価値を高める為の理想的な方法は、一時的には、機能しても、長続きするとは限りません。また、人材の問題もあり、リスク分散が十分になされてない危険性もあります。市場(顧客)開拓とニーズの掘り起こしを含めたマーケティング、また、取引上のリスク分散の為には、その分野の専門家(商社等)との関係強化が求められます。


2)SCM(サプライチェーンマネジメント)やトレーサビリティーへの対応
 従来は、生産者から農協、市場そして幾つかの流通を経由して小売店舗(そして消費者)に流れる農産物の流通経路が成立していました。これに対して、消費者(市場)のニーズに合わせ、流通経路の販売戦略、計画そして在庫戦略に反映し、最終的に生産者の生産や生産計画及び製品開発に反映させる発想に基づく管理方法がSupply Chain Management(SCM)です。市場や消費者のニーズをもとに、チェーンを通じて、農産物の生産や在庫、そして商品戦略がなされ、このように生産された農産物は、各チェーンを経由し、市場(消費者)に供給されます。この市場と生産者と結ぶチェーン体系の一環として、資材の調達、生産(作付から収穫)、選別とパッケージング、出荷、場合によっては、輸送、納入プロセスも組み込んだロジスティクスが展開されます。また、トレーサビリティーには、資材や農産物のロット管理が加わります。
 SCMで重要なことは、このチェーンの経路(流通経路)を簡素化することです。流通経路の合理化により、タイムリーでスムーズ、且つ、正確性を増した、情報、物、金、の流れとなり、在庫やロスの軽減、そして収益性の向上やキャッシュフローの改善を実現します。生産者は、このチェーンに組み込まれることにより、量販店、食品スーパーとの契約栽培に基づいた計画性のある生産(栽培)が可能となります。同時に、向上した収益やキャッシュフローを享受できます。受発注、生産・出荷そして在庫管理等のしっかりしたロジスティクス体制に支えられた品質と納期の維持が可能となります。俗にいう対市場経由のスポット取引から離れ、幾つかの農家や農業法人が結束し、SCMやトレーサビリティー体制のもとで、複数の量販店、食品スーパーチェインやファミリーレストランチェーン等との取引を拡大していくことは、農業経営の近代化や改善という側面からも意義があります。
 また、このようなプロセスや経験を通じて、市場のニーズに対応できる十分な体制と市場との信頼関係を築いたのちに、将来的には、農産物の開発・改良若しくは食べ方、使い方の工夫、更に、加工食品の開発等により、市場に対して、積極的に提案していくことも大切です。生産者と市場が相互に前向きな努力と工夫をすることにより、双方の信頼と長期的関係が構築され、そこで、魅力ある農業が展開され、人も育ちます。



2.都市近郊と地方の農業形態


1)都市近郊型農業
 都市近郊では、ファミリーレストラン、ファーストフード、ホテル、食品スーパー、量販店、コンビニ等をその中核(以下「中核企業体」という。)とした、循環型農業が重要になります。セントラルキッチン、カット野菜工場、ホテル等の食品残渣や廃棄物を運び、野菜栽培の堆肥とし、できた野菜を、同じセントラルキッチンやカット野菜工場に供給するシステムです。生産者の顔が見え、トレーサビリティーも安心な環境重視の循環型経営は、中核企業体のCSR上も有効です。生産者にとっては、契約栽培による安定供給と比較的高いマージンが魅力です。
 また、残渣や廃棄物の受け入れによる経済的メリットもあります。毎日の食品工場やファミレス、コンビニ等の店舗からの食品残渣を、堆肥として処理するには、質及び量的にも、その能力にも限界があります。牛や豚の飼料としての用途拡大が期待されます。輸送距離や残渣成分によって、経済性や用途が異なります。循環型システムは、物流コスト上、100km圏内が限度です。豆腐工場からの廃棄物である“おから”は、大豆栽培用の堆肥や家畜用の飼料として有効利用されます。塩分や油脂の混入した食品残渣は、牛には適さず、養豚用飼料が適します。混入度合によっては、豚肉の用途も、ソーセッジ用等に限られます。循環型農業の成功への鍵は、食品残渣を使った堆肥で栽培した農産物の購入先の存在です。同じことは、食品残渣を飼料として使用し、飼育した家畜(豚等)にも言えます。これらの購入先である中核企業体や食肉加工業者とのしっかりとした関係の構築が鍵となります。
 契約栽培の確立には、十分な供給能力と、資材調達、栽培、選別、包装、出荷等にも、トレーサビリティーを含めた、しっかりしたロジスティックス管理が要求されます。都会の近郊では、何人かの生産者が集まり、大市場に近い利点を利用し、市場のニーズを有効に反映し、野菜や根菜を中心とした都市近郊型農業を展開し、良好な収益を上げているケースもあります。数名を雇用し、高齢化により、使われなく畑を10数ha賃借し、大豆や野菜を栽培し、豆腐工場やファミリーレストランと、その食品残渣を引きとり、循環型取引を拡大している農事法人もあります。契約供給の維持には、完全有機栽培を断念し、減農薬農法を採用せざるを得ないこともあります。
 形が悪かったり、虫に食われ出荷できない野菜の一部は、堆肥や家畜の飼料として利用されますが、多くは廃棄されます。一つでも、虫による穴があれば商品にならないようです。カット野菜や煮野菜(穴がわからない)にすれば、多くの無駄を省けます。農家が共同で、カット野菜工場、又は、総菜工場をつくり、これらの廃棄農作物を有効利用することも考えられます。HACCIPやトレーサビリティーシステムの確立を前提として、自然に近い環境で栽培された、形は悪いが美味しい野菜を若干低い価格で普及させる努力を、生産者と市場関係者(総菜会社、ファミレス、カット野菜工場等)が協力して構築することも、重要なことかも知れません。しっかりしたHACCIPやトレーサビリティーシステムによる支えと消費者への開示が前提です。経済性により中国野菜を使用していた総菜店舗に、安心で美味しい国産野菜を使った惣菜が並ぶことは、消費者にとっても、惣菜店舗や食品スーパーの経営上も、好ましいことかも知れません。


 近所の住民やマイカーでの日帰り旅行客を相手に、農家の軒先や地域の共同施設(道の駅含む)での、野菜や果物の直売も増えています。スーパー等と比較し、若干安い価格と新鮮さ、そして生産者のネーミングや顔と直面するのがその特徴です。農家、特に主婦にとっては、良い実収入源となっているようです。なかには、随分大きな売上実績をあげているところもあるようです。この種の市場の全国的な規模は解りませんが、無視できない規模になっていることも事実です。また、これから、更に、伸びるものと想定されます。これが、自給率の算定要因になっているかは不明です。
 都市近郊では、20〜30坪の畑を借りて、野菜を栽培する人たちも増えています。定年組やサラリーマン夫婦と様々です。東京から20〜30km圏内で、公の畑の賃貸を公募すると、20倍以上の人気があるようです。100km圏内でも、農家に宿泊施設と畑を借りて、主にWeek-endや休暇を利用して、農作業の為に通っている人もいるようです。都市近郊では、高齢化して人手不足の農家に、農作業奉仕をしている何人かの集団もあるようです。


 以上のように、都市近郊では、農産物の需要者と供給者(生産者)が接近しつつあります。定年退職者のみでなく、比較的若い人たちも含め、農作業による楽しみや健康を見い出しつつあるようです。消費者参加型の循環型、旬産、旬消と自給自足の農業に、変遷しつつあるのかも知れません。「Do it yourself.」は、食べ物(農業)にも、その対象が向きつつあるようです。これが、楽しみ(生き甲斐)や健康の増進と医者費の削減効果につながります。また、自ら農産物の栽培をする人達が増えることは、将来の農村での転農、農業支援、そして移住生活を容易にする効果もあります。


2)地方の農業
 地方といっても、地域の地力、気候等によって、農産物栽培の適合性が異なります。原則的には、その主要農産物のなかで、その地域の栽培に適するものを優先すべきです。米の生産に適した地域では、従来からの特産品である野菜や果物を除いては、米を中心とした持続型農業が展開されるべきです。自然環境や保水効果の維持の為にも、水田の保全は重要です。持続型循環農業への転換が望まれます。環境への効果は勿論ですが、化学肥料や農薬に要する費用の削減効果もあります。水の確保さえできれば、不耕起栽培は、農薬や肥料そして機械の費用やコストを減らす効果があります。また、反収も価格も良いのがその特徴です。農業が、CO2排出権枠の対象になれば、農業就業者にとって、新たな収入と環境への貢献のインセンティブとなり、若い農業就業者も獲得し易くなります。企業にとって、環境問題が益々重要になります。自然や環境がしっかり維持された農地や農村と、CSR対策やイメージ向上を目的とした企業との、新たな結びつきがあるかも知れません。休耕地や耕作放棄地を、大豆や飼料用米等の栽培で活用することも必要です。
 主要農産物の他に、地方都市や東京の市場や量販店等を通じての野菜や果物の特産品の生産や栽培も重要です。野菜や果物の地域特産品も、従来の農協を通じてのものから、大手スーパーやレストランチェーン等、納入先の顔が見える取引が、専門商社等を通じて行われる割合が増えてきます。マージンの拡大や、市場に接近でき、そのニーズや情報の把握が容易になる魅力があります。SCM(Supply Chain Management)やトレーサビリティーに、しっかりと対応できる体制の構築を求められます。資材の調達から栽培、収穫、選別、梱包、出荷、配送を通じ、品質、価格(コスト)、納期を満足させる、一貫したロジスティクス管理も必要とされます。既に、果物や野菜で特産品を有する地域も、特産農産物の加工事業の強化と、その地域の特性に適した、もう一つの特産品の育成も必要かも知れません。
 各地域には、自然の雑草、藁、余った農産物や果物、そして家庭や店舗(豆腐屋含む)の食品残渣を使った牛や豚の科学的に管理された自然飼育も必要です。飼育場所を、定期的に、農産物栽培用の肥沃な畑に換えることも、地域循環方式の知恵かも知れません。耕作放棄地では、大豆、小麦、若しくは飼料用米の生産が奨励されます。大豆は、豆腐や調味料にも必要ですが、そのクズやカスは、不耕起栽培や家畜の飼育に使います。栽培可能な地域での、大豆の栽培促進や、空き地さえあれば比較的簡単な、菜の花の栽培は、多くの地域で行ってもらいたいものです。


3)伝統的農業への対応(農業に残る地域の歴史や文化)
 昔からの伝統農産物や地域特性を生かした特殊農産物もあります。付加価値はとれますが、けっして大きな市場ではなく、毎年、限られた季節に栽取される場合が多くなります。高級飲食店や百貨店及び高級スーパー等が顧客となり得ます。直接の取引は難しいので、この種の農産物を専門に取り扱い、販売ルートも持っている、小規模で、ある程度の資金力のある取扱会社を通じて、契約栽培の確立をはかることも大切です。この種の農産物の栽培は、昔から慣れている高齢者の生産者が得意な分野です。彼らの貴重な収入源にもなり、健康及びやり甲斐の維持の機会にもなり得ます。伝統農業やその農産物を大切にすることは重要です。市場も、これを、サポートする筈です。



3.農業とファイナンス
  資金の回転からすれば、生産者が作付けし、生産、出荷できるまでには、長時間を要します。農産物の種苗、肥料、農薬等の資材の代金は、通常は、購入から1〜2か月後には、農協に支払うようです。米を主体とした農産物生産については、農協から購入した種や肥料(機械も)の代金が、収穫時の収入(納入代金)と相殺される一種の農協による融資(ファイナンス)が行われているようです。この種のファイナンスを享受するは、農地や他の不動産等の担保余力が必要なようです(要確認)。米や一部貯蔵される農産物を除いて、出荷後の農産物は、他の業態と比較して、マージンは低くても、支払いが速い為、資金効率が良いのが一般的です。米は別で、収穫後、農協、全農そして一部の卸し業者の倉庫で保管され、翌年の収穫期までの1年間の間、徐々に市場に放出されます。次ページで述べる米の在庫担保融資が検討されるべきです。
  借りた農地には担保設定がし難くなります。やる気のある若い農業従事者が農地を借りて農業生産の規模を拡大しょうとしても、既存の機械を使用するとしても、資材購入も含めた、運転資金上の問題も生じます。新しく農業へ参入しょうとする都会の若者や脱サラ組にとっては、農業に慣れてからの独立であっても、運転資金以外にも、設備資金や創業資金等で、資金繰りに窮する場合もあり得ます。 最近、生産者の農協離れや、農協を通さない生産者と大手食品スーパーや量販店(専門商社等を通じて)との取引が増えています。農産物のみでなく、農協以外からの資材の共同調達や機械の共同使用等、農協にとっては好ましくない農家が多くなります。また、農協が引き取る米も、生産高の60%位に落ちているようです。農協との取引や依存が少なくなった生産者には、農協からのファイナンスが難しくならないとも限りません。 機械や資材の調達、農産物作付、栽培、収穫後の在庫、売掛等を含めた運転資金ファイナンスとそのスキームに関して、金融機関(農協含む)や保険会社、納入業者並びに農産物取引に関係する卸売り業者や専門商社並びに量販店(スーパー等)とともに研究する必要があります。


  最近、動産担保のファイナンスが普及しつつあります。これまで、肉牛用飼育牛がその対象になったようです。普編性があり劣化の少ない農産物(例えば米)の在庫(貯蔵分)は、一定の価格変動リスクがヘッジ(掛け目でも担保できる)されれば、動産担保ファイナンスの対象にもなり得ます。農協(全農)を経由する米も、農協以外の流通を経由する米も、その仕組み次第で、在庫担保ファイナンスの対象になります。米が、農家から卸し業者や専門商社若しくは量販店経由で、消費者に、年間通じて供給される場合は、在庫を有する卸し業者、専門商社、量販店若しくは、場合によっては生産者(の集団)にとって、在庫担保ファイナンスが役立つかも知れません。動産担保ファイナンスは、米以外の農産物(飼料、小麦、大豆も含め)にも適用される可能性もあり、その研究は必要です。
   動産担保金融は、生産物が既に存在することが前提です。収穫時以前の資材購入等に対するファイナンスには、作付から収穫までの間の天候を含めた自然災害や害虫の被害等のリスクをヘッジするスキームが重要です。保険会社との検証やこれらリスクをカバーする保険プログラムの構築も期待されます。また、動産担保ファイナンスには、対象農産物の(担保)価値評価が伴います。在庫管理がしっかりなされていることも大切です。将来は、在庫管理の良し悪しが担保在庫価値の評価及びローンの掛け目にも影響するはずです。農業経営及び農産物の管理体制の充実は、ここでも必要になります。


以上

平成20年8月5日、草刈啓一



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