<ブラボー、クラシック音楽!−曲目解説#17>
ドヴォルザーク「チェロ協奏曲」
(Cello Concerto, Dvorak)

−− 2006.05.27 エルニーニョ深沢(ElNino Fukazawa)
2006.07.27 改訂

 ■はじめに − 秋には心が落ち着くチェロ
 秋に成り何と無く気分が落ち着く季節に成りました。そこで第12回例会(=05年9月8日)では心が落ち着くチェロ(※1)の音色(ねいろ)をじっくりと聴く為に「チェロの曲」を採り上げました、秋は虫たちがヴァイオリンやチェロを奏でる季節です。
 [ちょっと一言]方向指示(次) 秋に”鳴く”虫のスズムシ(鈴虫)マツムシ(松虫)キリギリス(螽斯)コオロギ(蟋蟀)は、何れも雄(♂)が翅を擦り合わせて音を出す点が擦弦楽器のヴァイオリンやチェロと似て居ます。

 しかし西欧のチェロの曲だけで固めずに少し”捻り”を入れて<チェロの欧亜>をテーマに掲げ、アジアに伝わったチェロ属楽器の音楽や西欧に於けるチェロの前身の楽器の曲と聴き比べることにしました。そうすることでチェロの特質「西欧人とアジア人の感性の違い」をより深く理解出来ると考えたからです。因みに虫の音(ね)に心を動かされるのはアジア人の感性の様です。
 先ずは西欧の代表として当会の皆さんの好きな作曲家アントニン・ドヴォルザーク(※2)の『チェロ協奏曲』から聴きました。

 ■曲の構成とデータ
 正式名称は『チェロ協奏曲 ロ短調 作品104』です。曲の構成は
  第1楽章:アレグロ ロ短調 4/4 [ソナタ形式]
  第2楽章:アダージョ・マ・ノン・トロッポ ト長調 3/4 [三部形式]
  第3楽章:アレグロ・モデラート ロ短調 2/4 [ロンド形式]
という古典的な「急・緩・急」の3楽章の、堂々たる作品です。
  ●データ
   作曲年 :1895年(53歳)
   演奏時間:約38〜42分

 ■聴き方 − じっくりと聴く
 じっくりと聴いて下さい。「落ち着いた気分」に浸れる筈です。第1楽章はオーケストラが第1・第2主題を一通り提示した後、独奏チェロが朗々と”歌う”第2主題が聴き所です。第2楽章は彼が尊敬して居たブラームスを思わせる牧歌的な旋律で始まり、総奏の後に郷愁をそそるドヴォルザークらしい旋律(=日本の「四七抜き音階」やジプシー音階的旋律)が現れます。第3楽章はボヘミア(※3)の舞曲風のロンドで、これも郷愁が溢れ出す曲です。

 ■作曲された背景 − アメリカ三部作の一つ
 ドヴォルザークが、1892〜95年(51〜54歳)迄ニューヨークのナショナル音楽院の院長として招かれアメリカに滞在したことは既に詳述しましたが、この『チェロ協奏曲』もこのアメリカ滞在中の終盤に作曲されて居ます。彼はこの短いアメリカ滞在中に有名な『新世界交響曲』『弦楽四重奏曲「アメリカ」』も書いて居て、この3曲は言わば「アメリカ三部作」と言える作品群で、何れもそれぞれのジャンルに於いて屈指の傑作です。この三部作の共通項をズバリ一言で言えば、切々と訴え掛けて来る「郷愁」です。
 帰国後のドヴォルザークは満足の行く作品が書けず、最後の作品と成った『歌劇「アルミーダ」』も不成功に終わって居ます。異国の地でホームシックに成り故郷のボヘミアへの郷愁を書いた「アメリカ三部作」が今日の聴衆に広く好まれて居るのが、この作曲家の特徴です。従ってこの『チェロ協奏曲』を『新世界交響曲』『弦楽四重奏曲「アメリカ」』と聴き比べることをお薦めしますが、まぁ皆さん『新世界』は良くご存知だと思いますので『アメリカ』を聴いて下さい。

 ■結び − 人間の声域に近いチェロ
 チェロという楽器は人間の声の音域に近く、所謂”歌う”ことが出来る楽器です。派手で煌びやかですが時々ヒステリックに成るヴァイオリンよりも、”大人の包容力”内面性とか陰翳の深さを包み込むチェロの音色の方が私は好きです。
 秋の夜長はゆったりとチェロの音楽を聴き「落ち着いた気分」に浸ってみては如何でしょう、ブランデーでも飲み乍ら、心静かに!

−− 完 −−

【脚注】
※1:cello(violoncello[伊]の略)。ヴァイオリン属の弦楽器の一。大型で、ヴァイオリンの2倍の長さが有り、椅子に掛け両膝の間に胴体を抱いて演奏する。4弦で、美しく柔らかい音色を発し、独奏・室内楽・管弦楽などに重用。セロ。

※2:Antonin Dvorak。日本語ではドヴォルザーク/ドヴォルジャーク/ドボルザークなど。チェコの作曲家(1841.9.8〜1904.5.1)。スメタナと並ぶチェコ国民楽派の代表者。個性的な旋律法や和声法を用いて作曲し、ブラームスやヨアヒムらに認められた。1892年から3年間ニューヨークの国民音楽学校(=ナショナル音楽院)の校長として渡米、アフリカン・アメリカンの民謡に通じる故国の旋律を取り入れた交響曲「新世界より」を発表。又「ヴァイオリン協奏曲イ短調」「チェロ協奏曲ロ短調」「スラヴ舞曲」など、管弦楽曲に優れた。他に「ユーモレスク」、弦楽四重奏曲「アメリカ」など。<出典:「学研新世紀ビジュアル百科辞典」>

※3:Bohemia。チェコの西半部。北はポーランド、東はモラビア、南はオーストリア、西はドイツと接している。5世紀以降チェコ人が居住。第一次大戦後チェコスロヴァキア共和国の一部と成る。地味は肥沃でジャガイモ・テンサイ・ホップなどの産多く、又、ガラス・機械類の工業も盛ん。中心都市プラハ。チェコ語ではチェヒ、ドイツ語名ベーメン

    (以上、出典は主に広辞苑です)

●関連リンク
参照ページ(Reference-Page):日本の「四七抜き音階」や
ジプシー音階について▼
資料−音楽学の用語集(Glossary of Musicology)
アジアに伝わったチェロ属楽器の音楽(擦弦楽器の起源にも言及)▼
民族音楽「モンゴル馬頭琴の調べ」(Mongolian MORIN KHUUR, Ethnic)
ドヴォルザークの「アメリカ三部作」▼
ドヴォルザーク「交響曲第9番「新世界より」」(Symphony No.9, Dvorak)
この曲の初登場日▼
ブラボー、クラシック音楽!−活動履歴(Log of 'Bravo, CLASSIC MUSIC !')


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