★ お話の中の怪物

 「怪物」とは粘液獣のことである。『モンスター事典』によれば、これは民話などに登場する生き物で、都の下水道深くなどに今もいるといわれているらしい。同じ怪物でも、カーカバード全域のみならず、タイタン世界を闊歩するゴブリンらとは毛色が異なる。我々の現実世界におけるゴブリンのような存在だと思えば間違いあるまい。あるいは都市伝説の類か。

 さて、この「お話の中の怪物」であるが、実際に存在が確認されているのはマンパン砦においてのみで、マンパンの住人であるジャヴィンヌも、大魔法使いがこの怪物をどこから連れてきたのかはわからないと言う。
 自分が考えるに、この怪物は大魔法使いによって異次元から召喚されたのだと思う。実はタイタン世界では異次元というのはわりとポピュラーな存在だ。もう1つの世界アマリリアだけでなく、かつて中立の神が「時間」を見つけたのも異次元においてであった。蛇魔人や夜魔人らが居を構える魔界も存在するし、そもそも大魔法使いの正体は冥府の魔王である。冥府という異次元が存在していることは疑いようが無い。そういった、様々な異次元のどこかから怪物はやってきたのではないだろうか。『タイタン』には若き日のコレトゥスが大魔法使いに一撃を加えようとするシーンが書かれているが、その際に大魔法使いを守護する魔神たちは次元の穴を通して火球を送り込んできている。大魔法使いが魔神との対話のために次元に穴をあけていたのは確実だ。となれば、召喚を行うこともできたと考えて問題あるまい。

 民話でおなじみの粘液獣が、実際に目の前に現れる。その危険度にも関わらず、マンパンのならず者どもがこれを相手に遊んでいるのも、民話が持つある種の滑稽なイメージがゆえではないだろうか。

(8/10/12)

☆★ "Master"の翻訳に見る世界観ニュアンス

 原文におけるナガマンテの説明、 torture-master と書かれている部分。これをそれぞれ創元訳では「拷問の名手」、創土訳では「拷問頭」と訳している日本版『ソーサリー!』。それぞれの訳の間には、大きなニュアンスの違いが見て取れる。旧訳においては、ナガマンテ自身が拷問の術を極めた職人であることを強調しており、新訳においては役職として拷問部門を統括する立場に彼がいることを示唆している。
 本文中の描写を見ると、ナガマンテ以外に拷問手がいるような記述は無い。だが同時に彼自身の体験談として、徒弟制度を連想させる発言もある。自分としては正直なところ、どっちとも取れるのだろうと考えている。つまりナガマンテは自身拷問を極めた達人であり、同時にマンパンの拷問係のボスなのだろう。

 旧訳における「達人=マスター」という解釈は、いかにもゲーム的に感じる。ジャクソンらも熱心に遊んだというD&Dなどでも、ソードマスターなどの単語が出てくる。経験値を稼いで技術を極めた結果、マスターと呼ばれるだけの領域に達するという感じだ。いかにもRPGっぽさがよく出ている。
 一方新訳のほうは、中世ヨーロッパにおける各職業のギルド(組合)を連想させる。つまり師匠としてのマスターと、その徒弟たちからなる、専門職の組織だ。ゲームというよりも、ファンタジー小説のような世界観を感じる。

 旧訳である創元版のレーベル名は「スーパーアドベンチャーゲーム」である。新訳の創土版のレーベルは「ゲームノベル」だ。旧訳は売り出しからして、物語であることよりも遊戯であることを推していたのではないか? 逆に創土版ではゲーム的な側面を持つノベル(小説)というニュアンスになっている。
 創元版が刊行された頃は、まだゲームブックというジャンルの黎明期であった。この頃では、ゲーム本という側面が目新しく、宣伝文句としても推しだったのかもしれない。ジャンルが一度廃れ、復活という売り出し方をした創土版においては、既にゲーム=電子媒体、あるいはカードやボードという概念が完全に定着しているということもあり、小説の一ジャンルとしての推し方をしたのではないかな? と思うわけである。

 "Master"という単語が、それぞれに合ったニュアンスに訳されているのは、なかなかに面白い。

(8/11/12)

★ 中ボスパンプアップ

 AFF2用『ソーサリー・キャンペーン』シナリオを見ると、中ボス連が強化されていることは先の感想で述べたとおりだが、もう少しちゃんと見てみたところ、丘巨人も強化されていることに気がついた。リー・キの巨人とはあまり中ボスっぽくはないよな……と思っていたら、今度はフランカーにお供がついていることに気がつく。逆に蟷螂男や赤目など、強力な武器を持っているキャラクターはあまり強化されていないようだ。主に強化されているのは体力点で、皆タフになっている傾向にある。

 こういった敵の強化は、おそらくプレーヤーキャラクターが1人よりも多くなることが前提に違いない。TRPGにもソロプレイ(プレーヤーとゲームマスターの2人で遊ぶ)はあるが、やはり冒険者たちがパーティーを組んで遊ぶのが面白いからだ。このキャンペーンシナリオも複数プレーヤーで遊ぶことが前提となっており、そのためには1人で冒険する原作よりも敵を強くすることが必要な修正だったのだろう。

 個人的には衛兵隊長カルトゥームの強化が興味深い。技術点は8から10に。体力点は9から12にパンプアップ。他のパンプアップ組とは違って彼は人間だと思われるので、これはおそらく武具による補正にちがいあるまい。彼の使用する武器は剣とあるので、ラグナルの剣豪腕輪でも装備しているのだろうか。体力が増えているのは、いい鎧でも手に入れたのかもしれない。ちなみにシナリオには彼がスローベンドアの鍵を持っているとあるのみで、彼の武具に関しては何も書かれていない。本当はゲーム中で手に入る剣で技術点+2のものがあればよかったんだけど、カントパーニのそれも、ダンパスも、カーレもどれも該当する武器は無かった。残念。

(8/11/12)

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