★ ジャヴィンヌの師

 マンパン砦にて出会える盲目の癒し手であるジャヴィンヌ。彼女はその力でマンパンで大きな権力を得た後、粘液獣の耳を良くしてやれなかった咎で目を潰され、中庭で乞食にまで身を落としている。さて、そのジャヴィンヌが語るにところによると、彼女の癒しの師はダドゥ・ヤドゥの司祭であるという。

 彼女の師の話に入る前に、創元訳と創土訳の話をしておこう。この「司祭」と言う肩書だが、旧訳では「治療師」と訳されている。原文では「healer-priest」であり、治療師であり司祭であろうということだ。実は創土訳では「癒しの力のある司祭」という記述になっていて、原文の「healer-priest」を訳しきっている形になっている。少々説明くさいとは思うが、旧訳の「治療師」だけでは今回この人物について妄想するにあたり、材料が不足だったことは否めない。

 先ず、ダドゥ・ヤドゥというのは地名である。どこかというと、第三巻で旅するバク地方を海の方向へ進んだ先、クラタ・バク草原を過ぎて、さいはて海岸まで進んだあたりを指す。新訳では「呻吟洞」とも記述されていて、いかにも隠者が潜んでいそうな場所である。
 ジャヴィンヌの話によると、この治療司祭はダドゥ・ヤドゥから来たとなっている。乗っていた船が難破して、さいはて海岸へ流れ着いたとある。先に記した通り、ダドゥ・ヤドゥはさいはて海岸の一部なので、海難に会って打ち上げられたのが、ダドゥ・ヤドゥということなのだろう。ジャヴィンヌが師事した場所はダドゥ・ヤドゥではないようだ。彼女を南の王国へ送りたいと考えていたということはアナランドの北、つまりカレーかバク地方のどこかではないだろうか。海からカーカバードに入り、内陸へと進んだに違いない。
 出身地はどこだろうか? カーカバードの西の海で海難に会ったということは、アナランドとアランシアを結ぶ船に乗っていたのだろうか。あるいはカレーからジャバジ河を下って海へ出る海賊船に乗っていたのかもしれない。海賊だったと言うつもりはない。漕ぎ手の奴隷として乗っていたかもしれないということだ。カレーで海賊たちが強引な「勧誘」を行っているのは周知のとおりなのだから。もしも後者であるならば、ダドゥ・ヤドゥから内陸へ向かったのは故郷へ戻ろうとしたのかもしれない。そして前者だったとしたら、海岸にいた方がよほど安全だったと後悔したかもしれない。

 ジャヴィンヌのような優れた弟子を短期間で育て(一人前になった彼女はマンパンへ乗り込むほど、若く野心家だった)、それを平和な国で役立てたいと思うほどに、この師はよくできた人間である。司祭ということは仕える神がいるはずだが、おそらく善の神々が一柱であろう。

 さて……はたしてジャヴィンヌの師は『ソーサリー!』本編に登場しているであろうか? 普通に考えれば、はっきりそれとわかる人物は登場していない。ハッキリ言ってこの先はこじつけになるが……

 スラングの聖人はどうだろうか。旧訳では「神父」、創土訳では「司祭」だったこの御人、原文では「priest」なので問題はない。 神に仕え、癒しの心得もある。サレンという男の子が脚を治してもらっていることが、第二巻で書かれている。 でもまぁ仕える神が悪意の神スラングだからなあ。ジャヴィンヌを南へ送りたかったというのが、別の意味を持ってしまいかねない。

 ではシャラはどうだろう。クラタ族に荒らされていたバク地方のスロフ神殿の神官だ。この「神官」も原文では「priest」である。彼が仕えるスロフは大地の神である。本編ではやたら厳しい女神さまであり、七匹の大蛇が一匹、土大蛇に力を与えた神であるが、『タイタン』によれば善に与する女神である。師が仕える神としては十分ありえると言えるだろう。しかし、シャラの場合は別の問題がある。彼は病気を患っているのだ。「自分は癒すことができない」というような特殊な力でないかぎり、シャラには癒し手としての側面が認められない。癒し手でなくてはジャヴィンヌの師と考えるのは難しい。仮に自らは癒せないのだとしても、目の前の主人公に自分の病気がうつったのに気づかないなんてことがあるだろうか。
 だが……ジャヴィンヌも自分の目を癒すことはできなかった。粘液獣の声や耳を良くしてやることを望まれたのだから、病気の治療専門ということもあるまい。マンパン砦では病よりも怪我のほうが多かったはずだ。(しかしあの便所を見るに、怪しいかもしれないが)
 もしかしたら、本当にこの師弟の術は自らには効かないのかもしれない。そしてもし本当にジャヴィンヌの師がシャラだったのだとしたら、長い幽閉暮らしから解放された喜びの余り、うっかり病気を見落としてしまったということも無い事も無いかもしれない。

(2/25/18)

【追記】 
 あ。ダメだ。ジャヴィンヌってば相当な老婆だった。
 彼女が修行を積んだ時期を考えると、ジャヴィンヌの師匠は相当な高齢であり、人間だったら普通に考えてもうお亡くなりになっているはずでした。シャラも聖人も長寿の種族だとは描写されていない。一応二人ともそれなりの歳ではありそうなんだが……いや、やはり無理があったね。

(2/28/18)

★ 呪術都市カレー

 さて、カレーである。海賊の集う港と罠で満載という触れ込みの難所ではあるが、実際に第二巻をめくってみれば意外と罠も海賊も脅威としては小さい規模であることに気付く。(もちろんゲーム内で描かれている部分にのみ限っての話だが)海賊はせいぜい強引な勧誘で奴隷にされるぐらいだし、罠も宿屋がインパクトある他は鎖師の作業場と、禿薬ぐらいだ。いずれも即死には至らず、シャムタンティの首狩り族関連のほうがよっぽど罠としては恐ろしいものがある。

 その代わり、この港町には呪いや魔術がわんさかとあるのだ。呪術都市などと言ってみたのもその多様さ、凄惨さにある。カレーで魔法を語るならば、最初に北門を挙げねばなるまい。例の四行詩で固く封じられている防御の要。DOPも効かないであろう魔法の護りそのものには、高度な魔法技術は感じられるものの凄惨さは無い。
 しかし四行詩を取り巻く貴人達となると、一気に血生臭さが増すのだ。四行詩を知る1人、第五貴人シンヴァ卿は死霊となっているが、これは第三貴人による呪いだという。しかもこの第三貴人自身、吸血鬼との噂がある……。貴人である以上、真祖と考えるのが自然である。ここにも深い闇の魔術を垣間見ることができる。
 やはり四行詩を知る貴人がもう一人いるが、彼もまた呪いによって目を潰され、ハーピーに追われる日々を送っている。彼自身が魔道という描写はないが、あの蛇の指輪を持っていることを考えると、何かしらの心得はあってもおかしくはない。またios版でのアレンジの話になるが、例の生き骸も貴人の成れの果てとされているようだし、どうもカレーの貴人はロクなものではない。こうなると、北門を護る硫黄霊も何かしらの曰く付きに違いない。

 同じ四行詩持ちでも、スラングの聖人と長老ロルタグはさほどダークではない。もっともスラングは悪意の神であり、その信徒は「他宗派の者を殺す」という教えを実践する者たちではあるが、カレーにおいてはさほど過激な活動はしていないようだ。
 長老もフランカーとのつながりを考えると、裏の顔も持っていると思えなくもないが、貴人達に比べれば可愛いものだ。しかし聖人の起こす奇跡はもちろん、ロルタグが研究しているルーンに関しても、世界の真理に迫っている可能性もあるし、十分にカレーの神秘性を示していると言えるのではないだろうか?

 その他にも魔法のポータルや動くブロンズ神像、クァガ神殿での秘跡など、カレーにはふんだんに魔法が散りばめられている。マンパン砦のスローベン・ドアのような強い印象ではないが、情緒的な面ではカレーも中々のものと感じられる。

(2/27/18)

★ さらし台の男

 マンパン砦の中庭の片隅で、一人の男がさらし台に繋がれている。この男と話すと「大魔法使いの戦争屋たち」なる存在がいることがわかる。
 戦争屋、原文では「warmonger」の意味は「戦争屋、戦争挑発屋」である。マンパンの近隣で、様々な謀略を巡らせている者どもということだろうか。ファレン・ワイドの閃光粉末の情報を仕入れ、鳥男を使ってマンパンへとさらってきた事件なども、きっと戦争屋たちが動いたのだと想像できる。もちろん、諸王の冠を盗むよう進言したのも彼らに違いない。

 件のさらし台の男だが、会話の中では彼が「戦争屋」の1人なのかどうかは分からない(旧訳ではそう読めるような記述になっているが)。
 彼自身が語るところによると、酒を飲むと口が軽くなる性格で、そして喋りすぎが災いして反逆者と断され、処刑を待つ身となっているらしい。彼がナガマンテによる拷問を受けていないことは明らかだ。主人公を罠にハメた後、砦から脱出しようとする姿から身体に故障はない事がわかる。口を割らせる必要はないが罪は明らかということで、確かに情報漏洩現行犯ならばおかしいところは無い。

 さて、この時期に「喋りすぎた」といういうことだが、マンパンでの新極秘情報と言えば、諸王の冠の入手に関することではないか? 第四巻においては、既に「アナランドからの刺客が冠を取り戻すために、砦に侵入している」という状況のため、砦の面々には諸王の冠のことはある程度知られているようだ。だが、大魔法使いが周りの者を信用していないことを考えると、本来ならば冠の入手を大体的に知らせるとは思えない。この男は諸王の冠についてべらべら喋った咎で、処刑されようとしていると私は推測する。
 もしもそうであるならば、彼は冠について知っていたことになる。この極秘情報を知る者は限られている……彼こそが、諸王の冠の奪取を大魔法使いに薦めた人物ではないだろうか。彼は戦争屋たちの1人だった可能性が高い。即座に処刑されず、三日の間さらされていることから、他の戦争屋たちへの見せしめでもあるのかもしれない。余計な事は囀るな、と。

(3/4/18)

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