★ RAPとYAP

 RAPとYAPはアナランドの魔導書に収められた術で、いずれも対象となる生き物の思考を読み取る魔法だ。そのどちらにも必要となる触媒は緑色の鬘で、術師は術を行使する際に鬘を身につけなければならない。
 以前からアナランドは外から貪欲に術を集めてきたと思わしきことはこれまでも述べてきたとおりだが、この二つの読心術もまたその可能性が高いことにこの度気が付いた。ジャクソン氏が手掛けたTRPGである『ファイティング・ファンタジー』に収められたダンジョンの一つである「シャグラッドの危険な迷路」。その中に緑色の鬘が登場するのだ。RAPとYAPに非常によく似た効果を秘めているのだが、こいつのすごい所は呪文を必要としないことだ。鬘をかぶりさえすれば、部屋にいるネズミが考えていることがわかるし、こちらから会話を試みることもできる。さらにこのゲームシステムには職業なるステータスがないため、誰でも使用可能。実際、シナリオ上でこの鬘の持ち主と思わしき人物はワ―タイガーだ。戦闘においても魔法を使うこともない。完全に脳筋の輩である。こいつが寝ていたベッドの枕の下から、鬘を見つけることができるというわけだ。

 アナランドの秘術に瓜二つな魔法の品が存在していた。RAPとYAPの触媒が緑色の鬘であることは、かつてアンランドの魔法使いたちが、伝え聞いたこの鬘の効果を再現しようとした証ではないか? あるいは実物を入手し、綿密な実践と解析、そして模倣が行われたのかもしれない。
 本家はYAPの効果を持ち、アナランドにはYAPとは別にRAPが存在する。RAPは言語を持つ生き物に、YAPは言語を持たぬ動物などに効くとこの二つの術には差があり、普通に考えればYAPのほうが高度な術と思える。アナランドで魔法の鬘が研究された課程において、段階的に確立されたものだという想像もありえなくはあるまい。

(5/23/22)

【追記】
 一応補足しておくと、書かれた時期は『ソーサリー!』のほうが早い。ゲームブックからTRPGのルールに展開する際に、本来触媒を必要とした魔法(AFF2では妖術)の効果をマジックアイテムにアレンジしているわけですね。緑の鬘となっているのは、『ソーサリー!』を知るユーザーに向けたジャクソン氏のサービスでしょう。要するに、この記事はこじつけ解釈を楽しんでいただきたいということです。

(5/23/22)

★ まだ見ぬ町

 バクランドで遭遇する人馬たち。交渉次第では彼らの背に乗ってしばし進むことができる。普段からバクランドを駆け巡っていると見え、マナタの住処も知っていればセスターキャラバンの現在地も把握している。
 さて、そんな彼らだがちょっと気になることを言っていた。


なんならもう少し先まで運んでやってもよい。だがまともな町までは相当ある (第三巻 パラグラフ257)

 はて、人馬の言う「町」とは何処のことだろうか? 主人公の道行と方角は真逆になるが、ぱっと思いつくのはカレーだ。しかしあそこは北門が固く閉ざされていて、バクランド側から入る術は他には無い。入れない場所に連れて行ってやるもないだろうだから、カレーのことではなさそうだ。
 次に近いのはクラタ族の村となるが、これをまともな町と言っていいかどうかは疑問だ。まさか彼らがイルクララ湖を越えて女サテュロスの村(ここもまた「まとも」ではないが……)まで足を運んでいるとは考えにくい。彼らの下半身では舟には乗れないだろうし、ザメンまで陸路で行けるというのであれば、主人公が湖を渡れなくて旅をあきらめるなんてことは起きまい。

 そうなると、このバク地方に主人公が見落とした町があるということになるまいか? しかしそれならシャドラクが教えてくれないのは不自然だ。もしかしたら、カーカバード海に向かって進めば広がるヴァンティ・バク荒地に知られざる「まともな町」がある可能性もある。人馬の脚なら行けそうな気もする。あるいは反対に、雲峰山脈側へ向かえばクロリアがあったりするのかもしれない。

 とはいえ、できるかぎりゲーム内で答えを見つけたいものだ。人馬たちの普段の暮らしはよくわからないが、もしかしたら彼らの生活から見ればクラタ村ですら十分「まともな町」だという線はどうだろう。近しい存在と思わしき『モンスター事典』のセントールの項を紐解いてみたが、残念ながら彼らの住まいについては何も書かれていなかった。

(5/27/22)

【追記】
 ところで旧訳ではどうだったのかというと、なんとこれがこういった考察が発生しない文面となっている。具体的には以下の通り。


だが、どこまでいっても未開の土地だ

 そして気になる原文はこう。


But it is a long journey to any civilized place.

 相当行かないと文明化された場所にゃ到達できゃせんとなっており、創土訳は原文に忠実、創元訳は意訳となっていました。今回は実際に文明化された地がゲーム中に出てこないということで、旧訳がうまくはまっていたと言えそうです。

(5/30/22)

【追追記】
 先日和訳された『真・モンスター事典』を繰っておりますと、「大甲虫」の項にひっそりと「カーカバード東部には、ズズベックというオークの町がある」なんて書いてあるではありませんか。

 カーカバード東部!
『ソーサリー!』の地図は、実は上が北ではない。右上、つまりマンパンのある方角が北なのです。となると、東は右下――カーカバード海の方向となる。我らがアナランダーが辿ったルートはどちらかというと西寄りであり、奴の足跡と海の間には先の考察で挙げたヴァンティ・バク荒地がある。このオークの町がヴァンティ・バクにあってもおかしくはないのではないか。
 まあカーカバードといっても広いので、例えばジャバジ河の南、つまりシャムタンティの東部や、逆にアバンティの森側などもあり得るのですが、『真・モンスター事典』の記述には続きがあって、なんでもズズベックの市場にはとある甲虫の名前がついていると。そしてその甲虫は「バドゥ甲虫」なのだ。バドゥ甲虫はその名の通り、バドゥ・バク平原で初めて見つかったモンスターだ。ここにしか住んでいないというわけではないが、『ソーサリー!』では第三巻にしか登場しない。カーカバード東部の中から候補地域を絞るには十分な理由になりそうに思える。私としては、人馬のいう「まともな町」の候補として挙げておくべきではないかと考える次第でございます。

(12/14/23)

★ 闇ゴブリン

 カレーで入手することができる「闇ゴブリンの歯」。闇だろうが何だろうがゴブリンの歯には違いないということで、おそらく多くのプレーヤーは、GOBの触媒としてノーマルゴブリンの歯とまぜこぜにしてしまうであろう。自分もそうだった。しかしここで入手できる歯のみ、闇ゴブリンと明記されているのはひっかかる。少なくとも闇ゴブリンなるゴブリンがいるのは疑いが無い。
 しかし、この闇ゴブリンという種は『モンスター事典』『超・モンスター事典』はおろか『タイタン』にも関連する記述を見つけることはできない。ゴブリンの亜種としてはヴィシュラミ沼に生息するウグラック・ジェイ族、すなわち沼ゴブリンが確認されているだけだ。
 ちなみに原文をあたると Dark Goblins となっていた。似ているのは Dark Elf すなわち闇エルフである。タイタン世界のダークエルフは生ぬるい存在ではない(黒エルフというのが別にいる)。だが闇の眷属として神々に敵対するような彼らと同じレベルのゴブリンというのは考えにくい。そんな邪悪な存在なら間違いなく『タイタン』に記されるだろう。

 あらためてこの品の入手シーンを見てみると、特に譲り手側のノームが「闇ゴブリン」と言っているわけではなく、地の文で断定している形だ。だが先に見た通り、世界設定資料には何も書かれていない。『タイタン』はアランシアのサラモニスで編纂されたという設定があるので、これに載っていないだけなら「サラモニスの編纂者たちの元にも届かなかった知識」とすることもできるが、『モンスター事典』はそうはいかない。むしろゲームブック作家としての視点でのまえがきがあったりするため、神視点と言ってもよいぐらいだ。やはりタイタン世界には闇ゴブリンという種族はいないのだと思われる……あるいは、『モンスター事典』に特記するほどの存在ではないということかもしれない。

 こうなると地の文ではあるが、主人公のアナランド人が「これは闇ゴブリンの歯だ」と判断している可能性も考えたくなる。つまり、アナランドという狭い地域でのみ、ある種のゴブリンを「闇ゴブリン」と称しているのではないかということだ。タイタン世界のどこにでもゴブリンは跋扈していると『タイタン』にはある。アナランド独特のゴブリン表現の可能性はありそうだ。ただのあざ黒い見た目のゴブリン族に対する皮肉をこめた大仰な通称なのかもしれない。アナランド人のユーモアについては作中いくつかのシーンで触れられていたが、新たな例足りえるだろうか?

(5/27/22)

【追記】
 先日和訳された『真・モンスター事典』によれば、これは小型ゴブリンとも呼ばれる種とのこと。ダークなゴブリンというネーミングはかなり普遍的で、もしかしたら数多いFFシリーズに登場する別の存在なのではと思うかもしれないが、本項目には「カーカバードでよく使われる罵り言葉」が引用されている。そして添えられているイラストはGOBのものなので、これは『ソーサリー!』に歯だけ登場した闇ゴブリンであることは間違いない。

 一つ気になるのは「日光を嫌うので、日中に外で戦う場合には攻撃力-1」という記載があることだ。つまり、魔法のゴブリンとして生成された場合にはこの弱点は無くなるわけだが……アナランドの魔法技術は素晴らしいということなんだな。うん。(もっとも、『真・モンスター事典』によるとGOBで召喚されるゴブリンは、どの種のゴブリンの歯をつかったかによって決まるとあるが)

(12/12/23)

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